66 対決(3)
66 対決(3)
「ああ、そうそう、ウヅキさんは一応審判をして下さいませんか。ただし、舞台の端の方で、そうですね観客に邪魔にならない様に客席からは見えない位置に立って、万一の場合僕、あるいは妖鬼君を止めて下さい。
格闘技の試合の場合、ついエキサイトし過ぎて、気絶した相手をさらに攻撃してしまうかも知れない。そういう時は構いませんから思い切り蹴飛ばして下さい。
そうでもしないと攻撃を止めないでしょうからね。一種のけんかの仲裁の様などちらかと言えば損な役回りですが、まあ、大事な仲間の為だと思ってやってくれませんか」
ライガは言葉を選んで自分と妖鬼と両方の場合を想定して言っているが、内心ではウヅキに蹴られることがあるとすれば、それは自分に違いないとほぼ確信していた。
彼はスピード勝負でこれまで一度も負けたことは無かったのである。今朝の出来事も、つい先ほどの妖鬼の早業もすべて見抜けていたので速さで負けることは有り得ないと感じていた。
「は、はい。分かりました。じゃあそうさせて貰います」
舞台に上がることが何となくためらわれて、舞台下に居たウヅキは、階段などを使わずに、
「そりゃっ」
軽く気合を入れて軽々と舞台上に飛び上がり、すたすたと舞台の下手へ歩いて行った。
「ええっ!」
客席はざわついた。ウヅキは他の四天王より弱いらしいと聞いていた。しかし弱いと言っても、他の四天王と比べての事。本当はとんでもなく強いと知ったことによる驚きの声だった。
「この辺でいいかしら」
「ああ、結構ですよ。それじゃあ、お客様、七時かっきりに始めますからカウントダウンをお願いします。照明の方も宜しく!」
ライガの要請で客席からはカウントダウンの声が沸き起こった。と、同時に客室内はやや暗く、舞台上は明るく照らされた。
ライガの服装はどちらかと言えば武龍に似ていた。ただ彼の服よりもずっと体にフィットした上着もズボンも丈の短いものだった。如何にもスピーディに見える。
妖鬼はもっぱら変形ジャージ風のウヅキの用意してくれた格闘服を着ていた。妖鬼が気に入っているのは激しく動いても生地が伸び縮みするタイプなので裂ける心配がない事だった。
ただ観客の素人目からは、
『ライガは強いのだろうけど、こうして向き合ってみると、まるで大人と子供の戦いだな。大丈夫なのかライガは』
と感じられて、何か落ち着かない気分だった。
『何だか剛毅との一戦と似ているな。つまりは自分をアピールする為のパフォーマンスという訳か。しかしそうはならないだろうよ。何故かといえば俺がやる気満々だから!』
妖鬼には凄まじい闘気が湧き上がって来ていた。今までのように自分を押さえて戦おうという気が消えかかっている。カウントダウンはついに10秒を切った。二人はファイトの姿勢を取りながら睨み合っている。
「ファイブ! フォー! スリー! ツー! ワン! ゼロ!」
ゼロの声と共に、ライガと妖鬼は激突した。いや、実際にはライガが拳や蹴り技など使って猛スピードで攻めまくっていた。右に左に激しく動き回るライガに対して、妖鬼は余裕を持ってかわし続けている。
これも素人目からはライガのスピードに妖鬼が翻弄されているように見えていた。子供の様に見えていたライガが如何にも頼もしく感じられ、
「行け! ライガ! 妖鬼はビビッているぞ!」
そんな声援が多数場内に響いた。
「バーーーン!!」
激しい音が響き渡った。大方の予想に反して倒れていたのはライガだった。妖鬼に腕を取られて投げ飛ばされていた。柔道のように体を密着させて投げ飛ばすのではなく、どちらかと言えば合気道の様なほとんど相手の体に触れずに投げ飛ばしていた。
これが妖鬼の考え付いた方法だった。相手の攻撃をかわしつつ素早く投げ飛ばす。その投げ飛ばす間に相手に蹴りや拳などの攻撃をさせない方法だった。
勿論すべては超高速で行われていて、妖鬼が何をしたのかウヅキや剛毅以外には分からなかった。いやその二人にさえかろうじて投げ飛ばしたのだということが分かっただけで、どういうタイミングで何をやったのかまでは見抜けていなかった。
「バンッ!! バンッ!! バンッ!!」
今度は続けざまに三回ライガは投げ飛ばされた。さすがのライガも三度目には起き上がるのが精一杯だった。
「ぐううっ、くそっ、まだまだ!」
ライガはよろけながら突進して行ったが、今度は妖鬼はかわさなかった。
「ハッ!」
それまで一度も使わなかった蹴り技でライガの体を宙に舞わせた。ウヅキを宙に舞わせた時と同様の業を使ったのである。ウヅキよりずっと軽いライガはくるくると回りながら4、5メートルほどの高さに飛んでそのまま落下した。
「バーーーン!!」
それまでのダメージがあったせいか、激しい回転で目が回って何も出来ずにそのまま舞台の上に叩きつけられ完全に気絶した。
「ああーーーっ!」
客席からは失望のため息が漏れた。
「そこまで、妖鬼さんの勝ち!」
ウヅキは冷徹に宣言して、タンカを要請しライガは医務室送りとなった。
妖鬼は一礼して舞台から降りようとしたのだったが、
「ちょっと待った。勝ち逃げはねえだろう」
声を掛けて舞台に上がって来たのは剛毅だった。
「剛毅さん、妖鬼さんは今の試合で疲れているのよ、まさか戦うなんて言うんじゃないでしょうね」
ウヅキは剛毅を睨みつけた。
「察しがいいな、そのまさかだよ。どうも気に入らねえんだよ。四天王のうち三人がやられて俺は勝ったが後味が悪い。まるで俺が手加減して貰ったみてえじゃねえか。
なあ、手加減抜きで来いよ。もしもここで俺がお前に勝てば俺が四天王の中でナンバーワンだという証明になる。今までは四天王同士じゃ殆ど戦ったことは無かったからねえ。
これがいい機会だ。まあ確かにちっとは疲れているだろうから、今すぐとは言わねえ。明日の午後七時ルールも同じでいいだろう? どうだ、まあ、怖くて逃げたいんだったらそれは仕方がねえがな」
剛毅は自信を持って挑発した。




