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 65 対決(2)

    

                     65 対決(2)


「はい、少しやり過ぎたと思いますが、手加減してこちらが怪我をしても損ですからね。早業の場合は力の加減が難しい。私はその程度のレベルですが、それでも宜しいでしょうか」

「何をおっしゃいます、格闘はスピードこそが命、骨折と言ってもごく部分的なものです。命に別状はありませんから立派な手加減ですよ」

 ライガはどこまでも妖鬼を誉めた。


「それでは試合の件は承知して頂けますね」

「はい、喜んで」

 ライガも望んでいたことだったが妖鬼にとっても願ってもない事だった。

「それじゃ早速ですが、今夜七時、VIP用のレストランの舞台で勝負しましょう。お客さんがいた方が張り合いがあるでしょう?」

「確かにそうですが、道場とかでなくて宜しいんですか? あそこは裸足厳禁だから靴を履いたままの勝負になるんじゃありませんか」

 回し蹴りの得意な妖鬼にとっては都合が良かったが自分が有利過ぎるかも知れないと思った。


「ああ、全然構いません。そもそも我々四天王をはじめとする格闘会の者は他人様ひとさまをガードするのが仕事。靴がどうのと言っていたのでは仕事になりませんからね」

「なるほど。それでルールとかはどうしましょうか?」

「それに関してなのですが、これもまたガードマンとしての仕事柄、本来ルールなどは有りません。しいて言えば、原則相手は殺さずにとらえる、もしくはダメージを与えて動けなくする。それが一般的です。

 そこでお願いなのですが、どちらかが戦闘不能状態になるまで戦うというのはどうでしょうか。例えば一方が失神するとか舞台上から逃げ出すとか、ギブアップするとかです。

 審判などは邪魔なだけですから、判定はお客様にしていただきましょう。客がブーイングするような攻撃は反則負けにでもしておきましょう。どうですかこれで?」

 ライガはかなり大胆なルールを持ち出してきた。ルールらしいルールは殆ど無いと言っていいだろう。


「あの、ライガさん、それじゃ、金的蹴りも顔面攻撃もありなんですか? 髪の毛を引っ張って引きずり回してもいいのですか。幾らなんでもそれは無茶なのでは?」

「ウヅキさん、俺はそれで構わないですよ。その方が緊張感があるし、いちいちこれは禁止技かどうか考えなくて済みますから」

 妖鬼は武龍戦の時、裸絞めが許されるのかどうか悩んだことを思い出していた。


「さすがは妖鬼君だ。物分かりが宜しい。それじゃ妖鬼君、午後七時十分くらい前には舞台上で会うことにしよう。試合開始は七時きっかり。

 すぐ戦えるような服装で来てくれたまえ。VIP連中には大いに宣伝しておくから、くれぐれも遅刻などせぬようにね。それじゃあ、失礼するよ、ふふふふ、………」 

 ライガは自信の笑みをこぼしながらその場を去った。


「ああ、乗せられちゃったわね。考えてみたらこれがライガさんの常とう手段なのよね。相手をおだててその気にさせて、満座の前で圧倒して見せる。

 そうやって彼は今日の地位を築いてきたのよね。しばらく会ってなかったから忘れていたわ。四天王の中ではスピードナンバーワンの男よ。妖鬼さん、大丈夫?」

 ウヅキはかなり心配そうである。


「なるほど、確かに彼は動体視力がすごいね。しかし指が伸びたり注射器を体内に隠し持っていたりしなければさほど難敵じゃないな。悩む部分があるとすれば、どうやって怪我をさせずに勝てるかということぐらいだな」

 ウヅキの手前、自信満々に言って見せたが内心はかなり不安だった。


『無傷で失神させられるほど甘い相手じゃない。拳は厳禁、回し蹴りも封印だな。うっかりしたら殺してしまいかねないからな』

 あれこれ考えているうちに夜になった。夕食を軽くとってから着替えてVIP用レストランに向かった。


「ああ、随分お客さんが来ているわね。皆さん、妖鬼さんとの試合を見物に来たのかしら」

 ウヅキが何か誇らしげに言った。


「妖鬼だ、妖鬼が来たぞ!」

「四天王のライガと戦うなんて無謀じゃないのか?」

「馬鹿な奴だ、一分以内に負けるよきっと!」

 ウヅキの思いとは裏腹な声が数多く聞かれた。 


「なんですって!!」

 思わずウヅキが怒鳴った。

「うわ、おっかねえ、………」

 ウヅキの一声でVIP用レストランの入り口付近で妖鬼をののしった連中は沈黙してしまった。


「さあ、通して下さい。私達は客じゃありませんから!」

 ウヅキは人ごみをかき分けてやや強引にレストラン内に入って行った。妖鬼も後に続いた。

「ぐあっ!」

 妖鬼のそばに居た一人の男が倒れた。手にはナイフが光っている。どさくさに紛れて妖鬼を刺そうとしたのだが妖鬼は見破っていた。

 今度は相手を骨折させずにみぞおちに拳を軽く当てていた。妖鬼の軽くは一般の人の全力に相当する。一瞬で気絶してしまったのである。


「ガードマンの人を呼んで下さい。この人が私を刺そうとしたので、気絶させました。あとは宜しく」

 妖鬼はそう言い残して舞台に上った。ナイフで刺そうとした男は朝に妖鬼を襲った男の仲間のようである。


「はははは、相変わらずの人気ですね」

 舞台上で出迎えたライガは笑いながらジョークを飛ばした。

「いや、全く、困った人気です。お陰様で一分遅刻ですよ」

「なあに、一分や二分。じゃあ、司会者の方、これから試合をする二人を紹介して下さい」

 ライガがそう言うと場内アナウンスが流れ、

「なおこの試合はルールなし時間無制限のデスマッチ方式で行われます!」

 そう紹介された瞬間、

「オオオオーーーーー!!」

 ほぼ満席の場内から凄い歓声が上がった。


『変ねえ、お客の数が明らかに百人を超えているし、それに剛毅さんも来ているのね。どういうつもりかしら』

 今夜の状況がいつもとは違うことにウヅキは不安を感じていた。

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