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 63 地下研究室(6)

                    63 地下研究室(6)


「ふうむ、俺の人生も大変だと思っていたけど、ユキノさんの人生は遥かに大変だったんだね。うーん、ちょっと言葉が無いね。………でも検査とかはこれで終わりなんだよね?」

「はい、ご苦労様です。あの、一人で帰れますわよね」

「はははは、ここは分かり易いからね。ああ、でもタンポポはどうしたんだ?」

「彼女は先に帰されました。相変わらず詳しいことは私にも分かりませんが、ひょっとすると彼女もあの傷跡の実験をするかも知れなかったんじゃないのかしら」

「成程ね、二人候補がいて、最終的にユキノさんに決まった、そんな感じかな?」

「恐らく」

「ところで、この後ユキノさんはどうするんだ。途中まで一緒に帰らないか?」

「ふふふふ、私が妖鬼さんと一緒に行ったら、ウヅキさんが怒るんじゃありませんか」

「そうか、そうだった。確かにそりゃ大変だ。じゃあ、お先に失礼するよ。三日間休みだったよね」

「はい、三日後にまたここに来て貰うらしいですわ。でも私は無用だと思いますけど」

「そうだね、多分。じゃあまた近いうちにね、お休みなさい」

「お休みなさーい!」

 ユキノは手を振って別れた。ユキオも軽く手を振ってウヅキの待つ研究室の入り口まで戻った。


「お帰りなさい。ずいぶん時間が掛ったのね。ちょっと心配したわ。それにさっきタンポポが帰って行ったけど、何か関係があったの?」

「ああ、調査の合間の退屈しのぎになればと、話し相手に呼ばれたらしいよ。まあ、特に話すこともなかったけどね。単なる知り合いだしね」

「そ、そう。だけどどうして私を中に入れてくれないのかな。私の方が退屈しのぎにはなると思うのにね」

「ウヅキさんは関係者の一人だからなんじゃないのかな。タンポポはここの住人だけど天下グループの幹部とかそれに近い人とかじゃないからね。差しさわりが無いと思ったんじゃないのか。

 ああ、そうそう、少し腹が減ったな。もう午前零時だからね。確か、餃子を食べる約束をしていなかったかな。あのラーメン屋で」

 ユキオはウヅキのタンポポへの関心をそらそうと話を食事の方へ向けた。


「ああ、そうね。そうしましょうか」

 ユキオの作戦は功を奏し、二人はラーメン屋に入って、今度は五目ラーメンと餃子を食べて満足して帰宅した。すぐ二人とも寝室に向かった。


「ふう、疲れたな。今日は早く眠れそうだ」

 ベッドに入ってすぐ眠れると思ったのだが、一瞬うとうとしただけで急に目が冴えて眠れなくなった。今日一日の事が次々に思い出されるのだ。

『しかし、あのキスはどういう意味だったんだ?』

 とろけるような甘いキスが忘れられなかった。しかし疑問も湧いてくる。キスの前に口の中の消毒をなぜわざわざやったのか。


『特別な病原菌でもあると思ったのか? だけど彼女は、俺を好きだと言ったはず。そうだ、確かに『好きよ』と言った! うーん、しかしその後は特に好きという感じではなかったぞ。

 話を聞いてくれる人が欲しかった、話を聞いてくれるお礼のキス、いや、俺を油断させる為のキスだったんじゃないのか』

 何となくキスの意味がつかめて来た気がした。しかしそのうちまた疑問が湧いてくる。


『そうだ、その後に、ハラキリがあったんだ! キスせずにいきなりハラキリでは何らかの抵抗があると思ったのか? 俺は完全に拘束されていたけど、それでも危険性があると思ったのか?』

 キスの意味を延々と考えたが結局よく分からなかった。そのうちにいつしか眠っていた。


「起きて下さい! じき御飯ですよ、と言うか、今朝は久しぶりに食堂へ行ってみませんか。特に理由は無いのですけど、変化があった方が面白いでしょう?」

 ウヅキは機嫌よく妖鬼を起こしていた。


「ああ、了解。今起きていくから、部屋からは出て行って下さいよ」

「はーい!」

 ウヅキが去った後、ユキオは鏡に全身を映して見た。昨日までとさほど違わないように感じるのだが、しかし何かが違う気がするのだ。

『はじけるバネ!』

 そんな言葉が浮かんですぐ消えた。ちょっとドキリとしたのだが、それでも何事も無かったかのように、寝室を出た。


「ああ、お早う、じゃあ、食堂へ行きますか」

「はい」

 二人は一度しか行った事のなかったおばちゃんの居る食堂へ向かった。


 朝食の時間帯のせいか、食堂はやたら混んでいる。十五分ほど待たされたが、テレビ画面の前の席に座れた。

「定食二つ!」

 ウヅキは元気よく注文した。ユキオはじっとテレビを見ていた。自分にとって良くないニュースが流れていた。どうやら近いうちにこの島の手入れがあるらしいのだ。

「はい、定食二つ! おや、何だか見覚えのある人が来たねえ。ああ、指名手配のお兄さんだね」

 おばちゃんは遠慮なく言った。


「ちょっと、おばちゃんそういうことは遠慮してよ。ここには指名手配の人はたくさんいるんだから」

「この人は別格だよ。だって毎日テレビに出ているんだからね。ああ、忙しい、忙しい!」

 おばちゃんは言うだけ言ってから素早く去って行った。

「もう、本当に口が悪いんだから………」

 あれこれ言いながらも、無料の割には美味しい定食を食べ、有料のスイーツに舌鼓を打った。 

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