62 地下研究室(5)
62 地下研究室(5)
「私の家は結構お金持ちでした。実のところ私は父の仕事をよく知りません。ただ、中規模の会社の社長をしていました。中学三年までは何不自由なく育てられたと言っていいと思います。
でも、中学を卒業して間もなく会社は倒産してしまいました。ワンマン経営が裏目に出たとか言われましたがさっきも言った通り、何がどうなって倒産したのか私にはわかりません。
父は家では会社の事は一切しゃべりませんでしたから。ただ一つ分かっていたのは父は多くの人の恨みを買っていたということです。
クラスメートに私の父のお蔭で自分の父親が散々な目にあわされたという男子がいて、かなりいじめられました。でも私には味方してくれる男子も何人かいて、何とか助かっていたんですけど、あの、座ってもいいですよね?」
「ああ、勿論」
ずっと立ちっぱなしで疲れたのだろう、ユキノは椅子を別室から持って来て、座って続きを話し始めた。妖鬼の腹部が隠れないように無論配慮して座っている。
「父は倒産の後失踪し、暫くして、山の中で遺体で見つかりました。警察は自殺だと言っていますが私は誰かに殺されたのだと今でも思っています。
母は父の死後、半年くらい後に病死しました。極度のストレスから多臓器不全状態に陥ったらしいと言われました。これは本当だと思います。
莫大な借金の他に父にひどい目にあわされたと、連日嫌がらせを受けていましたから。もともとあまり強くはない人でしたから耐えきれなかったのだと思います、………」
ユキノの目に涙が浮かんでいた。他殺かも知れない父の死とやつれ果てて死んでいった母の事を思い浮かべて感情があふれそうになっていたのだろう。
「す、済みません、泣いたりして。でも、そのあと私には地獄が待っていました。私は親戚の家に引き取られることになりました。ところが、そこでもまた私は父に対する憎悪の言葉を聞かされました。
『あんたの父親は血も涙もない人だったよ。自殺したとか警察じゃ言っているがあれは多分誰かに殺されたんだろうよ。だけどね、俺の気持ちは収まらないんだよね。
あんたの父親へ恨みを晴らしたかったんだけど、死んだんじゃあ晴らせない。恨みはあんたの体に晴らさせて貰う!』
そう言って、あの男は私を犯しました。それも仲間の男二人と一緒に。一人だけだったら必死に抵抗すれば何とか逃れられたかもしれない。でも男三人の力では抵抗しても無駄でした」
「うーむ、むちゃくちゃな話だな。『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』なんて言う諺があるけど、幾らなんでも行き過ぎだ。それで毒殺した三人と言うのはその三人なのか?」
「はい。ああ、もう傷がほとんど消えかかっています。ちょっと傷口を拭きますね」
ユキノは用意してあった濡れティッシュで傷口を拭くと、一本の細い糸のような傷口に変貌していた。
「この調子だとあと5分もすれば傷跡ゼロになりそうね。話を急ぎましょう。それでも私は親戚のおじさんのおかげで高校に通わせて貰っていました。
毎月一回、彼と仲間二人に私は犯され続けました。約二年間耐え続けました。でもただ耐えていた訳ではありません。密かに三人を殺すチャンスを窺っていたのです。
私が三人を殺す決心をしたのは三人のうちの一人が父を殺したのに違いないと確信したからです。
『お前の父親は麻薬中毒だったんだぞ。日頃立派そうなことを言っていながら、呆れたもんだぜ』
そう言った人がおりました。私は警察の人から麻薬のことを知っていたか、と聞かれました。私は知らないと答えたのですが、でも、そのことは報道されていません。
警察が父の遺体を調べて初めて知ったことをどうしてその男が知っていたのか。家族でさえ知らなかったことをどうしてその男が知っていたのか。
直接の証拠は何もありません。でも私にはピンときました。この三人が結託して父を殺したのだと。しかもその理由は、本当は父への恨みではなく、私の体にあったのだということを!」
ユキノは珍しく激高して思わず立ち上がった。両拳を震えながら握りしめ怒りで目が吊り上っていた。少し間をおいてから、落ち着いたのか椅子に座って、また話し始めた。
「三人は私を犯す前にいつも必ずしていたことがあります。それは強壮ドリンクを飲むこと。私と強制エッチをするのはいつも三人のうちの一人のアパートでした。
彼は一人暮らしだったので都合が良かったのです。その彼の冷蔵庫にはいつもたくさんの強壮ドリンクがストックされていました。
最初のうちは用心して彼のうちがどこにあるのか分からない様に車でわざわざ遠回りしていたのですが、私が彼らに従順に従い続けたので、だんだん用心しなくなりました。
普通にまっすぐ彼のアパートに行くようになったので、その場所を突き止めることが出来たのです。私はそのアパートの管理人さんを女を武器に使って誘惑し、まんまと合鍵を手に入れました。
管理人さんには申し訳ないことをしたと思っていますが、私は三人から逃れることと、父を殺したことへの報復に必死だったんです。ああ、もう、傷が、これが多分最後だと思いますけど」
ユキノは再び妖鬼の僅かに残った傷跡を拭いた。糸のように細く残っていた傷跡も消え、全くキズのない状態に戻った。傷をつけてから完治するまでわずか45分だった。
「もう拘束は解いてもいいかしら?」
ユキノは天井に向かって言った。確かにその方向にも隠しカメラがあるようである。
「OK!」
声も天井から響いてきた。
「良かったわ」
はしゃぐような感じで拘束具を外していく。
「ふう、やれやれ、やっと自由になれた。ただその、話を最後まで聞きたいんだけどね。ああ、でもここじゃまずいか?」
「大丈夫よ。幹部の人達は私の素性を知っていますから。あと数分で済みますから、ここで話してもいいかしら?」
やはり天井に向かって言うと、
「OK! 手短に頼む」
条件付きでOKが出た。
「じゃあ、ラストよ。私は薬局のお兄さんをやっぱり女を武器に使ってたぶらかして毒薬を手に入れた。その毒薬は無味無臭の液体で、皮膚に触れただけで呼吸が出来なくなる怖い代物だったのよ。
男の居ない時間帯を狙って合鍵を使ってアパートに忍び込み、冷蔵庫の中の全てのドリンクのビン全体にその液体を薄く塗っておいたわ。
塗るときは緊張したわね。一滴でも自分の体に触れたら死んじゃうんだから。実行したのはエッチ予定日の前の日。仕事の都合もあってやる日は大体決まっていたから分かってた。
アパートの彼がもし前日に飲んでいたら一人だけ死んで計画は大きく狂うから、飲まないことを祈っていたわ。祈りが通じたのか彼は生きていて、いつもの様に私をアパートに連れ込んで一斉にドリンクを飲んだのよ。
数秒後に全員バタバタとうめき声をあげて倒れたの。私は大急ぎで逃げておじさんの家に戻って、それから家出した。いつでも逃げられるように支度してあったからうまく行ったわ。
あとは夜の街を転々として、天下グループの人の愛人になったり、その後も色々あって、気が付いたら地下カジノの一員になっていたのよ」
話の終わりは少し端折ったが、ユキオにとってはそれで十分だった。




