61 地下研究室(4)
61 地下研究室(4)
「ごめんなさい、ごめんなさい、うううう、………」
ユキノはひたすら妖鬼に謝り、そしてしばらく泣いた。
「く、うう、こ、これも何かの実験なのか」
痛みを必死でこらえながら聞いた。
「は、はい。こうするようにと義忠さんから指令を受けておりました。私の様なこの島での新参者は何かで天下グループへの忠誠心を証明しなければなりません。
証明が不十分な者は本土へ送り返されてしまいます。男性三人を毒殺した私は本土に戻って警察に捕まったら死刑台が待っています。身勝手だというかも知れませんが私は生きていたいのです」
辛そうにしながらもユキノは意外にはきはきと答えた。
「男性三人を毒殺? それは穏やかじゃないな。ううう、痛ててててて。ふう、どうしてだ。訳があるんだろう? 強盗とかじゃないよな?」
妖鬼の腹部の傷からの出血は既に止まっている。それを見たユキノは、
「出血はすぐ止まると聞いておりました。そしたら消毒しろと言われております。ちょっとしみますけど我慢して下さい」
「痛てててて、ふう、しかしずいぶん楽になって来たぞ。ああ、嘘のように痛みが消えていく。そうか、ひょっとしてこの治癒力のスピードを見ていたのか?」
ユキオには義忠たち天下グループ幹部の知りたいことが理解できた。
「はい、妖鬼さんは治癒のスピードが異常なほど速いらしいと、義忠さんたちは言っておりました。だから、それをより詳しく知りたいから、私に頼んできたのです」
「どうしてユキノさんなんだろうね。他の人じゃなくて」
「詳しいことは知りません。これは私の想像なのですが妖鬼さんに信頼されていて、なおかつ冷静にちょっと怖い事がやれる人を探していたんじゃないのでしょうか」
「なるほど。途中で感づかれて、暴れられたりしたら大変だという訳か」
「た、多分。ああ、ズボンとか下着とか汚れちゃいましたね。今取り替えて差し上げますから。ああ、でも本当に傷が治りかけていますわ、し、信じられない!」
ユキノは驚きを隠せなかった。
「ああ、その、もうほとんど痛みが無いし、服を取り換えるのは自分でやるから、この手錠みたいなやつを外してくれないか」
「済みませんが、私は命令に従います。傷跡が完全に治癒するまでは拘束は解くなと言われております。あの、おしっことかしたくなったら言って下さい。
最後まで面倒を見させて下さいね。じゃあ、今着替え用の下着とズボンをお持ちしますから。ちょっとの間お待ち下さい」
ユキノは別室に消えて、一時的に一人きりになった。
『本当に本気になったら、この拘束を破壊することも出来そうだぞ。でも、ユキノさんに危害があったらまずいしね。それは止めておこう。
………そうか、この島へ来る者も多いが、本土へ帰る者も随分多いとタンポポが言っていたのは、こういうことだったんだ。つまり忠誠心を証明出来なければ、本土へ強制送還される訳だったんだな」
タンポポの言った言葉の真意がようやく分かった気がした。
「はい、先ず、温かいタオルで汚れを取って、それからズボンを下ろして、脱がせます。ええと、それからその、パンツを下ろして、………」
途中でユキノはおしゃべりを止めて作業に集中した。目の前に男性器があって、意識すると下着の交換もままならなくなりそうだったからである。
「はい、下着とズボンの交換が終わりました! それではこれらは処分して来ます!」
何となく軍隊調に男っぽく言ってから、血で汚れた衣類を持って再び別室に消えた。
『ふう、危ない危ない、ユキノさんの綺麗な顔を見ていると危うく興奮するところだった。それに多分この部屋は盗撮されているのだろうよ。
だから椅子に拘束したまま完全にキズが治癒するまで動かさないという訳だ。普通盗撮カメラは固定してあるのだからね。
それにしても、男三人を毒殺とは、あのユキノさんがしたとは思えないのだけどね。何か余程の事があったんだろう。ふうむ、何があったんだろうねえ、………』
今度はユキノの帰りが遅かった。
『ふうむ、何だかやけに時間が掛っているな。どうしたんだ?』
そう思っていると、
「お待たせしました!」
髪形はそのままだったが、Gパンふうなズボンと半そでシャツを着た、かなりボーイッシュに感じられるユキノが現れた。その着替えに時間が掛っていたらしい。考えてみれば彼女の服も血が付いてかなり汚れていたのである。
「はははは、珍しいね、その恰好は。ところでもう傷跡も消えかかっているけど、完全にキズ跡まで消えるまでは拘束は解かないんだよね?」
「はい、済みませんがそう命令されていますので。でもこの様子だとそう長くは掛らないみたいですけど」
「それでも、ニ十分やそこいらは掛るだろうから、事情を聞かせてくれないか、その、毒殺の事を。まあ、言いたくなければ言わなくてもいいけどね」
「いいえ、お話ししますわ」
着替えて来たのは服が汚れたことばかりでなく、その話をする決意の表れだったのかも知れない。




