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 59 地下研究室(2)

                    59 地下研究室(2)


 検査は次々にこなされていって、午後十時頃になって、いったん休憩となった。そこには小さな休憩室があり、ユキオはそこでユキノ、タンポポと共に眠気覚ましも兼ねてコーヒーを飲んだ。


「それにしても無表情な検査員だな。いや、研究員なのか。うーむ、人間なのかな?」

「確かに変ねえ。普通の男の人だったらもう少し私を意識するように思うんだけど」

「えっ、ユキノさん、自信過剰!」

 タンポポは冗談っぽく、しかしあからさまに批判した。


「さて、こんどはそろそろ、心理テストというか俺の記憶喪失の調査らしいね」

「記憶喪失は本当なんですか?」

 ユキノは心配げに聞いた。


「悪い奴等の中には記憶喪失を装う奴もいるって聞いてるぞ。まさか、妖鬼もそうなんじゃないのか?」

 相変わらず冗談っぽく、しかし半ば本気で聞く。

「その辺はノーコメントだな。と言うか、記憶喪失かどうか自分で分かるものだと思うか、タンポポ君?」

 今度はユキオが名探偵気取りでタンポポに言った。


「はちゃ、い、言われてみれば確かにそうだねえ。三歳の時の記憶がないからと言って、記憶喪失とはだれも思わないし、うーんどうなんだろうねえ………」

 タンポポは本気で考え込んでいる。


「考え始めたらきりのない様なことねえ。でも、三歳の時ならいざ知らず、例えば十三歳の時以前の記憶がないとすればこれは確実に記憶喪失よね」

「まあ、そうだね。言われてみると、俺はついこの間、8月中旬以前の記憶が無いんだから決定的かな」

「んもーーーっ! それを早く言ってよね!」

 タンポポは大げさに憤慨して見せた。


「そろそろ、心理テストの時間です」

 相変わらずの無表情で研究員の一人がやって来た。

『こいつの心を読んでみよう』

 無表情過ぎるのでユキオは封印していた、『心読み』をやってみた。


『げっ、何だこいつには心が無いぞ! そ、そうか、間違いない。こいつはロボット、………アンドロイドだったのだ! それにしても何と精巧な! 無表情を是正すれば多分見破れなかったぞ!』

 ユキオは寒気を感じた。


『ロボット犬はいかにもそれらしい外観をしていた。もし、外観を生身の犬と同様にしたら? ううむ、一体どういうことになるんだ?』

 思い悩んだまま心理テストの部屋に入った。今度の検査員は女性だった。胸にネームプレートがあって『細号ほそごうユカリ』となっている。


『細号ゆかり? 変わった名字だけど、まさかロボットじゃあるまいな?』

 疑念を感じて『心読み』をしてみる。


『思ったよりもいい男ね。いい男君、正体を見破ってあげるわよ!』

 挑戦的な気持ちが見えた。

『ふう、ほっとした。やれやれ、これで安心してテストにのぞめる。いい男だって? 俺はいい男だったのか? いや、そうじゃない。俺じゃない、妖鬼がいい男なのだ、多分』

 安心もしたががっかりもした。

『心を読むことはこれ以上は止めておこう。更にがっかりしたくないからな………』

 そこまでで『心読み』は止めることにした。


「脳波測定器をつけさせて貰うわよ。承認します?」

「ああ、別に構わないけど」

「承認するかどうかを聞くのは、規則なのでね。じゃあ、この帽子をかぶって、ええと、そうじゃなくて………」

 ユカリは立ち上がって、帽子をきっちりかぶせようとした。精確な被せ方があるらしいが、

『しかし、でかい胸だな。ちょっと顔に当たっているぞ。知らないのかな。ひょっとして故意にやってるのか?ううむ、や、柔らかい感触が………』

 ぐいぐいとユキオの顔面に胸を押し付ける感じだった。ユキオは困ったがユカリは仕事と割り切っているのだろう。


「昔はねえ、これに線が沢山ついていてそれは大変だったのよ。今は無線式になって線が全然ないから楽になったけど。

 ただし、当然のことだけど位置をきっちりしないと測定がうまく行かないのよね。さて、これで良し! じゃあ、始めるわよ」

 胸が顔に強く当たっていることを全く意に介していないようである。


「これから画面に次から次に色々なものが映し出されるわよ。私が一つ一つ聞きますから、あなたは全部に、いいえと答えて下さい。画面に映し出される画像は全部で百個くらいあるわ。

 ゆっくり聞いていくから、その都度、いいえと答えて下さい。ああ、ちなみにあなたの知能テストの結果をお知らせしておきますね。知能指数は150!

 ちょっと凄いわね。天才レベルよ。その割には学校の成績はかなり悪いわね。どうしてかしらね。ふふふ、まあ、知能テストはそういうものだから仕方がないわね。

 頭は恐ろしく切れるけど、学校の勉強に向く頭脳ではない。そんなところかしらね。そういう人はね、私の経験だと、すごい芸術家だったり発明家だったりするのよね。あなたはどうなのかしらね。それじゃ行きますわ」

 かなり興味深そうに妖鬼を眺めながらユカリは心理テストを始めた。

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