58 地下研究室(1)
58 地下研究室(1)
「ところで、服装は普通でいいんだよね」
「はい。でも、検査がありますから、軽装の方がいいわね。ちゃんと支度してありますから」
「はははは、手回しがいいんだね」
「はい、その為に私が付いている訳ですから」
「なるほど、………しかしどんな裁定が下されるのか少し不安だねえ」
「だ、大丈夫よ。多分一生ここに居て下さいということになるんじゃないのかしら」
「だと、楽なんだけどねえ」
そんな会話をしながら、食後にコーヒーなどを飲んでのんびり過ごし、7時45分ごろに自宅を出て、地下街へ出た。
「地下二階へはどこから行くんだ?」
「こちらですわ」
ウヅキが入って行ったのは地下街の警察署の様なところである。勿論本当の警察署ではなく、いわばガードマンの待機所の様な感じの所だった。実際、表の看板には『ガードマン詰所』とあった。警察とほぼ同じような仕事をしている様である。
「ウヅキ様、妖鬼様、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
既に話は通っている様でガードマン詰所の奥へ通された。奥のドアを開くと、地下へ続く階段があり、二人はガードマン一人と共に地下へ降りて行った。
「ようこそ地下研究室へ。ここからは妖鬼さんお一人でいらして下さい。ウヅキさんは待機していて下さい」
数名の研究員らしい白衣を着た者たちが妖鬼を取り囲むようにして、研究室へ連れて行った。
『何だか、スイーツ研究所を思い出すな。ふう、余り気分のいいものじゃないな』
ユキオは少し緊張した。
「ああ、いらっしゃい。今夜の調査のお手伝いをさせていただく、ユキノです」
親しみのある口調で声を掛けて来たのは思いがけずもユキノだった。
「ええっ! ユキノさんがどうしてここに?」
「カジノレストランでは突然姿を消したりしてごめんなさい。実はこちらの研究員の方に呼ばれて、妖鬼さんとの関係についてあれこれ聞かれていたのよ。
私は答えに窮したわ。彼氏じゃないけど親しい、いいえ、信頼の出来る、多分お互いに信頼し合っている間柄だって答えたわ。まあ、親友に近いって答えておいたんだけど、それで良かったかしら」
「ああ、十分な答えだよ。しかし驚いたな、まさかこんな場所で会えるとはね」
「あたしもいるんだけどねえ」
急にどこからか走り寄って来た者があった。
「ありゃ、タンポポじゃないか。君も同じ様に聞かれていたのかな」
これもまた予想外の人物だった。
「ありゃ、って何だよ。ユキノさんと随分扱いが違うじゃないか。あたしだって親友のつもりなんだぜ」
「ほほう、親友ねえ。そっちは親友のつもりでもこっちは単なる知り合いのつもりなんだけどねえ。よく言って普通の友人だろう?」
「ひどい、乙女心を傷つけた。この落とし前はつけて貰うからね」
タンポポの口調は半分冗談だが半分本気の所があった。
「まあまあ、積もるお話はたくさんありましょうが今日はリラックスして検査を受けていただくために、私共が呼ばれたんですわ。実際の検査はこちらの研究員の方々が行いますので、宜しくね」
ユキノはちょっと嫌なムードになりかけたタンポポとユキオの間を取り持った。タンポポが少しムキになっているらしいと察してのことである。
「それではこちらへいらして下さい。先ずは血液検査から」
研究員は無表情に検査項目を伝えた。
『ユキノがいなかったら、ストレスが溜まっただろうな。タンポポはむしろストレスが溜まるような気がするがどうして二人を呼んだんだろうね。それと義忠さんは来ないのかな?』
そう思いながら検査を受けていると、
「あの、義忠さんは急用があって、今夜は来られないそうです。その他の幹部の方々も今夜は来られないとか。それで私達が呼ばれたのですわ。検査の合間の話し相手にということで」
「ああ、そうなんだ。まあ、検査を見学しても面白くは無いでしょうからね」
ユキオは一応納得した。
「なあ、ユキノとは親友ということだけど、彼女じゃないんだよね」
タンポポは何となく迫って来る感じである。
「だとしたらあたしを彼女にしてもいい訳だ。他に彼女はいないんだろう?」
「確かに彼女はいないけど、彼女を作る気もないよ。俺は指名手配されているんだし、こうやって特別に検査を受けるほど、普通じゃない人間なんだし。彼女を作る資格がないんだよ」
「あたしだって指名手配されているんだぜ。似た者同士仲良くしようじゃないか」
「次はMRIです。こちらへ来て下さい」
二人の会話の内容など全く意に介さず、相変わらず研究員は無表情に彼の仕事をこなしていった。それもそのはずである。後で知ったことだったが、彼は人間に酷似したロボット、即ちアンドロイドだったのだ。




