表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/400

 56 ライガ(2)

 

                    56 ライガ(2)


「ワン、ワン、ワン、………」

 ロボット犬はかなりの自立行動をするように作られているので、新顔の人間が現れたりすると、挨拶あいさつ代わりに吼えたりするようである。

 グラウンドには意外に人は少なく、ロボット犬二頭と、その管理者らしい連中が白衣を着て四、五名居た。その他には関係者が二十数名ほどである。

 グラウンドが広いので如何にも人数が少なく感じられるが、その中では一番大きな人の塊の中から現れた義忠が、例によって競技の説明を始めた。


「さて、簡単にルールを説明いたしておきましょう。ここのグラウンドは白線の外周がきっちり四百メートルです。そこを本来なら105周と195メートル走るのですが、分かり易く106周していただきます。

 良い記録が出てもグラウンドだから記録が良かったのだ等と言われない様に、一種の逆ハンディをつけておくのです。そうすれば、何かクレームがあった場合でも十分に反論できる。このルールで宜しいかな」

「はい、異論はありません」

「いいですよ」

 ライガ、妖鬼ともに了承した。次にロボット犬の説明は白衣の研究者らしい男性がした。


「ロボット犬は邪魔にならない様に、5秒先行させます。それで、もし追いついた場合は、大きく外を回って、追い越すことにしておりますから。交差することはまずないでしょう。

 ただ、コンピューターのプログラムに若干の不安があります。もしもの時は即座に走行を停止させて、グラウンドから排除いたしますので、ご安心下さい」

「なるほど、それなら万全ですね」

「………」

 ライガは納得したようであるが、妖鬼は了承を意味するかのように頭を縦に振っただけだった。妖鬼即ちユキオは、

『コンピューターのプログラムだったら何度か組んだことがあるけど、プログラムが暴走したら、とんでもないことになる恐れがあるぞ。本当に大丈夫か?』

 と、不安を感じていたのだ。それでも中止する訳にもいかずにグラウンド上の所定の位置にライガと並んで立った。走路周辺にはガードマンの配置もあったが給水所や栄養ドリンクも置かれている。

 また、走路の外側や内側にテントが幾つかあって、そこに天下グループの幹部、記録員、医師、看護師などが待機している。二人と二頭のロボット犬の走行に差しさわりの無いように、関係者以外はシャットアウトされていたのである。


「間もなく、午後二時です。それではまずロボット犬から、用意、『ドンッ!』、続いて用意、『ドンッ!』」

 義忠の合図で、ロボット犬二頭と人間二人のちょっと奇妙なマラソンが始まった。


 最初の数分間は予想通りの展開だった。ロボット犬は時速30キロメートルくらいの速度。短距離だったらもっと速く走れるのだが40キロメートル余りの長距離なのでスピードは少し抑え目である。

 単純計算で行けば、マラソンする人間の1.5倍の速度ということになる。しかし今回は事情が違う。二人の走者は徐々に加速して、今は時速にすれば25キロを超えるようなスピードで走っていた。


「おいおい、二人ともオーバーペースじゃないの?」

 そんな声があちこちから聞こえて来た。

「そんなスピードで走って大丈夫なのか!」

 ついに我慢出来ずに、関係者の一人が叫んだ。しかしそれが聞こえていないのか、二人は相変わらず速い。いやそれどころか、更にスピードアップして、時速にすれば27、8キロメートルくらいになった。


「絶対オーバーペースだ。続くはずがない!」

 そんな声が噴出してグラウンド上はすこぶるざわついている。人間がスピードアップしたせいでロボット犬と人間との距離は思ったほど簡単には縮まらなかった。


 それからさらに時間がたって、呆れるような状況が起きて来た。ライガと妖鬼とは追いつ追われつ激しいデットヒートを繰り返し、更にスピードアップして、追いつきそうになっていたロボット犬とほぼ並行して走っていた。


「こいつらはロボットじゃないのか!」

 今度はそんな声が聞こえて来た。しかもその信じ難いスピードが10分、20分、30分と続く。二人とも水などは全く飲む気配はない。やがて午後三時を回った。

 妖鬼とライガのスピードは全く衰えず、このままいけば一時間半を切りそうである。その時だった、

「キャワンッ!」

「ギャウウウッ!」

 二頭のロボット犬の鳴声がほぼ同時に変わった。それまで順調に走っていたのだが、突然コースを外れ、一頭は天下グループの幹部の居るテントの方へ、もう一頭は全力疾走でライガと妖鬼に近づいて行った。


「うわっ!」

 テントに侵入しようとした一頭は制止しようとしたガードマンに襲いかかった。しかし、他の数名のガードマンに取り押さえられ事なきを得た。だが、取り押さえた一人は腕をかまれて重傷を負った。


「ギャンッ!」

 もう一頭は幸か不幸か妖鬼の予言通りに蹴られて、10メートルほど飛ばされて落下し壊れて動かなくなった。そんな事があったのにもかかわらず、相変わらず二人は走り続けた。

 1時間25分07秒でライガ、1秒遅れで、妖鬼がゴールした。妖鬼が遅れたのはロボット犬を蹴り上げた時のほんの1、2秒の遅れが結局、挽回できなかったからと思われる。


「しかし、困ったね。この記録じゃ、速すぎて逆に信じて貰えませんな。それに、ロボット犬の実験はまあ、失敗ということになるでしょうしね」

 義忠はしぶい表情だった。

  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ