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 54 武龍(2)

 

                     54 武龍(2)


『何とか怪我をさせずに勝つ方法は無いのか?』

 数分間、激しく動き回りながら、ユキオはそんな事を考えていた。

『そうか、その手があったぞ!』

 ひらめいた良い方法があったので、早速やってみることにした。


「そりゃっ!」

 ユキオは武龍の後ろに回り込み、右腕を首に回して首を絞めたのだ。単純明快、裸絞はだかじめである。

『首から上というのは、首に対する攻撃はどうなんだ? もし反則なら、審判が注意するだろう』

 そう思っていた。


「ぐ、ぐ、ぐ、………」

 武龍は苦しそうにもがいたが、審判の二人は何も言わなかった。

『反則ではないのだな、よしもう少しで失神するぞ!』

 ユキオがそう思っていた矢先だった。


「い、痛い!!」

 悲鳴を上げたのは妖鬼の体を持つユキオだった。絞めていた腕が焼けるように痛い。

『くそっ、これも有りなのか、指の間から針が見えたぞ。何か注射したみたいだ。ううう、これはたまらん!』

 結局、妖鬼は武龍を逃がしてしまった。


「りゃ、りゃ、りゃ、………」

 武龍は勢いづいて反撃に転じた。妖鬼はしばらく逃げ回ることしか出来なかったが、徐々に痛みは薄れていく。


「うりゃっ!」

 今度は妖鬼の中段の回し蹴り。それに対して武龍はひじ打ちで対抗しようとした。ひじがまともに妖気の足に当たれば、足が骨折するかも知れなかった。しかし、

「バッシィッン!!」

 すごい音が体育館中に響いた。妖鬼の蹴りは中段から下段へと武龍のひじを避けて動いて行ったのである。その回し蹴りには、妖鬼の即ちユキオの怒りが込められていた。


「うぎゃっ!!」

 武龍は倒れ、もがき苦しんだ。足の骨が折れたのだ。

「そこまで、勝者、妖鬼!」

 ミソカ主審は妖鬼の勝ちを宣言した。副審のカエデは、出来れば同じ天下グループ格闘会の仲間である、武龍に勝たせたかったのだが、反論はしなかった。彼女は武龍の注射の瞬間を実はしっかり見ていたのだ。

『もし、武龍の勝ちだったら、クレームをつけましょう。あのような方法は試合にはふさわしくない』

 そう思っていたので、特に何も言わなかったのである。


 場内には小さなどよめきが起きた。それは失意のどよめきだった。超人的な凄まじい攻防を目の当たりにしながらも、拍手をしたのはウヅキを含めてほんの数名だけである。会場の殆どの者にとって、妖鬼はよそ者に過ぎないからであろう。


「タンカで運んで下さい!」

 カエデが叫んだが、

「タンカはいらん。ハヅキ君、肩を貸してくれないか」

 気丈にも武龍はそう言って、傷は大したことは無いとアピールした。

「ああ、はい。だ、大丈夫ですか」

「はははは、なんのこれしき。ぐっ、いっ、いや、何でもない」

 武龍はどこまでも気丈さを見せたままハヅキと共に医務室に去った。二人は古くからの知り合いのようである。


「いや、お見事。これから昼食休憩だが、マラソンをする気力はあるかね」

 当てが外れた表情を隠して、それまで静かだった義忠が言った。

「はい、勿論走りますよ。しかし、一人だけで走るのは何かつまらないですね。張り合いがありませんよ」

「まあ、それもそうだねえ。じゃあ、あれだね、ロボット犬と一緒に走ってみるかね」

「え、まさか、この島にロボット犬がいるんですか?」

 ユキオにとっては寝耳に水だった。


『ロボット犬がいるなんて誰も言ってなかったし、ふーむ、タンポポだったら知っていたのかな?』

 少々不快感を感じて、

「でも、犬じゃ、幾らなんでも勝てませんよ。おまけにロボットだし。人間で速い人はいないんですか」

 ダメもとで聞いてみた。


「じゃあ、僕が走りましょうか」

 声を掛けて来たのは少年の様に見えた。

韋駄天いだてんライガさん! あ、あの、妖鬼さん、こちらが四天王の一人、ライガさんです」

 少し慌ててウヅキが紹介した。四天王の中で一番小柄であるし、顔は童顔。実際には二十歳を過ぎているのだが、14、5才くらいにしか見えなかった。


「初めまして、妖鬼さん。僕は剛毅や武龍みたいに機械仕掛けは好きじゃありません。鍛え抜かれた肉体だけで勝負しますよ。まあ、今日、午後のマラソンはその前哨戦ぜんしょうせんということにしようじゃありませんか」

 男の四天王三人の中で一番まともそうだった。

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