52 体力測定(2)
52 体力測定(2)
「キック力の測定機はこちらですわ」
進行役の義忠には、測定室の様子がよく分からずに、ちょっともたついていたので、ウヅキが案内した。
「だそうですよ、はははは、ここには久しぶりに来たのでちょっと勝手が違いますな。じゃあ、まず武龍くんからどうぞ」
義忠はいかにも不慣れなようである。彼は三年ほど前にここを使った経験があるのだが、そのころとは大きく様子が変わっていた。
垂直跳び用のボードは分かり易かったが、キック力測定機はまるでサンドバックの様だったので分からなかったのだ。ただ形は似ているが上から吊るしているのではなく、床にきっちりと固定されている。
「きえーーーっ!!」
鋭い気合いと共に、武龍は高速回転の回し蹴りでサンドバックを蹴った。
「バッシィッ!!」
音は凄かったし、本来ならほとんど揺れることのない測定機自体がかなり揺れた。
「おおおおーーー!」
やはり周囲はどよめいた。
「1200キログラム。これはこのキック力測定機の新記録ですわ。前回量った妖鬼さんの1100キログラムを上回っています!」
ウヅキは興奮気味に言った。
「ほほう、大したものですな。妖鬼君、一つ、新記録を出すように頑張ってみたまえ」
義忠はあおるような言い方をした。
「えいっ!」
ちょっと拍子抜けするような妖鬼の気合いだったが、
「バギャンッ!!」
変な音がした。測定機は余り揺れもしなかったが、電光掲示板には『ERROR』の表示があった。
「おや、これは故障ですかね」
義忠が言ったが、
「故障かも知れませんが、ひょっとすると2000キログラムを超えたのかも知れません。2000キログラム、つまり2トンがこの測定器の限界なのです」
ウヅキは2トン越えをほぼ確信していたが、
「いや、しかしそれほど威力のある蹴りには私には見えませんでしたが。気合も今一つでしたし」
武龍が疑わしそうに言った。
「仕方がありませんな。しかし、やはり機械というのは今一つ信頼性に欠ける。じゃあ、外に出ましょう。百メートル走ならごまかしようがありません」
義忠は妖鬼の実力に何か疑念を感じている様である。測定室の中にいた連中は殆どが外に出た。
「これは予定になかったのだが妖鬼君、武龍君と百メートル競走をして貰いたいのだが宜しいかな。その、武龍君もどうかね」
「私は構いません」
妖鬼は即答した。
「私は服を着替えませんとまずいでしょう。少し待って頂けるのなら喜んで」
武龍も着替えを条件に承諾した。ほどなく武龍も妖鬼と同様に短パンにランニングシャツの軽装で現れた。
「スターティング装置は支度してなかったから、立ったままの姿勢からで宜しいかな」
「はい」
「構いません」
今度は妖鬼、武龍ともども即答した。スターティング装置は無かったが時間の測定は最新の測定機器があって、1000分の1秒まで正確に計れるのである。
「よーい、『ドン!』」
義忠のスタートの合図で二人は全力で走り出した。結局、武龍が8.999秒、妖鬼が9.000と千分の一秒差で武龍の勝ちとなった。
「いや、名勝負だった。どちらも速い! このスピードだったらオリンピックに出ても優勝間違いなしだ。いや、惜しいが、それは無理じゃろうからね」
その場にいる誰もがそれは承知していた。妖鬼は殺人の容疑者であり、武龍は肉体をオリンピックの規約に触れる方法で改造しているのに違いないからである。
「まあ、今の走りからでも分かるが、お二人の格闘技の力はほぼ互角と見た。お疲れのところ申し訳ないが、今度は体育館で試合をして貰いたい。
試合開始は11時30分とする。まだしばらく時間があるから、シャワーなど浴びて休養し、服を着替えて試合開始10分前までに集まってくれたまえ。それまで解散!」
義忠の解散宣言でその場に居合わせた者達は三々五々散って行った。妖鬼とウヅキは自宅に戻り、妖鬼は風呂に入り、ウヅキはその間、格闘用のスーツを準備して待っていた。




