51 体力測定(1)
51 体力測定(1)
その後、二人は入浴してから眠った。午前八時にウヅキは妖鬼を起こし、二人は例によって、インスタント食品の朝を迎えた。食事をしながらテレビを見ていると気にかかるニュースが流れていた。
「アシモフの三原則がついに破れることになりました。事の起こりは津下原陽気容疑者の追跡にロボット犬が対応出来なかったことにあります。
このCGは非合法の地下カジノでの追跡の模様を簡略に示したものなのですが、ご覧の様に容疑者が人ごみに紛れて先行すると、ロボット警察犬は追跡不能になりました。
これはロボット犬はアシモフの三原則を忠実に守る様に指示されていたからであります。その様にプログラムされたソフトが内蔵されておりますので、容疑者に逃げられてしまった訳です。
しかし昨夜の法改正でロボット犬にはより強い権限が与えられました。ロボット犬が吠えた場合には人間が回避しなければなりません。回避しなかった場合には、ロボット犬はその回避しなかった人間に対して接触、場合によっては排除行動も出来るようになりました………」
「おいおい、随分過激だな。反対意見は無かったのか?」
ユキオは政府のやり方が強引過ぎる様に感じた。
「反対意見は少数派だったみたいね。人間の未来がロボットに支配された社会になる、そんな予想をした科学者や作家もいたみたいだけど、本当にそうなるかも知れないわね」
「こりゃ何だか今まで以上に捕まりたくなくなって来たよ。ロボット犬の活躍で俺がつかまったりしたら、ロボットによる支配がますます加速するような気がする」
「本当にそうね。これはゆゆしい事だわ」
その後、ロボットと人間のかかわりについての話で大いに盛り上がったが、話に夢中になっているうちに、9時30分過ぎていることに気が付いて慌てて支度して、体力測定室に向かった。
「いや、何だか物々しいね」
体力測定室の周辺は警戒が厳重である。火器は無いのだが鞘付のナイフを持ったガードマンたちが数十人はいるだろう。
「そうね、十数名の幹部の人の中のほぼ半分が来ていますからね。多分部屋の中にもいると思うわ」
ウヅキは幾分緊張気味に言った。
「いや、お待ちしておりましたよ」
測定室に入ると真っ先に駆け寄って来たのはミソカ老人である。ユキオの知っている顔は彼だけだった。今日の妖鬼の検査は、ナンバー2と言われる、義忠ケンギが取り仕切るようである。
「初めまして、義忠です、今日のいわば進行役を務めさせていただきます」
「初めまして、妖鬼です。宜しくお願いします」
型通りのあいさつの後、四天王の一人が紹介された。
「天下グループ格闘会、四天王の一人と呼ばれております、取木武龍です。今日はあなたと隣の体育館で試合、まあ、エキシビションの様なものですが、やることになっております。どうぞ宜しく」
「妖鬼です。こちらこそ宜しく、その、お手柔らかに」
「はははは、お手柔らかには出来ませんよ。剛毅君とやって善戦したとか。だとすれば手抜きなど不可能ですな。しかし、怪我の方は大丈夫ですか。胸を強く打ったとか」
「ええ、まあ、何とか治ったようなので大丈夫ですよ」
「ほほう、ならば安心だ。遠慮なくやらせて貰いますよ」
武龍は剛毅と全く違うタイプの様である。先ず体型がスリムである。顔もどちらかと言えばイケメンだろう。眼光は剛毅以上に鋭い。全体の雰囲気としては中国拳法の達人の様な感じである。服装もそんな感じだった。
「およその事はウヅキ君から伺っております。特筆すべきは垂直跳びです。2メートルのジャンプ力というのは些か信じがたい。武龍君でも難しいでしょう?」
義忠は半信半疑な感じで言った。
「いや、私なら何とか飛べますが。少しやってみましょうか」
「じゃあ、測定版の前で、どうぞ」
「そりゃっ!」
先ず武龍が飛んで見せた。測定値はすぐ電光掲示板に表示される。
「おおおっ!」
殆どの者が驚嘆した。2メートル10センチの値を示したからである。ユキオは少し困ったのだが、
「えいっ!」
「ええええっ!」
ちょっと呆れた感じの声に変わった。 2メートル30センチの表示だったのだ。
『値が低いと俺の価値が低いとみなされかねないからな。そうなったら警察に引き渡されることになるかも知れない』
そう感じた。要するに怖かったのだ。しかし、まだなお余裕があった。
「ほんとだったんですね。こりゃたまげた。これだったら余り測定しても意味がない。この凄まじい値ではね。じゃあ、まあ、念の為に、そうですな、キック力がおありの様だから、キック力を調べて、百メートル走。
それが終了したら、隣の体育館で武龍君と試合をして貰いましょうか。それで、もし余力があったら食事の後、休憩後にマラソンに挑戦して貰いましょう。
今日はグラウンドでね。ああ、百メートル走もグラウンドですよ。機械だと故障ということもありますからね。じゃあ、キック力も武龍君やってみてくれないか」
予定外なのだが、期せずして武龍との対決色が濃くなったようである。




