5 スイーツ研究所(4)
5 スイーツ研究所(4)
21世紀前半は美容整形が大流行だった。しかし、21世紀後半には、人体そのものの改造が始まった。22世紀になると、一層盛んになって、かつてはタブーであった方法も、今は容認されつつある。
外科的に手術したり、薬物を使ったり、更には遺伝子操作まで、使える方法はすべて使っている。それでも後遺症さえなければ、問題はないと考えられるようになって来たのである。
勿論、本人の意志、絶対に後悔しないという強い意志による同意が必要である。同意が無ければ違法行為になる。その罪は極めて重く、殺人に匹敵するほどの重罪となる。
『可哀そうにねえ、この人、殺人犯として、放置されるのよね。幾ら会長のお孫さんの身代わりと言ってもひど過ぎるわ。でも、私には何も出来ない。下手に逆らえば私だって命が危ないんだし。仕方がない、目をつぶるしかないわね』
ユキオは奇妙な、声とも言えないような声を聞いた。
『あれ? 今のは年上の方のキミエさんの声だ。で、でも、音じゃないぞ。頭の中に直接響いてくる! えええっ、ど、どうしたんだこれは! ……それにしても、俺が殺人犯の身代わりとして放置される、だって!!』
事情はさっぱり分からなかったが、要するに、話がうま過ぎたのだ。
『スイーツ三個の試食で止めておけばよかったんだ。ああ、ただより高いものはないっていうのは、このことだったんだよな』
大いに後悔したが、今更どうにもならない。気持ちを切り替えて、生き延びることを考え始めた。幸いだったのは自分のそばに寄って来た者の心の声が時々聞こえて来ることだった。
どうして心の声が聞こえて来るのか、その理由は分からなかったが、今はその能力をフル回転するしか方法がない。
じっと耳を澄まして、心の声を聞いて自分がこれからどうなるのか、また、どうしてこんなことになったのか、いったい誰の身代わりなのか、などをより詳しく探ることにした。
『脳の交換がここまでうまくいくとはねえ。正直言って、殆ど奇跡だな。体型はかなり違うのに、頭の形が殆ど一緒というのも奇跡的だし、血液型なんかも同じだったなんて。
しかし会長が今回の脳交換の手術に良く同意したものだ。成功する確率が十五パーセント位しかない危険極まりない手術だったし、今後どんな問題が生ずるのかわかりゃしないのに。
もっとも、連続女子高生殺人事件の容疑者じゃ、捕まったら幾ら十八歳でも、死刑は確定的だ。都合の悪いことに証拠はたっぷりあるし、目撃者もたくさんいる。
言い逃れのしようがないからな。万に一つの可能性に賭けた気持ちも、全く分からないでもないけどねえ、……』
研究員の一人らしい男の心の声で、かなり事情が分かって来た。
『脳の交換? えええっ! 脳の交換だって!!』
人体改造どころではなかったのだ。
『脳の交換なんて聞いたことがないぞ。これがばれたら最低でも無期懲役だぞ!』
ユキオはしばらく感情が高ぶって思考停止状態に陥った。しばらくして、気持ちが落ち着いたところで、再び考え始めた。
『……そうか、すっかり体が入れ替わったんだ。違和感だらけなのも当然だな。はああ、驚いたな。……証拠がたっぷりあるということは、指紋や体液のDNAなんかも残っているということか?
目撃者がたくさんいるというのは、人前で殺したのか? それとも間接的な目撃者と考えれば、防犯カメラにでも姿が映っていたとか。ひょっとして犯行の一部始終をネットで流したとか、……まあ大体そんなところだろう。
しかし、それにしても、ムカついて悔しいけど、何と優秀な体なんだろう。元の俺の体は、悪い所だらけだったな。
目は近眼だし、耳は左が良く聞こえない。鼻はいつも詰まり気味だし、歯並びも悪い。喉も悪くてちょくちょく痛くなる。
皮膚も弱いし、まあ、その他、諸々(もろもろ)悪い所だらけだ。しかし今のこの肉体は何かこうパワーがみなぎっている。はははは、俺の体に移植されたこの男の脳は今頃、さぞがっかりしているだろうよ。ざまを見ろだ!!
しかし、……このままでは俺は警察に捕まって、裁判で死刑になって、処刑されることになるぞ!! 冗談じゃあない。そうなってたまるものか!!』
ユキオは助かる方法を改めて必死になって考え始めたのだった。




