44 特別レストラン(4)
44 特別レストラン(4)
「そうでしょう? きっとそうだと思った。だって、とても優しそうに見えるもの」
「いや、クレイさん、あ、いや、ユキノさんには参りましたね。いつかきっと近いうちにユキノさんには本当の事をお話ししますよ。今はまだ気持ちの整理がつかないからお話しできませんけど」
「ふふふふ、期待して待っていますわ。ところでせっかくここにいらしたんだから、遊んで行かれれば? ああ、でも、入院中なんですよね。病気とか怪我の方は大丈夫なんですか」
「ああ、俺は軽いけがですぐ退院できるから、別にどうということは無いですけど、でもここには随分、その、身体障害の方が多いんですね」
ユキオはまた少し声を潜めた。障害のある人の前で、障害者の話はまずいと思ったからである。
「そうなのよね。私もここに来て日が浅いから詳しいことは知らないんだけど、ヤセールとかいうダイエットの薬の副作用による被害者の人達が大半みたいなのよ。
でもね、警察に訴えても取り上げて貰えないらしくて、仕事も無くて、大変らしいのよ。天下グループはそういう人達の救済をしているらしいわよ」
「そうか、そういうことだったんですか。でも、身体障害の人達にはそれなりのお金が国の方から出るんじゃないんですか」
「そこにちょっとからくりがあるみたいなのよ。つまり、ヤセールの被害を主張しないことが補助を受ける条件になっているらしいのよ。それに反発する人が結局ここに来ることになるわね」
「なるほど、ところでここは、非合法のばくち場?」
ユキオはさりげなく聞いた。別に金を儲けようとは思っていないのだが、何となく気になったのだ。
「ふふふふ、そうなのよね。それで、私の事もちょっとお話しすると、自分で言うのもあれなんだけど、私の様に若くて綺麗な女性がどうしてこんなところに、まあ、前は地下カジノに居たんだけど、どうしてだと思います?」
ユキオが聞きそびれていたことをユキノは自分から言い始めた。
「それが謎の一つなんですよ。ユメカ、じゃなくてミユユさんもちょっと分からないんですけど、ユキノさんはもっと謎ですね」
「じゃあ、真打は後回しにして、ミユユさんについて知っていることをお話しするわね。ただしこれは本人から聞いただけで、確認はとれてないんだけど、良いかしら?」
「はい、それで十分です」
「彼女はね、いわゆる学習障害児な訳よ。算数が全く出来なくて、学校でいじめられていたみたいなの。呆れたことに両親も彼女を勉強が出来ないと言って、虐待したいみたいなのよ。
それで結局、家出して、あちこち放浪していて、幸か不幸か地下カジノのオーナーに拾われたらしいのよ。算数以外は普通に出来るんだけどねえ。彼女の場合、特にご両親が問題ね」
「ああ、そうなんだ。俺も数学と英語が全然だめだったけどね。他は何とかなるんだけど、その二つがねえ。ああ、いや、ミユユさんの事はよく分かった。まあ、まんざら嘘じゃないでしょう。それで、ユキノさんは?」
ユキオはワクワクしながら聞こうとした。
「ちょっと、おい、いつまでユキノと話をしているんだ。ここはガキの来るところじゃねえ。さっさと医務室に帰れよ」
語気も荒く、近寄って来た者があった。
「まあ、カイザーさん、そんなに怒鳴らなくても。また負けてしまったの?」
「いいや、今日は久しぶりに大勝ちしたんだ。せっかくお祝いにユキノと祝杯をあげようと思っていたのに、このガキがなかなかお前を離さないから、ちょっとムカついてな」
「あ、そ、そうですか。じゃあ、俺は、ここで失礼しようかな。じゃあ、話の続きはこの次ということで」
ユキオはあっさりと引き上げようとしたのだが、
「ちょいと待ちな。俺と勝負しようぜ。ユキノを独占した罰だ、俺と腕相撲をして貰おうじゃないか。まあ、洒落た言い方だとアームレスリングとかいうらしいがな。
それが嫌だったら、罰金十万イエン払って貰おうか。人の女にちょっかいを出したんだからな、まあ、話だけだからこのくらいで許してやるよ」
カイザーと呼ばれた男はでっぷりと太っていて、腕力には自信があるらしかった。
「カイザーさん、そんなこと言わずに、私と一緒に飲みましょうよ」
ユキノは何とか争いを避けようとしたが、
「ユキノ、こいつは虫が好かねえんだ。少しお灸をすえてやらんとな。痛い目に合えば二度とここには来なくなるだろうよ」
カイザーはユキノにいいところを見せたかったのだろう、頑として譲らなかった。
「はははは、参りましたね。カイザーさんですか。見たところ病気とかじゃなさそうですが、俺を妖鬼と知って言っているんですか」
「妖鬼だか病気だか知らんがそれがどうした。俺は今までアームレスリングじゃ誰にも負けたことは無いんだぜ。いや、もう、アームレスリングなんかじゃ腹の虫がおさまらなくなった。リングに上がれ、貴様のその憎ったらしい、顔をぐちゃぐちゃにしてやる!!」
カイザーはどんどん激高して、指をさした。その指の先には確かにリングらしきものがある。
「へえ、どうしてこんなところにリングがあるんでしょうね。まあ、しょうがない、ユキノさん一分以内にきめますから、後は宜しく」
「うーん、仕方がないわね。カイザーさん止めておいた方がいいと思うんだけど」
ユキノはカイザーの身を案じて言ったのだったが、それが逆にカイザーの怒りに火をつけた。
「さあ、早く来い、逃げるなよ!」
カイザーはいち早くリングに上がって、怒鳴った。




