42 特別レストラン(2)
42 特別レストラン(2)
「あの、私はこれ以上は行けませんので、これで失礼します。お帰りになる時は、懐中電灯を借りていらして下さい。まあ、朝までいれば、別で御座いますが」
「ああ、はい分かりました。あの、どうも有り難う御座いました」
ユキオは看護師に丁寧に感謝の気持ちを伝えた。
『わざわざ夜中に起きて貰って申し訳ない』
そんな気持ちからだった。
「いえいえ、これも仕事ですから。それじゃ、失礼します」
看護師は心なしか嬉しそうに帰って行った。
そこに入るまでは殆ど音が聞こえなかったので、
『防音がしっかりしているんだな。それにしても何だかカジノみたいなレストランだな』
そう思いながらドアを開けると、その通りだった。そこはいかにもカジノらしくスロットマシンやら、ルーレットの設備があったし、ポーカーなどのカード賭博に熱中している連中も多々あった。
ただ他と違うのは身体障害者が目立つことだった。車いすに乗っている人も多数あったし、病院の寝間着姿の連中も結構多く居た。それでも一応レストランらしく、
「おひとり様ですか」
「はい」
「それではこちらへ」
と、席に案内されて、
「ご注文が決まりましたら、このボタンを押して下さい」
と、ウエートレスが応対してくれた。
「かつ丼セットを下さい」
ユキオは久しぶりと感じたかつ丼を注文した。確かに、随分長く食べていない。かつ丼セットにはうどんが付いてくる。二か月くらい前だったら特に何も感じなかっただろうが、今のユキオには心に沁みて来るものがあった。
『な、懐かしい! かつ丼も久しぶりだし、うどんを家で最後に食べたのはいつだったかな………』
我が家の事を思い出して涙があふれた。恐らくはもう二度と帰れないのだ。そう思うと涙があふれてしばらく止まらなかった。
「あのう、どうかなさいましたか」
どこかで聞いたことのある女性の声だった。
「あ、いいえ、その、何と言うか、ホームシックみたいなものです。別に何でもないですから」
「そうですか、何でもないのなら、宜しいのですけど」
女性は心配げな表情のまま去って行った。
『あれ、見たことのある、お尻だぞ。あの綺麗なお尻は、………、ひょっとして、クレイさん!』
髪形や衣装が大きく違っていたので誰だか分らなかったのだ。クレイもまた、帽子とメガネのないユキオには気が付かなかったのである。
涙をナプキンで拭いて、食事も終わって少しぼんやりしていると、
「あなた、ひょっとして、キャップスさんじゃないの?」
クレイが再びやって来て声を掛けて来た。
「あ、ああ、そうです。あなたは、クレイさんですよね。いや、驚きました。どうしてここにいるんですか、まあ、俺もそうなんだけど」
「あの、ここに座ってもいいかしら。ちょっと、お話しさせて下さい」
クレイは懐かしそうに、相席を求めた。
「ああ、はい、どうぞ。俺も少し聞きたいことがあるんですよ」
ユキオはクレハの事が気になっていたのだ。無論クレイがここにいる理由も知りたかったが。
「ああ、なんて懐かしいんでしょう。短い付き合いだったけど、あの後、警察の手入れがあって、ふふふふ、大きな声じゃ言えないわね」
クレイは声をひそめて言った。
「ええ、皆さん、警察に捕まったとばかり思っていました」
ユキオも声を潜めて言った。確かに大きな声では話し難い内容である。
「あの時地下で捕まったのは大体半分くらいだったのよ。その後ロボット犬の追跡とかで、9割くらいの人は捕まったわね。
でも、私は、天下グループのつてがあったので、こうして何とかここに逃げ込めたのよ。つてが無かったら、今頃豚箱行きだったわ。
あら、私としたことが下品な言葉を。でもあれね、あなた、超有名人だったのね。しょっちゅうテレビでやってたわよ。とにかく大物なのねあなたは。凄いわね、うふふふふ」
まるでヒーローみたいにクレイはユキオを賛辞した。




