41 特別レストラン(1)
41 特別レストラン(1)
「ああ、それで、そのう、ウヅキさんにお願いがあるんですが」
「えっ、お願い? 仇を取って欲しいということかしら?」
ウヅキは怒りが収まっていなかったので、勝手にそう解釈した。
「いや、そうじゃなくて、今晩一晩、一人にしておいて欲しいということですよ。明日の朝まではまだかなりの時間があるけど、その間一人であれこれ考えてみたいのです。
俺は胸が痛いので、どこへも逃げられないし、まあ、島ですから逃げても無駄ですけどね。俺を襲うやつもいないと思いますし。ウヅキさんも自宅でのんびりされたらどうですか?」
「一人になりたいのですか?」
「はい。明日の朝八時くらいに来て貰えれば、まあ、それまでにはかなり回復しているでしょうし。緊急に何かあったら、その時はいつでも来て貰っていいですけど」
ウヅキは少し考え込んでから、
「分かりました。妖鬼様の事は看護師さんやお医者さん達に良くお話ししておきますから、でも緊急事態があった場合は真夜中でもやってきますから、その時は宜しくね」
多少冗談めかして言った。剛毅に対する怒りの気持ちがかなりおさまって来ていたからでもある。
「はい。それじゃ」
「じゃ、明日の朝八時に。まだちょっと早いけど、お休みなさい」
「ああ、お休みなさい」
ウヅキが去ると、
『ああ、何とか一人になれたな。ウヅキさんは悪い人じゃないし、ボディガードは仕事だしね。でも、こう四六時中ついていられると、ちょっと息がつまる。ふう、何かほっとしたら眠くなって来たな。
しかし待てよ、顔の傷はまあ、かすり傷みたいなものだからもう出血も止まっているみたいだし、大したことはなかったはずだけど、あれ?』
妙なことに気が付いた。あばら骨の骨折に気を取られて、顔の事を忘れていたのだが、撫でてみると、顔はつるつるである。
「おかしい、幾らなんでもまだ、一時間とは経っていない。それなのにどうして全く傷跡がないんだ? 一応鏡で確認してみよう」
ベッドのそばにはスタンド型の鏡が置いてある。それをのぞいてみた。
『ええっ! やっぱり何もない! 待てよこれは、………』
スイーツ研究所の脳交換の時の手術跡の事を思い出した。
『脳交換ほどの大手術、普通なら一生傷跡が残っても不思議は無いはずだ。仮に世界最高の傷跡を残さない方法で手術をしたとしても、最低でも傷跡が消えるまで半年はかかるはず。ううむ、これは偶然ではないのではないか?』
しばらく集中して考えているうちに疲れていつの間にか眠っていた。
『ああ、何時だろう。ベッドのそばには時計も置いてあったよな。はははは、午前零時か。それにしてもよく眠ったな。ありゃ、腹が減って来たぞ、ん、おかしい、胸が痛くない』
ユキオは患部を恐る恐る軽く押してみた。
『あれ、全く痛くない! よしそれだったら』
今度は少し力を入れてみる。
『間違いない、完全に骨折は治っている! うーむ、理由は分からんが治癒力が異常に高いらしいな。ああ、そうなると余計に腹が減った感じだ。
困ったな、今更自宅に戻る訳にもいかんし、真夜中だからね。それにこの天国島の勝手がさっぱりわからないし、夜中にやっているレストランなんてあるのか。
いや、カップ麺とかでもいいんだが、この際食えりゃな。そうだ、申し訳ないけど、ナースコールをして来て貰うか、看護師さんに』
急激な空腹感に耐えかねて、ナースコールのボタンを押した。ここは医務室ということなのだが、実質的には病院と同じである。宿直の医師や看護師がいるらしいのだ。
「どうしました?」
懐中電灯を照らして厳しそうな顔の中年の女性看護師がやって来た。
「あの、すいません。腹が減ってしまって、何か食べるものが手に入りませんか?」
恐る恐る聞いてみた。
「腹が減った? ああ、あなた、眠っていて、夕食を食べてなかったわね。ふーむ、若いからね、食べ盛りだから。それであなた食事の制限は特にないわよね」
「はい、特に何もないと思います」
「だったら、ここの特別レストランに行けばいいわよ。ここは本土の病院なんかと違って、年中無休で24時間営業のレストランがあるのよ。いろいろ事情があってね。
一人で起きて歩けるかしら? 歩けるんだったら私について来て、場所を教えてあげるから。ああ、お金はあるの?」
「はい、あるはずです。ええと、服はここにあるから、ポケットに、ああ、あった、あった」
入院患者用の寝間着は来ていたが、普段着ている服はベッド横のボックスに入れて貰っていた。この島に来てから殆ど使っていないので、百数十万イエンがまだそっくりそのまま残っている。
その中から数万イエンを抜き出して、寝間着のポケットに入れ、看護師に付いて行く。看護師は医務室の奥へユキオを連れて行った。
そこにあるドアを開けると、医務室内と違って廊下も明々と明かりがともっている。そこへ入ると、すぐにレストランがあったが、どうも普通のレストランではないようである。
『看護師さんが24時間営業の特別レストランって言っていたよな。確かに特別な雰囲気だぞ』
奇妙に感じたが嫌な印象ではなかった。




