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 40 剛毅(3)


                     40 剛毅(3)


「あと、一分よ!」

 時計を見ていたウヅキがかなり大きな声で叫んだ。

「えっ!」

 その時、妖鬼の頬からわずかながら血がしたたっている事に気が付いた。


『へ、変ねえ。顔から出血なんて。ああ、見ていれば良かった。四天王の剛毅ともあろう男が反則するなんて! でも、故意でないと言われればそれまでだし。ああ、あと五十秒、このまま無事に済んでくれれば』

 ウヅキはそこからは時計と試合の進行とかわるがわる見るようにした。しかし、剛毅の攻撃がその辺りから変化したのである。


「ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ、………」

 剛毅は握っていた手の平を開いて、全部の指をくっつけて、ぴんと伸ばし、それを刀の様に振り回して攻撃し出したのである。まるで、二刀流の様な感じだった。

 その刀の様な両手が素早く空を切り裂いて、「ヒュッ」という音が出ていたのだ。妖鬼は間一髪でかわしているが、指先がジャージを前にも増して切り裂いていく。


「どうした逃げてばかりじゃつまらんぞ!」

 剛毅は妖鬼がかわすだけで精一杯なことを知りつつ、あえて挑発した。

『こいつも男だ、きっと反撃して来る。さあ、早く来い。そうだな、反撃し易いように、少し疲れた振りをしてやろう』

 剛毅はひそかに狙っていたのだ、必殺技を出すタイミングを。動きを鈍くして、さも疲れた振りをした。


 残り二十秒ほどの時だった、

「えいっ!」

 二度目の回し蹴りを食らわそうとしたその瞬間である、

「ぐきっ!」

 剛毅が真正面から指先を妖鬼の胸に突き刺す攻撃をした。指先はジャージに触れただけのように見えたのだったが、思ったよりも深く、その時妖鬼のあばら骨が一本折れていた。


「ぐっ!」

 ユキオは初めて激しい痛みを感じた。しかし、すぐに後ろに飛び去り、その後の剛毅の猛攻はかろうじてかわしきった。


「終了! 終了! 終わりよ!」

 ウヅキは何度も終わりを宣言した。すぐに妖鬼に駆け寄り、

「だ、大丈夫? さっき変な音がしたけど………」

「ああ、ちょっと胸をやられた。申し訳ないけど、医務室で治療をお願いしたい」

「ええ、すぐ行きましょう」

 二人の会話に関係なく、

「この勝負、剛毅さんの勝ち! みなさん勝者に盛大な拍手を!」

 剛毅とその仲間たちは勝ち誇り大騒ぎしていた。レストラン内は実際大きな拍手に包まれた。


「いやあ、妖鬼君も強かった。まあ、この私には及ばなかったようだがな、はははは、また精進してリベンジでもして見せ給え」

 剛毅は言いたい放題だったが、

「いや、今日は勉強になりましたよ。それにしても鋼の様な指先ですね。参りました」

 胸を押さえながら、ユキオはウヅキと共に舞台を降り、医務室へ向かった。


「先生お願いします。胸を強く突かれて」

「ああ、分かりました。じゃあそこに腰かけて。………」

 その日一日は病院のベッドで休むことになった。レントゲンであばら骨一本が折れていることが確認されたが、一か月ほどでほぼ完治するという診断だった。


「やっぱりやらない方が良かったんじゃありませんか?」

 ベッドに寝ている妖鬼に悲痛な表情でウヅキは言った。

「いやいや、随分勉強になりましたよ。これは内緒にしておいて貰いたいんですが、彼の指先は鋼鉄製じゃないのかな?」

「ええっ、ま、まさか」

「でもそれだけじゃない。あれは抜き手というのかな、名前はよく分からないけど、指先でまっすぐ俺の胸を突いてきた。あれで、あばら骨が折れたんだけど、本当は届いていなかったんだ、ジャージには触れていたけどね」

「届いていなかったのに、どうして骨が折れるの?」

 ウヅキにはピンとこなかった。


「信じられないかも知れないけど、指先が、中指一本だけが弾丸並みのスピードで伸びたのさ。3センチくらいだと思うけど。彼の指先は機械仕掛けになっていると思う」

「き、機械仕掛け!」

「ああ、それと、随分反則技があった。顔を何度か攻撃して来たからね。ひょっとすると目をやられるかも知れないと思ったので、防戦一方になったという訳なのさ」

「き、汚い! 四天王ともあろうものが!」

 ウヅキは怒りに震えた。

  

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