39 剛毅(2)
39 剛毅(2)
「時間は厳守してもらいますからね。きっちり3分。何かと忙しいので、お願いしますよ」
ウヅキは険しい表情で二人に言った。
「ああ、分かった。じゃあ、ウヅキさんあんたが時計係だ。3分経ったら止めてくれ。そこまで持てばの話だがな。じゃあ、お二人さん、舞台に上がってくれ。ああ、いや、ちょっと待ってくれ。
こちらが一人だけじゃ、釣り合いが取れないぞ。こっちから一人審判を出すというのはどうだろうな。柚子川お前審判をやれ。万一どっちかがギブアップした時、サインを見逃すといけねえからな。
下手をして死んでしまったら大事になるから。どうだい、ウヅキさん、それと妖鬼君、それなら2対2で公平じゃないか」
剛毅の主張は一応もっともそうだったが、審判と時計係では重みが全く違う。審判が勝敗のカギを握る場面もありうるのだ。
「ああ、それでいいですよ。あまり時間がありませんから早く済ませてしまいましょう」
ユキオは見物人の数がどんどん増えて来ていることに気が付いていた。食事が終わったのにだれも帰らず、客が増える一方なのである。思いがけず、最高レベルの格闘技がタダで見れそうなのだ。
このまま帰ってしまったのでは、もったいないと思っているのだろう。入って来た時はまばらだった客が今は半分近くの席が埋まりつつあった。
「妖鬼様がそう言うのなら」
ウヅキも客数の多さに気が付き始めたので仕方なしに承知した。ただ剛毅は客数が増えることを実は望んでいたのだ。
『へへへへ、俺の力量を見せつける絶好のチャンスだ。うまくすれば更にボディガード料を値上げ出来るぞ』
そんな思惑もあった。
「おい、よく見えるようにライトアップしろ!」
剛毅の仲間の何人かが一斉に叫んだ。その声が届いたのか、室内はやや薄暗く、舞台の上が明るく照らされた。想定外の真剣ショーにお客達はかたずをのんで舞台上を見つめていた。
「それじゃ、ルールは一般的に首から上の攻撃と股間への攻撃はしないこと。それでいいわね」
「ああ、文句ないね。俺はまあどうでもいいが、そちらさんは困るかも知れんからね」
剛毅はルールなど無用だと言いたげだったが、
「はい、そうして貰えると有難いです」
ユキオの低姿勢でここで行われている一般的なルールに落ち着いた。ただ舞台上は裸足は想定されていない場所なので、靴を履いたままでの勝負となる。従ってけりの威力は相当に高まることが予想された。
「じゃあ、3分間延長なしの勝負、向き合って、ハジメ!」
ウヅキはやや強引に自ら試合開始の合図をした。時間を厳守させるためだったが、もし3分経っても止めなければ、体を張ってでも止めさせるつもりだった。
「シュッ、シュッ、シュッ、………」
癖なのだろうか、剛毅はパンチを繰り出すたびに、「シュッ」と耳に届くくらいの音を出して、息を吐く。
しばらくは模様見の感じで、ユキオは剛毅の攻撃をかわしていたが、
『さすがに速いな。ウヅキさんより更に一回り、いや、二回りくらいも速い。しかしそれでも俺にはスローモーションに見える。いったい俺の目はどうなっているんだろう?』
その気配を感じさせない為に、かなりギリギリでかわし続けたが、ウヅキの場合と同様に、
『逃げてばかりでは気を悪くするだろう』
と感じたので、三十秒ほど経った辺りで、
「キエーーーッ!!」
すごい気合いと共に、回し蹴りを繰り出した。靴のお蔭で威力倍増である。それは見事に剛毅のすねにきまった。
「バッシィ!!」
強烈な音がレストラン中に響いた。並の、いや、ウヅキクラスでも、足の骨が折れるくらいの衝撃だったはずである。しかし、剛毅は苦痛に顔をゆがめながらも耐えた。数秒間動きが止まったが、
「ウリャ! ウリャ! ウリャ! ウリャ! ………」
逆に猛スパートを掛けて来た。
『うへ、今までよりはるかに速いな。ここまで来るとかわしきれないかも知れない』
ユキオは初めて自分の限界を感じた。
「ピッ! ピシッ! ピシッ!」
何発かのパンチが体のあちこちをかすった。驚いたことに、かすっただけでジャージがカミソリに触れたみたいに少しずつ切れていく。しかも何発かは顔をかすめた。
明らかに反則なのだが審判は素知らぬふり。ウヅキの見えないところでやっているのだ。ウヅキは時間測定に夢中で、妖鬼の顔からわずかな出血のあることに気が付いていなかった。




