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 32 ウヅキのパワー(1)


                    32 ウヅキのパワー(1)


「申し訳ないんだけど、これ以上は言えない。いつか話せる日が来たらお知らせ出来ると思うけど、今はまだ時期じゃない」

 ユキオははっきりと拒否した。


「わ、分かったわ。ああ、でもどうしよう、………、仕方がないわね、記憶がないことは上の人達に報告しなくちゃいけないんだけど。もし、お嫌だったら、話しませんけど」

「ああ、それはむしろ報告して欲しいな。でも、信じて貰えるかな」

「と、とにかく報告して来ますので、少しお待ちください」

 ウヅキはかなり険しい顔で居間から出て行った。


『ここも安全ではないかも知れないな。まあ今日、明日ぐらいは何とかなるだろう。しかしその先は危ういぞ………』

 テレビのニュースをぼんやり眺めながら、耳を澄ましてみる。しばらく中断していたが、誰かの心を覗きたい気分になった。が、その瞬間、クレハの裸身を思い出してしまった。

「止めろ!」

 小さく口走って、魅力的だが同時に不快でもあるクレハの裸身を意識の底へ沈めた。


『ま、まずいな。これじゃうかつに人の心は覗けない!』

 人の心を読むことは、当分できそうもないと感じて、

「テレビ消す!」

 と言ってテレビを消し、ソファに持たれて眠った。少しのつもりだったが実際には二時間近く眠ったようである。


「妖鬼様、あの、妖鬼様!」

「あ、ああ、ウヅキさんか。遅かったのでちょっと寝ちゃったよ。それでどうだった、報告の方は」

「はい、明日、天下グループの幹部の方たちが集まって、会議を開くことになりました。会議でどのような結論になるか分かりませんが、事が動くとしても明後日あさって以降になりますわ。

 ……あの、そろそろ、特別室に参りましょう。会議がどうなろうとも、私共の、日ごろの鍛錬の成果を、是非お見せしたいのです」

「うん、じゃあ、行こう」

 二人は並んで自宅を出て、体育館に隣接している特別室に向かった。


「ウヅキ先生、お待ち申しておりました。この者達が選ばれし四名で御座います。初対面と思われますので、各自、簡単に自己紹介してください」

 四人は道着を着て、黒帯を締め、厳しい表情で立っていたのだが、

「あの、悪いんだけど、名前と、それと段位だけでいいわ」

 ウヅキは四人を一瞥してその力量を既に見切っていた。

『私に勝てる奴はいないわね。これじゃトーナメントなんて意味ないわ。私一人で、四人を相手してもいいわね』

 そう思って言ったのである。自己紹介に段位を付け加えたのは多少なりとも敬意を表した積りだった。


 年上の者から名前と段位だけの紹介を始めた。 

「はい、では、私から、石野矢いしのやゴウキ、二段です」

「私は桜葉さくらば健太けんた二段です」

「自分は谷和原やわらヨシジ三段です」

「私は伊香来いからいワリュウ初段です」


 四人が言い終るのを待って、

「あなた方にトーナメント戦をお願いしたんだけど、考えを変えたわ。今紹介した順序に、私と一対一の対戦をする事にしましょう。一人三分ずつ。一人と戦い終わったら、一分の休憩を下さい。

 それで、私は四人全員と対戦します。もし、三分で決着がつかなかったら、そちらの勝ちとします。この条件でどうかしら? ああ、時間は多良橋さん計ってくれるわね」

「は、はい。皆さんはそれで宜しいですかな」

 多良橋は心配そうに四人を見ていた。四人のプライドが気になったのだ。


「けっ、随分なめてくれますね、私は仮にも三段ですよ。ここではトップの実力と言われている。天下グループの四天王と言ったって、もう現役じゃないんでしょう?

 昔のベストフォーが何ぼのものなんですかねえ。まあ、そっちが、それでいいと言うんだから、いいと思いますけど。怪我をしても責任は持てませんよ。いいんですよね、女だからと言って手加減はしませんから」

 ここでの最強を自負している、谷和原ヨシジ三段は凄い形相でウヅキを睨んだ。


「ああ、そう。じゃあ、とにかく始めましょう。多良橋さん、時計はいらないわ。私にそんな口をきいて、すぐに後悔することになるわよ。ルールは特にないわ。初めは石野矢くん、来なさい!」

 ウヅキは怒りの表情で特別室の中央付近に立った。床は総板張り、たたみ四十畳敷きくらいの部屋である。


「オリャーッ!!」

 一発で仕留めようと、石野矢は鋭い飛び蹴りで行ったが、

「ハイッ!!」

「ギャッ!!」

 ウヅキの遥かに鋭い飛び蹴りのカウンターで、腹部に深々と脚がめり込んで、

「バーーーーン!!」

 床に受け身も取れないまま落ち、もがき苦しんだ。多良橋が慌てて、医務室に連れて行った。


「次、桜葉くん!」

「は、はい」

 桜葉は既に少しビビッている。

「ハイッ!、ハイッ!、ハイッ!、………」

 今度はパンチの嵐。ウヅキのパンチ力は凄まじく、がっしりと受け止めているにもかかわらず桜葉の両腕の骨が折れそうなほどである。


「ま、参った!」

 桜葉は三十秒とは持たなかった。腕を押さえて、痛そうにしながら、自ら医務室に行った。


「さあ、お待ちどうさま、谷和原君、私に怪我をさせられるんだったら、やってみなさい。ウリャーッ!!」

「ゴキッ!!」

 凄まじい回し蹴りがすねの辺りに炸裂、骨の折れた音がしたのだった。

「ウギャーーーッ!!」

 谷和原は床に倒れ伏して、もだえ苦しんだ。


「さあ、これで最後ね、確か伊香来君だったわね。さあ、掛って来なさい!」

「す、済みません。ぼ、僕は結構ですから。あの、谷和原先輩を、い、医務室に連れて行きますから」

「あら、そう、残念ね。じゃあそうしてあげて、あ~あ、物足りないわね」

 ウヅキは不満そうに顔をしかめて言った。


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