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 3 スイーツ研究所(2)

                       

                    3 スイーツ研究所(2)    

 

 帰宅したユキオは、

「美味しかったから、持ってこようとか、買ってこようとか思ったけど、係の人に、残っても持ち帰りは出来ないし、まだ販売もしていないって言われて、出来なかった。ちょっと残念だったな」

 と、悔しそうに母親に伝えた。

 

 父親はしばらく出張で帰ってこないので、当分は母一人子一人の生活である。ただ母親は午後一時から午後五時までスーパーのレジ打ちのパートをしているので、

「じゃあ、あと、お願いね、留守をしっかり頼んだわよ」

 昼食中のユキオに言い残して出かけて行った。


 家出騒ぎがあっても、家のローンもあって、父も母もそう簡単には仕事を休めない。

『はあ、俺も、バイトしようかな……』

 しかし、結局、テレビを見たり、ゲームをしたりして一日は過ぎて行った。ユキオの悶々とした状態はそれから二日ほど続いたのだったが思いがけないことがあった。

「えっ、当たった!」

 久々のちょっと明るいニュースにユキオは思わず声を漏らした。


 スイーツ研究所から届いたハガキには、

『当選おめでとうございます。このハガキが届いてから、このハガキ持参の上、二日以内に当研究所にお越し下さい。豪華景品を直接お渡しいたします。ただし直接来て頂けない場合には、当選は無効になります……』

 などと書かれていた。


 早速パート勤めから帰宅した母に伝えると、

「ちょっと、変ねえ、直接出向かなきゃならないなんて。だまされているんじゃないの?」

 と、大人らしい慎重な反応だったが、

「この間もお金は一円も取られなかったし、もしお金が掛るんだったら、すぐに帰って来るよ。それに俺一人じゃないと思うけどね。

 もし俺一人だけだったら、ここに直接景品を持って来てもいいと思うけど。きっと、人数が多いからこういう風にしてるんじゃないのかな」

「そうねえ、それじゃあ、明日の朝、お母さんも一緒に行こうかしらね。豪華景品が多過ぎて自転車じゃ持って来れないかもしれないでしょう?」

「母さんは何で行くんだ? 自転車は一台しかないし、タクシーで行くのか?」

「勿論、歩いていくのよ」

「はははは、歩けば一時間はかかると思うよ。往復で二時間。本当に歩けるか?」

「ああ、そうなんだ。じゃあ、無理ね」

 母はあっさりと引き下がった。

  

 次の日、ユキオは朝食後すぐに家を出て、スイーツ研究所に向かった。午前九時前には研究所に着いたが、想像通り、他にも何人かの当選者らしい青年たちが研究所の中へ入って行くのが見えた。


『ああ、やっぱりね。でも、少し数が多過ぎるんじゃないのかな、今の時間にこれだけいるんだから、今日一日だと、少なくとも三十人くらいにはなるんじゃないのか。それに明日もあるんだから、もっと多くなるぞ』


 わずかな疑念を感じたが、

『まあ、これだけの人数だから、万一何か怖いことがあったとしても、みんなで暴れれば大丈夫だろうよ。いざとなったら、ドアをぶち破って逃げりゃいいんだからな』

 と、なるべく良い方に気持ちを向けて、研究所の中へ入って行った。入ると玄関はホールの様になっていて、少し広く、そこに五、六人の青年達がいた。


「ええと、味覚検査をしますので、こちらへ並んで下さい。味覚検査と言っても、口の中をちょっと綿棒でこするだけで終わりますから。

 それが終わりましたら、健康診断なども致します。全部終了したら景品を貰って帰った頂いて結構ですから」

 はきはきとよく通る声で、係の若い男性が検査などの内容を伝えた。若者の一人が疑問をぶつけた。かなり憮然ぶぜんとしている。


「あのさ、どうして健康診断だとか、味覚検査があるんだ。黙って賞品をくれればいいじゃないか」

 若者の疑問はもっともだったが、

「申し忘れておりましたが懸賞はここの新研究員に差し上げることになっております。つまり、検査に合格した人はここの研究員になる資格があると認定されたことになります。

 ただし、研究員に絶対ならなければならない訳ではございません。その資格のある人に賞品を差し上げる、そういうシステムで御座います。

 まあ、簡単に申せば、当方でも優秀な人材が欲しいのでございます。その為の試食会だったという訳で御座いますが、誓って申し上げます、当方の研究員になる義務は御座いませんので、そこのところ宜しくお願い致します。

 なお、検査に不合格の方にも相応の景品が御座いますのでどうかご安心下さい。もう一度念を押しますが強制は一切ございませんので、どうぞご安心下さい」

 係員の口調は滑らかで、試食会の時と同様に全くよどみがなかった。何となく騙されたような感じもあるのだが、一応は納得した。


『一切強制はないのだな』

 そう思うと少しは安心だった。それに、

『まてよ、合格したら高校を辞めて、ここの研究員になればいいんじゃないのか? ふうむ、そういう道もあるぞ』

 そうそううまく行く筈はない、と思いつつも、

『ひょっとすると、案外、チャンスかもしれない』

 ほんの少し明かりが見えた気がした。

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