25 格闘(2)
25 格闘(2)
「バリッ!」
ウヅキの蹴りと共に、何やら布の裂けるような音が聞こえた。音の方向を見ると、ウヅキの膝上十センチほどのミニスカートが、裾の方からニ十センチほど縦に裂けて、太ももが露出していた。
『ありゃ、ミニスカートのチャイナドレスみたいになったな。少し太めな脚だけど、かなり色っぽい』
ユキオは一瞬、ウヅキの太ももに見とれてしまったが、
「もう、ジャージを早く貸してくれないから、スカートが裂けちゃったじゃないの! 私を怒らせたら手が付けられなくなるわよ。早く、早く持ってきなさい!!」
ウヅキはあられもない姿をユキオに、彼女にとっての妖鬼に見られたことが恥ずかしくてたまらなかったのだ。しかし、そばに居た、年配の指導者が、ウヅキの事を思い出したようである。
「あ、あなた様はもしや、綾川ウヅキ様ではございませんか」
「ああ、そうだよ。気が付くのが遅すぎるけどね」
「ああ、こ、これは失礼いたしました。は、早く、その、ジャージをお持ちして。君らのかなう相手じゃない! 天下グループ格闘会、四天王のお一人、綾川ウヅキさまですよ、ああ、そうそう、早くジャージを、こっちへ!」
いつの間にか寄って来ていた、五、六人の指導者達に、年配の指導者は慌てて指示を出した。
「それと、咲川君を医務室に連れて行って、ああ、その、これがジャージで御座います、更衣室はそちらの方に」
「うん、わかった。それで、このお方は妖鬼様と言って、天下グループの大事なお客様だから、その、取り敢えず、応接室にお連れして、お茶をお出しして」
「はい、承知いたしました。ど、どうぞ、こちらへ」
年配の指導者がそこの全体の指導者でもあるのだろう、てきぱきと指示を出し、自分はユキオを案内して、一緒に応接室に入った。
「知らぬこととはいえ、誠に申し訳ございません。この通りで御座います」
ユキオを座らせ自分は立ったまま、深々と頭を下げた。
「いや、だけど、どうしてウヅキさんだと分からなかったのですか?」
ユキオは当然の疑問をぶつけてみた。
「はい、その、服装が、普段見慣れない服装であったのと、その、これは少し言い難いのですが、お化粧のせいで御座います」
「お化粧?」
「はい。道場では、殆ど素顔で御座いまして、その顔しか知らないものですから。失礼かもしれませんが、随分お綺麗なので、てっきり本物のウエートレスの方だと思い込んでおりました」
「あたしは、本物のウエートレスだよ」
部屋にジャージ姿でウヅキは入って来た。
「本物ですか?」
「ああ、あなたは確か、多良橋さんだったよね」
「はい、さようで御座います。多良橋小太郎と申します。その、妖鬼様、以後お見知りおきを」
「は、はい」
例によって、ウヅキはユキオの右隣に座り、多良橋は二人に向い合せに座った。間もなく、ジャージ姿の若い道場生らしい女性がトレーに乗せてお茶を運んで来た。
「そ、そ、……粗茶で、……御、御座います」
余程緊張しているのだろう、手がかなりふるえている。それでも何とかこぼさずにお茶を配り終えると、ほっとした様子で一礼してから、部屋を出て行った。
「あら、お茶だけ? スイーツは無いの?」
ウヅキは何だか態度が大きい感じである。自分がこの世界ではきわめて高い地位にあることを、妖鬼によく知って欲しかったのだ。
「も、申し訳ございません。気が利きませんで。すぐに持って来させますから」
多良橋はかなり慌てたが、
「あ、俺はスイーツは、今欲しくないな。お茶だけで十分だよ」
ユキオは気を使って言ったように見せかけたが、
『スイーツは当分食べたくないな。スイーツ研究所以来トラウマなんだよね』
その辺りが本音だった。
「あら、そう。じゃあ、あたしもいらないわ。御免なさいね、多良橋さん、注文がくるくる変わって。でもね、それだけこちらの妖鬼様は大事な方なのよ。
そうそう、一つだけ言っておくわね。私、本土にいる時は通常はウエートレスが本業なのよ。あなた方にもお知らせしておくべきだったわね。この化粧した美人の顔もね、ふふふふ」
ウヅキは楽しそうに笑った。多良橋に綺麗と言われたことが余程嬉しかったのだろう。




