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 24 格闘(1)


                   24 格闘(1)


 建物の中には百人以上がいて、小さなグループに分かれ、格闘術の訓練に励んでいた。外の連中もそうだったのだが、ほぼ全員ジャージ風の衣服を身にまとっている。


 道着らしきものを着て黒帯を締めているのは指導者達の様である。ユキオとウヅキは中に入って、隅の方で眺めていた。


「一つ疑問があるのですが、これは一体どういうことなのでしょうか、……」

 ユキオには何故こんなに大勢が訓練しているのか理解出来なかった。

『外の連中と合わせると、数百人くらいになる。何なんだここは?』

 実に不思議な印象だったのだ。


「はい、その疑問はもっともですわね。簡単に言いますと、この人達はボディガード予備軍なのです。天下グループではボディガードの派遣もしておりますから。

 ここで約二年間、徹底的に体を鍛え、それと派遣先の言葉の勉強をして、全世界に、派遣しているのです。21世紀はテロの時代でしたが、その状況は今も連綿と続いています。

 ボディガードの要望は増える一方で、特に優秀なボディガードが求められております。お客様のニーズに応えようと、こうして日夜努力しているのです。ふふふふ、何だか私は広報部長みたいになりましたわね」

 ウヅキは自分の言い方がおかしかったのか、しばらく下を見てくすくす笑い続けた。


『あれあれ、最初の印象だと、無口でめったに笑わない人だと思ったのだけど、こりゃとんでもないくらいの笑い上戸なんじゃないのか』

 しかし、その小さな笑い声が、訓練をしていた者達、特に比較的近い位置にいた指導者の耳に入った。


「おい、何がおかしい!」

 険しい表情で、怒鳴りながら近寄って来たのである。


「ご、ごめんなさい」

「お前はどこのレストランのものだ! それと、お前、帽子ぐらいぬがんか!」

 指導者は徐々に激高して来て、ますます声が大きくなった。


「どうした、咲川さきかわ、そいつらがどうかしたのか」

 別の組の指導者も何人かやって来た。彼らの生徒達は、遠くから見守っている。


「こいつらが、俺達の練習を見て笑いやがったんだ。如何にもばかにしたようにな」

「なんだって、本当だとしたら、ただじゃおかんぞ!」

 別のとりわけ若い指導者が、すごい形相で怒鳴った。しかし、少し年配の指導者が、

「まあまあ、あんたら、謝りなさい。なにか思い違いしたんじゃろう。素人にはわしらの訓練が理解出来んじゃろうからな。たまに、滑稽こっけいだと思う人もあるようだから」


 ことを丸く収めようとしたのだが、

「私はあなた達を見て笑ったのじゃないのだけれど、そんなにすぐかっとなるようじゃ、修行が足りないわね。少し私が鍛えてあげるわ」

 火に油を注ぐ結果となってしまった。


「な、なに! 今、何と言った! 女と言えども容赦しないぞ!」

 若い指導者は切れてしまったようである。


「じゃあ、あんたでいいわ。私にも、せめてジャージぐらい貸して下さらないかしら。ウエートレスの恰好じゃ動き難いし、スカートが裂けてしまいそうだから。一対一の勝負でいいわよね。それとも、三対一でやる?」

 ウヅキは挑発的な物言いをした。


『変だな、ウヅキさんは確かナンバー4だったはず。ここの指導者はウヅキさんを知らんのかな?』

 ユキオは怪訝けげんな顔で立っていたのだが、


「おい、帽子をぬげと言っただろう!」 

 最初に寄って来た、咲川と呼ばれた男が、ユキオの帽子を取ろうとした。ただとろうとしたのではない。下からこぶしを突き上げて、帽子のつばにあて、上へ弾き飛ばそうとしたのである。


「え、な、何だ貴様!」

 ユキオはとっさに後ろに下がったので、空振りになった。咲川は恥をかかされたと感じて、カッとなり、今度は本格的に殴りかかって来た。


「いでででで、貴様ら、く、くそう! うぐぐぐぐ、……」

 咲川は股間を押さえたまま悶絶した。ウヅキが股間に蹴りを入れていたのだ。強烈な一発だった。


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