23 天国島(3)
23 天国島(3)
「あ、そ、そうなんですか、それでそのう……」
ユキオはちょっと慌てて、ミソカの次の言葉を待った。
『やっぱりラブホテルのグループと言ったのはまずかったな。以後は言わないことにしておこう』
そう感じたのである。
「いや、それほど気にされなくても。ラブホテルは我がグループにとって決して小さな存在ではありません。ご存じないかも知れませんが、『天国かも知れない』ラブホテルチェーン店舗は世界中にあるのですよ。
ただ、『天国かも知れない』というネーミングは日本だけでして、まあ、他の産業のグループ名も実は一つのグループ名で統一されております。その名を、天下グループと言います」
「て、天下グループ!」
ユキオも知っている名前だった。津下原グループと並び称される、世界的な大企業である。
「はははは、意外に知られていないんだよね。ラブホテルまで経営しているというのはね。特段隠している訳じゃないんだけど。しかしね俺達は一つの大きな目的の為に働いているんですよ。
妖鬼様には申し訳ないんだが、津下原グループと対立しているんです。あなたのおじい様の事を悪くは言いたくないが、かなりあくどい事をしているんですよ、善人面しながら」
今度はハヅキが言葉を挟んだ。しかもかなり重大かつ辛辣な内容だった。
「ダイエット薬の、ヤセール、世界的に売れまくっている薬ですけど、あれの完成の為に、ずいぶんたくさんの犠牲者が出たと、もっぱらの噂です。
それに今現在も副作用に苦しんでいる人が大勢いると聞いております。私達は、その証拠を探し続けているのですが、なかなか簡単にはいきません。そこで、そのう、妖鬼様にご協力をお願いしたいのです」
出番が来たとばかりにウヅキが話し出したが、
「ウヅキさん、まだそこまでは言わない方が。妖鬼様にもいろいろとご都合がおありでしょうからね」
ミソカがたしなめた。
「ああ、そういうことなのですか。しかし、仮にも私の祖父ですよ。私が協力するとは考えにくいと思いませんか」
ユキオには三人の考え方が理解できなかった。
『これじゃあ、スパイになってくれと言っているようなものだ。しかし、普通、身内じゃ無理だろう?』
戸惑いの表情を見て、
「はい。このお話は今はここまでに致しましょう。ウヅキさん、妖鬼様のこと、後は頼みましたよ。今日一日はこの島の案内をしてあげて下さい。私共はここでいったんお別れです。では、これにて失礼いたします」
ミソカはあっさりと去って行った。
「じゃあ、俺も行きます。次のヘリの操縦が待っていますので。ウヅキ、頼んだぜ。それでは妖鬼様、失礼いたします」
ミソカに続いてハヅキもそそくさと去って行った。
「それでは参りましょうか。ああ、おばちゃん、あと宜しくね」
「あ、ご、ご馳走様でした」
ウヅキとユキオは食堂のおばちゃんに軽く挨拶してから外へ出た。夏の日差しが眩しかった。
「ああ、そのう、帽子はかぶらなくてもいいのか? 直射日光は体に悪いと聞いているけど……」
ユキオはウヅキの健康を少し気遣った。
「ふふふ、優しいんですね。でも大丈夫、すぐ、室内に入りますから。今日一日はここの施設の案内をする日ときまっていますから」
「え、いつ決まったんですか?」
ユキオには不思議に思えた。そのような時間は無かったように感じたからである。
「妖鬼様が、ホテルにいらっしゃった時からですわ。フロントでチェックインされたでしょう?」
「ああ、まあね。えっ、その時に俺だと分かっていたんですか?」
「はい。妖鬼様を確保しようと躍起になっていた矢先でしたから。天下グループの作り上げた人体認証システムの働きで、ホテルに入って来てから、数秒で妖鬼様だと分かったんです」
「へえーっ、それは凄い。警察より素早く見分けられるんじゃないのか。ちょっと怖いですね」
「ふふふふ、私達は正義の為に働いておりますから、妖鬼様が怖がる必要は御座いませんわ」
二人はそこで、次の建物の中に入った。そこは体育館になっていて、多くの者たちが格闘術の訓練の真っ最中だった。




