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 19 再び逃亡(2)

                 

                  19 再び逃亡(2)


 およそ三十分ほどかなり早足で歩き回って、少し疲れて来たところで、ようやくそれらしいホテルに出会った。


『あれ? 何だか見覚えのあるようなラブホテルだな』

 ユキオは山の小屋から抜け出して、最初に入ったラブホテルを思い出していた。特に名前など記憶にないが、ビルの色調や外観の感じが良く似ているのだ。


『天国かもしれないホテル、だって。何ともふざけた名前だな。でも確かにこんな感じだったぞ。……しかし、……ひょっとすると捕まるのは時間の問題かもしれんな』

 逃げることに少し、いや、かなり疲れて来ていたのだ。


『最後だし、少し豪勢に行くか。ああ、だけど、最初の所よりかなりでかいホテルだな。さすが、ビッグシティのラブホテルだけはあるな。あれ、最上階はレストランになっているのか?』


 最初に入ったホテルは五階建てだったのだが、ここは十五階建ての高層ホテルである。同じ系列のホテルらしかったが、少しおもむきが違うようにも感じられた。


『とにかく入ってみるか。ああ、フロントに人がいるぞ。ま、いいか。捕まるなら捕まれだ!』

 警察に通報されるのを覚悟して入った。


「いらっしゃいませ、おひとり様で、お泊りで御座いましょうか」

「ああ。なるべく眺めの良い部屋がいいんだけど」

「かしこまりました。お食事はどうなさいますか。一応最上階にレストランが御座いますが」

「うん、食事はそこでするよ。で、ここも先払いなんだよね?」

「ここは、同系列の他のホテルとは違いまして、先払いでも後払いでも選択できます。ただ先払いの方が若干お安くなりますが」

「そう。じゃあ、先払いしておこう。幾らですか」

「おひとり様専用の部屋で宜しいでしょうか?」

「うん」

「14階の部屋で全て込みで、一泊五万イエンで御座いますが」

「分かった、じゃあ」

 もう節約の心配はいらない。気軽に支払った。


「それではここにサインだけお願いいたします。それで手続きはすべて完了で御座います」

「分かった」

 ユキオは「山田ひろし」と、どこにでもありそうな偽名でサインした。


「では、こちらが、カードで御座います。どうぞごゆっくりお過ごしください。部屋を出られる場合には必ずカードをお持ちしてください。展望レストランに入るときはこのカードを係員にお渡しくだされば、ご案内いたしますから」

「うん」


 カードそのものは最初のラブホテルのものとほとんど同じだった。エレベーターで十四階に向かった。全く手ぶらな若い男が一人でホテルに泊まる。しかも早朝である。怪しいと思わない方がおかしいだろう。


『今頃は、警察に連絡しているだろうな。せめて、風呂に入って、レストランで朝食を食べて。いや、まてよ、最上階の展望レストランは朝っぱらからやっているのかな』

 そんな懸念を持ちながら、指定された1415号室に入った。


「へーっ、立派な部屋だな。これって、いわゆるスイートルームじゃないのか?」

 思わず独り言を言った。一人部屋のはずなのにダブルベッドが二組もある。部屋の数も三つほどあって、

『何か間違えたんじゃないのかな?』

 そんな風にも感じたが、とにかく風呂に入ることにした。


「ウオッ!!」

 風呂の立派さにまたもやびっくりだった。とにかく広いのだ。ちょっとした銭湯並みである。

「い、いいのかな?」

 何だか気分が落ち着かなかった。


「あれ?」

 浴室の中に全身を映せるような大きな鏡があったので、自分の裸身をそれとなく見た。そこで少し気が付いたことがあった。


『何だか、妙に筋肉がついているな。そんなに激しい運動はしてないはずだがな』

 筋肉トレーニングなど全くしていない。にもかかわらず、かなり筋肉がついている様なのだ。


『背中の筋肉はどうなんだろう? そういえば、一度もよく見たことが無かったな』

 ユキオは男である。特に男の裸身に興味はない。今までも、チラッとは見たことがあったが、それだけだった。


「アアアアーーーーッ!」

 どうして今まで気が付かなかったのか、一つの謎が解けた。背中に、まるで墨で描いたかのような、

「妖鬼」の二文字が黒々と縦書きされていた。ネットで調べた「津下原妖鬼様」などとあったのはつまりはこの入れ墨の事だったのだ。


『はははは、こりゃ驚いた。恐らくネットで女子高生の殺人現場を見せた時に、これ見よがしに視聴者にこの入れ墨を見せて自慢したのだろうよ。く、くだらない!』

 しかし、その入れ墨の黒い色は尋常ではない。通常はもう少し色が薄くなるのだ。


『何か特殊な処理でもしたのだろうな』

 背中の「妖鬼」に気が付いて随分がっかりした。

『やはりただのええかっこしいだったのだな。悪い女子高生とはいえ、二人も殺して、背中の入れ墨を自慢げに見せて、ヒーロー気取りか。あ~あ、もうちょっとましな奴だと思っていたのに』

 

 その後、気分重く最上階のレストランに行ってみたが、ちょっと不思議な形式である。仕切りの衝立が高いうえに、その衝立には部屋の番号が記入されている。

 ウエートレスに部屋のカードを見せると、まっすぐそこに案内された。その間、誰とも出会っていない。不思議に思ったが、

「ご注文が決まりましたら、ここのボタンを押して下さい」

 ウエートレスは水を置いて去って行った。少し気にかかったのは、妙に体格のいいウエートレスだったことだが、コップの水を一口飲むと、そんなことも忘れた。


『ああ、眺めがいいな。あれ、あれは、パトカーだぞ。それも、何台も! ああ、ついに来たか。朝食を食う暇もなかったな……』

 いよいよユキオは逮捕される覚悟をしっかりと決めたのだった。


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