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 17 カジノ(6)

                         

                   17 カジノ(6)


『あんた、あたしから逃れようとしてるだろう。無駄だよ。絶対にのがしゃしないんだからね。……なあ、二人で組んで大金持ちになろうよ。自慢じゃないが、あたしはお尋ね者でね。

 表の世界じゃ生きていけないんだよ。まあ、あんたも同類だと思うけどね。だけどあれだね、あんた、どっかで見た顔だね。確か今テレビで大騒ぎしている、津下原何とかじゃないのかい?』

 トイレに入っていても、女の心は容赦なくユキオの心の中に入ってくる。強く拒絶すればするほど、相手に自分の心情が分かってしまう。


『俺はあんたを知らないし、知りたくもない。……ば、馬鹿、止めろ!』

 クレハは女の武器を使いだした。自分の裸身を強くイメージし出したのだ。なまじ心が読めるだけに、イメージがストレートに伝わって来て、魅力的な裸の女性の姿がはっきりと見えてしまう。

 ユキオも若い男である。美女の裸身を見て平気でいられるはずもなかった。しかし自分が切迫した状況にいることを思い出してもいたのだ。

 

『だったらこうしてやる!』

 このままではクレハの思い通りに操られてしまうかも知れない。それだけは嫌だと、前々から考えていた方法を試してみることにした。


『あ、あんた、何してんの、や、止めてよそんなこと。目、目が回るじゃないの!』

 クレハの裸身戦術はそこで途切れてしまった。ユキオの取った戦術は高速焦点移動法とでもいうべきものだった。次々に見る対象を変えて行って、他の事を一切考えない。

 したがって心の中は、画像が次々に変化する。そこはトイレの中だったので、便器、天井、出口、換気扇、蛇口、電灯、床、等々を、一秒とは同じ場所にとどまらない様に次々に見て行くのだ。

 めまぐるしく心の中の光景が変化するので、心の読めるクレハは対応しきれずにめまいを生じてしまったのである。


「ビーッ、ビーッ、ビーッ、……」

 二人が激しい心の戦闘を続けているさなか、突然警報が鳴りだした。


「緊急事態発生です! ゲームは中止いたします。お客様は直ちに、緊急脱出口から脱出して下さい。ここはあと一分少々で閉鎖します。お急ぎ下さい!

 あと六十秒で閉鎖いたします。済みませんが私も逃げます。放送はここで終了いたします。緊急脱出口閉鎖まであと五十秒。それではさようなら!」

 緊張しきったユメカの声だった。


「とにかく逃げるぞ!」

「仕方がないわね!」

 ユキオとクレハは一時停戦の感じで走り出した。トイレでの攻防がたたって、二人は一番遅く逃げる羽目になってしまったようである。しかも新人のユキオには緊急脱出口の場所が分からない。


「ふふふふ、こっちよ、あんたは私がいないと駄目なのよ!」

 クレハは勝ち誇ったように叫びながら、猛スピードで走って行く。履いていたはずのハイヒールは既に脱ぎ捨てられていて、今は裸足で走っている。確かにハイヒールではとてもこんなに速くは走れない。

 

『へえ、足はめっぽう速いな』

 ちょっと、感心したが、その時である。

「ワンッ、ワンッ、ワンッ、ワンッ、……」

 複数の犬の鳴声が聞こえて来た。やや金属的な声は明らかにロボット警察犬のものだった。


 クレハとユキオが脱出口に達する前に、三匹のロボット警察犬が館内に侵入してきたのである。その後を追って、数十人の武装した警察官が次々に入って来た。

 

「こっちよ!」

 クレハが大声で叫んだ。

「ああ!」


 二人が緊急脱出口に入って、わずか五秒後にはロボット警察犬も突入して来た。二人との距離はみるみる縮まって来ていたのだが、

「あ、ち、畜生!」

 クレハは転んでしまったのだ。


「悪いな!」

 ユキオはクレハを見捨てて、走り続けた。ヒーローものの映画の様に女を助けて、自分がつかまったりはしない。自分こそが追われているのだということをほぼ確信していたからでもある。 

 実際ロボット警察犬が追っていたのはユキオ、彼らにとっての津下原陽気だった。転んでしまったクレハには目もくれずに、ユキオを追いかけて来たのである。


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