16 カジノ(5)
16 カジノ(5)
声を掛けて来たのは着物をイメージしたような色鮮やかなドレス姿の女である。飛び切りの美女ではあったが、目つきは鋭く、油断のならない感じの女だった。
「ああ、あたしは、クレハ。登録名はKUREHA。あんたはCAPS、キャップスっていうんだね。今日が初めての新人さんらしいね。ふふん、それにしてもダルカも馬鹿だねえ。あいつは全財産を掛けてしまったんだろうね、多分」
「全財産?」
「ふふふ、あいつは自分に自信を持ち過ぎたのさ。毎日ここで稼いじゃ、十万イエンだけ残して、あとは遊びに使ってしまう。もう半年くらいもそうしているらしいのさ。
それが、あんたに負けて頭に血が上っちまったんだろうよ。一文無しなんだからね。まあ、あたしはそんな馬鹿じゃないけどね。勝負ごとに絶対はないのにきまってる。さて、前置きが長くなった。神経衰弱で行くんだろう?」
「ああ、まあ、その、トランプタイプで」
「ふふふ、あたしゃ、それが得意だけどいいのかい?」
「あ、ああ、それしか知らないもので……」
「じゃあ、審判の方々、宜しいですか」
クレハはひねたような笑みを浮かべながら言った。
「はい、それでははじめて下さい。掛け金は三十チップですね」
今度の審判は一人が女性だった。やはり腕力に自信のありそうな、かなり頑強そうな体格をしている。二人がチップを台に載せてゲームが始まった。
『えっ、妙だな』
勝負が始まってすぐ、奇妙なことに気が付いた。
『クレハの記憶が貧弱だぞ。通常の俺より下なくらいだ。この程度の記憶力しかないのに、どうしてダルカを破った俺に挑戦できる? ……そうか、きっとそうだ。こいつはおれと同類なのだ! こいつは俺の心を読んでいる!』
ユキオはクレハの自信の訳を知った。しかも、クレハもユキオの顔をしげしげと見ている。
『お前、俺の心が読めるのか?』
ユキオはさりげなくクレハを見ながら、そう思った。
『こいつはたまげた。初めてだよ、あたし以外に心の読める奴がいるなんて。だけど、勝負は勝負だ。勝たせて貰うわよ』
『それはこっちのセリフだ。俺もどうしても金が欲しいんだ。負ける訳にはいかんのさ』
ユキオは勝負の仕方を変えることにした。
「よしっ!」
少し気合を入れてから、ユキオは女の胸の谷間を見た。豊満な女の両の乳房の谷間が、着物の様なドレスの前のあわせの辺りからかなり見えている。ついさっきまでは遠慮して見ないようにしていたのだが、今度は貪る様に見つめた。
「ちょ、ちょっと、何見てるんだよ、気になるじゃないか!」
「見せる為の胸なんだろう? だったら見てもいいじゃないか。素晴らしい胸の谷間に見とれるのは、男として当たり前じゃないか」
出来るだけ大人じみた言い方をした。
「し、審判、こういうのは違反じゃないのか? セクハラだろう?」
クレハは女の審判に助けを求めた。
「だったらそんな服を着てこなければいいのよ。見られて困るんだったらね」
さすがは女の審判である。女には手厳しかった。
『へへへ、女の審判でよかったな。それはそうと、あんたの持ち時間は五分を切ったぞ。さあさあ、早くしないと時間切れになるぞ』
ユキオはクレハにプレッシャーを掛けた。自分の持ち時間だって、五分を少し切っている。しかし彼女はいつもの様に相手のトランプの記憶が読めなくて、イライラしていた。そのイライラはミスを呼ぶ。
「ああ、しまった!」
知っていたのにミスしてしまったのだ。そのミスに乗じて、ユキオはそのミスしたカードを手に入れることが出来た。次は女の顔をじっと見つめた。
『整形美人だよね。そうだよな、整形美人に決まってる。本当はあんな顔なんだな、きっと。いや、こんな顔かも知れんぞ。いやいやいや、人間の顔じゃないかも知れんな、そうだ、馬とか豚の顔だなきっと、……』
ふざけ切ったことを考え続けた。
「わ、私は、整形なんかしてません! し、審判、この人私を馬鹿にしきっています!」
クレハは思い余って今度は男の審判に申告したのだが、
「別に、キャップスさんは何も言ってませんよ。どうしたんですかクレハさん」
当然だがユキオの心の声は聞こえない。
「えっ、あ、そ、そうよね、わ、私の思い過ごしでした。済みません」
クレハはキャップスの戦略に引っかかったことに気が付いた。しかし、もう時間が切迫してきている。ゲームの進行が遅く、まだカードはかなり残っているのだ。
「あああ、また、やってしまった」
それは致命的なミスだった。既にユキオのカードが大きくクレハのカードを上回っている。勝つ為には残り全部を取らなければならなかった。
「あああ、畜生!」
奇跡的に三組立て続けに取れたが、残り三組でしくじった。残った三組はユキオがすべてとってゲームは終了した。クレハはひどく悔しそうだったが、急ににやにや笑いだした。
「えへへへへ、ちょいと顔を貸して貰おうか。そうだねえ、先ず換金して、外に出ようよ。あんたにじっくり話があるんだ」
「お、俺は、別に話は無いぞ。まず、換金はするがな」
ユキオはクレハを無視して、換金した。全部で七十万イエン。十万の元手なので六十万の儲けである。無造作に札をポケットに詰め込み、
「ああ、済みません、トイレはどこでしょうか」
換金所のユメカに聞いた。
「ふふふふ、トイレにはあたしが連れて行ってやるよ。こっちよ」
仕方なくついて行って用を足したが、
『こいつは参ったな。クレハに付きまとわれたんじゃたまらんな』
クレハから逃れる方法を考え始めていた。




