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 14 カジノ(3)


                   14 カジノ(3)

                         

「ああ、そうそう、私はクレイ。ここの案内係をしているのよ、宜しくね」

「あ、ああ」

「ちょっと、戸惑っている様ね。まあ、最初の人達は大抵そうよ。そういう人達の為に練習台があるのよ。ねえ、私とやってみようか?」


 クレイは明るく微笑みながら言った。ちょっと場違いな笑顔であったが、

『この、クレイと言う人は、実際にはここで勝負はしないのだろうな、だから気楽に笑っていられる』

 そう思って勝手に納得した。


「練習台?」

「そう。練習だから、お金、その、チップはいらないわ」

「うーん、じゃあ、お願いしようか」

「こちらへどうぞ」


 クレイの後について行くと、換金場所とは一番遠く離れた隅の方に「練習所」と、衝立などに書かれた場所があった。


「さあ、どうぞこちらへ。ここはここのシステムに慣れる為の場所だから、審判はつかないし、さっきも言った様にチップも関係ないから気軽にやってね。

 まず、電源を入れて。そう、それから、ゲームの一覧が出て来るからそれを指で押せばそのゲーム画面になるわ。何でもいいから、適当に選んで」

「ああ、それじゃあ、神経衰弱で行こうか」

 ユキオは指示される通りにした。神経衰弱の項目に指で触れると、確かにそれらしい画面になった。


「へえ、神経衰弱と言っても随分、色々種類があるんだな」

「ええ、どれでも適当に選んでみて」

「じゃあ、オーソドックスにトランプで、ここにタッチすればいい訳だな」

「はい、その通り。ここで一つだけ忘れてはいけない事があるわ。それは名前を打ち込むこと。あなたはCAPSだから、アルファベット4文字を打ち込んで。

 画面上にアルファベットが出ているからそれを順にタッチして、最後にOKにタッチすればいいのよ。そうそう、そうよ。

 私はクレイ、登録はKUREIだからそれを打ち込むわよ。それとここに偽物のチップがあるから、これをチップ台に置きます。はい、あなたも置いて」


 クレイに手渡されたチップ三枚を専用の台に置いた。クレイもやはりチップ三枚を置いた。

「う、うん、おお始まったな」

 チップ台に二人がチップを置いた途端に、軽快なメロディーが流れてゲームが始まった。


「お、俺が先行という訳か」

「はい。どっちが先行かはコンピューターが自動的にランダムに決めるのよ。一度決まったら変更もクレームも受け付けないわ。もし、途中で止めたり、チップを取って逃げようとしたりしたら、捕まって、ちょっと怖い事になるのよ。

 それと、一人の持ち時間はどのゲームも共通で十五分なの。タイムオーバーは即負けだから気を付けてね。ええと、裏返しになっているトランプを指でタッチすればいいのよ。

 トランプの場合は、数字さえ合えばとることが出来るから、まあ、初心者向きね。でも私はこのくらいの奴が好きだな。あんまり難しいと頭が痛くなってくるから。……あら残念はずれね。じゃあ、今度は私の番よ」


 二人がゲームに夢中になっていると、どよめきが聞こえた。

「一千万イエンだ!」

「いや、強いねえ」

「もう、挑戦者は現れないんじゃないのか?」

「ああ、くそ、羨ましい!」

 誰かが大勝ちしたらしい声が聞こえて来たのだった。


「しかし、この地味なシステムで一億なんて稼げるのか。ああ、それともう一つ、引き分けの時はどうするんだ。例えば、チェスは物凄く引き分けの多いゲームだって聞いているぞ」

 ユキオとクレイの勝負は引き分けになりそうだった。


「ふふふふ、それがちゃんと一億稼げるのよね。まあ、それはやってれば直ぐに分かるわよ。あ~あ、やっぱり引き分けになっちゃった。でも、これって両者負けになるのよ」

「ええっ、両者負けって?」

「そう、それも、多分世界的にも珍しいルールね。つまり、対戦者二人のチップは主催者のものになるの。つまりここのオーナーのものになる。

 そのお金が私達のお給金にもなるという仕組みなのよ。引き分けは嫌だからチェスをする人はここではごく少数派よ。だけど引き分けの事を考えて、掛け金を少なくしてやると思う?」

 クレイはにやりと笑った。


「ま、長続きさせようと思えばね。でも、それだと大金はつかめない。やっぱり大金を掛けて必死になってやるのかな」

「ご名答。ここに来ている人達は皆、一獲千金をねらって来ているのよ。あなたもそうでしょう?」

「ま、まあ、そうだけど。でも、気後れして帰ってしまうかも知れないぞ。チップ十枚を換金してね」

「ところがそれは出来ないのよ。ここでのチップ交換は等価交換で、チップを買う時も換金するときも1チップ一万イエンなんだけど、換金は二十枚以上からなのよ。

 だから勝負しなかったら、参加費用十万イエンの丸損よ。ごくまれにいるわよ、損してもいいと言って帰る人が。あなたも勝負しないで帰る?」

「ははは、成程、よく分かった。それじゃ、まあ、頑張ってみますか」

 ユキオはゆっくり立ち上がって、

『それにしても完璧な美貌だな。今日の所はこの美人と一緒にゲームが出来ただけで良しとしておこう』

 そう思いながらその場を去りかけたのだが、クレイが呼び止めた。


 

「あああ、御免なさい、一つ大事なことを言い忘れていたわ。時間制限があるのよ」

「時間制限、どんな?」

「ええとね、二時間以内に最低三戦はしないと強制排除されちゃうのよ。だから時間には気を付けてね」

「強制排除って何だ?」

「全チップ没収になって、二度とここには来れなくなるのよ。まあ、館内放送で時間切れになりそうな人の名前が呼ばれるから、そんな場合はすぐ換金するか、とにかく近くのテーブルに座って、対戦を開始する事ね。じゃあね、頑張って」

 クレイの励ましを背に受けながら、ユキオ、ここでの「キャップス」は手ごろな相手を探して館内を歩き回った。


『さっきの神経衰弱、勝とうと思えば勝てたな。心が読めるのは何ともすごい能力だ。彼女の記憶しているカードがかなりはっきりと分かったからな。

 自分の記憶力の他に相手の記憶力を利用出来る。ひょっとすると記憶力の良い奴ほど俺は勝ちやすいのじゃないのか?

 フェアーじゃないのがちょっとしゃくさわるけど、今はそんなことを言っている場合じゃない。

 よし、こうなったらやるか! 神経衰弱で一番レートの高い奴と、いや、それは目立ち過ぎる。三番目くらいの奴にしておこう』

 ユキオの対戦相手は間もなく決まった。


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