13 カジノ(2)
13 カジノ(2)
『何と魅力的なお尻だろう。……でも、これって整形かも知れんぞ。まあ、そんなことはどうでもいいんだがな』
お尻の形のよく分かるドレスだった。だが、スイーツ研究所で美人には懲りている。
『犯罪と美人は比例する』
そんな格言が出来そうな気分だった。逃げ出したい気分はまだ続いているが、
『逃げ出してもどうにもならんぞ!』
そう自分に言い聞かせて、後は成行きに任せることにした。
女はエレベーターに乗り込んだ。勿論ユキオも乗り込んだのだが、とても小さなエレベーターで二人で満員な感じである。
『へえ、三階建なのにエレベーターがあるんだ。会場は二階か三階なんだな、地下はないみたいだし』
大きなスーパーなんかだと別に珍しくはないが、このような小さなビルでは三階くらいでエレベーターがあるのは珍しかった。
しかし、ユキオを驚かせることがあった。女は実に奇妙なボタンの押し方をしたのである。
「このやり方を覚えておいてね。地下に行くにはこの方法しかないんだから。いい、一階と三階のボタンを同時に押すのよ。別々に押すと普通の階にしか行かないから」
親指で一階を、人指し指で三階のボタンを一緒に押した。
「えええっ!」
地下へ行く押しボタンは無いのに、確かに地下に降りて行ったのである。
「それと、帰りは普通でいいのよ。まあ、二階三階に行っても用は無いでしょうから、一階のボタンを押すだけだけどね」
女の口調は少し砕けた感じになった。
「さあ、着いたわよ。あなた今日が初めてよね」
「ああ、そうだけど」
「じゃあ、まず、名前からね。名前と言っても本名とかじゃないのよ。こっちが勝手に決めるのよ。こっちへ来て」
女はテキパキと仕事をこなしていく感じだった。入って来たビルに比べると、不思議にも地下はかなり広かった。
ちょっとした体育館並である。ただ天井はあまり高くはない。衝立でいくつも仕切られていて、小部屋が沢山出来ている感じである。
「まずここが、チップと現金との交換所よ。それと案内所にもなっているのよ。先ず名前を決めないとね、ユメカ、この人どんな名前がいいかな」
案内所には制服を着た数人の男女がいたが、そのうちの一人のかなり若い女性に女は話し掛けた。
「今は夏だから、サマー、それと、この人帽子をかぶっているのね、だから、キャップ。サマーキャップ、ううん、ちょっとゴロが悪いわね。それと少し長いし。
……キャップス、そうね、あなたはたった今から、CAPSよ。今名札を作るから待っていてね。一分で出来るから」
ユメカと呼ばれた女性は勝手にユキオの名前を作り上げて、近くに置いてある、ネームプレート作成マシンで「CAPS」の名札を作った。
大小二枚あって、小さい方はユキオの服の上に張り付け、大きい方は後ろにある壁のボードに張り付けた。どうやらいつもこの調子で来た者の名前をこしらえている様である。
壁には他にたくさんのネームプレートが貼ってあり、これが名簿代わりになっているのだろう。ざっと見て百枚くらいはあるようだ。
「さあ、これで事務作業は終了よ。あとはあなたの自由にしていいんだけど、やり方が分からないわよね?」
「ああ、ルーレットとか、ポーカーとかがあるのか?」
当然あるつもりで聞いたのだが、
「残念だけどそういうのは無いのよ。ここに全体の見取り図があるから、これで自分の好みを捜せばいいわ。どお、ちょっと変わっているでしょう?」
女はやや自慢げに言った。
「ええっ! 囲碁や将棋もあるのか? チェスもあるし、五目並べまであるのか!」
高額のばくち場とは思えないような項目に唖然とした。
「ふふふ、それがここの特徴なのよ。日本中探してもまず無いでしょうね。ここの特徴は二人で対戦することがまあ、一種のポリシーなのよね。
パチンコとかパチスロとか一人遊びの道具はここではないのよ。それと三人以上で遊ぶ麻雀なんかもないの。二人が腕を競い合う真剣勝負の場なのよね」
ユキオは少々失望したが話は最後まで聞いてみることにした。
「それで、ここのルールはいたってシンプルよ。先ず席に座って相手を待つ。その時、賭け金のレートを決めるのはその人自身よ。自分で決めたレートの分のチップをチップ台に置いておくのよ。
で、それを見た対戦者がそのチップに同意すれば、つまり自分も同数のチップを置いて、競技開始。勿論勝った方がそのチップを貰うことになるわね」
『何か地味な感じだな。コツコツと勝負をして徐々にお金を儲けて行く。ううむ、……』
何かぴんと来ない感じだったが、既に十万イエンの投資をしているのである。多少なりとも儲けて帰ろうという気になり始めていた。女の話はまだ続いている。
「それでね、不正の無いように、必ず二人の審判員が付くのよ。もし不正が発覚したら大変なことになるからその点は覚悟しておいてね。
御免なさいね説明が長くなっちゃって。それでキャップスはどの場所がいいか決めて下さいな。自分の一番得意なもので勝負すればいいのよ。
冗談だと思うかもしれないけど、神経衰弱もあるのよ。これだと記憶力の勝負。若い人は得意じゃないのかしら? 念の為に言っておくけど、ゲームは全て、テーブルの上の画面上で、タッチして行うのよ」
女の言葉にばくち場らしからぬ印象を強めて、
「パソコンゲームみたいなものなのか?」
少し首をかしげて聞いてみた。
「そう、昔は、実際の将棋の駒だとか碁石だとかでやっていたんだけど、あれだと結構不正があるのよね。それで、数年前からパソコン画面上でやることになったらしいわ」
およその事は分かったが、どれにするのかユキオにはなかなか決断できなかった。
『想定外のシステムだからな、どれにしたらいいか、ちょっと見当もつかないな。ううむ』
ユキオは思いあぐねてしまったのだった。




