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 112 南端島(2)


                   112 南端島(2)


「ああ、すっかり傷が消えたみたいだわね。ああ、良かったわ。うふん、あは~ん、ぶちゅう」

 キミエは朝起きてすぐに身支度をした。レストランに行く前にユキオの怪我をした箇所を見て、ほぼ治っていたので安心してユキオに甘えながらキスをした。

「ふふふふ、しょうの無い奴だな、ちゅううう」

 ユキオもそれに応えて、何度かキスし合った。しかし、時間が無いのでそれ以上の行為は控えた。本当は情を絡めたかったが、嫌な予感もある。


『あのフェリーのいかれた男女がこのまま俺達を見過ごすはずはないな』

 そう思うとのんびりはしていられなかった。気持ちを切り替えて一階のレストランに向かった。

「お早う、お二人さん、でもちょっと遅いよ。あいつらの事が気になるんだよ。早いとこ食事を済ませましょう」

 タンポポは二人を急かせた。

「ああ、そうだな。じゃあ急ごう」

「そうね、後の事を早く話して下さい」

 三人は早速バイキング式の朝食を取った。しかし小さなホテルだったからか、種類は余りなく、量も少なかった。


「これじゃ全然不足だな。とにかく話を聞こうか」

 ユキオは食事が不満だったが、今後の方針を聞いていなかったのでタンポポに急いで聞いた。

「連絡員が来るんだけど、それは宇宙港のそばのホテルのレストランという事になってる。とても残念だけど、あたしの役目はそこで終わりなんだ。ああ、もっと一緒に居たいんだけど、ダメだよね?」

「かなりヤバくなって来たからね、帰った方が良い。しかし、天国島に帰るとまずいかな?」

「私はビッグシティでしばらく様子を見るように言われているんだ。ああ、それと今度の連絡員は男性らしいよ。その後の事は知らないんだけどね」

「じゃあ、そのレストランに早く行きましょうよ。ここの食事余り美味しくないわね」

「それじゃ、そろそろ行こうか。あいつらが来るとまずいからね」

 三人のホテル代はタンポポが支払った。その料金は本部で出してくれるらしい。すぐタクシーに乗って、宇宙港の近くのホテルへ行った。

 ただ、治安上の理由から、ホテルの玄関には入れなかった。玄関先まで乗り入れられるのは宿泊客に限られている様である。


「うわ、俺達が泊まったホテルと桁違いだな」

 25階建ての豪華なホテルが目の前にあるのだが、歩けば10分以上はかかるだろう。大きなホテルなので近い様でも実際には結構離れているのである。

「ほんと凄いホテルだわね。ここのレストランなの?」

 キミエが聞くと、

「うん、ここのホテルに泊まれたら良かったんだけど、何せ満員でね。ああ、凄い人だ。まだ時間が早いからあれだけど、お昼は混みそうだな」

 タンポポがちょっと不安気に言ったその時だった。


「ワン、ワン、ワン、………」

 激しい犬の鳴声が聞こえて来た。外観からすぐロボット犬だと分かった。

「どけ、どけ、どけ!」

 その後を追いかけて数十人が一目散に走って来るのが見えた。ユキオ達を追って来た、ヤセールグループの連中に間違いない。

 

「ワオンッ!!」

 一匹目がキミエに襲いかかった。

「ギャンッ!!」

 その犬はユキオに蹴り上げられて、数十メートルも飛び上がり、やがて落ちて来て、

「グワシャ!!」

 ペシャンコに潰れた。次に二匹目がタンポポに襲いかかったが、

「ギャウウーーーンッ!!」

 一匹目と同様に数十メートルも飛び上がって落ちて来た。

「グシャッ!!」

 やはり地面に激突して潰れた。更に三匹目がまたもキミエに襲いかかったが、

「ウギャッ!!」

 前の二匹よりさらに高く飛び上がって、

「グワシャンッ!!」

 より酷く潰れてしまった。


「オオオオッ!!」

 犬の後を追いかけて来た数十人はユキオの前で立ち止まり、ロボット犬の無残な姿に息を呑んだ。

「こ、こんなことをして、ただで済むと思うなよ!!」

 一人の男がそう怒鳴った。

「女を襲わせておいて、何を言うか! ただで済まないのはお前達の方だぞ!」

 ユキオは珍しいくらい激怒した。一人一人に指を指して、怒りをぶつけた。キミエやタンポポにロボット犬が襲い掛かったことが許せなかった。


「うううっ!」

 殆どの連中は震え上がった。鬼のように強い男が、激怒しているのだ。彼らはロボット犬の強さを熟知している。それが三体ともあっさりとやられている。

 目の前の男がどれほど強いのかすぐに分かったのだった。しかし、一人だけ、ニヤニヤしながら、前に出て来た者がいた。


「へへへへ、ロボット犬を倒した位でのぼせてるんじゃねえ!」

 そう叫びながら拳銃を取り出した。その瞬間、ユキオのバネが弾けた。

「ガンッ!!」

 すごい音がした。気が付けば男は倒れていた。ユキオは左手で相手の銃を下に向け、ほぼ同時に右手の拳で顎の骨を粉々に打ち砕いていた。

 余りの衝撃に男は完全に失神していたが、男の顎は二度と使い物にはならないだろう。ユキオは男の銃が人混みに向けられたことが許せなかった。

 一瞬でも気を緩めれば、自分だけならいざ知らず、周囲の多くの人を殺傷してしまうのに違いなかった。その様な無謀な行為は断じて許せなかったのだ。


「さて、次は誰だ。来ないのか。来ないんだったらこっちから行くぞ!」

 そう言いながらユキオはわざとゆっくり歩いて、追手達に近寄って行った。  

「う、うわーーーーーっ!」

 近寄った追手の一人が悲鳴を上げて逃げ出した。すると、我も我もと逃げ出して、追手は一人もいなくなった。遠巻きにしたやじ馬達もユキオが寄って行くと一目散に逃げ出した。

 ユキオ達のそばには誰もいなくなった。ただ厄介なのは、パトカーのサイレンが鳴り響いて来たことだった。救急車のサイレンも聞こえる。


「ここはひとまず逃げよう」

 ユキオの提案で、三人は走り出した。走り出した方向にいる人達は逃げ出したが、徐々に事情を知らない人が多くなって、やがて三人は完全に人混みの中に紛れ込んでしまった。

「しかし、どうしてキミエやタンポポ君が襲われたんだろうね」

 目的地のホテルに向かって歩きながらユキオは二人に聞いた。

「うーん、本当のところは分からないけど、においかな?」

 タンポポが頭をひねりながら言った。


「においって?」

 キミエが不思議そうに聞いた。

「ああ、そうか、そういう事か」

 ユキオはやっと訳が分かった気がした。

「ああ、そうか、きっとそうだわ。におい袋よ」

 キミエも真相に気が付いたようである。


「うん、つまり、ユキオさんはにおい袋を毎日変えていたから、ロボット犬には分からなかった。ところが、多分彼等は、ヤセールグループの連中は、私達の乗ったタクシーとか泊まったホテルを突き止めたんでしょう。そこでロボット犬に私達のにおいを覚え込ませた。

 私達が三人連れであることを彼らは知っていたから、当然私のにおいもマークしたのよ。それでロボット犬は私達、つまり私とキミエさんに襲いかかったんだけど、ユキオさんはにおい袋のお蔭でロボット犬にマークされなかった。そうだと思うけど」

 ほぼ完ぺきにタンポポは推理してみせた。 


「それが彼等ロボット犬にとっての命取りになったのね。何せ、ユキオさんの前を通って、私達に襲いかかって来たのですから。一番の敵のすぐそばを通るという無謀な行動したのですからね」

 キミエが相手の決定的なミスを指摘した。その辺りでホテルに入り、時間までホテル内の喫茶店で時間を潰すことにした。

「でも拳銃を出したのは愚かとしか言いようがないわね」

 キミエが顔をしかめて言った。


「ああ、ちょっと気の毒な気もするけど、手加減は出来なかった。彼が本気で撃つ気だと感じたから、その前に倒したんだ。

 もし一瞬でも遅れていたら、俺の後ろに居た人に当たって、一人いや、彼はもし俺が逃げたら、何発も撃って来るだろうから何人もの人が死んでいた可能性がある。

 そんな時でも、威嚇だけのつもりだったと言う人がいるかも知れないけど、そういう人に聞きたい。威嚇だけなのか、本当に撃つのか、どうやって分かるんだろうかってね」

「あれは全くの正当防衛だよ。拳銃だよ、拳銃。正直言ってちびりそうだった。本当に怖かった。殺されても文句は言えないと思うな」

 タンポポは全面的にユキオを支持した。


「しかし、来るかね、また。あいつらは」

 ユキオはかなり困った顔をしている。相手は何しろ大きな組織である。

「それはそうと、私とタンポポさんににおい袋、貰えるかしら」

 ユキオの問いには答えずにキミエは気を利かせた。

「ああ、そうだな。じゃあ、これ」

 ユキオは持っていたにおい袋を二人に渡した。


「ふうん、全然におわないね」

 におい袋のにおいを嗅いだタンポポが期待外れの顔をした。

「そこが凄い所なんだけど、人間には全く分からないらしいけど、犬にははっきり違いが分かるようなんだよ。しかも、このにおい袋は全部違う臭いらしいんだよね」

「はい。そう言われてます」

 今度はタンポポが自信有り気に言った。


「まあ、これでいきなりロボット犬に襲われることはなさそうだけど、今度は警察に追われることになるのかな。ああ、俺の人生は追われるばっかりなのかな」

 ユキオはちょっとウンザリした顔である。それでも、

「しかし、ここのコーヒーはなかなか美味しいじゃないか」

 と、コーヒーを堪能する余裕は見せている。


「少し早いけど最上階のレストランに行きましょうか? その方が確実に入れそうよ」

 キミエは二人を見ながら言った。開店は11時からで、まだ10時半だったが、行列に並んで丁度良く入れると思ったのである。

「よし、行こう。善は急げだ」

 何となくだが、周囲のお客達に見られている気がして、気が気ではなかったのだ。

「うん、行こう!」

「そうね、ここは私が払うわ。じゃあ行きましょう」

 タンポポが立つとキミエも素早く立って、勘定を支払った。ただこの時、キミエとタンポポは初めてユキオの心情が分かった気がした。


『私達もそうだけど、ユキオさんはずっとこんな追われる感じでいたのね』

 キミエは先ほどからユキオさん、と尊敬の念を持って呼んでいる。ロボット犬に襲われた時、ユキオがいなかったら自分は死んでいたかも知れないのだ。命の恩人であるユキオに敬意を表さずにはいられなかった。

「ああ、やっぱり列が出来ている」

「ひゃーっ、これじゃ11時半位までかかりそうだね」

 タンポポが冗談っぽく悲鳴を上げて言った。 


「そうねえ、早く来てよかったわね。でも連絡員の男の人は何時ごろ来るのかしら?」

 キミエは気になって聞いてみた。

「一応12時ごろって言ったんだけど、誰なのか名前は聞いていないんだよ。でもこんなに混んでいたんじゃ、もっと遅くなるかも知れない。ふう、大丈夫かな………」

 タンポポは不安げに言った。

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