111 南端島(1)
111 南端島(1)
「うあっ!」
「ぎゃっ!」
「うぐうっ!」
「ぎゃあっ!」
たった5秒で四人が倒された。四人が固まっていたので短い時間で倒すことが出来たのである。ただし気絶ではない、骨折させられている。人数が多い場合には、気絶などと甘い事を言っていられなかった。
しかもこの連中かなりトレーニングを積んでいて、動きはかなり良いのだ。猛スピードで動き回っていても、一瞬のすきが命取りになりかねない。
「うぎゃあっ!」
「うげえっ!」
「ぎゃーっ!」
「うあっ!」
更に今度は15秒ほどで4人が倒された。少し分散していた分、時間が掛ったが、それでもあっという間である。次にユキオに襲いかかって来たのは素手の体格の良い二人だった。
二人一緒に息の合った攻撃は、フェリーの中の若い男女を思い起こさせる。恐らく同じ拳法を学んでいるのだろう。
若い男女より数段上の力量だったが、ユキオの敵ではない。二人一緒の攻撃は、むしろユキオには都合が良かった。まとめて倒すことが出来るからである。
「ぐぎゃっ!」
「うぐえっ!」
ユキオは至近距離で時速にすれば60キロ以上のスピードで動き回っている。速い様に見えても彼らの動きは時速にすれば40キロ以下である。スピードに差があり過ぎて何も出来なかったのだ。
「ひえっ!」
「ぐえっ!」
「うぐっ!」
「うわっ!」
「うぎゃあっ!」
それから10数秒後に15人目を倒したところで、
「きゃーーーーっ!」
女子一人が一目散に逃げて行った。すると他の連中も一斉に逃げ出した。15人は皆、うめき声をあげて劇痛にのた打ち回っている。逃げた5人は全員女子であった。
男達が逃げなかったのは、やはり女子に見られているからなのだろう。倒れた振りをしている者がいないことを確認して、ユキオはヘリコプターに戻って行った。
途中で、門を通ったが、門番の二人は真っ青な顔で何も出来ずにいた。余りの恐怖心で警察に連絡することさえ出来なかった。
「申し訳ないが警察とかには知らせないで下さい。救急車はヘリのパイロットの人にして貰いますから」
「はははは、はい。言う事を聞きますから、命ばかりは、お助け下さい!」
「ああ、言わなければ、殺しはしない」
「い、言いません。私は何も見ていません」
「それが賢明です」
二人はガタガタ震えながら、何もしないことを確約した。ユキオは早足でヘリに戻った。
「時間に間に合いましたか?」
ヘリコプターのドアを開けてユキオは真っ先にそう聞いた。
「はははは、はい、まだ11時2分です。それにしても本当に強いんですね。驚きました。余りに動きが速くて、目で追って行くのが精一杯。軽量級のボクシングの世界チャンピオンでもあそこまで速くない」
パイロットは恐れと共に半ば呆れ顔で言った。
「ああ、血が出ているよ!」
タンポポがユキオの負傷に気が付いた。体のあちこちから血が少しずつ流れ出ている。
「ああ、大変。すぐ手当をしないと!」
キミエも大声で叫んだ。
「はははは、夢中になっていて気が付かなかったけど、やっぱり20人という人数は手強いですね。偶然なんですが、5、6回ぐらいかすったと思っていたんですよ。でも、思ったよりも傷が深かったですね」
ユキオは平然としていたが、キミエとタンポポは大騒ぎして、
「病院とかは近くに無いんですか!」
「救急車を呼んだ方が良いですよ!」
などと叫んだ。
「じゃあ、今、救急車を呼びましょう。ああ、かなり出血している。これは早く見て貰った方が良い」
パイロットが連絡しようとしたが、
「いや、済みません。俺はキズの回復力も人並み外れて速いですから、これくらいは全然平気ですから。救急車とかは呼ばないで下さい。ただ、ちょっと汚れたので、何か拭くものとか無いですか」
救急車を呼べば、どうしても住所氏名年齢などを聞かれる。結局嘘をつかなければならない。それが嫌だった。気掛かりなのは出血の為に衣服が汚れていることだった。
「いや、しかしその出血では、あれ?」
パイロットは驚いてキョトンとしている。さっきまで流れていた血が完全に止まっているのだ。
「はい、もう出血が止まりました。特異体質なんですよ、かなり深い傷でも、一週間くらいで完治してしまうんです。ましてこのくらいの傷だったら、明日にはもう傷跡も残っていないくらいですから」
「へえーっ、ほ、本当だ。さっきまで血がぽたぽたと滴っていたのに、もう全然流れていない。ええと、それじゃあ、座席の後ろの方にジャケットとズボンがありますから、それに着替えられたらどうですか
。 一応倒れている連中の手当の為に救急車を呼びますが、その後で給油してから帰ります。暗いですから足元にお気を付けて、お帰り下さい」
パイロットの親切で、ユキオは救急隊員用の予備のジャケットとズボンを借り受けることにした。ただパイロットは、
「それは差し上げますから、申し訳ないが今後私の所に来ないで下さい。ヤセールグループを敵に回すと後が怖いもので」
パイロットは暗にもう関わりたくないと仄めかした。ユキオ達もその辺はよく理解出来ている。
「どうもお世話になりました」
「本当に有難うございました」
「じゃあ、このジャケットとズボンありがたく頂戴します。本当に有り難うございます」
パイロットに丁寧に礼を言って、3人は門をくぐり、倒れている連中をちらっと見ながら、途中でタクシーを拾って、タンポポの指示でホテルに向かった。
予想より早く着いたので部屋が空いているかどうか不安だったが、幸い、宿泊予定の部屋は空いていた。かなり街外れの便利の悪い場所だったが、それゆえに部屋が空いていたとも言える。
「随分小さいホテルですね」
ユキオはついそう言ってしまった。確かに今まで泊まったホテルに比べると、格段に小さい4階建てのこじんまりしたホテルである。
「仕方がないんですよ。ここしか空いてなかったんですから。近々大型スペースシップが発射されるから、その見物客とか報道関係者とかがごっそり泊まりに来ているんですからね。
それに今回はラブホテルじゃないですからね。ラブホテルはやっぱりまずいですから、そこ以外となると、まあ、ここしかなかったんです。要するに泊まるだけのビジネスホテルですから」
タンポポが営業マンの様な言い訳をした。そのホテルを予約したのは天下グループの本部の人間なのだが、それを了承した自分にも責任があるような気がしているのだ。
「いや、何処でも泊まれさえすればいいんだけどね。しかし昨日も遅かったけど、今日も結局深夜に宿泊することになったね」
「そうね、でも今日はスイートルームじゃないから、部屋は二つなんでしょう?」
キミエがタンポポに聞いた。
「はい。一部屋だけだったらもっと良いホテルに泊まれたんですけど、相部屋は嫌でしょう?」
「当然ね、でもタンポポさんご苦労様」
珍しくキミエがタンポポに礼を言った。
「はははは、照れるなあ、私は案内しただけなのに」
タンポポは盛んに照れていた。
「それじゃあ、明日は、ここの一階のレストランで落ち合って、まあ、朝食の時ですけど、今後の事をお話しします。今日の事とかは本部に連絡しておきますから。じゃあ、お休みなさい」
「ああ、お休み」
「お休みなさいね」
三人はそこで二つの部屋に分かれた。タンポポは3階の部屋。ユキオとキミエは4階の部屋である。
「ふう、今日はちょっと疲れたから風呂に入ってすぐ休むことにするよ」
「そうね、私もなんだか疲れたわ。お風呂に先に入って下さい。狭そうな風呂だから、二人一緒に入るのは無理みたいだわ」
確かにビジネスホテルの風呂は狭く、一人で目一杯である。
『これだったらラブホテルの方がまだ良かったかな?』
ユキオはそう感じたが、その辺はキミエも同じだった。
「これから泊まるホテルはいつもラブホテルの方が良いわね。エッチがどうのと言う以前に、こんなお風呂じゃねえ。それにベッドも狭いし」
「ああ、全くだ。前に、一般の旅行者がラブホテルに一人で泊まるって話を聞いたことがあるけど、何となく分かるな、この狭まっ苦しい部屋を見るとね」
「そうね、ふふふふ、その時までエッチはお預けね」
「まあね」
その後、別々に入浴してから、別々に眠った。しかし、ユキオもキミエもそしてタンポポも知らなかったのだが、ヤセールグループでは大騒ぎになっていたのだ。
「たった、一人の男にやられただって! 20人が掛って行って、女子五人は逃げて無事だったが後の男15人は全員大怪我だって!
あいつは一体何者なんだ! こうなったら、ヤセールグループ南方本部が総力を挙げて探し出して血祭りにあげてやる!!」
翌朝、フェリーで港に着いたグループのリーダー格であるユキオに恥をかかされた若い男、ピュリーが彼らを出迎えた南方本部の連中の前で怒鳴っていた。
ヤセールグループ南方本部には、数万人の従業員がいる。様々な仕事をしているが、その中にはスパイもどきの活動をしている連中もいた。かなり過激な行動をしている連中も大勢いるのである。
「今回の失敗は、ロボット犬を使わなかったからだ。俺が手こずったほどの男だ、人間だけではだめだとあれほど言っておいたのに!
たった今から、ロボット犬を大いに使って、あいつを徹底的に探すぞ。いいか、今日中に探し出せ! あいつらはタクシーを使ったらしいからな。タクシー会社をまず徹底的に調べろ!」
ピュリーは次々と指示を出していった。




