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 110 フェリー(2) 

                110 フェリー(2)


「どうしようか迷ったけど、この際、ヘリで逃げようか?」

 一旦部屋に戻ったユキオはキミエに相談してみた。

「そうねえ、フェリーの中でけが人が沢山出ると困るわね、私達も逃げようがないし」

 珍しくユキオは慎重だった。キミエは夫婦同然だからまだしも、タンポポにまで迷惑は掛けられないと感じている。

「よし、そうしよう。タンポポと一緒に船長にお願いしてみよう」

 結局、三人でブリッジに向かった。


「あのう、お願いがあるのですが」

「どうしましたか」

 船長は中央の船長シートに腰を掛けて状況を見守っていた。殆どが自動操縦なので、異変が無いかどうかを見張るのが船長の主な仕事だが、トラブルの解決もまた仕事の一つである。

「実は、スポーツジムで若い男女とトラぶってしまいまして、何でも、ヤセールグループの幹部のお嬢さんだとか。それでそのう………」

「ああ、またでしたか」

 船長には直ぐピンと来たようである。もう何度も経験しているらしい。


「はい。それで、近くにいた人から船長さんにお願いしてヘリコプターで逃げた方が良いと、聞いたものですから、こうしてお願いに上がったのですが」

「成程。で、ヘリでどちらまで行かれますか? 引き返しますか、それとも、南端島に行きますか?」

「出来れば、南端島に行きたいのですが」

「そうですか。しかし、私は引き返すことをお勧めします。そのお嬢さんはまあ、どっちへ向かったか、必ず聞きに来ますからね。

 私は、嘘は言えません。立場上ね。私も一応はヤセールグループの一員なので、私の上司のお嬢さんに嘘は言えない立場にありますから」

 船長は自分の立場を強調した。


「あのう、南端島に行くことが都合が悪いのですか」

 キミエは船長の言葉に疑問を感じて言った。

「はい、それが重要なんです。引き返せば彼らは、つまりヤセールグループの幹部のお嬢さんは満足されます。何しろ引き返すのですから。それは彼らに対する謝罪を意味します。

 しかし、南端島に行ったとなると、自分達より先に行くことになります。プライドを傷つけられたと感じるようです。

 以前に同じ様にして、先に行った人がありました。勿論遅れて行く訳にはいかない事情があったからですが、その男性は今、行方不明になっています。

 悪いことは言いません、引き返された方が身の安全の為には宜しいですよ。それでもどうしても行きますか、どうします?」

 船長は決断を迫った。


「はい、勿論、南端島に行きます。そういう事情があるのでしたら尚更です。こちらも島に行けば仲間が大勢いますから、幾らヤセールグループさんでもおいそれと手出しは出来ませんよ。

 そういう事ですから、南端島行きのヘリコプターの手配の件、何とかお願いします。こっちも遅れて行く訳にはいかないのですよ、事情がありましてね」

「ふうん、分かりました。それじゃ、南端島へ行くという事で良いんですね、そちらのお嬢さん方も宜しいんですか、この方がそうおっしゃっておりますが」

「はい、私は構いません。私はどこまでもこの人に付いて行きます」

 キミエは即座に答えた。


「えへへへ、私はどうしてもお二人と同行する様にと、言われておりますから。まあ、それがあたしの仕事ですからね、キャンセルしたら、違約金を支払わなくちゃなりませんからね。

 船長さん大丈夫ですよ。この男の人はめちゃくちゃ強いですから。紅サソリ団だって、この人が、いや、何でもありません」

 タンポポは紅サソリ団のことを言い掛けてはっとして止めた。それは勿論絶対の秘密である。


「紅サソリがどうかしたんですか?」

 船長は何の事か分からずぽかんとしていた。恐らくニュースをあまり見ていないのだろう。そもそもスーパー高速道路の事など関心は無いのかも知れない。しょっちゅう船に乗っている彼にとっては。

「ああ、その、済みませんがなるべく早くヘリの方お願いします」

 ちょっと慌ててユキオはヘリを催促した。紅サソリ団の事をごまかす意味もある。


「はい、じゃあ、早速、そうそう、あなた方は荷物をまとめて、ここで待機していて下さい。それじゃ、今連絡しますから………」

 船長はそう言うと、すぐにサウスウエストシティにある、フェリー会社の救急隊に連絡を入れた。緊急の為に常にヘリは発信出来るようにしてあるのだ。

 今回の様な場合は緊急を要する患者が3人出たという知らせが入り、救急ヘリがやって来ることになっている。高速ジェットヘリはわずか10分でやって来た。

 

「さあ、急いで乗って下さい。それじゃ、出発しますよ」

 3人を乗せるとヘリはすぐ出発したが、一足違いで、ユキオとトラブルになった若い男女とその仲間がヘリの発着所にやって来た。

 ユキオの力を恐れて、フェリーのあちこちに分散している自分達の仲間を集めるのに時間が掛ってしまったのである。


「くそ、一足違いだったか。まあ、俺達に恐れをなして、引き返したんだったら、しゃあない。ざまを見ろだ。あいつらは観光旅行という感じじゃなかったから、恐らく仕事に行くんだろう。

 一日遅れたら、ひょっとすると首になるかも知れないぜ、いや、きっと首だな。あはははは、いい気味だぜ全く。はははは」

「あはははは」

 若い男女とその仲間達は大笑いしたのだったが、その仲間の一人が船長に行先を聞いて、笑顔が激怒に変わった。


「な、何だとお! 南端島に行っただとお! なめやがって今に見ておれ! おい、携帯で島の仲間に連絡を取ってくれ。

 あいつらを島に着いたら、捕まえておいてくれってな。今回は今までとは違う。あいつもあいつの女も無事じゃ済ませねえぞ! 二人とも生きたままサメのエサにしてやる!」

 若い男は姫と呼んでいた彼女の前で赤っ恥をかかされた恨みが収まっていなかった。

 

「いや、さすがにヘリは速いですね。もう間もなく南端島に着きますね。1000キロくらいあるのに、3時間かからないんですね」

 ユキオは最新鋭の高速ジェットヘリのスピードに舌を巻いた。

「でも大丈夫かな、話を聞いていると、何だかこのまますんなり南端島で降りられるかどうか」

 タンポポは嫌な予感がしていた。


「ヘリポートまでは大丈夫ですよ。問題なのはその後です。ヤセールの幹部のお嬢さん方とどんなトラブルがあったんですか」

 パイロットはちょっと心配そうに言った。


「はい、まあ結局、彼と彼女の頭をゴツンとぶつけたんですよ、あれはかなり痛かったでしょうよ」

 ユキオはごく簡単に言った。

「ううむ、それはまずいですね。それを他の人に見られたんですね?」

「はい、まあ、言いがかりをつけて来たのは彼らの方だったのですが」

 キミエは自分達の正当性を言ったつもりだった。


「あいつらには正しい理屈何て通りません。自分達が恥をかいたかどうかそれだけなんです。今の話だと、多分今までで一番恥をかかされたと思っているでしょう。

 いっそのこと引き返しましょうか。その方が無難ですよ。観光ではなさそうですが一日も遅れられないんですか。不慮の事故という事で許しては貰えないんですかね」

 パイロットは気を使って言ったのだが、

「いや、何としてでも今行かなければだめなんですよ。それに島に行けば、私共の仲間が大勢いますからね。幾らなんでも、彼らを蹴散らす事は出来ないでしょう」

 ユキオは嘘をついた。どうしても彼らに屈したくなかったのだ。


「所がねえ、相手は人間ばかりじゃありませんよ。3頭だけですがロボット犬も持っているんですよ、彼らはね。島にヤセールの支部があって、そこで常時待機しているらしいんですよ。

 それでも行きますか。人間をかみ殺すことも有り得るって、もっぱらの噂なんですが。もう一度言いますが引き返さなくて大丈夫なんですか」

「はははは、心配性な人ですね。大丈夫ですよ。私共の研究所にも実はロボット犬並みのパワーを持つガードロボットがおりますから」

「ええっ、そうなんですか。それはどうもお見それしました。まあそれだったら何も言いますまい」

 パイロットはようやく納得した。引き返すことを考えて少し減速していたのだが再び猛スピードで南端島を目指した。それから30分もせずに南端島に到着した。午後11時少し前だった。


「あれ、お迎えが来ていますよ、あれは多分ヤセールグループの人達だ。あのう、おたくさん方のお仲間の方々は何処におられますか?」

 ヘリは地上に到着したのだが、パイロットはまだ回転翼を止めていない。いつでも飛び立てる状態にしてあるのだ。


「はははは、嘘をついて申し訳ない。信じられないかも知れませんが俺は相当に強いです。念の為に、この人達をここに置いて行きます。

 万一私がやられたら、この人達を安全な場所に連れて行って下さい。ええと、間もなく11時ですね。11時五分まで待ってくれますか。

 それまでに迎えに来ますから。もし一秒でも遅れたら遠慮なく飛び立って下さい。まあ、見ていて下さい。まごまごしているとこっちに来てしまいそうですから。お二人ともそれで良いよね」

「はい!」

「はい!」

 キミエもタンポポもユキオを信じた。


「それじゃ!」

 ユキオはヘリを降りて歩いて行った。周囲はぐるりと金網が張ってあって、途中にヘリポートへの門があり、そこは見張りが立っていて、原則として外からは入れない。

 本来なら門の外に救急車が待っているのだが、その必要が無いという事で今は来ていない。ただその近辺に、20人ほどの人影があり、手に手に何らかの得物を持っていた。


 ユキオは歩きながら、何を持っているのか観察していた。

『スタンガンを持っているものが二人、この二人は女子だな。大きな金網を二人で持っている。ふうむ、金網を被せてスタンガンで気絶させるっていう手もあるな。

 それと金属バットが3本。鉄パイプが2本。ほほう、体格のいいのが二人。こいつらは素手だな。それと、何とサスマタが2本あるぞ。

 ほお、これは洒落ている、ブーメランを持っている者が三人もいるぞ、この3人も女子か。あと、木刀を持っているものが4人。やれやれ、ここまで来るとまるでマンガだな。

 しかし何を持って来ようと、超速には勝てない。へえ、ロボット犬はいないぞ。まあ、これだけ人がいるんだったらロボット犬の登場は普通はないだろう』

 ロボット犬がいないことにむしろがっかりしたが、

『先ず一応は話し合ってみよう。ファイトはその後だ。しかしいきなりやって来るかも知れんがな』

 用心しつつ、彼らと対峙した。


「あんたは天涯ユキオだな」

 相手は自分の名前を知っていた。これは乗船名簿を調べれば見当が付く。ユキオは大勢の中のリーダーらしい男に返事をする。

「そうですが、それがどうかしましたか」

「私達と一緒に来て貰おうか。嫌とは言わせない。それと、もう一人深里キミエという女性もいるはずだが。まだヘリコプターから降りて来ていないようだが、逃がそうたってそうはいかないですよ」

「俺はあんた達に用はない。さっさとお帰り下さい。そうしないと怪我をしますよ。さあ、解散しなさい。これが最後通告です」

「抵抗するんだな」

「当然です」

「よし、やれっ!」

 リーダーらしい男の命令で、20人が一斉に行動を起こした。しかし、彼等にはユキオの姿が今どこにあるのか分からなかった。

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