11 逃亡(3)
11 逃亡(3)
ユキオはまず前とは別の大型スーパーに入り、デザインや色の違う上下の服と帽子、サングラス、下着類、靴、更には小形のハサミなどを買い求めた。
それからラブホテルに入って、着替えた。前に着ていたものは、ハサミで切り刻んで、いくつかの袋に小分けにしておいた。
『とにかく頻繁に服装を変えないと。それとゴミは電車に乗ってあちこちに分散して捨てよう。そうすれば警察犬ロボをかく乱出来る。
とにかくここは少し落ち着いてから次の行動に移ろう。それにしても、結局俺は、殆どの日本人を全部敵に回したことになるんだな。ああ、一体どうしたらいいんだろう……』
金を稼ぐ方法は思いついたのだが、仲間が一人もいないというのは恐ろしく辛い状況である。
『うぐうううっ……』
落ち込んでしばらくは身動きが出来なかった。しかしやがて、空腹感から踏ん切りがついた。育ちざかりの旺盛な食欲は落ち込んだ気持ちを吹き飛ばすほどのエネルギーがあったのだ。
『何はともあれ、腹ごしらえをしておこうか。いや、先ずは入浴からだ。しかし、もしここに踏み込まれたら?』
最悪の場面を想像して、一瞬どきりとしたのだが、
『まあ、その時はその時。今、慌ててもどうにもなるまい』
と、開き直って入浴し、食事のデリバリーを注文した。注文はパソコンで出来るし、デリバリーボックスというのがあって、配達員と直接顔を合わせずに食事を受け取ることが出来るようになっている。
「お待たせしました。ステーキ定食セット、4000イエンになります」
配達員の声が聞こえたので、料金投入口にお金を投入する。
「10000イエンで御座いますね。おつり6000イエンのお返しになります……」
つり銭の受取口に6000イエンが出て来る。お金の授受が成立すると、
「ガチャッ」
鍵の開く音がして、扉を開けて食事を取り出せるのだ。食事が終わったら、容器などは返却ボックスに入れておけば良いことになっている。
『へえーっ、これは美味いや!』
随分歩き回っていて、お腹はペコペコだった。ボリュームのある食事に満足して、しばらく忘れていた歯ミガキをしてから眠った。深夜に目が覚めた。
『ふう、随分眠ったな。さて、テレビのニュースを見ておこう』
ここに来て初めて落ち着いた気分でニュースを見ることが出来た。
「スーパー新幹線に乗った容疑者がビッグシティに潜入した模様ですが、その後の足取りは依然として不明です。容疑者の服装はいまだに特定されておらず、捜査は難航が予想されます。
現在、防犯カメラを徹底的に調べておりますが量が膨大な為、いまだに立ち回り先を絞り込めていない模様です。……」
ニュースの内容をから、捜査が行き詰り気味のようで、少しは安心したのだが、
『ビッグシティに俺が来たことだけは分かったんだな。……だけど、女子高生を連続して殺したって、どういうことだったんだろう。詳しいことはよく分からんぞ』
ユキオはネットで検索してみることにした。年末年始にかけて大騒ぎになった事件だったが、学校の勉強の事で頭がいっぱいで、詳細は知らなかったのだ。
「えっ! な、なんだこりゃ!」
小声で口走ってしまった。
「津下原妖鬼先生有難う。社会のゴミは消せば良い。私は妖鬼先生を絶対に支持します!!!」
数多くの非難に交じって、擁護する連中の数も半端ではなかった。しかも何故なのかよく分からないのだが、陽気を妖鬼と書いている。その他にも、
「私は知っている。消された二人の女子高生はどうしようもない悪だった。私もあいつらにいじめられていた一人だった。
もう自殺しようと思っていた時に、妖鬼様が天誅を加えて下さったのだ。言わば妖鬼様は私の命の恩人。妖鬼様、本当に本当にありがとう!!!」
そんな調子の見出しが数多く載っているのだ。
『まてよ、これって本当なのか? もし本当だったら極悪非道とまでは言えないことになるぞ。う~ん、真相はどうなんだろうな』
極悪非道と決めつけていた男が、必ずしもそうではない可能性があることに気が付いた。しかしテレビのワイドショーでは殺された二人の女子高生の素性は明かされていなかったように思われる。
勿論それは、二人が未成年者であったからなのだが、殺された者達の名誉を考えれば、例え二人がかなりの悪だったとしても、普通は殆ど報道されない筈である。
『しかし、ここに書かれていることが本当だとすれば、仲間の一人や二人は見つかるかもしれんぞ。……ふうむ、それはそれとしてここにも長居は無用だな』
ネットの書き込みに元気を貰った気分でラブホテルを後にした。
ゴミの一部はホテルに捨てて来たが、残りのゴミは二十四時間営業のスーパーなどのダストボックスに分散して投げ捨て、目的地へ向かった。
今度ははっきりと目的地が定まっている。その目的地とは、不夜城などとも言われる、ビッグシティ・カジノだった。短期間でお金を稼ぐには確かにそこしかない様に思われるのだ。そこは身分証などいらない場所でもある。
『ポーカーなら、ポーカーなら絶対に勝てる。相手の手の内が分からないから、色々な駆け引きがある。だけど相手の手のうちが見えるのなら、多分俺には見えると思うが、俺だけが分かるんだったら、百戦百勝だ!』
ユキオは自分の手に入れた特殊な能力に感謝しつつ、ビッグシティのほぼ中央にある、カジノを目指した。




