108 故郷(5)
108 故郷(5)
「やあ、タンポポ君、キミエ、無事、彼とは話し合えたからね」
「やあ、じゃないですよ。本当に大丈夫だったんですか? 危険な事は無かったんでしょうね!」
タンポポはかなり怒って言った。引き返してから15分後くらいにユキオは心配して後を追って来た二人に出合ったのである。
「はははは、勿論さ。周囲にヤセールグループと天下グループの気配はあったけど、短い時間に話し合ってすぐ終わったから、それに少し離れていたからね。多分誰にも気づかれなかったと思うよ」
「成果はありましたか?」
キミエは安堵しながら聞いた。
「うん、大いにあった。詳しい事はホテルに帰ってから話すことにしよう」
「でも変ですねえ、学校の校門の所まで行ったんでしょう。そこへは15分くらい掛るんですよね」
「ああ、そうなるね」
「随分足が速いんですね。でも一瞬で話が終われば理屈的には合いますけど」
「そう、お互いに利害が一致したと言うか、性格も似ている気がするんだよね、見かけは全く違うんだけどね。とにかくホテルで話すから」
その後、タクシーを拾ってホテルに戻った。
「余り他の人に聞かれたくない話だから、夕食は部屋で食べないか?」
ユキオの提案で夕食は入浴後、部屋でとることにした。配達して貰うのではなく、あれやこれやをホテル近辺の店で買い求めて持ち帰ることにした。
「じゃあ、私とタンポポさんと二人で買ってきますから、その間留守をお願いね」
「ああ、俺は長風呂だからね。ちょっと鍛錬するから。帰って来たら、声を掛けてくれ」
「はい」
キミエがタンポポと一緒に買い物をするのは、今回の事でタンポポに辛い思いをさせた罪滅ぼしである。もっともその間にユキオは鍛錬しておくという一石二鳥の考え方だった。
「ただ今。私もお風呂に入りますからね、別の方の。時間を見て上って下さい」
帰宅したキミエが入浴中のユキオに話し掛けた。
「ああ、分かった。あと20分くらいで上がるよ」
「了解! ああ、あの、タンポポちゃんも今、風呂に入っていますからね。変なことはしないでね」
「はははは、何もしませんから、安心して下さい」
「分かったわ」
キミエは言わなくてもいいことを言ったと思ったが、
『どうしても一言、言っておかなくては!』
釘を刺しておく意味があった。その後30分後くらいには、全員が居間に揃った。テーブルの上にはフライドチキンやローストビーフ、かなり豪華な折詰の寿司、ワインが一本に、チーズ数種、サラダ数種、その他にハムやソーセージの類が多数あった。
ユキオが飲むのは、今夜はアイスコーヒーだった。ただ無糖のブラックである。ユキオは妖鬼の体になってから徐々にブラックコーヒーを好むようなって来ていた。この嗜好の違いは何かの薬物の影響なのかどうかまでは定かでない。
「カンパーイ!」
「乾杯!」
ユキオは元気に乾杯をし、キミエが後に続いた。
「かんぱい、私はまだ怒ってるんですからね。もう、こういう時はお詫びのキスくらいあってもいいと思うんですけど」
冗談を言いながらもタンポポは依然として怒っていた。
「まあ、本当にタンポポ君には悪い事をしたと思うけど、どうしても、本当の妖鬼君と話がしたかったし、でも、大丈夫な自信もあったんだよ」
「だけど、さっき電話したら、天下グループの見解だと、ユキオさんは元の妖鬼さんと接触は無かったと言っていました。
チラッと見合ったことは見合ったけど、そのあと数分離れたまま歩いて行って、結局、何もせずに別れてしまったって。
一切接触は無かったって言ってましたけど。本当はただ姿を見てああ、こんな感じなのかって思っただけだったんじゃないんですか?」
タンポポは鋭く突っ込んで来た。
「はははは、まあ、第三者には分からなくても、俺達が分かり合えたんだからそれで良いじゃないか」
「でも変です。どうやって接触無しに分かり合えるんですか。携帯はユキオさんは持ってないですよね。仮に持っていたとしても、二人とも使った形跡が無いって言っていました。絶対変ですよ」
タンポポは尚も突っ込む。見かねてキミエがフォローする。
「もうその辺で堪忍して下さいな。本当に悪かったって思ってるんですからね、私もユキオも」
「………、わ、分かりました。でも注文が一つありますよ。明日、ホテルを出たら、即南端島へ行きますからね。フェリーの時間から逆算して、まあ、朝食は9時頃ホテルでとります。
それから、午前10時のスーパー新幹線に乗れば余裕で間に合いますからね。夕方7時のフェリーに乗れば次の日の朝7時に島に着きますから。それで良いですよね?」
「了解した。それじゃ明日の起床は8時くらいか?」
「いいえ、6時にして下さい。ユキオさんはメークの必要がありますから。私達も美容室で少しはおしゃれしないと。もう予約してありますからね、ホテルの美容室の。そこは早朝から開いていますから。
何たって、スーパー新幹線に乗るし、フェリーにも乗るし、南端島は全国から人が集まっているんですからね。天下グループの代表としてはボロい恰好じゃいられませんから」
「まあ、大袈裟なのね、天下グループの代表だなんて。でも分かりました。じゃあ、タンポポ先生の言う通りに致しましょう。
ああ、それにしてもフライドチキンは美味しいし、久しぶりの赤ワインも美味しいわ。タンポポさんもどうぞお飲み下さいな、あはははは」
キミエは少し酔いが回って来ている。ワインを飲むことをユキオが許したのは一本のワインをタンポポと二人で飲むことにしたからである。
丸々一本では危険だが半本なら大丈夫とユキオは思っている。勿論タンポポにも多く飲むように勧めていた。その辺はタンポポも多少は事情を聞いて知っていたので心得たもので、常にキミエと同量を飲むようにしていた。
「ところで、どうでしたか、久しぶりのご自分の姿は。やっぱりハンサムでしたか」
元のユキオの事はキミエにとってはタブーだったはずだが、酔いがかなり回って来ているからか、冗談めかしながら平気で聞いた。
「顔の造りは当然同じだけど、少し化粧していたからか随分凛々しく見えたよ。女子にモテモテで何人も後をついて歩いていた。
あの時は何とも思わなかったけど、背もかなり伸びたな。俺は背が高くなかったけど、と言うより標準よりかなり低かったけど、標準並みになっていた。
それに逞しくなってた。元の俺とは雲泥の差だったよ。俺は自慢じゃないけど、モテたことなんて殆ど無かったからね。とにかく元気そうで良かったよ」
タンポポに気付かれてはまずいと思って、二人の間の話の内容には一切触れなかった。タンポポはその事を敢えて聞かなかった。
ユキオは話したくないらしいと悟ったのだろう。その後は他愛のない雑談に花が咲き、数時間があっという間に過ぎて行った。
「さて今日はまだ少し早いけど、明日早いからね、そろそろお開きにするよ」
午後9時になると、ユキオがお開きを宣言した。女子二人も同調した。何と言っても、もう殆ど食い物が残っていなかったからである。勿論ワインは一滴も残っていない。
「さあ、それでは南端島にゴーッ!」
翌朝、美容室に行くことなど全てのイベントをクリアして、三人はスーパー新幹線に乗り込んだ。今度は比較的値段の安い、3列シートだった。
南端島に行く為には、サウスウエスト島のサウスウエストシティに行ってから、フェリーに乗ることになる。島には大きな橋が掛っていて、スーパー新幹線からの眺めは絶景と評判だった。
「でもあれね、ちょっと狭いわね」
キミエが不満を言った。
「もう、贅沢だなあ。一般庶民はいつもこうなんだぜ」
男っぽい口調でタンポポは言った。
「はははは、まあ、ボックス席に比べたらそりゃ狭いよ」
「はあ、仕方ないわね。安月給じゃね」
「はははは、まあ、俺はサウスウエストシティに行くのが夢だったから、嬉しくて仕方ないよ。おまけに南端島まで行けるんだからね」
ユキオは元の妖鬼と接触出来て、家族の事を頼めた事がとても嬉しくかった。ずっと長い間、気に掛っていたことだったのである。
「ほおーっ、これが噂のサウスウエスト大橋か。全長55キロだっけ?」
「うん、正確に言えば55.37キロ。海に架かる橋としては世界のトップスラスの長さを誇っているんだ」
タンポポは何でも扱う便利屋らしく雑学を披露した。橋の遥か彼方に島が見える。その島のほぼ全域にわたって超高層ビルの林立する大きな都市が見えた。
港が見え、海の青さに純白の大型フェリーの姿もくっきりと良く映えて、まさに絶景だった。多くの乗客が列車の窓から盛んに写真を撮っていた。




