103 天国、99(4)
103 天国、99(4)
「『紅サソリ団全滅か?』スーパー高速道路を拠点にして、数々の犯罪行為を繰り返して来た紅サソリ団の主要メンバーが、緊急避難用の駐車場でほぼ全員が重傷を負った状態で発見されました。
団員達は異口同音に内部抗争の果ての喧嘩でこうなったと主張しておりますが、警察は何者かによって襲撃されたと推測して犯人の行方を捜索しています。
ただ、犯人につながる証拠は乏しく、捜査は難航が予想されます。なお、今回の事件に関しては、犯人に対して英雄視するネット上の書き込みが相次ぎ、大変な話題となっております。
しかし、英雄視は疑問とする専門家の意見が大勢を占めております。一部の専門家は彼を、まだ性別が判明している訳ではありませんが、恐らく男性と思われます彼を、真の英雄と呼ぶ者もあるようです。次に、………」
紅サソリ団関連のニュースがトップニュースとして流されていた。
『ふうむ、犯人像は分かっていないのか。サソリ団の連中は俺の言いつけを守って、証言していないらしいな、先ずは良かった。後は大したニュースがないか。いいや、待てよこれは南端島のニュースだな』
ユキオの次の目的地、南端島のニュースが流れていた。
「いよいよ火星開拓が本格化して来ました。22世紀初頭から火星開拓は急ピッチで行われるようになって参りましたが、火星の人口はついに30万人を突破した模様です。
既に、火星には幾つかの都市が作られており、今後、人口が急増することも予想されております。日本からも既に多くの火星移住者がおります。
その火星へ向けての日本の表玄関、南端島からの中継がつながっています。横船さん、現在の状況をお知らせ下さい」
「はい、こちらは南端島スペースポートです。日本初となる大型スペースシップの発射に向けての準備が着々と整いつつあります。
出発は来月、11月上旬の予定ですが、これが成功いたしますと週に2度のペースで宇宙基地と地球を往復することになります。
シャトル便には一度に最大200人が乗り込むことになっています。更に他のスペースポートからの旅行者も加えますと毎年日本からだけでも5万人ほどの火星旅行者が出現することになります。
これが全世界という基準で考えれば、毎年50万人を超える人達が火星を訪れることになり、そのうちの3割くらいは移住すると予想されております。
単純計算ですが、もし予想通りということになれば、火星の人口は年々15万人ずつ増えることになり、5年以内に100万人の大台を超えることになるでしょう」
「心配なのはお天気だと思うのですが、その点はどうでしょうか」
「はい、現在の一か月予報では全く問題はないとの予想です。ですから予定通り出発出来ると思いますよ」
「ああ、そうですか、どうも有り難う御座いました」
「いいえ、どういたしまして。それでは南端島スペースポートからの中継を終わります」
ユキオは妙な気分になった。
『火星行き? はははは、まさかね』
宇宙時代と言われて久しいが本格的な宇宙時代は21世紀中旬から始まった。怒涛の月開拓が始まったと言っても良いだろう。
月への新婚旅行はもとより、シルバー世代の人達も月に行く時代になった。そして今は火星である。月に比べると遥かに住みやすい星である。
勿論、地球と同じようにはならないが、今や火星の地下には、10以上の都市が建設されていて、都市同士の交流も盛んにおこなわれている。火星全体を見ると殆ど一つの国家になりつつある。
ただ、厄介なことは、地球の犯罪者が数多く侵入しているらしいという情報があることだった。この時まだユキオは知らなかったが、火星を実効支配しているのは実は天下グループだった。
地球上で果たせなかった勢力拡大を火星で必死にやって来ていたのだ。ヤセールグループも躍起となって、火星の支配率を高めようとしているのだが功を奏してはいなかった。
『俺がこの時期に南端島へ行くということは、今のニュースから考えると火星行きしか考えられないな。しかし何故だ?
ちょっと聞いたことがあるのは、地球上の犯罪者が沢山火星に逃れているということだ。俺もその犯罪者の一人という事なのか?』
その辺まで考えているうちにそのまま寝てしまった。見る者がいなくなってテレビは自動で消えた。
「コンコン、コンコン」
ドアがノックされている。
「ああ、ドアのノックなんて久しぶりに聞くな。ああ、今行きます。ふう、まだ朝の6時か、随分早いな」
まだ眠い状態だったが何とか起きてドアを開けた。
「お早うございます」
キャロンが他の二人と共にドアの前に立っていた。
「お早う」
「あの、お早うございます」
キミエは分かったが、もう一人は誰だか分らなかった。
「お早うございます、ええと、君は誰だっけ」
「あの、ジュノンです。化粧が半分取れた状態ですし、髪形を変えましたから」
ジュノンは仕方なさそうに言った。今朝は顔さえ洗えなかったのだ。キミエが強硬に反対していた。せめて髪型だけでもと頼み込んでやっと許しを得ていた。
腕力ならジュノンの方があるのだろうが、彼女は決して力ずくでやりたいことをやろう等とはしなかった。今は何としてでも天下グループに入る、その為に必死でこらえていたのである。
「うーん、その恰好はちょっとまずいね。キミエさん、せめて顔の化粧だけでも落とすことを認めたら」
思い余ってユキオは言った。
「で、でも………」
ユキオに言われるとキミエの頑なな心も揺らぐ。
「あ、あの、私はこれでいいですから。もう間もなくヘリコプターが迎えに来るそうですから」
ジュノンはキミエに恥をかかせまいとした。
「そうね、もう5分くらいで来るはずよ。そろそろ屋上に行かないと」
キャロンはキミエとジュノンの心情を察して言った。
「ああ、分かった。じゃあ行こうか」
四人は屋上に出た。天国、99のラブホテルが選ばれたのは、屋上にヘリポートがあるからだった。勿論ヘリポートのある普通のホテルもあるのだが、それらのホテルは生憎と満室だったのだ。
「バタバタバタ………」
何分も待たないうちにヘリコプターがやって来た。
「いよ、妖鬼、じゃなかった、ええと今は天涯ユキオ君だったな。久しぶりだねえ」
ヘリコプターから降りて来たのはハヅキだった。
「ああ、ハヅキさん、お久しぶりかな?」
「はははは、相変わらず細かいねえ、2、3日会わなかったらお久しぶりだろう?」
「ま、まあそうですね」
ユキオはハヅキの習性を思い出した。
『この人はいつもお久しぶりな人だったな、ふふふふ』
何だか愉快な気分だった。
「今日は、美人が二人か。それじゃ早速乗ってくれ。シートベルトはちゃんと締めてくれよ」
ハヅキに促されて、キャロンとジュノンは素早くヘリコプターに乗った。
「じゃあ、また近いうちに会いましょう、グッドラック!」
陽気にハヅキはヘリコプターに乗り込むと、あっという間に彼方に過ぎ去った。ヘリコプターの中から、キャロンとジュノンの手を振るのが見えたがそれも直ぐに見えなくなった。
「行っちゃったね」
「はい。それであの、まだ朝も早いですし、朝食の前にお風呂に入りませんか」
キミエはユキオとの情交を望んだ。ジュノンが現れて以来、不安で仕方がないのだ。
『しっかりと身も心も結ばれていないと、あの女に取られてしまう』
その思いから抜け出せなかった。確証はどこにもないのだが、鋭い女の感がそう思わせているらしい。
「ああ、そうだね。じゃあ、そうしようか。そ、その前に、ちゅううううっ」
ユキオの方からキスを求めて濃厚なキスをした。唇を一度離したが再び三度と口づけを交わし続けた。延々と30分くらいもキスし続けたのである。
更にその後、ラブホテルのユキオの部屋666号室で2時間ほども情を交わし続けた。朝食は冷蔵庫の中にあるもので簡単に済ませた。
午前9時半頃ホテルを出て、目的地である解体業者の工場まで二人一緒に車で出掛けた。キミエが一人で行くはずだったのだが、
「わざわざ一人で行くことも無いな。一緒に行こう」
ユキオの一言でキミエは誰にも言わずに決めてしまった。本来なら一言キャロンに伝えるべきだったのだが、相手はヘリコプターの中。
「事後報告でも差し障りはないわね」
「ああ、別に構わないさ」
ユキオもあっさり同意した。解体業者の工場までは結構遠い。街中では何かと目立つので辺ぴな街外れの工場を選んだのである。
「昨日は緊張していたから余り感じなかったけど、この車、結構臭いね」
「そうね。車自体は立派だし、改造してエンジンも強力なのを付けてあるけど、たばこの臭いと、香水の匂いとその他に何かしらこの鼻につんと来る臭いは」
相当の緊張感のあった昨夜とは比べ物にならないほど悪臭が漂っていることに気が付いた。
「多分、この鼻につんと来るのはおしっこのにおいだろうね。ちょっと気の毒だったな、多分誰かが失禁したんだろうね。
女の子のうちの一人がね、いや、もっと他にもいたかも知れない。昨日は夜で暗かったし、みんな物凄く緊張していたからね。うーん、気が付かなかったな。
でも、その方が本人の為にも良かったと思うよ。誰なのか特定出来なかったからね。もし俺とかに知られたら、恥ずかしくて精神的に参ってしまっていたかも知れない」
「それじゃあ、窓を開けるわね。もう我慢の限界よ」
キミエは自動になっている装置にスイッチを入れて窓を全開にした。外から良い風が入って来る。臭いはかなり軽減された。
「さて、解体工場はあそこだな」
場所は山の麓である。近くに殆ど家が無かった。既に、解体業者とは連絡が付いていたし、タクシーも呼んであった。
簡単な手続きで車を業者に渡し、タクシーの到着を待つばかりである。二人は事務所に座って待っていた。
事務員がお茶を出してくれたのでそれを飲んでいると、じきにタクシーがやって来た。時刻は12時を回っている。
「じゃあ、どうも、お茶有難うございます」
「お茶ご馳走様でした」
簡単にお茶のお礼を言って事務所を出た。タクシーには既に行先は伝えてあった。昼食を食べる為にレストランに行くことになっている。
「しかし、紅サソリ団が捕まりましたね。いやあ、本当に良かったですよ」
「ああ、そうらしいですね」
「でも、誰が犯人なんでしょうねえ。サソリ団の連中は仲間内の喧嘩だって言っているらしいですけど、全員同じように手の骨を折られているなんて、そんな喧嘩がある訳ないですよね」
何とも話し好きな運転手の様である。
「そうですわねえ、運転手さんも大変だったんでしょう、スーパー高速を走る時は」
「そうなんですよ。いつ、あいつらが現れるかと思うと気が気じゃなかった。ブラックサソリ団も怖かったけど、紅サソリ団はもっと怖かった。
ただ、まだ全滅した訳じゃないですから、出来れば今回の犯人に、全滅させて欲しいですね。それで、もし、そうしてくれたら、罪に問わないっていう事になればいいんですがねえ。
今の融通の利かない法律じゃあ、こんなに良い事をしても罪になるんですからね。刑法なんかも年々良くなっているって聞くけど、間に合わないんですよね、法律が。追いつかないんですよ」
運転手の言葉はユキオに衝撃を与えた。
『法律が追い付かない? 待てよ聞いたことのあるフレーズだぞ。確か、妖鬼様の動画その三、の中で、妖鬼が『法律は間に合わない。お前たちはここで死ね!』そう言っていたはず。ううむ、何かがある。やはりその必要があるな』
ユキオは次第に気持ちを固めていった。




