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 102 天国、99(3)


                  102 天国、99(3)


「またまたお待たせ、ええと、部屋の予約をして来たわよ。残念だけど、この階じゃなくて666号室、つまり6階の6番目の部屋よ。

 それでね、私はちょっとユキオさんに言っておきたい事がありますから、一緒に出ますから。それまでと言うか、先に寝ていていいわよ、円形ベッドは楽に二人で眠れるでしょう? 私は適当に寝ますから大丈夫よ」

「えっ、キャロンさんユキオさんとその部屋に泊まるんですか?」

 キミエは怪訝けげんな顔で聞いた。


「まさか、道場でのことで少し話があるだけよ、一時間とは掛らないと思うけど、ジュノンさんの前でお話が出来ないから、666号室で話すの。分かるでしょう?」

「は、はい。じゃあ、待っています」

「待つかどうかはお任せするわ。それじゃ、行ってきますから宜しくね、行きましょう、ユキオ君」

 キャロンは有無を言わせずユキオを連れ出した。


「道場での事って、やっぱり私には秘密なんですか」

 二人が去った後で、ジュノンは一応聞いてみた。

「そうねえ、あのくらいは言ってもいいかと思うんですけど、キャロンさんの口振りからだとやっぱり秘密みたいね。まあ、簡単に言うと似たような事があったのよ、道場でね。

 あなた達を潰したみたいな事がね。あれほど凄くじゃないけど、キャロンさんはそれが行き過ぎだと思っているのよ。私は当然、正当防衛だと思うんですけどねえ」

「へえ、そうなんだ。そういう事をしょっちゅうやっているんですか?」

「ふふふふ、それも秘密なんだけど、まあ、ユキオさんの場合何かとあるわね。私の勘だとあなたは多分天下グループに入れるわね。色々と良からぬ事をして来たんでしょう?」

 キミエはジュノンの正体を知りたかった。


「はい、人殺し以外は何でも。もう少し紅サソリ団が長く続けば、多分人殺しもしていたと思います」

「やっぱりね。でもね、安心して。天下グループにはあんたみたいな、いいえあんた以上の事をした、つまり人を殺した女子も沢山いるのよ」

「ええっ、信じられない。天下グループってそんなにひどいんですか?」  

「天下グループにとって犯罪を犯したかどうかは問題ではないのよ。天下グループにとって犯罪者かどうかが問題なのよ」

「天下グループにとっての犯罪者ってどういう事ですか?」

 ジュノンには意味が分からなかった。


「うーん、簡単に言うと、天下グループに服従するかどうかね。もう一つはヤセールグループに対抗意識を持っているかどうかが重要なのよ」

「ヤセールグループって、あの世界的な企業のヤセールグループですよね」

「そうよ、世間では知られていないけど、単なる企業グループじゃないのよ。世界を動かす力がある巨大な組織なのよ。例えばアメリカ大統領だって、ああ、ダメダメ、これ以上は言えないわ。

 最後に一つだけ言っておくと、その世界制覇の野望を持つヤセールグループに対抗しているのが唯一私の所属する天下グループなのよ。

 残念ながら、知っての通り、ヤセールグループほどの力はないけど、でもいつかは逆転してやろうと思ってみんな頑張っているのよ」

「うーん、そうなんだ。何だか紅サソリ団とちょっと似ているな。規模は小っちゃいですけど、私らのグループもブラックサソリ団という最強のグループに対抗して出来上がったグループだったんです。

 いつかは倒してやろうと必死だった。その為には強い奴らを仲間に引き入れる必要があった。強盗をやったのはその為の資金集めだったんですよ。

 最初は無視していたブラックサソリ団も紅サソリ団が大きくなって来ると無視出来なくなった。ついにある日激突した。そんな感じでした」

 ジュノンはいたって正直に言った。


「へえ、そんな構図だったんだ。それで、あなた達が勝った訳なのね」

「はい。その戦争の時、特に活躍したのが早打ちの散水チョージだった。拳銃を使って一人で15人は倒したと思います。そのうちの5人くらいは死んだと思いますけど」

「あなた達にとってはヒーローだった訳ね」

「はい、でも、性格は凄く悪かった。気に入らないことがあるとすぐ殴ったり蹴ったりです。とっても怖かった。だからチョージがユキオさんに倒された時にはホッとしました。彼はもう再起不能ですよね?」

「多分ね、チラッと見たんだけど、少なくとも利き腕はもう使えないわね。それに彼は少なくとも5人は殺しているのよね」

「はい。他にも何人も殺してますから、ひょっとして死刑になる?」

「100パーセント死刑ね」

「ああ、安心した。それを聞いたら何だか眠くなって来ました。あのう、寝てしまってもいいですか」

「ええ、良いわよ。私はもう少し起きているけど、キャロンさんが余り遅いようだと私も寝るから」

 キミエのOKが出たので、ジュノンはざっと顔を洗って円形ベッドの片隅で眠りについた。メークは完全には落ちていないが、少しだけ素顔が見える。


『ふう、こうして見ると、まだあどけない顔をしているわね。この子の人生はどんなだったのかしらね。でも、油断は出来ないわ。意外なほど素直なところがある。

 ユキオさんはきっとこういう女子は好きになるわね。絶対だめよそれだけは! 明日はこの子とおさらばするけど、再会はさせないようにしないと、絶対に!』

 遅ければ眠ると言ったが、眠れないままじっとキャロンを待ち続けていた。


「さあ、ここよ」

 キャロンはどことなくウキウキとユキオを案内した。内心ではユキオと二人きりになれてかなり喜んでいた。しかし、それとこれとは別と割り切ってもいた。

「何か飲みます?」

「ああ、俺は、そうだな、ミルクティーはあるかな?」

「ええと、待っててね、ああ、あったわ。じゃあ、私も」

 キャロンは冷蔵庫の中から缶入りのミルクティー二本を取り出して来て、一本をユキオに渡した。


「ああ、美味しい、俺はコーラよりはこっちの方が好きだな」

「ふふふ、私、本当は缶入りのミルクティーを飲んだのは今日が初めてよ。ああ、ほんとに美味しいわね」

 キャロンは本当はあなたと二人きりだから美味しい、と言いたかったのだがそれはさすがに控えた。


「さて、本題に入るわね。と、その前に、ひとつ聞いておきたいわね、あなた、キミエさんと関係があったの?」

「えっと、それは秘密です」

「ふうん、じゃあ、あったんだ」

「ですから、ノーコメントです。と言うか、ノーコメントとも言えません」

「どうして?」

「結婚もしていないのに関係を持つことは俺としては不本意な事ですし、俺は結婚はしませんから。子供は作れないんですよね?」

 逆にユキオが質問した。


「え、ええ。出来ないわね。遺伝子的に不可能という結論ですから。それは本当に気の毒だと思いますけど、でもそれと結婚とは別でしょう?」

「いいえ、他の人はともかく俺の中では結婚イコール子作りと子育てとです。それ以外は結婚ではありません、俺の個人的な考えですけど」

「あ、そ、そうなの。じゃあ、彼女との関係に関してはノーコメントとしておくわね。それじゃ他の人との関係はあってもおかしくないのかしら?」

「他の人ですか?」

「ええ、彼女と関係がないのだったら、別に構わないのよね?」

「はい、理屈の上では。でも、どうしてそんな事を聞くんですか?」

「まあ、参考までに聞いただけよ」

 キャロンはちょっと慌ててつくろった。


「はあ、そうですか。それでその本題と言うのは?」

「車の中でも言った事ですけど、どうして相手を気絶させなければならないのか、それをお聞きしたいわ。何故なんですか。審判の人もいたんでしょう?」

「はい、審判はおりました。でも、問題なのは相手の姿勢です。これは例えばボクシングの試合の判定でも言えるのですが、判定が不服だとしてしばしば裁判沙汰になったりします。

 俺が仮に判定で勝ったとしましょう。負けた方は何と言うか。判定が悪かったのだ、とか、たまたま偶然にパンチが当たっただけだとか言いたい放題です。

 無論、そんな事を言わない人達もいるでしょうが、あいつ等は俺を馬鹿にしきっていました。怖いのは気絶しなかった場合、どこまでも立ちあがって来る可能性があることです。

 俺をさんざんバカにした手前、意地になっても負けられないと思って逆に死に物狂いで立ちあがって来る可能性があった。それが怖いのですよ。

 ボクシングなどの場合、そのようにして死ぬものが後を絶たないと聞いています。だから最近はその状態の時はレフェリーが試合を早めにストップさせて、すぐ何度も立ちあがって来る方を負にしてしまいます。

 何度も立ちあがって来ることを多くの人は礼賛します。でも本当はそれが最も危険なのです。まあ、漫画などではその方がかっこいいと言うことでそういう描き方をしますが、現実はそうじゃないと思います。

 つまり一気に気絶させる方がダメージが少ないと判断したからそうしたのです。三人目の彼は気絶しませんでしたが、全く立てない状態だったのでむしろうまく行ったと思います」

 ユキオは自分の考えを丁寧に説明した。


「へえ、良く考えているのね。一理あるかも知れないわね。ふうん、分かったわ。この件に関しては不問に致しましょう。ところであなたは私をどう思いますか」

「はい? まあ、なかなか仕事の出来る賢い人だと思いますが」

 突然、評価を求められてユキオはちょっと困ったが仕事ぶりはなかなかだと思ったのでその通りを言った。


「仕事の事じゃなくて、その、女性として魅力があるのかどうかを聞いているのよ。男勝りとよく言われるのよね、私」

「まあ、その評価はちょっと当たっているように思いますが。でも、美人ですよね。一緒にいて楽しいですよ」

 多少、お世辞を言った。美人は本当だが、ややきつい性格にも思える。最初目立たなかったのは、ユキオが即ち妖鬼が怖ったこともあるらしい。


「やっぱり男勝りですか。美人とはよく言われるけど、私の学歴を聞くと大抵の男性は逃げて行くのよね。ビッグシティ大学の大学院卒業で博士号を持っている、と聞いたとたん皆顔色を変えるのよ。

 顔色を変えない男性には大抵彼女がいるし、この人はと思う男性には奥さんがいたりする。結局彼氏いない歴25年よ、はあっ」

 キャロンは溜息をつきながら言った。


「でも、人生色々ですから、どんな縁があるか結局誰にも分からないと思いますよ。ところでそろそろ眠りたいのですが宜しいでしょうか」

「ここに泊まって行っちゃダメかしら?」

 キャロンは大胆な事を言った。


「ダメです。どうぞ、お帰り下さい」

 ユキオはあっさりと、拒否した。

「そうよね、ああ、こんなに美人なのに、私って不幸な星の下に生まれたのね、それじゃおやすみなさい」

「お休みなさい」

 キャロンは渋々帰って行った。


『ふう、男もそうかも知れないけど女性は二人きりになると大胆になるんだよね。泊まって行くだなんて、NOにきまっているよな。

 薄々キミエさんと俺の関係に気付いているんだったら、遠慮するのが大人の女というものだろう? まあ、あれだけの美貌だから惜しい事は惜しいけど、キミエさんを裏切ることは俺には出来そうもないな』

 キャロンがいなくなるとすぐ、冷蔵庫からサラミやチーズなどこってりしたものを出して食いながらテレビを見た。ニュースに飢えていたのである。

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