101 天国、99(2)
101 天国、99(2)
「じゃあ、先ず、本部にジュノンの事を話してくるから、ここじゃちょっとあれだから、そうね、お風呂場にも確か電話があったはずよね。その間ちょっと寛いでいて」
キャロンはラブホテルが初めてなのに意外な事を知っている。
『キャロンさん実際に来るのは初めてなのに、やはり天下グループの幹部だけあって必要なことはきちんと知っているんだな』
ユキオはそう感じた。キャロンが風呂場に電話しに行くと、残った三人は何をしたらいいのか戸惑った。幸いにもジュノンが話を始めた。
「あのう、皆さん携帯電話は持っていないんですか?」
「ええ、そうなのよ。私達は秘密厳守の為に携帯電話は原則として持っていないわ。携帯は便利だけどあれって警察の手に渡ると色々な情報が引き出されるでしょう? その他に通信を傍受されて悪用されかねないし」
「皆さんの組織って、何か凄いですね、そこまでやるなんて」
「それほどでもないと思うけどね。ところでひとつ聞きたいんだけど、どうして君達は警察に捕まらなかったのかな。
確かにスーパー高速道路を300キロ以上で突っ走っていたら捕まえられないかも知れないけど、家に帰る為には一般道に出るし、そこに網を張っていれば、捕まえられるんじゃないのか?」
ユキオは疑問に感じていた事を率直に聞いた。
「あたし達をはじめとして、スーパー高速を根城にしている連中は、そのままでは一般道に出ないんです。駐車場に車を止めて隠れてメークを落とします。
そこで普通の社会人や学生に変身して、やっぱり駐車場に止めてある普通の車で会社とか学校とかに通っているんです」
「でも、ナンバープレートで車が特定されたら、暴走車は牽引されて警察に持って行かれてしまうかも知れないわよ」
キミエは常識的な事を聞いてみた。
「それは大丈夫。ナンバープレートを変えるし、残っている仲間が時々車を移動して居場所を見つけられない様にしていますから」
「うーん、成程、これは参考になるな。14、5歳の女の子もいたみたいだけど、彼女達はまだ学生というか、中学生くらいじゃないのか? 学校はどうしているんだ?」
「若い子は大抵家出して来ているから学校の事は心配いらないわ。スーパー高速じゃ時々車内撮影があるけど、その為にみんな化粧を濃くして、バレない様にしているのよ。
メークを落として街の中に居れば誰にも分からないし、若い子達は年をごまかしてバイトしているわ。外ではみんな真面目にやっているからばれなかったんだと思う」
ジュノンは淡々と話し続けた。
「スーパー高速の中にサソリ団みたいな連中が他にどのくらいいるんだ?」
ちょっと興味を感じてユキオは聞いてみた。
「はっきりと数は分からないけど、10以上はあると思う。やり方はみんな似たり寄ったりね。でも、族同士の争いはそりゃ激しいわよ。
その中で一番過激なのがあたしの居た紅サソリ団よ。今まで強盗とか族同士の争いで10人以上は殺しているわね」
「まあ、酷いわね」
キミエは眉をひそめた。
「一番激しかったのは、ブラックサソリ団との戦争だったわね。まあ、戦争というのは大げさかもしれないけど、あいつらがざっと50人、私らが35人ぐらいのグループだったんだけど、双方で10人以上の死者が出たし、けが人も多かった。
でもその戦いで勝ったのはうちらだった。あいつらはほぼ全滅した。その結果、まあその生き残りのうちらが最強の族ってことになったんだけど、今回の事であっけなく散ってしまった」
ジュノンは興奮気味に話し、改めてユキオをまじまじと見つめた。衝撃がいかに大きかったのか、再確認している様である。
「だけど、どうしてそんなに争うんだろうね。共存共栄という訳にはいかなかったのか。例えば、一緒に一つのグループを作るとか」
「そりゃ無理だよ。族の奴らは皆一番になりたい奴の塊みたいなもんだから。ずっと昔だったら素手で決着をつけるっていう方法もあったかも知れないけど、今はトップは皆、拳銃を持っている。
銃の扱いのうまい奴がトップなのさ。あたしらのグループの中に物凄く腕力の強い奴もいたけどさ、ブラックサソリ団との対決の時に銃撃されて死んじまったよ。それ以来、やっぱり銃が一番ってことになったんだけどね」
「ふうん、そういう経緯があったんだ。さて、キャロンさん遅いな。ちょっと見てこようか、少し遅過ぎる」
なかなかキャロンが戻って来ないのでユキオは少し心配になって来た。しかしその直前にキャロンは戻って来た。
「お待たせ、ふう、トップの人達もかなり今回の件、手こずったわね。でも決着したわよ。明日、ジュノンさんには天国島に行って貰うわよ。そこでテストを受けて貰う。天下グループに適応出来るかどうかのね」
「天下グループ!」
ジュノンはやっとキャロン達の正体が分かった。
「そう、私達は天下グループの一員よ。でもそれ以上詳しい事は教えられないわね」
「でも、天下グループって、会社のグループみたいなものじゃないんですか?」
「それは表の顔よ。私達はヤセールグループと激しく争っている。裏では熾烈な争いがあるし、命のやり取りも無いとは言い切れないわね」
「そ、そうだったんですか。だけど、ユキオさんて、何だか変です。強さが普通じゃない。あれってどういう事なんですか?」
ジュノンは食い下がった。
「うーん、悪いけどそれは教えられないわね。あなたが天下グループの一員として認められない限りそれは教えることは出来ないわ。その辺りで了解して欲しいんだけど」
キャロンは柔らかく拒否した。
「わ、分かりました。絶対の秘密なんですね」
「そういう事。さて、これから代わる代わるお風呂に入って眠りましょうか?」
キャロンはさりげなく言った。
「やっぱり部屋を二つに分けましょうよ。何か危ない気がします。私はユキオさんと一緒の部屋にしますから」
キミエはキッパリと言った。
「えっ、キミエさん、それって変よ。男のユキオさんには一人で寝て貰って、私達、女性はこの部屋で寝ればいいでしょう?」
「キミエさん、ユキオさんと出来てるんですか?」
ジュノンはあっさりと言った。
「そ、そ、それはその、………」
キミエは言葉に窮した。チラッとユキオの顔を見た。ユキオは唇をかみしめているだけだったので、
『言ってはまずいみたいね』
そう感じた。
「そ、そうなんですか、キミエさん、その、ユキオ君」
キャロンはかなりショックだったようである。キミエは何も答えなかった。
「ふうん、やっぱり俺は一人で寝ますから。ラブホテルに一人で泊まることには慣れてますからね。ところで、明日はどうしますか」
ユキオもキャロンの質問には答えずに別の質問でごまかした。
「ああ、そうそう。大事な事を忘れていたわ。明日の朝早く、ここのホテルの屋上から私とジュノンはヘリコプターで天国島に向かいます。
それでこれは大事な事なんだけど、キミエさんには乗って来た車の処分をお願いするわ。解体業の会社で解体して貰うのよ。証拠を消す為にね。
それが終わったら一旦タクシーでレンタカーの会社まで行って、レンターカーを借りて、ここにいるユキオさんを乗せて今度は南端島に向かって貰う。
勿論、島に渡るのにはフェリーで行く必要があります。その島でこちらの誰かと会って貰います。その後の事はその人に聞いて下さい」
キャロンもキミエとユキオの関係にはあえて言及したくなかったので、それには触れずに他の事ばかり言ってごまかした。
「南端島ですか? ロケットの発射とかで有名ですよね。何をするんだろう? 宇宙飛行士にでもなるのかな?」
ユキオはちょっとおどけた感じで言った。しかし急に真顔になって、
「俺はその前に行きたいところがあるんですけどね。急用でないんだったら、そこに行ってみたいんですが」
「ど、どこなんですか」
キミエが心配そうに言った。
「ジュノンさんの前ではちょっと言えないな」
「私が邪魔ですか。だったら、私が一人別の部屋に行きましょうか?」
ジュノンは一応気を利かせた。
「いや、話すのは今じゃなくていい。それで今夜は俺が一人で別室で寝るから、その手続きはどうすれば良かったんだっけ?」
「ああ、じゃあ、一応それで決まりということで、手続きは私がしてきますから、ちょっと待っててね」
キャロンは素早く部屋を出て行った。
「あのう、一つだけお願いがあるんですが」
キャロンが部屋を出て行くと同時にジュノンが言った。
「何だ、言っていいぞ」
ユキオはすぐ容認した。
「お、お風呂に入りたいんですが、そのう、先に入って宜しいでしょうか………」
ジュノンは恐る恐る言った。
「俺は構わないよ」
ユキオはすかさず言ったが、
「だめ、あんた何か魂胆があるんじゃないの?」
険しい表情でキミエは拒否した。
「別に魂胆はありません。ただ、化粧が濃い分、肌に良くないからなるべく早く落としたいんです」
ジュノンの言い分はもっともだったが、
「風呂は天国島に行ってからにして欲しいわね。大丈夫、向こうにだってちゃんとした風呂があるわよ」
キミエはどこまでも拒否した。
「じゃ、じゃあ、いいです」
キミエが自分を警戒しているらしいことを悟ってジュノンは入浴を撤回した。ユキオは何も言わずに了承した。キミエの心情をおおよそ理解していた。




