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3魂――魂人発見

「おっつかっれさーんっ!」


 恒例の屋上前階段にて、またしても金髪イケメンの自称神様が居た。


「ウザッ」

「響夜、相手は自称とは言え神様だぞ。せめて態度だけでも敬え」

「お前も大概だぞ」


 相変わらず宙に浮いている男は苦い顔をした。ここまでコケにした反応で若干イラついているのかもしれない。


「お前らの活躍でタナトスの仕事も大分捗っててな。魂密度も5%下がったぜ」

「あ~、結構処理したもんな」

「で、それを教えるためだけに態々来たのか?」

「いんや、お前らこの前別の処理屋に会ったろ?」


 言われて2人はユウと名乗った少女を思い出した。言われるまで忘れてたとも言う。それ以前にこの2人はユウに自己紹介をしていない。

 そして魂処理はタナトスという神の仕事のようだ。


「あれは俺以外の奴が処理屋にしたガキなんだよ。だから絶対あいつに負けんな」

「……そこは協力して処理しろとか言うところじゃねえの?」

「だって俺の嫌いな奴の差し金なんだもん」

「その見た目で『だもん』は気持ち悪いぞ。で、それだけか?」

「おっと、本題忘れてたぜ。魂人が出た」


 2人の知らない単語だった。


「前に話した魂が入っちまった植物人間とかの話だよ」

「……魂密度が高くないと成らないんじゃなかったのかよ?」

「場所は病院だぜ?死人が多いってことは魂密度も必然的に高くなんだよ」

「……病院関係者を処理屋にすれば良いのではないか?」

「あいつ等、話聞きゃしねえんだよ」

「そりゃ普通信じねえか」

「しまいにゃ自分の正気を疑っておかしくなっちまうんだぜ?やってらんねえっての」


 神の愚痴を聞かされる2人の方がやってられねえ気分だった。


「私達はその魂人とやらを処理すれば良いのか?」

「ん?おう。ちょっと動き回ってるけど病院内だしお前等が見たら人の頭に魂がくっついてるように見えるはずだ。じゃ、頼んだぜ」


 そう言って天井に消えていった。


「……動き回ってる、だと?」

「植物状態の人間が急に動き出したらニュースになりませんか?」

「もしかしたら精神が病んでいる方かもしれないな」

「あ~、んなことも言ってましたね」


 これは面倒になったと溜息で誤魔化す2人だった。あまり効果はなかったが。


「取り敢えず、ネットで情報集めてみますか?この街に入院設備のある病院なんて1つですし、情報も直ぐに集まると思いますよ」

「なら放課後にPC同好会を尋ねるとしよう。バイトは平気か?」

「次は日曜です。情報が集まったら明日の土曜日にでも病院行ってみますか?」

「そうだな、用も無しに何度も病院に行くのは不自然だ。情報が入るのを待とう」



 放課後、教室棟の隣に建っている部室棟のPC同好会なる部屋にて、


「失礼するぞ」


 燈華が1人で乗り込んでいった。響夜はクラスメイトと帰った。


「燈華様っ!どどどどうしてこんな場所にっ!」

「いいい今!お茶の用意をっ!」

「構うな。頼みがあって来だけだ」


 何やら痛い少女達がテンパっていた。何が痛いって?全員猫耳やらウサ耳のカチューシャをつけているのだ。


「ちょっと調べてもらいたいことがあってな。中染病院で変わったことがないか調べて欲しい」

「あ、最近話題のあの病院ですね」

「ほう、詳しく聞かせてくれないか」


知りたい情報が思った以上に速く手に入りそうだった。


「は、はい!何でも最近、精神を病んで歩けなくなって入院までしてた患者さんが普通に病院内を歩き回ってるんだそうです。ただ表情は虚ろで小さい子なんかは泣いちゃったりするそうですけど。今もっと詳しく調べてみますねっ!」


 部屋に居た4人の少女達が一斉に2台のPC画面に食いつき中染病院の情報を集めている。

 実は燈華には中染高校内公式ファンクラブがあるのだが、本人は知らない。ちなみに響夜を敵視する交戦派と響夜との仲を応援する支援派が存在している。響夜としては放っておいてほしい話だ。

 このPC同好会は全員支援派だ。


 10分後、


「ふぅ~、粗方調べました」

「そうか。どうだった?」

「顔写真まで載ってたので患者さんの素性も分かりました。

 名前は鳥嶋香澄さん23歳独身。3月に精神的に不安定になって入院したみたいです。日常生活もおくれないほどだったみたいですが、理由までは分かりませんでした。

それが2週間前に急に虚ろな顔で病院内を歩き回るようになったそうです。

 私達の調べで分かったのはここまでです」


 どこか済まなさそうに同行会会長の少女(燈華と同じクラスなのに敬語)が話してくれた。燈華は画面に映った顔写真を写メしている。


「いや、これだけ調べてもらったら充分過ぎるくらいだ。ありがとう」

「はうっ!」


 1年生の部員が燈華の微笑を受けて顔を真っ赤にして椅子に倒れ込んだ。


「……私は長居しない方がよさそうだな。では、またな」

「はい!何かあったら気軽に来てください!」



 翌日の土曜日、午前10時。中染病院前ベンチにて響夜が昨日の話を聞いていた。


「相変わらず、女子からモテますね」

「そうなのか?まぁ良い、行くぞ」


 響夜は飾り気のない格好で黒のポロシャツにジーンズ。燈華は裾が足首の少し上くらいまでしかないジーンズに体のラインがバッチリ見える半袖シャツだ。ヘソが丸見えのやつだった。

 近くを通る男は必ず燈華を1度は見てしまう。


「魂人と思わしきは鳥嶋香澄って人でしたね。はぁ~、関わりたくねえ」

「同感だが、やるぞ」


 2人は病院内の待合室に置いてあるベンチに並んで座った。

 中染病院は総合病院で科によって待合場が別にある。2人が居るのは精神科と皮膚科が並んでいる待合場だ。


「見つけたらどうします?人気の無い所に行かないと何もできませんよ?」

「男が言うと婦女暴行の計画に聞こえるな」

「無理矢理は趣味じゃありません」

「結構Sとして有名だぞ」

「話逸れてますよ~」

「そうだったな。私が声をかけて人気の無い場所まで誘導しよう。その後、速やかに処理する」

「それが妥当ですかね。はぁ~、良い予感しねえ」


 で、待った結果。


「来たようだ」

「以外と速くご対面ですか。これ以上は怪しまれそうだったから丁度良い」


 精神科病棟の通路の方から1人の女性が歩いてくる。まるで夢遊病者のように覚束ない足取りだが、その目には力強い光りを宿している。


「響夜は先に人気の無い場所を探せ。私は彼女に接触してみる」

「了解です」


 響夜がのんびりと通路の奥を目指し、鳥嶋香澄とすれ違う。横目で確認すると確かに頭部に魂がちょっと変形したような形の青い半透明な物体がくっついていた。

 試しに頭を掻く振りをして手で魂に触れようとしてみたが触れなかった。響夜も燈華も腕時計はつけている。

 面倒なことになってきたようだ。


「さて、病院で人気の無い所なんて……屋上くらいしか思いつかないよなぁ」


 先の見えない不安から、諦めろと囁く悪魔の声に身をゆだねる響夜だった。


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