1魂――注意、除霊ではありません
こんにちは、お久しぶり、はじめまして、けんしょ~です。
またしても妙な小説を書いておりますが、この小説に前作のキャラはちょっとしか登場しません。しかも「お前等かよ」と言いたくなるような奴しか出ません。
前作の最後の後書きを見た人は「作者、Mだったんだな」と思ってください。
では、暇つぶしに本文をどうぞ。
『朝のニュースをお伝えします。昨日未明、佐連村におきまして未知のウイルスが発見されました。これを受け政府からは当村への出入りを制限するとの発表があり、』
テレビの電源が切られソファに座っていた少年が立ち上がる。
「沙夜、そろそろ出ねえと遅刻だぞ」
キッチンの奥に居る少女に声をかけた。
「今行くよー」
キッチンから出てきたのは間延びした喋り方の少し小柄な少女。茶色っぽい髪を肩までの高さで抑えている、わりと可愛らしい部類の少女だった。
「兄さん、今日はバイト?」
「ああ。ちょっと遅くなるかもしれない」
「じゃ私もあそこで食べよー」
兄と呼ばれた少年は黒髪で少し高めの身長だった。
2人は中染市立中染高校1年と1年の兄妹だが、両親は旅行と称して3年ほど家に帰ってきていない。
「あ、私友達待たせてるんだったー」
「早く行ってやれ。戸締まりはやっとくから」
「うん。じゃ放課後にねー」
そう言って沙夜は玄関を開け待ち合わせ場所に向かった。
「さて、俺も行くかな」
5月の空気を吸いながら戸締りをして少年、上左響夜も学校に向かった。
放課後、響夜のクラスにて、
「響夜、速く行くぞ」
「……何でこんな所に居るんですか、天林さん」
「名字で呼ぶなと言ってるだろう」
「燈華さん」
「よろしい」
登場したのはスラリとした美人と称される体型の女性(結構胸デカい)。腰まで届く艶のある長い黒髪に教室の男子生徒と女子生徒が目を奪われている。
ちなみに女子生徒の何人かは『お姉様』と呟いた。男子生徒は『女王様』と呟いてる。
「今日はお前がバイトだとマスターから聞いたからな、色々と楽しみにしていたんだ。速く行くぞ」
「……分かりました」
天林燈華17歳。趣味、響夜弄り。
良い予感はしなかったが敢えて何も言わない響夜だった。教室に居た生徒は燈華に目を奪われていて話の内容までは聞き取れていない。聞き取れない程度の声量で話してもいた。
響夜のバイト先は喫茶店『スズラン』である。定年前に妻を亡くしたマスターが定年後に趣味で始めた店だったが、コーヒーとケーキが美味い(地雷もあるよ)と近隣住民や学生の間で評判に成り連日結構な客入りを見せている。
年齢層はバラバラだが意外とお客同士で話せる空気で、60歳のオバチャンと女子高生が話している事も有る。
「マスター、こんちわ」
「おや、響夜君。今日もお願いしますね。燈華君、いらっしゃい。カウンターで良いかな?」
「じゃ、俺は着替えてきます」
「1人でテーブル席に着く必要も無いだろうし、カウンターで」
響夜は軽食作り兼ウエイトレスのような仕事をしている。
コーヒーやケーキなどの料理はマスターのオリジナルなので手出しができないのだ。コーヒーメーカーで淹れるだけならできる。
「じゃ、私はコーヒーを。夕食はここで取るつもりなんだが、それまで大丈夫だろうか?」
「平気ですよ。カウンター席のお客さんは少ないですから」
「良かった。お、響夜か」
「どうも」
着替えてくると言ってもブレザーとネクタイを脱ぎ、カッターシャツの上から黒いエプロンを着ただけだ。この喫茶店では従業員の服装もそんなに五月蝿くはない。
「あ、7時くらいに沙夜が来るはずです」
「分かりました。その時間には席を1つ空けておきましょう」
「じゃ、注文取ってきます」
「はい、頼みましたよ」
平和な日常。
変わった両親にちょっと抜けている妹、気に成る先輩に絡まれたり学校やバイトでの友人との馬鹿話。
上左響夜の日常は大体これらで構成されている。そこから何か1つが減っても増えても響夜の日常は変貌してしまう。それが分かっているからこそ、響夜はそれらを大切にしている。
そして、日常に何かが増えるならば排除するか受け入れるのが響夜のスタンスだ。
つまり、
「おっす、オラ神様!お前等に命令があって出てきた!」
いきなり目の前に妙な金髪イケメンが出てきてそんな事を言い出したら間違い無く排除を選ぶ。
「……響夜、その変なのは何だ?」
「俺が知りたいです」
時間は夜の9時。場所は人気の無い閑静な住宅街。
喫茶スズランは8時に閉まるが後片付けなどをしているとこの時間に成るのだ。
ちなみに沙夜はドラマを見たいがために既に帰宅。勤務中に散々からかってきた燈華と共に帰宅中、それに出会った。
「まぁ真面目な話本気で真っ当な命令があんだよ」
そもそもこの男、宙に浮いている。中世ヨーロッパの絵画に出てくる白いローブのような服を着た頭の痛いイケメンが宙に浮いているのだ。
「燈華さん、体温計持ってませんか?」
「残念だが持っていない。どうせならば私が貸して欲しいくらいだ」
「おいおい、俺を無視かよ。まぁ良いか、言うだけ言っておくぜ。
最近あちこちで未知のウイルスが発見されたとかで立ち入り禁止区域が出来てるだろ?それ結構やばいんだわ。人間の魂が増えすぎて処理しきれねえのが原因な。つーわけで、お前ら魂処理しろ。一応魂見れるようにしてやったから対処できんだろ。そうすりゃ最近の異常現象も抑えられるから。
あ、処理方法はこのブレスレット嵌めて殴れ。それで強制的に魂をあるべき流れに乗せられるから。じゃ、頼んだぞ。無理しなくても他の人間にも頼んであるから見つけたらやっとこうくらいに考えとけ。
じゃあな~、処理屋共」
混乱している2人を他所に言いたい事だけ言って自称神様のイケメンは消えた。後に残ったのは少し幅広のブレスレットが2つ。
「……何だったんだ?」
「私は知らん。とにかく帰ろう。異常に疲れた」
「そうですね」
2人は帰路についた。
「あ、1つの地域に魂が貯まりすぎると面倒な事になるからな。忠告はしたぞ」
またしても急に出てきて急に消えた自称神様だった。
翌日の昼休み。屋上前の階段にて、
「ふっ!」
短い呼気を吐きながら空中をフヨフヨ漂っている赤ん坊くらいの半透明の青い塊を殴り消滅させる燈華が居た。左腕には幅広のブレスレットがある。
「本当に見えるようになってる……しかも本当にブレスレット無いと触れないし」
横に居た響夜が別の塊を触ろうとしたが虚しく宙をきった。
「あの金髪の言うことが本当かは知らないが、少なくとも何かが見えるようになり殴れば消えるのは確かだ」
「そうですね。はぁ~、放置したらどうなるってんだ?」
「試してみるか?」
「却下、良い予感がしません。今もだけど。てかブレスレットだと先生五月蝿そうですよね」
「そうだな、どうにかしないとな」
2人揃って溜息、後、昼飯を広げた。響夜は弁当、燈華は購買のパン。響夜の弁当は当番制によりお手製だ。
「……少しくれ」
「先輩が後輩にたからないでください。おかず1つで焼きそばパン1口と交換です」
「交渉成立だな」
2人仲良く弁当とパンを平らげる。
「今日の弁当はお前が作ったのか?」
「そうですよ。今週は俺が当番です」
「明日も交換するものを持ってくるとしよう」
「自分で作るとかないんですか?」
「私より上手い男と手料理の交換などしたら女のプライドはズタズタだ」
「さいですか」
こうして、響夜の日常に魂処理という新しい習慣が増えたのだった。




