表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏話などいかがでしょう。  作者: むかしむかしあるところにね
7/8

 例えばこんなバレンタイン

 イベントに乗っかってみました。




「さて。バレンタインデーですね」


「先生。『さて』と『バレンタイン』のつなぎはオカシイと思います」


 適温に調整されたリビングにフカフカのソファ。外は生憎の雨模様で寒そうだけど、外出の予定は無い。


「何か行動を起こさないと、バレンタインというイベントをスルーされる恐れがあるので、今日が何の日か思い出してもらおう、という『さて』です」


 キッチンで自分用にコーヒーを入れていた先生サマが、あたしの分のマグカップも持って来て、隣に座った。


「今日が何の日かなんて、そんなの当然知ってます」


 目でお礼を言ってあっついカップを受け取った。あれ、これ普通のコーヒーじゃない。


「そうですか?」


「そんな疑わしい目で見られても、生憎世間一般のバレンタインのイベントは知ってますよ。女の子が好きな男の子にチョコを送る日です」


「……知ってはいるようですね」


 胡乱な顔で頷かれた。失敬な。


「でも、あたしにとってのバレンタインは、感謝を伝える日、ってことになってるんです」


 先生サマが器用に片眉上げて続きを促す。


「あたし、バレンタインは幼稚園の頃から毎年、お祖父ちゃんお祖母ちゃんにケーキとお花持って行ってました。流石に大学になってからは、お花を贈るだけとかになりましたけど。だから、バレンタインは、一緒に住んでいない家族に感謝する日なんです」


 お父さんの実家とお母さんの実家は、ご近所だ。そして両家がとても仲が良い。


 バレンタインにはどっちかの家に両家集まって、あたしが持って行ったお母さん手作りのケーキでお茶するのが、毎年の恒例だった。そして晩御飯ご馳走になってお泊り、翌朝家に送ってもらうまでがいつものスケジュール。


 お祖父ちゃんたちは、孫をソレはソレは可愛がってくれて、遊びに行くととても喜んでくれた。お祖母ちゃんたちは豪勢な料理を作って待っていてくれた。


「あたし、チョコを男の子にあげたことないですし。友チョコなら、貰う専門でした」


 貰ったお礼に、似顔絵描いてあげたりしたけどね。


「だってほら、日本のバレンタインって、お菓子業界の陰謀だっていうじゃないですか。そんなものに踊らされるのはナンセンスだってお父さんがいっつも言ってました」


 過去に一度だけ、バレンタインチョコなんてものを買ってみたことがあった。誰にあげるかも決めてなくて、ただ友達皆キャアキャア言ってたから一緒になって買ってみたんだけど。

 そしたら、お父さんが壮絶不機嫌になって、製菓業界の陰謀を教えてくれたのだ。商売のために宗教や文化を歪めて利用する、悪魔の諸行だそうだ。

 うん、信仰や文化は尊重して大事にすべきだよね。


 お父さんのおかげで、以来、お菓子業界には騙されてない。お父さん貴重な教えをありがとう。


「バレンタインは、もともと家族や親しい友人に感謝する日なんですよ」


 えっへん、と、胸を張るあたしに、先生サマはビミョーな顔を向ける。……口の端が引きつっててもイケメンはイケメンだ。コンチクショウ。


「……確認ですが。毎年、一人で、お祖父様のところに?」


 え? そこ確認するトコなの?


「失礼な! もちろん一人ですよ! 幼稚園の頃から、ちゃんと一人でお祖父ちゃん家行ってたんですよ!」


 ケーキの箱と花束持って、一泊の着替え入れたリュック背負って、それだけでも幼稚園児には大冒険だった。


 お母さんに『お祖父ちゃんたちによろしくね』と言付けされた使命感でワクワクして、一人で頑張るんだって張り切って、ちょっとだけ不安でドキドキしていた思い出だ。


 まあ、徒歩15分の道のりだったけどね。玄関でインターホン押す前に後ろからお祖父ちゃんが現れて『良く頑張ったなー!』って高い高いされたりもしたけどね。


「……ご両親は」


「あたしがちゃんと一人でお遣いできるから大丈夫って、にこやかに見送ってくれました!」


 うん。幼稚園からの習慣を引きずって、高校生になってからもはじめてのお遣い感覚だったみたいだけどね。流石に高校生にお見送りはないよね。徒歩15分なのに。


 その辺、うちのおかーさんって人は娘をいつまでたっても幼稚園児と思ってたんだな。……まあ、時々うっかりな所があることは自覚している。でも両親の過保護は行きすぎだと思う。


 うんうん頷いてると、先生サマが片手で口元を覆っていた。が、その表情筋の動きは、口元が笑っちゃってるのを抑えようとしていると見た。


 今の話の一体どこに笑いが。……幼稚園児扱いってところですね。そこは同意です。


「……お邪魔虫を体よく追い払ったとしか……しかしあのお母様がそんなことを……ひょっとして彼女も騙されて…………お父様は計算尽く……」


 先生サマは相変わらず意味不明に思考の迷宮にトリップだ。


 まあとにかく。


 あたしは先生サマにチョコなんて用意してない。先生サマがいくら冷蔵庫やキッチン周りをうろちょろしても無いものは見つけ様も無いし、もしも催促されたとしてもチョコなんてあげるつもりは無い。


 先生サマが迷宮入りしている横で、程よく冷めたカップを口に運ぶ。


 いつものカフェオレじゃなくて、カフェモカだった。







 あたし的に、バレンタインには花を贈るのが定番だ。


 先生サマのマンションでは花瓶なんてないだろうと思って、薔薇の絵を描いてみた。殺風景な先生サマの書斎に飾れるようにシンプルな額に入れてみた。


 どうだろ。


 先生サマは気に入ってくれるだろうか。


 ……とりあえず、先生サマが思考の迷宮から帰ってきてからの話だ。










 お父様が腹黒でFA。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ