キミの名は 3)
一度外で話し始めたら、リューバは長い。
お茶にすると言っていたから、お湯を沸かしておいた方がいいだろう。
冷たい水で汚れを落とし、さっぱりとした気分で台所に戻れば、ナソリが直ぐ後を付いてきた。
「リューバは?」
『さぁな。大方、話に花を咲かせておるのではないか』
ナソリのピンと立った耳が時折小さく動く。屋外の会話でも拾っているのだろう。
『やれやれ、まだまだかかりそうだの』
「先にお茶の準備だけしておこうか」
半ば呆れた声を出したナソリに小さく笑って、リョウは台詞通りにお茶の用意に取り掛かった。
水を入れた【チャーイニク】を竃の火にかけて、茶器は外にいる客分を含めて人数分用意した。
リューバのことであるからあのまま二人を帰すとは思えない。必ず折角だからとお茶に誘うだろう。
気さくで誰にでも分け隔てなく接する朗らかな気性は、まさしく【母性】そのもので、リョウは常々そんなリューバに感服していた。
リューバが良く飲むお茶は、薬師らしく薬草を煮出したものが多かった。
【薬草】と一口に言ってもその種類は実に様々で、字面からどうしても苦みや癖のある【薬蕩】の類をつい想像してしまいがちだが、リューバのお茶コレクションは、その趣を大分異にした。
リョウが選んだのは、ほんのりとした甘さの後に独特な爽やかさの残る茶葉だ。分類としては、発酵のされていない青茶になる。大きな葉っぱがくるりと丸まっているのだ。
それを沸騰した湯の中に適量入れる。この匙加減が中々に難しいのだが、教わった通りに専用の匙で二杯。そして煮出すこと感覚的に数分位か。丸まったお茶の葉が完全に開き、湯の中を踊るように跳ねれば、出来上がりだ。
そして直ぐに煮出したお茶を【ガルショーク】に注ぎ、茶葉と分離させる。
そうしないとお茶が苦くなってしまうのだ。うっかり放って置いてしまうと渋みが出て、飲めない訳ではないが、折角の風味が抜けて美味しくなくなってしまう。その不味さは経験済みだ。
【ガルショーク】の下部には、温かい熱を逃がさないように保温性の高い石が埋め込まれている。発光石と同じようにこちら特有の便利な代物の一つで、専門の術師が作ったものだ。
差し詰め、持続性の高い温石と言った所だろうか。
一緒に温めた茶器をお盆に乗せて台所から居間の方に顔を出せば、ちょうどリューバが客人を伴って中に入って来る所だった。
リョウが手に持った茶器類を見て、リューバは悪戯っぽく笑った。
「ピッタリね」
「そのようですね」
阿吽の呼吸よろしくかち合った拍子に、リョウは一人ほくそ笑む。こういった些細な積み重ねが、ささやかながらも幸福感を生み出していた。
居間となっている部屋のテーブルの上に茶器を並べる傍で、リューバは客人をこの家の主らしく持て成した。
「さぁ、掛けて頂戴。お茶にしましょう?」
促されるようにして少女と青年がソファに腰を下ろす。
そして、和やかな午後の一時が開始を告げた…はずだった。