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Messenger ~伝令の足跡~  作者: kagonosuke
番外編集
218/232

14)隊長の帰還 ~再び~

それでは満を持して(?)これより北の砦のお話に入ります。

タイトルは第一章にある【隊長の帰還】をなぞらえました。

それではどうぞ。


 その日、伝令によってもたらされた一通の報せが、北の砦に駐屯する兵士たちを震撼させた。

「おいおい、聞いたかよ!」

「あー、おー」

「隊長殿が結婚すんだって!?」

「婚約したってやつだろ!」

「そうそう!」

「マージかぁ」

「ガセじゃねぇの?」

「いや、どうもホントらしい」

「てか、いつの間に!?」

「つーかさぁ、寧ろ、遅かったくれぇじゃねぇ?」

「あ? そうか?」

「で、相手は誰なんだ?」

「もち、いいとこのお嬢だろうがよ」

「うがぁー、嫁かぁ。羨ましいぜ」



 主不在の北の砦。その留守を預かる副団長シーリスの右腕、ヨルグ・ペテルハウゼンは、その日、少し早めの夕食を取る為に訪れた食堂で、やけに盛り上がっている兵士たちの噂話を耳にした。

 騒いでいるのは古参よりも若い連中だ。ヨルグにはその内容に大いに心当たりがあった。

 その連絡が届いたのはつい数刻前のことで、飛んで来た伝令が寄越した業務報告の中には、そのようなことが序でのようにしたためられていたのだが、どこをどう伝わったのかは知れないが、驚くほどの伝達速度(スピード)をもって、その内容が砦内に広がっていた。伝令で飛んで来た鷹が珍しくぽろりと零したのかもしれない。それが、伝令小屋に詰めている兵士たちに動揺のようなものを引き起こし、偶々通り掛かった兵士がその事を聞きかじって、急速に広まったのかもしれない。


 要するに北の砦の長である団長が、この度、晴れて婚約をし、婚姻を控えているということだ。目出度い話であるから喜ぶべきことではあるのだが、ヨルグは何とも言えない気分で夕食に出された白身魚のスープ【ウハー】を啜った。料理長ヒルデ特製のスープはいつものように美味いはずなのだが、何故か、今はその味を堪能することが出来なかった。

 今回は、団長のユルスナールを始めとして副団長のシーリスもブコバルも、北の砦幹部連中はこぞって王都へと出掛けてしまっていた。毎年、この冬の一番寒い時期に開催される武芸大会に出場する為である。武芸大会自体は、【黒】の【第一の月】、【第四デシャータク】の頭、三日間だけなのだが、この時期、国中各地に散らばっているスタルゴラド騎士団の団長を始めとする幹部連中が王都に一堂に会するとあって、軍部関係では、合同会議やら中央との調整やらの様々な打ち合わせが開かれ、中々に密度の濃い忙しい日々を送ることになるのだ。昨年と同様、今回もそういった諸々の用件の為に、彼らの王都滞在は長引いていた。

 その留守中は、ヨルグが実質的な砦の責任者であった。


 直近の報告では、共に帰還すると書かれていた。誰とは勿論、言わなくとも分かるだろう。つまり、一度、その御相手をこの砦に連れてくるということだった。

 その相手となる女性はヨルグもよく知っている人物であるから、特に改めて何か特別な準備(要するに女性特有の細々としたことだ)をする必要はないだろうと思っているのだが………。

 さてさて。ここの連中の鰻上り的な期待をどうするべきかといつもの鉄仮面的無表情に一抹の不安のようなものを滲ませた。

 良くも悪くも、いや、どう転んでも、きっと真実を知った兵士たちは度肝を抜かれることだろう。真実は小説よりも奇なり。そんな台詞(テロップ)が、ヨルグが視線を向けた澄んだスープの表面に浮かんでは消えた。 


「よぉ、ヨルグ。隊長殿が帰ってくんだって? しかも【コレ】付きで?」

 食事をしていたヨルグの隣に【タレールカ(トレイ)】を手に座ったのはサラトフで、その右手の薬指を意味深に上げていた。早い話が【女連れで】という意味だ。

 この度、王都で開催された武芸大会で個人戦のみならず団体戦でも優勝を収めたというスタルゴラド騎士団の中でも類稀なる栄誉と栄光を持って帰還を果たす隊長が、一足先に春を迎えたということは、中堅どころの兵士であるサラトフの耳にも入っていたようだ。

 武芸大会の吉報がもたらされた時も、この砦内には広い兵舎内を揺るがすような歓喜の雄叫びが上がった訳だが、今回はきっとその比ではないのだろう。

 暫し、今後の騒動を思い描いて、兵士たちの監督責任者としては頭が痛くなりそうな気がした。

 ヨルグは思わず眉間の皺をより深いものにしたのだが、隣に座ったサラトフから『どうした?』とでも言いたげな胡乱気な視線を浴びて、直ぐに顔付きをいつものように改めると、どこか態とらしく咳払いを一つした。

「いや。まぁ、そのような報告は届いている」

 これだけ噂になっている時点では、今更隠しても仕方がないことなので、サラトフの問いを肯定した。

「しっかしなぁ。とうとう隊長殿も年貢の納め時ってやつだな。『さらば! 自由溢れる独身時代!』……てか?」

 そう言ってからりと笑う。

 サラトフはこの砦の兵士たちの中では数少ない妻帯者の一人だった。妻と子供は、現在、生まれ育った地元の街【フリスターリ】で暮らしている。

 【フリスターリ】は、王都スタリーツァから見て東の方角にある、スタルゴラド国内では主要な地位を占めるそこそこ大きな街の一つである。

 サラトフが北の砦に赴任する前は、同じく主に付き従う形で家族共に暮らしていていたのだが、北の砦はこの国最北端の僻地で、周囲には本当に何もない場所なので(一番近いスフミ村まで軍馬で一日半も掛かるのだ)、妻子連れでの赴任が物理的に適わなかったのだ。

 ということで、年に一度の休みくらいしか、離れて暮らす家族の顔を見ることは出来ない。それも予定外の任務が入れば駄目になる。サラトフはこの砦に赴任して以来、まだ一度も家族の元に帰ってはいなかった。

 サラトフの所の夫婦仲は悪くないと聞いている。子供も男の子が一人いるそうで腕白の盛りであるとか。そのような近況を寄越す手紙が王都の【アルセナール】経由でもたらされていた。サラトフのように長年連れ添った女房ともなれば自ら妻を褒め称えたり、自慢したりすることはないのだろうが、飄々としてぞんざいな口振りもポーズのようなもので、家族を愛する子煩悩な父親としての一面を持っていることをヨルグは知っていた。


 だが、ヨルグはそのことにはここでは触れずにスープの中の白身魚を解して口に入れた。

 今度は、先程よりも味が分かる気がした。

「ああ、でも、お貴族さまで深窓の御令嬢ってことなら、こんなしみったれたとこにゃぁ、来ねぇか。つぅことは、暫くは別居状態だろうから、疑似独身時代は続くっていう訳か」

 サラトフは、一人、そんなことを口にすると、訳知り顔で合槌を打っていた。

 対するヨルグの心の内は複雑だった。

 いや、深窓どころか、こんなむさ苦しい所にいてもけろりとしているような女性だ。冷めた外見からは信じられない程に情に厚い隊長のことだ。気に入った相手は懐に入れ、手の届く範囲に置いておきたいと思うだろう。きっとリョウは、そう遠くない未来、森の小屋から、その拠点をこちらに移すことになるのだろう。

 そこでヨルグは、シーリスからの伝令の中で、驚くべき情報が付加されていたことを思い出した。それは、今回の帰還にあの第三師団長が付き従っているということだった。

 第三師団はスタルゴラド騎士団の中でも特殊で、術師の資格を持つ兵士たちを数多く抱える部隊である。昔から王都に拠点を置くその部隊の長が、一癖も二癖もある強者だということは、同じ騎士団に属するある程度の階級の兵士であるならば、誰もが知るところだった。

 そして、その隊長殿は恐ろしく整った容姿をしているのだ。ヨルグは直接言葉を交わしたことはなかったが(シーリスの後ろに控えて会話を聞いていたくらいだ)、面識はあった。

 早い話が、ここに集う男たちとは明らかに系統の違う【王都の貴族】だった。

 追加でもたらされたシーリスの情報では、ガルーシャ・マライ関係で、その遺品整理を手伝う為に態々この辺境まで自らやって来るということだった。何とも奇特な話である。

 となると当然、その間は北の砦に滞在することになるのだろう。リョウはどうせ団長室だろうから、特別な準備は不要とたかを括った所で、ヨルグは、その第三師団長用に一つ部屋を用意しなければならないことに気が付いたのだ。もしかしたら、やれ汚いだとかやれ臭いだの小言を色々と言われるかもしれない。そのような我儘な男の言葉に一々相手をしなければならないかと思うと面倒なことこの上ない。つらつらとそんなことを思い返して、ヨルグは余計に渋面を作った。


 ヨルグが一人黙々とこれからの算段をしながら食事をしていると、少し離れたテーブルからどっと野太い歓声が響き渡った。大方、限られた情報を()ねくり回して妄想を逞しくしながらお決まりの猥談で盛り上がっているのだろう。若い連中は呑気なものだ。


「さてさて、一体どんなお嬢さまとやらがいらっしゃるってぇのか。こんなのを見た日にゃぁ、卒倒して泡を吹いちまうんじゃねぇか、おい?」

 軽い調子ながらもどこか案じるような面持ちでそんなことを零したサラトフに、ヨルグは、つい、ぽつりと本音を漏らしていた。

「いや、それは問題ない」

 生真面目な態度を崩さず、淡々と言い放った鉄仮面を横目に見て、サラトフは『そんなもんかねぇ』と独りごちたのだが、直ぐに気を取り直すと、何を思ったのか後ろを振り返った。

「よぉ! おめぇら。 隊長たちが帰ってくんのは明後日だ。それまで精々身綺麗にしとけよ! でねぇと副団長のきっつーい地獄の説教部屋が待ってるぜ?」

 サラトフは口元に手を当てて、食堂内に大きく響き渡る声を上げていた。

「【ポーニャル(イェッサー)】!」

 まるで条件反射の如く響いた一糸乱れぬ兵士たちの唱和の中に、

「うっぎゃぁー! そうだったぁ!」

 一人頭を抱えたオレグの悲痛なる叫び声が紛れていた。いや、群を抜いて際立っていたと言ってもいいかもしれない。以前、あれほど注意されたというのに、また洗濯ものを溜めこんでいるのだろう。

 突然、大声を出したオレグは、すぐさま隣にいたセルゲイから『喧しい』とばかりに頭をひっぱたかれていた。

 良くも悪くも変わることのない兵士たちの日常だった。




 それから二日後、噂の主である隊長たち一行が北の砦に着いた時には、砦内の全ての兵士たちが兵舎の前にずらりと整列して、敬礼をしていた。

 キッシャーの上、ユルスナールの前に跨って共に懐かしき北の砦にやってきたリョウは、その光景を感嘆に似た面持ちで見渡した。薄汚れていても同じ隊服をきっちりと着込んだ男たちが一列に並ぶ様は壮観なことこの上ない。

 大きく息を吸い込むと、帰って来たのだという気持ちで胸が一杯になった。

 やはり自分には王都のような煌びやかで洗練された都会の空気よりも自然に囲まれた無骨な片田舎の方が性に合っている。そのようなことを再認識した。

 先に降りたユルスナールに続いてリョウもキッシャーの背から降りた。

「お疲れ様、ありがとう」

 行きよりも確実に重くなったことを申し訳なく思いながら、漆黒の黒毛に(ねぎら)いの声を掛ければ、

『なに、これしきのこと。造作ない』

 キッシャーは貫録たっぷりに堂々と鼻をぶるりと鳴らした。

 リョウは、そのまま馬たちを厩舎の方へと連れて行く積りだった。ユルスナールから手綱をもらい、主を下ろした他の馬たちにも声を掛ける。

 そうして踵を返した背中にシーリスから声が掛かった。

「リョウ、後はエドガーに任せて、あなたも休みなさい。慣れない長旅で疲れているでしょう?」

 どこまでも優しいシーリスの気遣いに、リョウはどこか擽ったそうに苦笑を滲ませた。

「はい。ありがとうございます」

 王都からの帰還の際、リョウはユルスナールたちと行動を共にすることにしたのだ。行きの時はセレブロと一緒にヴォルグの抜け道を通ったので、旅らしい旅をしなかった。セレブロにユルスナールたちと北の砦へ行くという話をすれば、ヴォルグの長は『そうか』と頷いて、一人先に件の古代樹のうろを使って森へと帰って行った。プラミィーシュレの時とは逆になった立場にユルスナールが一人勝ち誇ったような顔をしていたというのはここだけの話である。

 王都から北の砦までは、軍馬で約十日の距離だった。かなりの長旅である。しかも、今回はずっと馬に乗るのだ。まだ騎乗に慣れないリョウは、体のあちらこちら、特に下半身が筋肉痛になって大変だった。

 最初の数日はもう宿屋に着く度にひぃひぃ言って、ユルスナールに苦笑いされながらも(ブコバルは大爆笑だ)尻から太ももの強張った筋肉を解してもらう羽目になったのだ。そして、案の定、そこからめくるめく世界へと突入する為、リョウにとってはなにかと体力を消耗する旅となってしまった。

 リョウは最初、宿屋の板壁が薄いことから駄目だと言ったのだが、一度その気になったユルスナールを跳ね退けることが出来ずにその手練手管に翻弄されることになった。そして翌朝、偶々隣の部屋であったブコバルにニヤニヤとからかわれる羽目になったのだ。

 ―――――昨晩は随分とお楽しみのようで。そんな台詞付きでだ。

 そして、今度はシーリスからもユルスナールはもっとリョウのことを考えるべきだと小言を言われる始末。そんな遣り取りが旅の途中に続いていた。


 さて、それはともかく。

 リョウがキッシャーたちと共に厩舎へと歩いている途中、地面に影が差し、上空から甲高い鳴き声がして、左肩に馴染み深い重みが乗った。

『達者であったか、リョウ?』

 伝令として先に帰還の旨を知らせていたイサークの出迎えだった。

「ただいま、イサーク」

 リョウはとびっきりの笑顔でイサークの羽に頬をすり寄せた。

 すると遥か後方から、

「無事の御帰還おめでとうございます!」

「お帰りなさい!」

「お疲れさまでした!」

 出迎えに出た男たちの唱和が轟き、空気を震わせた。

 後方を透かし見れば、ずらりと居並ぶ兵士たちの前にユルスナールたちが並び、今回の長旅の労いの言葉と王都での活躍を湛えた祝いの言葉に鷹揚に片手を上げて返している姿が目に入った。

 帰って来たのだ。懐かしき北の辺境に。

 ―――――タダイマ。

 一人、心の中で故郷の言葉を音に出してみる。

 こうして戻りつつある日常に、リョウは一人微笑んだ。




 それから厩舎番の兵士たちに挨拶をし、ざっと馬の世話を手伝った後、兵舎の中に戻れば、そこは久々の隊長の帰還に活気に満ちながらも、どこかそわそわとした空気が満ちているように思えた。

 伝令部屋の方へ行くというイサークを肩に乗せて、リョウは勝手知ったる兵舎の中を歩いていた。

 食堂の前を通り、兵士たちが娯楽に利用する(カードゲームをしたり、腕相撲をしたりするのだ)広間のような場所の前を通ると、何やら一か所で集まって、『おおー!』とか『うぉー!』というような興奮に沸き立つ声がしていた。

 リョウがふと気を取られて『なんだろうか』と顔を向ければ、その一団の中心にオレグがいることが見て取れた。オレグは体だけは大きいので、直ぐに分かるのだ。

 オレグたちは、その手に何らや冊子のようなものを手にしていた。思わずじっと観察してしまった所為だろう。外部からの視線を感じ取ったオレグは、リョウに気が付くと上機嫌な声を上げた。

「よぉ、リョウ! やっぱ、おまえも一緒だったか!」

 ―――――なんかちんまい黒いのがいると思ったんだよ。

 相変わらずの調子で白い歯を見せて豪快に笑うと、リョウに傍に来るように顎をしゃくった。

「ちょっ、リョウ、お前も来い来い。いいもん見しちゃる」

 オレグはやたらと上機嫌だ。なんだか落ち着きのない子供のようにそわそわとしている。その周りにいた兵士たちも、皆、にやにやと何やら非常に愉快気な顔をしていた。

 リョウが内心首を傾げながらもその一団に近づけば、周りにいた兵士たちは、『久し振り』『お帰り』と言って、リョウを中に加えてくれた。


 テーブルの上には、所狭しと沢山の薄い冊子のようなものが乱雑に並べられていた。紙を簡単に紐で綴じたような簡易的な作りのものだ。オレグの傍にはお調子者のセルゲイがどっかりを腰を下ろし、その本らしき物を手に何やら真剣な面持ちで(ぺーじ)を繰っている。その周りにいた同じような若い兵士たちのピアザ、モーイバ、ラスコイ、ズィーフなどは、セルゲイの後方から広げられたその手元へ食い入るような視線を送っていた。

「よぉーし、リョウ。このオレグ兄さんが取っておきのお宝を見せてしんぜよう」

 ―――――グフフフフ。

 最後に妙な含み笑いのような声を付けて。オレグの太い腕がリョウの肩に回されたかと思うと、そのまま上がり、その兵士たちの中では格段に細い首を締め上げる。思わず太い腕に齧りついて見上げたオレグの鼻は、何故か膨らんでいた。

 リョウは、とても嫌な予感がした。オレグが大張りきりな時程、碌なことがないからだ。

「おいおい、リョウにはまだ早いんじゃねぇか?」

 オレグよりも3つは上のピアザがちらりと上目遣いにそんなことを言ったかと思えば、

「ばっか言え。これくらいになりゃぁ、男ならこっちの興味は大ありだろが。なぁ、リョウ?」

 その隣からズィーフが訳知り顔で含み笑いをした。

「は………い?」

 リョウは、内心冷や汗を流しそうになりながら、引き攣った笑いを漏らした。

 非常に嫌な予感がした。

「これをご(ろう)じろ!」

 ―――――ジャジャーン。

 そんな効果音付きでオレグが差し出したのは、テーブルの上にあった中の一つで、その表紙には次のような題字(タイトル)が記されていた。

 ―――――【タチアーナの秘密】第7弾 ~夜の密会は庭先で~

「お、それか!」

「大人気のヤツだな」

「入手困難な最新作!」

「そうそう、待ちに待った新作だよ」

 もう一冊、手渡されたものの表紙には、こうあった。

 ―――――【生命の神秘(女体編)】~とっておきの夜を楽しむ為の指南書~

「…………………」

「そうそう、この為にトーリャの兄貴(アナトーリィーのこと)に頼んだんだよ。これを思えば、兄貴にちょっとこき使われるくらい何のその!」

 そんな大威張なオレグの声をどこか遠くに聞きながら、リョウは恐る恐るその冊子の中を開いた。

 見開き一頁目には、どこぞの屋敷の庭先で服を肌蹴させながら絡み合う男女の姿が驚くほど繊細なイラストで描かれていた。

 もう一度言う。リョウは、とても嫌な予感がした。

 そのまま目を隣ページの文章の方へ移してみた。


*****


「まあ、パスカル様、いけませんわ。こんな所で」

 手を強く握った男にタチアーナは恥じらうようにそっと目を伏せた。

「何を言う、ターネェチカ。きみに会いたくて仕方がなかったこの胸の苦しさ。漸く暇を見つけてきみとの時間を捻りだしたと言うのに。随分とつれないことを言うじゃないか!」

 そう言ってパスカルは女の体を引き寄せると、そのなだらかな丸みに合わせて手を這わせた。

「ほら、きみのここはこんなにも正直だ」

 大きな男の手が服の合間に滑り込み、そこにあるたわわな膨らみを………………。



 リョウは無言のままパラパラと(ぺーじ)をめくるとその中をざっと流し読んだ。

 そして、次に手を止めた場所では、書斎の机で書きものをしている男の上に女が乗り、なにやら必要以上に仲睦まじ気な様子で会話をしている場面(シーン)にぶち当たった。


*****


「旦那さま、どうぞお仕事をなさってくださいませ」

 タチアーナの白い頬は今や薔薇色に染まり、切なげにパスカルを見上げていた。小さな唇はぽってりとしてまるで赤い魅惑の【ニィジェーリ】の実のように、男に吸い付いてくれと言っている。

 パスカルは我慢できずにその赤い実に喰いついた。

 始めは驚いたように引っ込んだ小さな舌先が、徐々に男の巧みな誘いに乗り始めた。

 あえかなる吐息に主人はとうとう辛抱ならんとばかりにタチアーナの豊満な身体をきつく抱き締めると、己が膝の上にある柔らかな肢体をまさぐった。



「…………………………」

 もしかしなくとも、これは俗に言う【官能(エロ)小説】というやつだろうか。しかも豪華な挿絵つき。挑発的な絵柄と甘過ぎるほどの愛の囁き。リョウは、なんだか他人の情事を垣間見ているような気分になった。

「うっわ、たまんねぇ。一度は言ってみてぇよなぁ。そんな台詞」

 リョウが無表情のまま(ぺーじ)を繰る傍らで、男たちは大いに盛り上がっていた。勿論、話題は明らかに猥談の方面だ。ブコバルのいう所の【男女間の繊細な機微】というやつだ。いつぞやのユルスナールではないが、お茶を飲んでいたら、確実に吹いていたに違いない。そんな莫迦げたことが頭の隅を掠めた。

 どうやらこの【タチアーナ・シリーズ】は、この国の男たちの間では絶大な人気を誇る出版物らしい。薄い冊子ながら中身は驚くほど繊細で素晴らしい絵が描かれている。緻密な版画に彩色を施したものだろうか。リョウはそこにこの本に注がれた作り手の情熱を垣間見た気がした。だが、その絵はどれも衣服を肌蹴た男女が親密過ぎる距離で睦み合うものだった。

 リョウは、剥き出しになった女(恐らくこれもタチアーナなのだろう)のしなやかな背中を舐め上げている男の姿が描かれている絵を見た。ご丁寧にも繊細な情景描写付きである。要するに男からの甘い責めにタチアーナのよがっている様子がこと細かに綴られているのだ。

「やっぱ女は背中が一番感じるのか?」

 リョウの手元を覗き込んでいた一人の兵士、リャザンがそばかす混じりの頬を緩めながら興味津々に口火を切れば、

「いや、それは違うだろ。足の指の間の方が良いって聞くぞ。ほれ」

 そう言って茶色のくせ毛をぞんざいに撫で付けたラスコイが差し出した(ぺーじ)には、女の小さな足を口に含む男の絵が描かれている場面(シーン)があった。

「うっわ。マジ、ぱねぇ」

「やべぇ」

「たまんねぇな、おい」

 鼻息荒くそんなことを半ば無意識に口走った若い兵士たちに埋もれながら、リョウは酷く冷静になっていた。

 こちらにもこのような【官能(エロ)本】のようなものがあることを初めて知った。しかも、普通に(恐らく…だか)流通をしているようだ。

 発禁のような扱いにはなっていないのだろうか。それともこういうものも娯楽の一つとして認知されているのだろうか。そもそも出版物には中央からの検閲があったりするのだろうか。かつての知識からそのような学問的というか社会学的興味が出てくる。この辺りのことは、ここにいる若い連中よりもシーリス辺りに聞いてみた方が良さそうだと思った。

 それと同時にこれらの官能(エロ)本をざっと見て、リョウは思った。内容は、それこそ扇情的ではあるのだろうが、どれも控え目(ソフト)というか、ごくありふれた男女間の性行為を描写したもののように思えた。奇特(マニアック)な趣味に走ったものはなさそうだ。

 ここにいる若い男たちはこういう本を使って己の有り余る欲求を慰めているのだろうか。これで妄想を逞しくさせているのか。

「やっぱ、後ろからがいいのか」

「俺は断然前からだな」

「いや、お前じゃなくてさ、女の方だよ」

「ああ、顔が見たいってか」

「反応も直ぐに分かるし?」

「同じことだろ?」

 男たちの下卑た、それでも真剣でともすれば切実な会話の中で、リョウはぽつりと漏らした。

「このタチアーナみたいな女の人が、ここでは持て囃されているんですか?」

 いわゆる清純派のようだ。初心(うぶ)な様子でお相手であるパスカルという旦那さまに翻弄されている姿が目に留まる。いやいやと首を振りながらもその実、男の愛撫を受け入れている大人しい女。積極性を見せる娼婦のような感じではない。

「おっ、リョウ、お前もぐっと来たか!」

 オレグはやけに嬉しそうな顔をしてリョウを見下ろしたのだが、そこにあるのは何とも言えないような複雑な顔をした表情で、オレグは思わず訝しげに眉を上げていた。

「あ? なんだ、リョウ、お前にはまだ早かったか?」

「てか、リョウ、お前、なんで、んな平然としてんだよ」

「ねんねには早ぇか、おい?」

 周囲の男たちからのからかいの言葉もそこそこにリョウは、一人、深く考え込んでいた。

 丸顔で肉感的だが均整(バランス)のとれた体つき。出ている所は出て、引っ込むべき場所は引っ込んでいる。そう、あのプラミィーシュレの娼館の女主・イリーナのようだ。

 そこでリョウは不意に疑問に思った。この国の男たちの感覚でいう所の美人とはどういったタイプなのだろうかと。

 これまでリョウは、この国の人々を自分の目線から眺めていた。でも、この国に暮らす彼らには、彼らなりの嗜好や好みがあるわけで、それも厳密に言えば時と共に移り代わるのであろうが、標準的美男美女の定義を知らないことに気が付いたのだ。今更ながらの話である。

「おい、リョウ?」

「あの………」

「あ? なんだ?」

「この国で、いわゆる美女や美男というのは、ここに描かれているような人たちなんですか?」

「あ?」

 それまで真剣な表情に時々にやつきを混ぜながら冊子に夢中だったセルゲイが、顔を上げた。余程、リョウの質問が奇異に映ったようだ。

 そこでリョウは開いた(ぺーじ)、庭先の木陰で熱烈に接吻を交わす男女の姿を描いた絵を差しだした。因みにここでもタチアーナの胸元は気前よく肌蹴け、乳房が片方露わになっていた。

「このタチアーナさんとパスカルさんみたいな人が、理想とする美の基準なんですか?」

 相変わらず小難しい言葉を使うリョウに、周りにいた若い兵士たちが意表を突かれた顔をした。

 リョウは、やけに真剣な面持ちで周囲を取り囲む若い男たちの顔をぐるりと見渡す。

「あー、まぁ……好みってのは人それぞれあるだろうが。まぁ十中八、九、こういう女は美人だってなるだろうな」

 この中でも少し年齢的に上のズィーフが口を開けば、セルゲイが続いた。

「ターニャだろう? 俺は別嬪だと思うぜ? どんぴしゃだな。堪らねぇだろう。この円らな瞳にむちむちとした身体つき。まさに男の理想だな」

 そこに今度はピアザが喰いついたのだが、気が付けば話の筋が外見的特徴から性格の話に変わっていた。

「いや、俺はどっちかっつうともっと小悪魔的な方が好みだな。受身ばかりじゃ、面白くねぇ」

「翻弄されてぇってか?」

 モーイバが薄い下唇を舐めながらすかさず茶々を入れれば、男たちはぐふふと鼻を鳴らして含み笑いをした。

「いいな、おい」

「それも一興」

 一度、普通の空気に戻ったかと思いきや、直ぐに飛ぶように自分たちの好みの女の話に移ってしまった。そして、ワイワイと好き勝手に論議を飛躍させて展開させている。

 リョウは妙な息苦しさを感じ始めていた。そこに漂う男たちから発せられる空気が、なんというか紫に茶色が混じっているような不思議な色合いに思えてきた。

 男たちの関心は当たり前のことだが、専ら異性である女の方にあるようだ。リョウは男の方の基準も聞きたかったのだが、これでは全く当てにならないだろう。

「…………ふーん?」

 リョウは、今度はまた別の一冊を手に取ってみた。【生命の神秘(女体編)第三巻】という御大層な題付けがされているものである。これもオレグ曰く、人気のシリーズであるという。それは見開きの序文から察するに、いかに女性を喜ばせるか(ここでの意味合いは感じさせるかということだ)ということに特化した実践的な技術(テクニック)集のようなものだった。

「…………うーん?」

 中を所々流し読みして思わず不満そうな声を上げたリョウに、隣にいたアンドレイが穏やかな面差しを怪訝そうに変えてその手元を覗き込んだ。

「どうかしたか、リョウ?」

「これって………実際の所……その……あんまり役立たないんじゃないかと思って……………」

「ん?」

 躊躇いながらも思いきって口を開けば、アンドレイが小首を傾げた。

「あ?」

 その脇でピアザが胡乱気な声を上げてリョウを見た。

「だって、女の人ってこういう小技(テクニック)は重要じゃないですもん。男の人と向き合って、自分をちゃんと見てもらいたい、受け止めてもらいたいという方が大きいから。こんな小手先だけのテクニックに走って相手のことをほったらかしにしたら、それこそ本末転倒ですよ。こんなに色々されなくても、ただ抱きしめてもらえるだけでも、十分幸せを感じることが出来ますし。そうじゃないと気持ち良くなるものもならないですよ。要するに、心が重要なんです」

 どれもこれも男の側からの視点に立った征服欲や肉欲を満たすような作りになっていて、リョウは女の側から見るとどうも違和感を覚えざるを得なかったのだ。

 つい女としての本音を吐露してしまった形になったのだが、猥談で盛り上がっていた男たちはぴたりと会話を止めた。そして一瞬、なんとも形容し難い沈黙が落ちたかと思うと、男たちは微妙な顔をして互いの顔を見交わせた。

「なんだ、リョウ。おまえ、やけに知ったような口をきくじゃねぇか。あ? 一体、誰の受け売りだ?」

「そーそー、お前みたいな(はな)垂れに分かるもんかよ」

 ―――――冗談はよせやい!

 前からラスコイの腕が伸びてきたかと思うとリョウの頭の上で止まり、髪の毛をぐちゃぐちゃにかき乱された。

 生意気なことを言っているんじゃないということなのだろう。

「わわわ。ちょっと止めてくださいよ!」

 全く相手にされないことにリョウは地味に傷つきながら、腹立たしげに口を尖らせていた。

「もう! 折角、有意義な助言をしたのに酷いじゃないですか!」

 そんなことを言ってみたとて、男たちは当然のことながら真剣に取り合ってはくれない。

 思わず抗議するようにラスコイの手を取り除けば、

「あ? なんだと、こら」

 ぐしゃぐしゃに髪をかき混ぜていた手が下に降りて、減らず口を叩いた口の直ぐそば、柔らかな頬をぐいと抓んだ。

いひゃい(いたい)!」

「言うじゃねぇか」

りゃすほい(ラスコイ)!」

「でも、そっかぁ、もしさ、リョウの言葉がほんとなら、一理はあるんじゃねぇ?」

「よせやい」

 それからまた喧々諤々(ここで使うのはどうにも間違っているような気がするが)と議論が始まった。こうなるともう興味が尽きるまで延々と続くのだろう。




 そうやって外野が盛り上がっている所で、不意に朗々たる野太い声が辺りに響き渡った。

「おい、てめぇら、なーに沸いてやがんだ?」

 振り向けば、王都からの帰還組が雁首揃えてこちらに向かって歩いている所だった。

 ブコバルを筆頭にユルスナール、シーリス、ヨルグ、そして、客人のゲオルグ(ゲオルグは何食わぬ顔をして、ちゃっかりこの場の雰囲気に溶け込んでいるのは流石としか言いようがない)、それから団体戦に出場したアッカ、ロッソ、アナトーリィー、ヤルタ、グントといった兵士たちの顔が続いていた。

「なんだなんだ?」

 輪の中を覗いたブコバルは、テーブルの上にあった既に手垢が沢山付いている王都土産を目に留めると実に意味深な笑みを浮かべた。

「おーおー、早速、こいつをネタにエロ談義か。こりゃ」

 そう言うとその一冊を手に取ってパラパラと中を吟味する。

トーリャ(アナトーリィー)が買ってきたやつか」

 そこでその土産を買った張本人であるアナトーリィーが口髭の辺りを触りながらやって来て顔を覗かせ、

「ああ。王都でも大人気のシリーズな。こいつは、ほっんと手に入れんのが大変だったぜ」

 何故か達成感たっぷりにいい笑顔を見せた。

 ニヤニヤとした顔付きのまま、ブコバルはそこに集まるまだ若い兵士たちの顔触れを見渡して、そこに巨躯を誇るオレグとアンドレイの間に埋もれるようにして混ざっている黒い頭髪の輩を見つけた。良く見るとオレグに首を捕まえられている。

「あ? なんだ、リョウまでいやがんのか?」

 その然程大きくはなくともよく通るブコバルの声に、王都からの帰還組の兵士たちの顔が、一瞬にして、ピシリと凍りついた。

「ほう?」

 ユルスナールが、小さく息を吐く。ただでさえ切れ長の瞳がすっと細められた。

 ヤルタなんぞは、その微かな囁きのような言葉を拾ってしまい、ぴくりと大きな体に付いている肩を揺らした。

「おやおや?」

 その言葉にそっと前を伺い見るとユルスナールの隣にいたシーリスも実に素晴らしい笑みを浮かべていた。

 そして、ヨルグの眉間には深い皺が寄っては消えた。

 その後ろに控えていたロッソやアッカ、グントたちは、互いに目配せをしながら口元を微かに引き攣らせていた。


 だが、幸か不幸か、集まった若い兵士たちに彼らの動揺は上手く伝わっていなかった。

 そして、ここでも己が道を突き進むのが、ブコバル・ザパドニークという男である。

「リョウ、どうだ? 参考になりそうなもん、あったか?」

 下卑た笑いを浮かべながらからかうような流し目をくれる。

 対するリョウはブコバルの予想に反して、恥じらうどころか、やけに真面目な顔をしてその青灰色の瞳を見上げていた。

 そこで微かに小首を傾げた。

「ねぇ、ブコバル。ブコバルは、これって現実的にアリだと思ってますか?」

 リョウが手にしている指南書なるものを見て、ブコバルは不意にこれまでとは空気を改めた。

「あ? まぁ、そりゃぁ、男の願望だからな」

「そうですよね」

 リョウはなにやら納得したように頷いてから言葉を継いだ。

「あくまでも男の側の妄想に過ぎませんものね?」

 そう口にしたリョウは、傍目には小さく微笑みのようなものを浮かべていたのだが、ブコバルは例の動物的直感と言うやつで、その下に隠されている本当の感情を読み取っていた。

「あ? なんだ? えらく機嫌が悪ぃじゃねぇか」

「いいえ、そんなことはありませんよ。ただ、こういったものを指南書にしているようでは、その先がなんとなく……といいますか、個人的には、非常に心もとないなぁと思ってしまっただけで。でも、そんなことはきっと大きなお世話なんでしょうけれどね」

 ここで何の話をしたのかは知らないが、珍しく、妙に迫力のある笑顔で言い放ったリョウに、

「まぁ、一理はあるな」

 ブコバルは頬をちょいちょいと指で掻いて、お茶を濁すように同意を示した。

「リョウ」

 するとこれまで沈黙を貫いていたユルスナールが口を開いた。その後方にいた帰還組が一斉に肩を揺らす。シーリスとゲオルグは相変わらずニコニコと感情の読めない微笑みを浮かべていた。

「心配するな。お前の要望は後でたっぷりとこの俺が聞いてやろう」

 ユルスナールはそう言って意味深に口の端を吊り上げる。

 無言のまま、両者が視線を合わせること暫し、どこか決まり悪げな顔をして先に目を逸らしたのは、リョウの方だった。

「まぁ、とにかく。ほどほどに」

 リョウは、小さく咳払いをすると手にしていた【タチアーナ・シリーズ】をテーブルの上に置き、そそくさとその場を後にした。恐らく先に逃げたイサークを追って伝令部屋に顔を出す積りなのだろう。



 淀んでいた空気が元の流れに戻るかのように止まっていた時間が動き出す。若干、挙動不審になりながら足早に廊下の向こうに消えた小さな背中を見送って。

 ユルスナールは気を取り直したように団長室へと歩き出した。だが、そこに集まっていた若い連中の傍を横切った際、相変わらず有り余る己が体力を持て余している若者たちに釘を刺すのを忘れなかった。

「オレグ」

 団長から直々に名指しで呼ばれて、下から数えて二番目の若き兵士は、直立不動で敬礼した。

「はい」

「体が(なま)っているなら、後で相手になるぞ?」

 そこで凄味のある笑みを浮かべるとオレグが答えを返す前に颯爽と通り過ぎた。

 その後を何事もなかったかのようにシーリスとヨルグが続き、ゲオルグが愉快気な顔をしながら通り過ぎる。

 そこから少し遅れて、

「終わったな。オレグ」

「骨は拾ってやろう」

「ああ」

「………【ゴースパジ(神さま)】……」

 ロッソ、アッカ、グントとヤルタの四人が形容し難い憐みのような視線をオレグに注いでから後に続いた。

 そこにのんびりとブコバルが加わった。

 事情を知るアナトーリィーは、その本を購入し土産にした張本人であることに一抹の気まずさを覚えつつも、そこにある空気を酌んでか、無言のまま、オレグの肩を軽く叩いてから踵を返した。



 それから。その時の遣り取りの中で隠れていた本当の意味合いを知り、オレグが顔を真っ青にして砦中を揺るがす程の驚愕の声を上げるのは数刻後のことである。

 若き下っ端兵士の運命やいかに!?

 この世界の一観察者である作者としては、【リュークスの御加護があらんことを】と願うばかりである。


(つづく)

相変わらずしょうもないテンションです。思ったよりも話が進みませんでした。

またまた新しく名前の出てきた兵士が沢山いましたね。番外編に入ってからも着実に登場人物が増えています(笑)そろそろ人物紹介の一覧を書き足さないといけないと思う今日この頃。

この続きは次回に。ありがとうございました。

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