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Messenger ~伝令の足跡~  作者: kagonosuke
番外編集
213/232

10)スタルゴラド式健康促進法

時間的には前回の続きのようなものです。

頂いたご感想の中にあった【ヴェーニク】という言葉にオリベルト将軍よろしく天啓が! そうか【バーニャ】があるじゃないか! ……ということで。


「【ボーリィボーリィ(イタイイタイ)ボーリィボーリィ(イタイイタイ)】!! ルスラン、【ストーイ(ストップ)】! 強すぎる~!」

 パシリパシリと何かを打ちつける、乾いた軽い殴打音の最中、飛び跳ねて逃げるような不規則な足音に続いて甲高い悲鳴のような笑い声が広い屋内に鳴り響いていた。


 ここは気の置けない友人たちが年越しの為に集うナユーグ家の保有の別邸から程ない所にある森の中に建てられた丸太の簡素な小屋だ。木々が鬱蒼と周囲を囲む中に同化するように建つ大きな小屋だった。

 今、その内部はもうもうと白い湯気と蒸気が立ち込めていた。室内にはむせ返るような熱気と湿気が充満していた。

 深い森の中にあるその頑丈な木組みの内からは、周囲を取り巻く静寂を打ち破るような賑やかしい声が漏れ聞こえてしまいそうな程に、丸太の滑らかな木肌を震わせていた。

「こら! リョウ、逃げるな!」

「だって、痛いもの。なんでそれで平気な顔していられるの!?」

「このくらい何ともないぞ? それよりこうする方がいいんだ。血の巡りを良くするんだから。お前は血行不良な性質なんだろう?」

 ―――――大人しくこっちへ来い。

 もうもうとした白い湯気の中から現れたのは、がっしりとした体格の良い男が一人。よく発達した肩からしなやかに伸びる二の腕に、艶やかな胸筋が控え目に照らされた発光石の光にしっとりとした細かい粒子を反射して鈍い光を湛えている。

 そこから視線を上げて。太い首の上に繋がる精悍な男らしい顔立ちを縁取る銀色であるはずの髪は、しっとりと湿り気を帯びて鈍色に変わり、後方に撫で付けられていた。

 今、その一筋が額際に零れ落ちている。その一筋がちょうど掠める辺りにある男の切れ長な瞳は、何やら含みあり気に細められていた。

 その男の手には、この国では一般的に生息する樹木である【ベリョーザ(シラカバ)】の枝葉を束ねたものがあった。枝にはわさわさと沢山の乾燥させた青い葉がこれでもかと付いている。まるで大きな【ヴェーイェル()】のようだ。それは【ヴェーニク】と呼ばれていた。

 だが、それは勿論、(あお)いで風を送る為のものではなかった。どちらかというと【はたき】として使用するものである。

 そして、それを手に構えた男の前には、板壁に齧りつくようにして小柄な女が恐々としていた。さっきから必死になって隠れる場所を探しているのだが、元よりがらんとした何もない室内の中に幾らその者が細かろうと(いえど)も、身を隠すような隙間はこれっぽちもなかった。

 いや、厳密に言えば、隣に続く部屋があるにはあるのだが、その一つは外とを繋ぐ入り口に続く場所で、簡素な木の扉一枚とはいえ、ここからそこへ行くには天国から地獄のような温度差が待ち構えているので、そこまでの危険を冒すだけの心の準備もまだできていなかったのだ。

 そのまだ若き少女のように見えなくもない女が後ろで一つに束ねた黒髪は男と同じようにしっとりと濡れそぼり、先程から逃げ回る所為で糸のように顔のあちこちに張り付いていた。それを煩わしそうに指先で撫で付けて、形のよい細い眉をしんなりと寄せながら、全身の毛を逆立てて威嚇する【コーシェチカ(雌の子猫)】のように男を警戒心たっぷりにねめつけた。

 その頬は、しっとりと濡れて艶やかに上気していた。そして、そこから視線を少し下げると、剥き出しになった肩の辺りが薄らと赤くなっていた。

 上半身裸で、下半身も薄い下穿きのようなものしか身に着けていない(要するにほぼ裸も同然だ)男と同じように、その女も薄く透けるような生地の【マイカ(タンクトップ)】に男物の短い下着だけの姿だった。室内に立ち込める蒸気を吸って、その薄い衣もぴったりと身体に張り付いていた。

 そんなほぼ半裸に近い二人が瀬戸際で何やら切羽詰まった(というのは片方だけだが)攻防をしている。

 室内の隅の方には囲いの中に熱々の焼け石が置かれ、そこに打ち掛ける為の水が入った桶と柄杓が備え付けられていた。そして、この室内を埋め尽くすような湯気は、その焼け石に水を掛けることで発生している。

 さて、勘の良い読者の方々には、これで二人がどのような場所にいるかがお分かりになったであろうか。

 ここは、そう、蒸し風呂(サウナ)である。【スタルゴラド】に古くから伝わる伝統的な代物だった。



 年末のこの時期にシビリークス家の人たちと共にナユーグ家の別邸にお邪魔していたリョウは、別荘の直ぐそばの森の中にスタルゴラド式の伝統的な立派な蒸し風呂があるとその家長であるヴィクトル・ナユーグ(ドーリンの御父上である)から聞いたのだ。そして、初めて耳にする【蒸し風呂】という風習に興味津々で食いついた所、ヴィクトルは育ちの良さを思わせるのんびりとした顔立ちにどこか悪戯っぽい笑みを浮かべて、いい機会だからユルスナールと一緒に楽しんでくればいいとその使用を快諾してくれたのだ。

 貴族の別邸には必ずこのような蒸し風呂(こちらではそれを【バーニャ】と呼んでいる)の為の小屋があり、毎年、友人たちが集まるとそこで文字通り【裸の付き合い】なるもの楽しむのだとか。中でもナユーグ家の男たちは昔から【バーニャ】好きが多く、ナユーグ邸の【バーニャ】は近隣の他の貴族の別荘地のものよりも格段に立派で、同じ愛好家には堪らない拘りがあるらしい……ということをブコバルの御父上であるイェレヴァンが何故か鼻高々に言っていたのだ。


 そして、この【バーニャ】には、必ず付いて回る風習のようなものがあった。

 それが、今、ユルスナールが手にしている【ベリョーザ(シラカバ)】の枝葉を束ねたもの、通称【ヴェーニク】だった。

 それは顔が十分隠れるほどの大きなものだ。蒸気で温まった体(裸体だ)にこの枝葉を打ちつけるのだ。そうすると適度な刺激を受けて、血行が良くなるということだった。

 最初は面白いことをするものだと興味津々でいたのだが、実際にその枝葉を打ちつけられた段階になって、余りの痛さにリョウは飛び上がって悲鳴を上げ、その容赦ない【健康促進法】から逃げ回っていたのだ。

 ユルスナールは軽く叩いただけだと言う。リョウの肌が柔らかなことを十分考慮して手加減をしていると。

 だが、初めての経験は何と形容したものか分からないが、ともかくチクチクとして驚くほど痛痒いものだった。

 リョウは、恐る恐る先程叩かれていた肩の辺りを見た。案の定、そこは薄らと赤くなっているように思えた。

「リョウ、まだほんの肩先だけだぞ?」

 そこへやけに口元を吊り上げたユルスナールが声を掛けた。神妙そうな顔を作っているものの、その吊り上がり気味の瞳が、意地悪そうに怪しく光る。これは絶対にこちら側の反応をからかって愉しんでいる風にリョウには思えて仕方がなかった。

「もういいです! 【タァコーイ(そんなに)カリューチィ(チクチクするんだもの)】! 御免こうむります!」

 だが、リョウの必死の抵抗も虚しく、悪魔のように極悪な笑みを浮かべたユルスナールは、大きな枝葉を手にのっしのっしと近づいてきた。

 大きな丸太の板壁を握り込むようにして張り付いていたリョウは、思わずくるりと体を反転し背中を向けて縮こまった。前か後ろかと考えて、本能的にまだ背中の方がマシだという結論に達したのだ。

 板壁に発光石から照らし出された男の大きな影が、まるで怪物のように揺れて伸びた。

「リョウ?」

 やけに優しい声を出したユルスナールにリョウは騙されてはいけないと言い聞かせた。

 これは絶対良からぬことを企んでいる。それなりにユルスナールの性格を知るリョウは瞬時にそう判断した。

「うううううぅぅぅぅ、ルスランぅ……」

 最後は懇願するような情けない声が漏れていた。

 だが、その甲斐もなく、ユルスナールが枝葉の束を振り上げたのが発光石から作られたおぼろげな影で分かった。

 絶対に後でお返しに渾身の力を込めて叩き返してやる。リョウは独り復讐に燃えながら覚悟を決めた。

 そして、衝撃に備えて目を瞑ったものの、何故か思い描いた痛みはなかった。

 その代わりに。

 しっとりと濡れた剥き出しの肌に枝葉の先が微かに触れた。まるで刷毛でなぞるかのように露わになった肩先から薄い衣越しに背中をゆっくりと辿り、そして、脇腹を掠める。

「へ?」

 リョウは虚を突かれた顔をして閉じていた目を開けると、そっと首だけ振り返った。

 その間も枝葉の束を手にしたユルスナールは今にも舌なめずりをしそうな塩梅で、絶妙の距離感を保持しながらリョウの全身を枝葉でなぞっていた。腰から丸みを帯びた尻の辺りを擽り、そのまま太ももを上下する。そして、一度膝裏で止まった後、また太ももの方に戻り、それから一気に足先まで下った。

「ルス…ラン?」

 訳が分からないながらも、くすぐったさにリョウは肩を竦めた。痛くないのは良かったが、これはこれでかなりこそばゆいのだ。

「な……に?」

 今度は尻の辺りをさわさわと枝葉で撫で始めた。

 乾燥させた小さな葉っぱは妙な掻痒感を生む。その何とも形容し難い感覚にリョウは違った意味で悲鳴をあげそうになっていた。

「あ、駄目。くすぐったい」

 リョウは堪らず枝葉を退けるように手を前に出した。

 だが、それも計算の内であったようだ。払い退ける為に伸ばした手をユルスナールの手がすかさず掴み、次の瞬間には向こう側へ引き寄せられていた。

「うわわ」

「さて、捕まえたぞ」

 ―――――容易いものだな?

 してやったりと勝ち誇ったような声がした。


 火照った肌の濡れた感触がして体に太い腕が巻き付いたかと思うと、ユルスナールはそのまま片腕にリョウを抱えて、先程の段状になっている長い椅子があるもう片方の壁際へと足を進めてしまった。そして、再び平らになっている段のテーブルみたいな所にリョウを座らせた。

「さて、大分、横道に逸れたな」

 ユルスナールは枝葉の束を手に仁王立ちしていた。やけに上機嫌だ。

「とても楽しそうですね?」

 リョウは恐々と大きな男を見上げた。

「ああ。愉しいぞ?」

「本当にこんなので血の巡りが良くなるんですか?」

「無論だ」

 リョウはかつて自分が持ち得た常識を思い返して、そんな枝葉でなくともよかろうにとユルスナールの言い分をどこか胡散臭く思ってしまったのだが、それが古くから伝わっている民間療法のようなものだと聞かされれば、それに異を唱え論破するのは中々に手強いことだと思わざるを得なかった。

 何よりもユルスナールがやる気満々なのだ。元より力では敵わない。

「ワタシもルスランにやってあげますからね?」

 ―――――思いっ切り叩いてやるんだから。

 蒸気が立ち込める室内でこれ以上の抵抗は苦しいと観念して、渋々とその板の上に腹ばいになったリョウは、だが、倍返し(と意気込んでも実際の所、物理的には二分の一から三分の一ぐらいの威力しかないだろう)の闘志を燃やすことは忘れなかった。

「ああ。頼んだぞ?」

 だが、当然のことながらユルスナールは堪えた所はなく、却って嬉しそうに目を細めている。

 それから間もなくカサリ、バサリ、バシンという音が響き始めた。




 そして、リョウが荒行を耐え忍ぶ修行僧のような心持でその一風変わった【健康促進法】を体験している最中、入り口に通じる方の扉が開き、ガヤガヤと新たな【バーニャ(サウナ)】愛好家たちが入って来た。

「ねぇ、僕、叩きたい!」

「ユーラ、走るな! 転ぶぞ」

「ねぇ、とうさま いいでしょ?」

「ああ、よくあったまったらな。ほら、用意ができたらさっさと入れ。冷気が入るぞ」

 やって来たのはロシニョールとその二人の息子たち、ユーラとスラーヴァのようだ。

 そして、

「おうおう、やってんな」

 お馴染みのブコバルの声も聞こえてきた。

 一気に四人も増えた訳だが、このナユーグ家特製の【バーニャ(サウナ)】は、大柄な男たちが入っても十分な程の広さがあった。

「あ~、ルーシャ叔父さんずるい。僕もやりたい!」

 もうもうとした湯気の中、先客がいたことに気が付いたユーラがすかさずリョウの元に駆け寄ってこようとして、これ以上、いいように叩かれては敵わないとリョウはぎょっとした。ユーラのことだ。子供ならではの正直さと純真さできっと手加減などしてくれなさそうだ。

 そして、いつになく機敏に逃げの体制を取ろうと腕に力を入れて、白い蒸気が立ち込め視界を塞ぐ中に現れた男たちの方を見たのだが、上半身を起こそうとした所で不意に悲鳴に似た驚きの声を上げてしまった。

「え、ちょっ、何でみんな素っ裸なんですか!?」

 入ってきた男たちは、皆一様に何も身に着けていなかった。子供も大人も生まれたままの姿で実に堂々と立っている。因みに入り口から直ぐの場所は脱衣場のようになっており、火照った体を覚ます為の腰掛けが隅に置かれているのだ。

 リョウは吃驚して慌てて視線を逸らした。

 そこにブコバルの笑い声が響いた。

「あ? バーニャはこれが基本だぞ。なんだ、リョウ、お前知らなかったのか?」

 視線を向けることが出来ないので確かめることは出来なかったが、恐らくブコバルはふんぞり返って、ニヤニヤとからかうような笑みを浮かべていることだろう。そんな尊大な感じがブコバルの声にはよく表れていた。

「なんだ? ルスラン、言ってなかったのか?」

 ユルスナールは薄い下穿きのようなものを身に着けていたから、てっきりそういうものかと思ってしまったのだ。だからリョウも何の躊躇いもなく同じように中に入ったのだ。それに二人だけならば、気にすることなどないかと思った。慣れの問題でもあるだろう。

「ああ、まぁ……な」

「バーニャの中じゃぁ、女も男も裸の付き合いってことだ。いいもんだろ?」

 確かにブコバルならば喜んで食いつきそうだ。

 だが、家族内ならばそれで構わないのかも知れないが、それをこの知り合いの範囲にまでに適用するのは余りにも乱暴すぎないだろうかとリョウは思ってしまった。

 思わず本当のことを教えてくれなかったユルスナールの方を恨みがましい気分で見れば、ユルスナールは、少しバツが悪そうに視線を逸らした後、手にした【ベリョーザ(シラカバ)】の枝葉製のはたき【ヴェーニク】を弄びつつ歯切れ悪く言った。

「まぁ、その……あれだ。お前をいきなり驚かせては不味いかと思ってな」

 いや、いきなり混浴風呂のようなことを、身を持って知らされるのも十分心臓に悪い気がするのだが。

 子供たちだけならまだしも、大人が入って来るとなると………。色々と互いに気まずいと思うのだが。

「ほら、ルスラン、お前も脱げ」

「え?」

 思わずぎょっとした声を上げたリョウにブコバルがニヤニヤとからかうように言った。

「あ? 別に構わねぇだろ? 見慣れたもんだろうが」

「え、でも。それとこれとは……」

 随分と話が違うではないか。

 リョウの動揺を余所に、

「あ~! ルーシャ叔父さん、何で裸じゃないの!?」

 幼い甥っ子のユーラからも指摘されて(どうやら裸でないことは却って可笑しいというか、礼儀に反するようなことらしいのがその声の調子(トーン)から読み取れた)、ユルスナールは肩を竦めると手にしていた【ヴェーニク】をリョウに手渡した。

「今度はお前の番だ」

 そして、あっさりと身に着けていたものを脱いでしまった。

 ―――――【ゴースパジ(オーマイガ―)】!

 やたらと意味深な笑みを浮かべながら、ヴィクトルとイェレヴァンが上機嫌で『楽しんでくるといい』と笑っていたのはこの為だったのか。

 今更ながらのことにリョウは気が付いたのだが、時、既に遅し。この国での初めての【バーニャ(サウナ)】体験は、リョウにとっては想定外のとんでもない風習の洗礼となってしまった。




 これが当たり前なのか、それとも羞恥に関する認識の差なのかは知らないが、中にいる男たちは皆、堂々としていた。逆に意識してしまうリョウの方が馬鹿げているかのようだ。

 【バーニャ】という場所限定なのかもしれないが、いや、そうでなくては甚だ困るが、裸を晒すことは男たちにとっては普通のことであるらしい。

 少なくとも未婚でそこそこ若い女だと自分を認識していたリョウは、自分の存在が男たちの中に羞恥を生むようなものではないことを思い知らされたようで、それはそれで複雑な気分を味わってしまった。


 それはさておき。

 リョウは白い湯気の中でやや挙動不審になりながらも【ヴェーニク】を手に同じように板の上に腹ばいになったユルスナールを見下ろした。

 見慣れているはずの広い背中がやけに大きく見えたのは光の加減の為だろうか。

 ユルスナールは寛いだ風に前で合わせた両手の上に顎を乗せていた。そこで準備万端とばかりに目を閉じている。

「リョウ?」

 ―――――いつでもいいぞ? 仕返しするんだろう?

 閉じていた片目を開いてそんなことを言う。そして、可笑しそうに笑った。

 その一言に、リョウは俄然やる気を出して、先程のお返しとばかりに手にした一抱えもありそうな大きな【ヴェーニク】を振り上げたのだった。




 その後は、スラーヴァ、ユーラの子供たちにブコバルも混じって【ヴェーニク】の叩き合いみたいになってしまった。【ヴェーニク】はとても大きなものでリョウの手には完全に余る。叩くのに力がいるので高音多湿の中では直ぐに息が切れるのだが、何故かその中に参戦する羽目になってしまったのだ。

 こうなるともう本当に子供に戻ったみたいにはしゃいだ。相手が裸であることなど直ぐに気にならなくなってしまったのは現金なものだ。

 案の定、子供たちは大いに騒いで、狙いを付けられたリョウは、気が付けば身体が葉っぱの切れ端だらけになっていた。そして、余りの攻勢に早々に根を上げてユルスナールの体を盾に隠れた。すると分が悪いと思ったのか、狙いを変えて今度は二人がかりでブコバルの体をはたき始めた。子供たちの甲高い笑い声が響き、『まだまだだぞ』などと言うブコバルの囃し声が上がった。そうして収集が付かなくなりそうになった辺りで、最後はロシニョールが父親の威厳たっぷりに息子たちを窘め、騒ぎは収まった。


 こうして最初はどうなるかと思われたリョウの初めての【バーニャ】体験は、思いの外、楽しく幕を閉じたのだった。


しょうもない小話でしたね。失礼いたしました。

ロシア式サウナ【バーニャ】のエピソードです。以前、観たニキータ・ミハルコフ監督の映画【疲れた太陽】(ウタムリョンナイェ・ソンツェ)の中で【バーニャ】を楽しむ家族のシーンがありまして、実に楽しそうに【ヴェーニク】をバシンバシンとやっていました。映画は露仏合作で日本でも上映されていたので、ご覧になった方もいらっしゃるかもしれませんね。私は経験がありませんが、あれは絶対に痛そうだ思いました。

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