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Messenger ~伝令の足跡~  作者: kagonosuke
第五章:テラ・ノーリ
202/232

エピローグ~永久の誓い~

 ―ゴーリカ! ゴーリカ! ゴーリカ! ゴーリカ!


 その日、シビリークス家の庭先では、大勢の人々の声がこだましていた。


 ―ゴーリカ! ゴーリカ! ゴーリカ! ゴーリカ! 


 庭先一面に並べられた長いテーブルの上には様々な御馳走が目移りするほど並べられている。勿論、この日の為に用意された酒瓶もふんだんに並べられていた。


 ―ゴーリカ! ゴーリカ! ゴーリカ! ゴーリカ!


 季節は春たけなわ。木々の緑が真新しい芽ぶきの色に象られ、色とりどりの花々が咲き乱れている。

 燦々と降り注ぐ暖かで柔らかい日差しを目一杯に浴びて、溢れんばかりの生命力に輝いていた。周囲には蝶や虫たちが遊び、小鳥が高らかに歌う。そして何よりも涼やかな心地の良い春の風が吹いていた。

 全てがこの世にある喜びを謳い称えるかのように。

 そして、その祝福をここに集まった人々に与えるかのように。


 この日、シビリークス家の敷地には、大勢の人たちが集まっていた。その多くは軍人だった。スタルゴラド騎士団の正装である淡い灰色の詰襟に身を包み、その腰には長剣を佩いている。その詰襟についている徽章と肩章にある石の色を見れば、その兵士たちの所属先である師団が分かるだろう。その色の殆どは青い色だったが、中には、緑、赤、黄色、水色、紫のものも混じっていた。

 他には上等な衣服に身を包んだ男たちの姿があった。その年齢も若いものから老齢の域に至るまで実に様々だ。その男たちの傍には寄り添うようにして様々な年齢の色とりどりの華やかなドレスを身に纏った女たちの姿があった。そして、真っ白い光沢のある上下に黒や淡い紫、赤という華やかな帯を締めた神殿の神官たちの姿も散見された。


 この日、シビリークス家では婚礼の宴が開かれていた。

 中央の人だかりの奥には、上背のあるがっしりとした逞しい体つきの軍部の正装に身を包んだ男の姿が垣間見えた。艶やかに光る銀色の髪は、丁寧に撫で付けられていた。その男が今回の主役の片割れ、この家の三男だった。

 平生は何かと強面だと評される男の顔は、嬉しさが滲み出るように輝いていた。深い青さを秘めた瑠璃色の瞳が優しく細められている。その視線の先にあるのは、華やかで繊細な刺繍の施された純白の衣装を纏った花嫁の姿だった。

 花嫁が身にまとっているのは、この国に伝わる伝統的な花嫁衣装だ。きっちりと結い上げられた漆黒の髪を覆うのは大きな髪飾りで、色とりどりの石と刺繍が施された華麗なものだった。そこから頭部には白くて長いヴェールが顔を覆うように掛けられていた。所々あしらわれた草花の刺繍は赤や薄紅や紫の花弁を散らし、白いレースがふんだんに使われた清楚な装いに文字通り【華】を添えていた。

 その(ひと)は華奢で小柄だった。たが、女としての成熟した肉体を持っていた。薄いヴェールで覆われたその(ひと)の表情は遠目にはよく分からなかったが、艶やかに引かれた赤い紅が弧を描き、そして、その身体全体からは嬉しさと幸せが滲み出るようにして醸し出されていた。


 そんな二人の新郎新婦に向かって、人々は一斉に声を張り上げた。


 ―ゴーリカ! ゴーリカ! ゴーリカ! ゴーリカ!

 

 集まった招待客の歓声が徐々に高まって行く。

 皆、とあることを期待して待っていた。

 【ゴーリカ】―それはこの国の言葉では【苦い】という意味を持つ。人々が連呼する言葉は文字通り、【苦いぞ!】ということなのだ。

 【ここ】はこんなにも苦くて苦くて仕方がないから、早く【甘く】しておくれ。

 ―二人の甘い口付けで。


 最高潮に達した客人たちの思いに応えるかのように花婿が花嫁の頭部を覆っていたヴェールをそっと避けた。

 そこに現れたのは、涼やかな面立ちの中、幸せに満ちた笑顔で、少しはにかむように伏せられている瞳は髪の色と同じ深い闇を閉じ込めた漆黒だった。その瞳は、今や夜空に輝く星々のように小さな煌めきを宿していた。

 花婿が微笑みながら何かを小さく囁いた。それに答えるように花嫁も小さく笑った。そして囃したてる男たちの野太い声がする方へちらりと一瞥してから、落ちてきた影にそっと目を閉じた。

 待ちに待った【甘味】に招待客からは一斉に歓声と拍手が上がった。

 この日の為に摘まれた沢山の花弁が宙を舞い、幸せの絶頂にある二人を祝福するように降り注いだ。

 方々から祝福の声がこだました。

「おめでとう!」

「おめでとう!」

「お幸せに!」

「羨ましいぞ! コンチクショウ!」

「浮気すんなよ!」

「よっ! 色男!」

「おめでとう!」

 祝辞の合間に野次と共に口笛の甲高い音も混じる。


 長い口付けを解いた後、花嫁と花婿は互いの顔を見交わせると晴れやかに笑った。

「ルスラン! ご感想は?」

 招待客の中から突如として掛けられた声に花婿は艶やかに笑うと、

「言うまでもない」

 そう言って晴れて妻となった愛しい花嫁をその腕に抱き上げた。

 見せ付けるような新郎の行為に途端に周囲からは輪を掛けるように野次が湧いた。

 突然のことに花嫁は驚きならがもしっかりと男の首に手を回した。その際、花嫁の首から下げられた銀色の小さな(プレート)が、日の光を浴びて眩いばかりの光を反射した。

 溢れんばかりの幸せな笑顔の下で輝く、その虹色の光。それは、新しい人生の始まりを祝福する門出の象徴だった。



 (終わり)





***********

 下記、最後のシーンをイラストにしました。これまで一年以上という長きに渡り、本編にお付き合い頂きました読者の皆様へ、kagonosuke よりのささやかなお礼です。もしよろしければご覧ください。

 皆さまの中でのリョウとユルスナールのイメージはいかがなものだったでしょうか。

 作者の中ではこのような感じでした。


 挿絵(By みてみん)

本編はこれにて完結です。最後までお付き合いいただきありがとうございました。この後に番外編集が続いております。もしよろしければそちらもどうぞ。

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