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Messenger ~伝令の足跡~  作者: kagonosuke
第五章:テラ・ノーリ
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策謀の糸

 シビリークス家では翌日の祝賀会への準備が着々と進められていたその日、時を前後してアルセナールを出て、一人、宮殿内の後宮の区画を歩いていたスタルゴラド騎士団第二師団団長スヴェトラーナ・クロポトキンスカヤを呼び止める者があった。

「やぁ、スヴェータ。仕事は捗っているかな?」

 その声にスヴェトラーナは、ほんの一瞬だけ苦虫を噛み潰したような顔をしたのだが、それを瞬時に引っ込めて、珍しく薄らと微笑みを浮かべながら振り返った。

「これはこれは殿下。ご機嫌うるわしゅう」

 スヴェトラーナが振り向いた先には、見るからに上等な衣服に身を包んだ中年の男が立っていた。見た目はどことなく若いが、良く見れば目尻には年相応の皺が刻まれていることが分かる。どちらかと言うと甘さの残る顔立ちには柔らかな微笑が乗っている。淡い金色の緩やかにうねった髪に澄んだ灰色の瞳は、男が醸し出す高貴な雰囲気をいい具合に助長させていた。

 ああ。また、厄介なものに捕まった。スヴェトラーナは内心ぼやいた。

 この男が爽やかな見かけに反して実に【素晴らしい】性格をしていることは、スヴェトラーナもよく理解していた。若干、粘着質で一つのことに固執するきらいがある。そして、このデェシャータク(10日)余り、スヴェトラーナにとっては頭痛の種でもあった。


 この御人、この所、実に計ったかのような間合い(タイミング)でスヴェトラーナの前に現れてはチクチクと遠回しに(要するに宮殿の貴族らしいやり方だ)厭味を口にするのである。相手は国王(ツァーリ)の第二皇子というやんごとなき身の上の為、無碍にあしらうことも、そして正面から口ごたえをすることも出来ず、黙ってただ相手の気が収まるのを待つしかない。スヴェトラーナには苦行の一時だった。

 宮仕えの悲哀たっぷりに溜息を吐きたいのを寸での所で思い止まった。元々こういう陰険で陰湿なやり口は好かない。文句があるのならば正々堂々と真正面から正攻法で来いと言いたい父親譲りの実に雄々しい性格なのだが、生憎、同じ軍人ならばともかく、宮殿内の政治を司る貴族たちは往々にして、スヴェトラーナが常々唾棄して止まない回りくどい方法(アプローチ)を好む傾向があった。

 思えば、この殿下からの執拗な横槍をかわしたいが為にスヴェトラーナの中で事態打開への焦りが生まれ、あのようにリョウに対して強硬手段を取ってしまう結果になったのだった。

 焦りは禁物だ。冷静になれ。呪文のようにその言葉を心の内で繰り返した。

 研いだ刃のように冴え冴えと美しいと揶揄されるスヴェトラーナの顔立ちのこめかみの辺りには青筋が一本立っていた。

 だが、相手はそれに気が付くことなく口を開いた。いや、気が付いていたとしても気にも留めないのかもしれない。

「明日の準備は抜かりないのだろうね、スヴェータ? いや、君が常に仕事熱心で職務に忠実であることはこの私が一番よく分かっているよ。だがね、考えてもみたまえ。明日は特別な日だ。大勢の客人をこの宮殿内に迎えることになる。聞く所によると私の大事な娘エクラータの件はまだ解決していないそうじゃないか。警備は大変だろうが、よろしく頼むよ。こんな晴れがましい日に何かが起きたんじゃ、我々王族の面目は丸潰れだからね。いや、私がこんなことを言うまでもなく優秀な君たちならば、その辺りの事情は当然よく理解していると思うがね。だが、まぁ、ほんのちょっとした確認事項というか、私なりの親切心というやつだよ。気にしないでくれたまえ」

 よくもまぁ、男の癖にぺらぺらと口が回るものだ。

 腹の内では毒づきながらも、スヴェトラーナは見かけ上、神妙な顔をして見せた。あくまでも演技であるが、宮殿内の円滑な人間関係の為には必要なことである。

 スヴェトラーナは恭しく一礼した。

「殿下、後宮での一件につきましては誠に私の不徳の致す所、大変申し訳なく思っております。ですが、引き続き第二師団の総力を上げて事態の打開と真相を究明中です。明日の祝賀会につきましては第一のフラムツォフ共々事前にしっかりと準備をしております。それこそ不審な輩は、鼠一匹たりとて入ることは出来ないでしょう。お約束いたします」

 堂々とした態度で言い放ったスヴェトラーナに、殿下も鷹揚に頷いた。

「そうか、そうか。それを聞いて私も安心したよ。いやね。万が一という場合があるだろう? 不測の事態に備えておくのは軍の基本だ。君が実に軍人らしい心構えで任務に当たっていることが分かって私も心強い。では、引き続き頼んだよ」

 一頻り注意勧告という名の愚痴をぶちまけて気が済んだのか、踵を返そうとしたのだが、殿下は不意に立ち止まると再び振り返った。

「ああ、それから。エクラータの件が進展したら、是非私にも報告願いたいものだね」

 その台詞に殿下が例の一件に並々ならぬ関心を持っていることを再認識せざるを得なかった。

「承知致しました」

 そうして満足したように片手を一振りしてから去って行った第二皇子の背中を、何とも言えない複雑な顔をしながら見送った。

 だが、直ぐにスヴェトラーナは顔付きを引き締めた。そして腹の中に湧き上がりそうになる不快感を小さく息を吐き出すことでやり過ごすと、直ぐに気持ちを切り替えた。


 侍女イーラの不審死の一件については正直な所、暗礁に乗り上げていた。だが、その間、リョウの身辺についてもより詳しい状況が見えてきた。そして、その裏に神殿の神官の影がちらついていることが見えてきた。

 だが、まだ弱い。神官がそのような大それた計画を成功させる為には、宮殿内、もしくは後宮に協力者がいなくては始まらない。その繋がりは、ともすれば切れてしまいそうな程に細い糸だ。神官たちと親密な関係にあるとされる貴族たちの素行を洗い直す必要があった。更に、そこにイーラが絡む余地があったのかということを。

 そして、恐らく、何か目に見える形での変化が表れるとすれば明日、多くの貴族たちが集まる華やかな夜会の場になるだろう。大勢の中に隠れてこっそりと密談を持つにはもってこいの機会だ。

 これが好機となるか、それとも益々、謎の混迷を深めることになるのかは分からない。だが、スヴェトラーナとしては、侍女イーラの死の原因を突き止めたいと思った。いや、突き止めなければならないと思っていた。


 先日、侍女の部屋で妙なものが見つかったという報告がスヴェトラーナの元にもたらされた。スヴェトラーナ自身、それを見た瞬間、顔を顰めた。

 それは、亡くなった侍女が書いたとされる封書だった。後で正式に筆跡の鑑定をしなければならないが、どうも不自然な点があり過ぎるように思えた。内容は、国内で開発中の隠し鉱脈の在りかを伝えるものだった。宛先は不明だが、特殊な暗号文で書かれたそれは、他国へ流す情報に相当すると思えた。

 要するにイーラは間者だった。もしくはその手先になっていた。そんな図式が成り立つような証拠だった。

 事件発覚直後ではなく、それより後になってから出て来たその書簡は、軍人として培ってきたスヴェトラーナの勘から言えば、実に胡散臭かった。だが、それが実際に表に出てきた以上、浮上したその線でも調べを続けなければならなかった。勿論、それがイーラ自身の手のものであるかという確認も含めてだ。

 その報告を受けた時、そんな訳があるかと耳を疑った。スヴェトラーナには俄かには信じられなかった。初めてイーラと顔を合わせた時のことは今でも覚えていた。初めての後宮での仕事に緊張気味の面持ちを見せながらも、凛とした背筋の伸びた立ち姿で挨拶をしたスヴェトラーナの視線を真正面から受け止めた。頼もしい人物が入ったと思ったものだった。

 それに宮殿の奥仕えの侍女になるには、それ相応の厳しい審査があった。まず貴族からの紹介状が必要だ。その出自も貴族が多い。中には、未婚の子女の行儀見習いの為に後宮入りをさせる場合もあった。イーラは下級貴族の出身だったが、品行方正との評判が高く、何よりも国内有数の大貴族イジューモフの紹介だった。イーラを疑うことはその後ろ盾になったイジューモフの面目を潰す事態にもなりかねない。なので、この件はそのことも含めて慎重に運ばなければならなかった。

 また、一介の侍女が軍部で使われるような暗号文字を習得しているのも不可解だった。そのような特殊なものをどこで学んだというのか。イーラの家系の中に軍人になった者はいなかったはずだ。

 百歩譲って仮に、間者であったと仮定した場合、他国と繋ぎを取ろうとした矢先に殺されたというのか。仲間に。それとも………事前に状況を察知した【チョールナヤ(黒き)テェニィ()】にか。国内軍部で影の諜報活動を行うその組織ならば、【黄色い悪魔】を入手することも可能だろう。そして、他の不特定多数の離反者予備軍に見せしめの形で毒草を現場に態と残したというのだろうか。自分たちはちゃんと見ているということを知らしめる為に。

 だが、それならば内々に第二に密かな通達があっても良さそうなものである。今の所あちらからはなんの報せも来ていなかった。【黒き影】は独自の規律を持ち、その活動内容も人員も全てが非公開で闇に包まれてはいるが、同じ軍部の中に数えられている一団だ。必要とあらば繋ぎを取る術を持っている。そこまで閉鎖的な関係でもなかった。

 現時点では埒が明かない。取りとめのない考えを振り切るようにスヴェトラーナは頭を振った。いずれにせよ、明日はこれまで以上に気を配らなければならないだろう。


 そのようなことを考えながら回廊を歩き、後宮がある奥向きと王や貴族たちが(まつりごと)を行う表を区切る緩衝地帯の区画でスヴェトラーナはお目当ての相手、第一師団・団長のマクシーム・フラムツォフの姿を見つけた。

「シーマ」

 同僚の呼び声にマクシームは、振り返ると穏やかな笑みを浮かべた。

「ああ。スヴェータか」

 スヴェトラーナは素早く周囲へ視線を走らせるとマクシームに人気の無い場所に来るように促した。

 そして、表の回廊から逸れ、中庭に通じる細い石畳の道が連なる脇、柱の影になっている所に来るとスヴェトラーナは声を潜めた。

「何か動きはあったか?」

 無意識に眉間に皺を寄せたスヴェトラーナに、マクシームは力みを抜くようにとその肩を軽く叩いた。これではいかにも密談をしている体ではないか。

 マクシームの目から見てもスヴェトラーナは生真面目過ぎるきらいがある。老獪な宮殿に出入りする貴族たちを相手にするには、些か柔軟性に欠けていた。ある程度の所で余力を残しておかないと潰される。もう少し力を抜けと顔を合わせる度にそれとなく言っているのだが、生憎マクシームの助言は相手には上手く伝わらなかった。しかしながら、そのような堅物然りとした性格を差し引いても、マクシーム自身、スヴェトラーナの優秀さは認めていた。

「ああ。どうも内々にこっちに接触を持ってきているな」

 マクシームは当たり障りのない世間話をするように穏やかに微笑んでから、接触を持ってきたという相手の名前を軍部が情報伝達に使う指文字で告げた。

 スヴェトラーナの瞳が剣呑さを増して細められた。

「お前の所を引き入れようというのか?」

「というよりも、話を通しておくという感じだったがな。お前の方にも行っているだろう。調べてみた方がいい」

「忌々しい」

 思わずという感じでスヴェトラーナは吐き出した。影でこそこそと動き回られるのが、スヴェトラーナは一番大嫌いだった。

「再度、買収には応じるなと言っておけ。目先の欲は身を滅ぼす」

 ―まぁ、弱みを握られている場合は、また話が別だが。

 そう言って口の端を吊り上げたマクシームは、普段の穏やかさが嘘のように凄味のある笑みを浮かべていた。

 要するに向こうがそれなりの【袖の下(賄賂)】を持って挨拶をしてきたということだった。高潔を良しとする軍人に対しての侮辱である。こうなるとやはり明日、何らかの動きがあると見た方がいいだろう。

 そして、マクシームがそのような表情を見せるということは、事態はかなりの所まで来ているのだろう。

 久し振りに目にした同僚の本質にスヴェトラーナは、改めて顔を引き締めた。

「ああ。無論だ」

「それから、警備計画に変更はない」

「いいのか?」

「ああ。本当なら、もう一段、引き上げてもいいくらいだが、目立った動きをすると悟られるからな」

 ーだから、それなりの準備をしておけ。

 言外に含まれた台詞を的確に理解したスヴェトラーナは、

「分かった」

 小さく、だが、力強く頷いた。

「じゃあ、またな」

 そして、気分を入れ替えるようにやけに明るい声を出して無駄に笑顔を振りまきながら、第一師団長は影から出ると、己が職務に戻るべく光降り注ぐ回廊の先へと消えた。

 それを見送ってから、同じように第二師団長も踵を返すと後宮内にある第二師団の詰め所に戻ろうと足を一歩踏み出した。


***


 宮殿内の片隅でそのような打ち合わせが持たれたのと同じ日。所変わって、とある貴族の邸宅では、静まり返った広い室内に男の囁きが響いては消えた。

「明日の手配に抜かりはないか?」

「はい」

「あちらからの連絡は?」

「特にございませんのでこのまま進めてよろしいかと」

「そうか」

 室内にある重厚な椅子に一人座るこの家の主は、ゆっくりと長い息を吐いた。気を引き締めていなければ、静かなる興奮に心が浮足立ってしまいそうだった。男のがっしりとした身体の内側では、鼓動がいつになく早鐘を打っていた。それを緩く深呼吸を繰り返すことで宥めていた。

「第一の方は動きそうか?」

「はい。大義があれば必ず。第二の方にも少々協力を仰いでおりますので、そちらの方は問題ありません」

「そうか」

 淀みない部下の報告に男は、豊かに蓄えた髭を摘むと小さくほくそ笑んだ。

 突如として男の目の前に転がり込んで来た幸運があった。それを認識した瞬間、男は天は自分を見放さなかったと歓喜した。

 上手い話には必ず落とし穴が潜んでいるという格言の通り、そのような心配が頭の隅を過らないでもなかったが、それだけの危険(リスク)を冒してまでも、その幸運を手に取ることは実に魅力的に映ったのだ。それに男としてもただ漫然と手を(こまね)いていた訳ではない。それなりに下調べを済ませている。男にはこれまで宮殿内で培ってきた人脈と影響力があった。そして全てを総合的に判断して、男は今回、その話に(くみ)することを決めたのだ。

「将軍たちはいい顔をしないだろうな」

 それは結果として越権行為になり得る男の企みに対してか、それともその内のただ一人のことを念頭に置いているのかは分からなかった。

 男の髭で覆われた口元には自嘲気味な笑みが零れていた。だが、男の濃い灰色の瞳には、抑え切れない興奮が星の瞬きのように現れては消えた。 

 弱気とも取れる男の発言を励ますように室内に佇んでいたもう一人の男がそっと前に出た。長い衣の衣擦れが新たな空気の揺らぎを作り出す。

「とんでもない。これはある意味、あちらにとっても非常事態ですからねぇ。致し方のないことかと。ひっひ」

 室内にいたもう一人の男は、白い簡素な上下に濃い紫色の帯を締め、その上に暗い色の襟なしの外套を羽織っていた。

 この男は、今回、幸運をもたらした使者のような役目を担っていた。【幸運の使者】という言葉がこれほど似合わない相手もいないだろう。天の御使(みつか)いというよりも悪魔の方が相応かもしれない。

 恐ろしく細い男だった。まるで枯れ枝のようだ。だが、ぎょろりとした男の目は爛々とした光を湛え、堪らなく愉快だというように細められていた。薄い唇を湿らせるかのように小さな舌先が舐めていった。それは、それだけその男自身も己が内側に渦巻く静かなる興奮に囚われていることの表れのようにも思えた。

 そして、その特徴的な呼気を弾ませながら掠れた声で言葉を継いだ。

「クロポトキンの所が躍起になっているようですが、まぁ、芳しい成果を上げるには至っておりませんからなぁ。その隙を突く形になりましょうな」

 要するに警備体制の穴を憂慮し、更なる締め付けを行うにはいい機会だと言いたいのだろう。大義としては十分で、こちらの協力の申し出に否なは出ないはずだった。

「上手く行けば貴公の株は上がる。そして我々は望みのものを手に入れる」

「貴殿も中々に知恵が回る」

 ―それにこの男の裏にいるとされるもう一人の男も。

「それ程でもございませんよ。ひっひ」

 吐き出された台詞には、男なりの皮肉が込められていたのかも知れなかった。だが、そのようなことはおくびにも出さずにたっぷりとした顎髭を摩った男に、来客用のソファに腰を下ろした男は、鷹揚に笑って見せた。

 ほんの少し、凪いでいるかに見える水面(みなも)に小石を投げ入れるだけでいいのだ。漣が広がりやがて大きな波紋となって、盤石に見えたものを揺さぶるだろう。

 ほんの少し揺さぶりを掛けるだけで良かった。多くの聴衆を味方に付けられるかはこの男の匙加減に懸かっているのだろう。これはちょっとした悪戯のようなものだと男は思っていた。冗談にして流すには些か性質が悪いかも知れないが、このくらいのことは宮殿内では日常的な範疇と思えなくもない。油断をすると直ぐに足元を掬われる。隙を見せた向こうが悪いということになるだろう。この所、こういった種類の遊び(ゲーム)から遠退いていた宮殿内の貴族たちはこぞって注目することになるだろう。

 そして、今回その標的となったあの男が、ふてぶてしいまでの貫禄ある表情を変え、苦虫を噛み潰したような顔を見せることを思い描いて、男は一人、口元を緩めたのだった。


 それから二・三、最終的な確認事項を話し合って、枯れ枝のように細い男はその邸宅を辞した。

「では御機嫌よう」

 スカもローフ(道化師)のような大業な仕草で慇懃に一礼した【幸運の使者】に主の男は小さく頷いて見せた。

 相手の申し出を全て鵜呑みにしている訳ではない。だが、目的の為に利害が一致したのは確かだった。

 扉の向こうに消えた細い背中を見送って。

「さて、パーティーの始まりだ」

 椅子から緩慢な動作で立ち上がった主は、その場で一つ手を打ち鳴らすと、明日への期待を込めて居間の天井の隅を見上げた。東側の天井と柱が交差する角には、男が信仰するこの国の女神リュークスを模した画が小さな額縁に入って掲げられていた。

 ―【ブラーガ・ザ・リュークス(リュークスの恵みに感謝を)】

 心の中で密かに口にした祈りの文言は、誰に対するものなのか。それは、男のみが知る所である。

 そして翌日、様々な男たちの思惑が複雑に絡み合う中で、この冬最後の催しである華々しき祝賀会が宮殿で開かれることになる。

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