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Messenger ~伝令の足跡~  作者: kagonosuke
第五章:テラ・ノーリ
170/232

泡沫の夢 2)


 兵士たちは人通りの無い小道を選びながら詰め所までの道のりを歩いた。先に先導する兵士の後を付いているのは、三人。イースクラの脇にいた男と方々に助けを呼びに行っていた二人の男だ。兵士は全部で五人いた。二人が担架を手に男の遺体を運び、街の男たちを挟むように二人の兵士が前後に並んだ。そして、最後尾でリョウの腕を掴んでいるのが班長の男だった。一列に並んだ九人の人影。そして横たわる一人。ひっそりと行われる葬儀の行進のようだ。

 道々、誰も口をきかなかった。狭い路地を静かに歩く。まるで長い闇のトンネルを抜けているようだった。どこか重苦しい空気が流れていた。

 そして、一団が第四の詰所前の大きな通りに出た時、辺りを煌々と照らす発光石の光が眩しい程に闇路を辿った彼らの姿を暴き出した。

 リョウも眩しさに思わず目を細めた。そこにある街灯の光は夜間用に抑えられたもので、決して明るい類のものでは無かったのだが、暗い夜道を黙々と歩いていた人々には刺激が強かったようだ。


 第四の詰め所は、石造りの重厚な建物だった。【アルセナール】のどこかお高く留まった澄ました優美さとは異なる質実剛健な印象を見る者に与えた。実用性重視なのだろう。無駄な装飾の無い石壁が続く。そこにこの場所(スタリーツァ)での第四師団の性格が表れているような気がした。


 詰所の中は明るかった。腕に黄色の腕章を付け隊服を身に纏った屈強な男たちが闊歩している。夜勤の兵士たちなのだろう。

 【スタリーツァ】は大きな繁華街を抱えるこの国随一の巨大な街だ。眠ることを知らない賑わいを見せる。特にこの時期は武芸大会が開催されていたこともあり、方々から沢山の見物客が押し寄せていた。そういった客たちが束の間の興を求めて夜な夜な外に繰り出す。その所為か第四師団の兵士たちが処理をしなければならない揉め事やいざこざの類、窃盗事件、傷害事件等も増えており、彼らは日々対応に追われていた。ここでは昼夜問わずに交代で勤務を行い、必要に応じていつでも然るべき人員を割けるようにしてあった。

 詰所の中で擦れ違った兵士たちは、班長に連れられたリョウの姿を見ると皆一様に一瞬だけ動きを止めた。だが、日頃から何事にも動じないようにとよく訓練されているのだろう。次の瞬間にはその驚愕を見事引っ込めて、隣に立つ班長に目配せをする。そして、納得したように小さく頷き合うと再び何事もなかったかのように持ち場へと戻った。

 だが、そのような兵士たちの中でも例外というものは確実に存在した。

 前方からやってきた一人の兵士がリョウの姿を見て、あからさまに野太い声を上げたからだ。

「あ? なんだ、【チョールナヤ(くろすけ)】じゃねぇか。おいおいどうした? そんなえげつねぇ格好(なり)してよぉ」

 のしのしと向こうから大股でやってきたのは浅黒い肌をした一際大柄な男だった。短く刈りあげた薄茶色の髪に灰色の瞳。何よりも特徴的なのは、よく発達した顎とその右目の下に施された紋様のような黒い彫り物だった。

「………ザイーク、さん」

 見知った男の登場にリョウは力なく笑った。そして、その時になって初めて、リョウは自分がどのような状態にあるのかということに意識を向けることになった。

 まじまじと明かりの下で己の格好を見下ろして、まず目に入ったのは、真っ赤に染まった両手だった。

「……あ」

 それを認識した途端、リョウの身体はカタカタと小さく震え始めた。

 両手は乾いた鮮血がこびりついて真っ赤になっていた。後から追いかけるように今更ながらにやってきたのは、恐怖だった。

「大丈夫か?」

 相手の動揺を素早く感じ取った班長は、小さく震える肩を抱くようにして腕を回すとその顔を覗き込んだ。

「取り敢えず、それを落とさないとな」

 そう言ってリョウを別室へと促した。

 あの時は、目の前にいる男を救うことで必死だったが、少し落ち着いて明るい場所に出た途端、あの男を死なせてしまったという重みがリョウの心に重く圧し掛かってきた。

 大変なことをしてしまったと思った。それは、術師という職業が、人の生死に関わることがあるのだということを初めて思い知らされた瞬間でもあった。

 出来る限りの事をした―――それは単なる言い訳に過ぎないのかも知れなかった。この手から零れ落ちてしまった命。そして、それは自分が知る相手でもあった。たった二日前、晴れがましさと嬉しさを滲ませて微かに笑った男の姿に横たわる男の血の気の引いた青白い顔が重なった。

 リョウは思わず口元を手で覆った。その顔には、手と同じように跳ね飛んだ男からの返り血が点々とこびりつき乾いていた。頬の辺りには擦った所為で横に伸びた赤黒い線が幾つも走っていた。

 リョウの動揺を見た班長は、ぼさぼさになったその黒髪を宥めるようにそっと手で撫で付けた。

「お前はよく頑張った。医者がお前の施した処置を褒めていたぞ」

 慰めの言葉が耳を通り過ぎて行った。

 リョウは緩く息を吐き出すと無言のまま小さく頭を振った。あの男を救えなかった。その事実は変わらなかったからだ。

 リョウの目には再び涙が溜まり、眦から流れ出していた。それが頬に付いた血液と混じり、あたかも血の涙を流しているかのように赤く頬を伝っていった。

 鼻をすする。ハンカチを取り出そうとして自分の手に戸惑い、だが、すぐに衣服も血まみれであることを見てとって、もういいかと諦めた。


 そして、リョウが取り出したハンカチでそっと涙を拭う傍ら、ザイークはちょいちょいと小さく指で班長の兵士を拱いた。

 班長は近くにいた別の兵士にリョウのことを注意して見ておくようにと目で合図を送ってから、促されるままにザイークの傍に近寄った。

「ザイーク、知り合いか?」

 血塗れになった若者(リョウ)の姿を見て声を上げた仲間の兵士にそのことを問えば、ザイークは声を低くした。

「第七のルスランの【コレ】だよ」

 そう言って自分の太い薬指を指示した。

「聞いただろ? この間、すげぇ騒ぎになった【アレ】だよ。あの【チョールナヤ(黒いの)】はその相手だ」

「何……だって?」

 班長は、あからさまに驚いた顔をしてまじまじとイサークの顔を見た。

 冗談だろう? 班長の目は雄弁にその心情を語っていた。


 第七の団長がリボンを使って古式に則り求婚をした。武芸大会の後半で、そのような噂が兵士たちの間を物凄い勢いで駆け巡ったのは記憶に新しかった。個人戦の決勝戦を見事勝ちとった後のことのようで、目撃者も多かったらしい。それを目にした人々は仰天し、一時は大騒ぎになったのだ。

 班長自身、それを聞いて驚いた。初めは性質の悪い冗談だろうと思ったくらいだ。第七の団長は多くの兵士たちが尊敬と憧憬を持って接する立派な男だったが、これまでそういった艶聞の類には全く縁がなかったからだ。行動を共にしている相棒のブコバルの方がそういった女性関係は派手で、団長のユルスナールの方は、いつもその陰に隠れる形だった。

 そのような男が衆人環視の中で、堂々と申し込みをしたのだと言う。冷酷そうな情の乗らない顔立ちをした男が、そのような熱い一面を持っていることを初めて垣間見た気分だった。それに噂では男の事ばかりが話題に上り、肝心のその相手についてはよく分からずじまいだった。だが、まぁ普通に考えて相手は同じ貴族の女性であろうと思っていた。

 その予想に反して、ザイークは、なんとその相手がそこにいる若者だと言ったのだ。

 そして、ザイークは珍しく何とも言えないような微妙な顔しながらも、真面目な声で言葉を継いだ。

「ありゃぁ、第七の連中も可愛がってる【チョールナヤ(黒い)コーシェチカ(子猫)】さ。間違いねぇよ」

 何かを飲み込むように大きく溜息を吐いた班長にザイークは更に声を低くした。

「なんだ、事件か?」

 ザイークの切れ長の目がすっと細められた。

「【シェスナーツアッチ(16番の)】の裏通りで男が一人殺された」

「まさか、あいつが()ったのか?」

「いや、どうも違うようだ」

 小さく否定の言葉を口にするとこれまで班長が聞き出した状況を簡単に説明した。

 要するに倒れていた男を発見した街の連中が大騒ぎをして、そこに偶々通りかかった黒髪の若者が手当てをしたということだった。怪我をしていた男の出血が酷く、その時の返り血で、あのような姿になっているのだと。

 一通り話を聞き終えたザイークは、至極神妙な声音で言った。

「早いとこあっち(第七)に連絡を入れた方がいいんじゃねぇ? あいつなら、血相変えて飛んでくるぜ? いずれにせよ、一言、言っとかねぇと不味いだろ」

 ザイークという男は少々型破りな点があるが、れっきとした第四の兵士である以上、己が職務に対してはそれなりに忠実で真面目な男でもあるのだ。

「分かった」

 ザイークの提案に班長は静かに頷いた。

 それから二人は小さく囁きを交わし合うと何からの確認をしたようだった。真剣な面持ちで頷いたザイークは、やがて持ち場に戻るべくその場を後にした。


 班長は、リョウの傍に戻ると涙の跡が赤く滲んだ頬を見て内心眉を顰めながら、取り敢えず汚れた血を洗い流すことが先決だと判断した。身に着けているものもこのままという訳にはいかないだろう。まだ激しく動揺の色が残る相手から話を聞くにも、落ち着かせなければならない。倒れている男を発見したという街の男たち三人衆の方の聴取を先に済ませてしまえば、時間的にもちょうど良いだろう。

 そう考えると、一応、ザイークの言を確かめる為に、本人に直接当たってみることにした。

 班長の問い掛けにその若者はリョウと名乗った。第七の所属かと問えば、自分は術師見習いで養成所に通う生徒であると明かした。そして付け加えるように第七の面々とは訳あって顔見知りなのだと言った。

 それを確認すると班長は傍にいた別の兵士に第七への伝令を頼んだ。

 内容としてはこうだ。リョウという名の若者を預かっているので迎えに来られたし。

 それから今度は当人を別室へと案内した。



 そして、リョウが連れて来られたのは、先を歩いていた三人の男たちが事情聴取を受けている部屋ではなく、簡素な作りの違う部屋だった。

 中はがらんとしている。真中に四角い木のテーブルがあり、丸い背凭れの無い簡素な木の椅子が辺りに点々と散らばっている。端の方には流し台と煮炊きが出来る簡易的な竃が据え付けられていた。給湯室兼休憩室のような趣の場所だった。

 壁際に立てかけられていた盥を手に取ると男が水を汲んで入れた。そして、そこで一先ず色々な汚れを洗い流すように言った。

「ありがとうございます」

 小さく礼を口にしてからリョウは身に着けていた外套と上着を脱ぐとシャツの袖を捲って手を洗い始めた。鞄に入れていた発熱石を取り出し盥の水をぬるま湯に替えた。

「あの、石鹸をお借りできますか?」

 ぬるま湯だけでは限界があった。

「ああ。そこの流しにあるやつを使うといい」

「ありがとうございます」

 石鹸はちびた欠片のようなものだったので、それを大事そうに使った。

 脱いだ外套と上着はあちこちが血塗れだった。特に外套は酷い有様だった。地面に溜まっていた血を生地が吸いこんでしまったようだ。上着の方も点々と飛び跳ねた血液が染みとなって赤黒く変化していた。

 腕まくりをして手を洗う。こびりついた血で直ぐに盥の水は真っ赤になった。

 一度乾いた血は中々落ちにくかった。何度も盥の水を取り替えて、漸く元に近い状態に戻った。それからハンカチを濯いで顔を拭った。剣を引き抜いた際に返り血を浴びたのだ。鏡がないのでよく自分では分からなかったが、生温い血の感触は覚えていて、同じように点々と付いているはずだった。


 リョウを連れてきた第四の兵士は中にいて、静かにその様子を見守っていた。途中、どこからか別の兵士がやって来て、中にいた男に着古したシャツとズボンを手渡して行った。どうやらそれはリョウの為の着替えらしかった。

 一通り、手と顔を洗い終えたリョウに男が言った。

「これに着替えろ。大分大きいかもしれんが、お前のはもう使い物にならないだろうからな」

 そう言って手にした衣服をテーブルの上に置いた。

 よく見ればズボンも血まみれだった。膝を着いた時に血だまりの中に足を突っ込んでしまったらしかった。幾ら夜が更けたとは言え、街灯に照らされた街中を血糊の付いた格好で歩き回る訳にはいかなかった。それこそ殺人鬼のような格好だ。取り敢えずの一時凌ぎ。養成所の学生寮に戻るまでの辛抱だ。

 兵士の配慮をリョウは有り難く受け取ることにした。

「ありがとうございます。お借りします」

 再び礼を口にしたリョウに男が小さく微笑んだ。すると男の眦には小さな笑い皺が現れた。

 その時になって、リョウは漸く自分を連れてきた男の方に意識が向いた。

 男は濃いめの茶色の髪を緩く後ろに撫で付けていた。どことなく品のある顔立ちと誠実そうな雰囲気に既視感を覚えた。そして、ここ数日の記憶を辿って、それが団体戦に出場していた兵士の顔に重なった。

「あの、武芸大会の団体戦に出場なさっていませんでしたか?」

 その問い掛けに男は静かに頷いた。どうやら合っていたようだ。

「ああ。観ていたのか」

「はい」

 そして、手渡されたシャツとズボンを広げてみた。それらはどこから持ってきたのか知らないが、どう考えてもかなり大きなものだった。

「大分余りそうだな」

「そうですね」

 シャツはまぁ袖を捲ってどうにかなりそうだが、問題はズボンの方だ。ベルトで調整してもどうにかなりそうな類のものでは無かった。一本の足の方にそのまま二本が収まってしまいそうな大きさだったからだ。

 目の前でズボンの腰の部分を手に広げたリョウの姿とその手にしたものの大きさを見て取って、それは余りにも違いすぎると思ったのか男が眉を跳ね上げた。

「やはり、そちらはもう少し小さいのを探すとしよう。それでは穿いた途端に脱げそうだ」

「すみません。ありがとうございます」

 男はもう一度ズボンを手に外に出ると別の兵士にもっと小さいものを持ってくるように依頼したらしかった。


「しかし、お前はまた随分と細いな」

 再び部屋の中に入った男は、シャツとズボンだけになったリョウを見ながらしみじみと口にした。

 上半身を誤魔化す上着がないことで薄い肩の線が露わになっていることもそうだが、捲り上げられた袖から覗く腕も細かった。男にとっては目に付いた全てが恐ろしく華奢で細く思えてならなかった。まるで一本の棒切れのようだ。

 リョウの方は何と返していいか分からず、曖昧な微笑みを浮かべた。

 どうやら兵士の男はここで支度が終わるのを待つようだった。リョウはどうしようかとも思ったが、流石に濡れたズボンが気持ち悪くなってきたので、長靴を脱ぐと身に着けていた短剣を外してからズボンのベルトに手を掛けた。着ていたシャツは大きめのものだったので太ももの半ば位までは隠れた。向こうもこちらを男だと思っているようだし、このくらいならばいいかと思いズボンを脱いだ。

 案の定、ズボンに付いていた血の染みは、中にまで浸透し肌を赤く染めていた。リョウはハンカチを絞ると同じように足に付着した汚れを拭っていった。ふとガラス越しに映った己が頭部がぼさぼさであることに気が付き、髪を結えていた紐も取り去った。

 さらさらとした黒髪が突如として存在を主張するように散らばり、肩先で揺れた。それをざっと手櫛で整えた。

 それから何度か盥の水を取り替えて、漸く脚に付いていた汚れも落とし終えた。そして男に背を向ける形で手早く借りたシャツに着替えた。

「お前……まさか……」

 後ろを向いてはいたが、着替えている最中も男の視線を感じていた。それは、どこか観察するようなものだった。未知のものに対する純粋な興味。そのような所かも知れない。

 小さく漏れたその言葉に骨格の違いから相手が自分の性別に感付いたらしいことが分かった。

 やはり男の前で着替えたのは不味かっただろうか。

「すみません。お見苦しいものを」

 小さく目を見開いた男にリョウは静かに笑った。はしたないかとは思ったが、状況的に仕方がなかった。

「いや、済まない。分からなかったとはいえ、こちらこそ不躾な真似をした」

 男は気まり悪げに咳払いを一つした後、さり気なく視線を横にずらした。

「どおりで細い訳だ」

 そして、納得するように一人ごちた。

 それから男は横を向いたまま、淡々と口にした。

「先程、【アルセナール】の第七に使いを出した。その内、お前を迎えにやってくるだろう。それまで少し話を聞くがいいか?」

「はい。構いません」

 汚れを洗い流し、衣服を取り替えてリョウは少しずつ落ち着きを取り戻していた。

「……とその前にズボンだな」

「………そうですね」

 用意された大きなシャツ一枚で所在無げに丸椅子に座ったリョウの姿に兵士は少し狼狽えたように咳払いをすると当たり障りのない笑みを浮かべた。

 それから再び持ってきてもらった先程よりは少し小さめのズボンを履いた。腰の辺りをぎゅうと絞って辛うじて腰骨の所で止まっているという按配だった。だが、それでも無いよりは有り難い。

 汚れた衣類は纏めて鞄の中に入れていた大きな布に包んでから両手で抱えた。汚れた衣類は後で洗濯をする積りだった。付着した血液は中々に落ちにくい。綺麗になればよいのだが、落ちなければ新しくこちらで古着か出来合いのものを調達するほかないだろう。一番多く血を吸いこんだ外套は、もしかしたら諦めなければならないかもしれなかった。



 着替えを終えた後、男はリョウを別室に案内した。

「ここで待っていてくれ。今、茶を持ってこさせよう」

 男はそう言うと再びどこかに消えた。

 随分と慇懃で丁寧になった扱いに、リョウは内心苦笑いをした。女と知れた時点でどうも相手の物腰が柔らかくなったようだ。慣れないことをされて何だか身体の内側がくすぐったい気分だった。


 中は小さな取り調べ室のような場所だった。【プラミィーシュレ】の【ツェントル】の時と似ているかもしれない。簡素な木の椅子が中央に置かれ、端の方に木の小さな机が寄せられていた。窓は上方の天井に近い所に一か所、明かり取りの為に小さな長方形が切り取られていた。今、そこから覗くのは濃さを増した闇だった。

 室内の明かりはかなり抑えられていた。少し薄暗い。それはここが取調室のようなものだからかもしれない。

 辺りはひっそりと静まり返っていた。廊下を歩いていた時は、館内を歩く兵士たちの気配と低い話声が漣のように寄せては引いて感じることが出来たが、一枚木の扉を隔ててしまうとこの場所は小さな音の無い密室へと変わった。

 やがて複数の足音が聞こえてきて、控え目なノックの後、先程の班長の男が部下を連れて顔を出した。部下は別の男たちに事情を聞いていた兵士の一人だった。

 先程の言葉通り、部下の男はその手にお盆を持っていて、その上に乗る小さなカップからは湯気が立っていた。本当にお茶を持ってきてくれたようだ。

 部下の男は慇懃な所作で飲み物をリョウに手渡した。リョウはその心遣いに感謝の言葉を口にしながら受け取った。

 カップの中を一口啜る。温かい液体が胃の腑を回ってじんわりと心にまで浸み渡るようだった。

「ありがとうございます」

 リョウは小さく微笑むと緩く息を吐き出した。

「どうだ、少しは落ち着いたか?」

「はい」

 そこで、やってきた兵士が二人だけでは無いことに気が付いた。二人の黄色い腕章を付けた兵士のすぐ後ろから見えたのは、銀色の髪の頭部だった。そこから徐々に酷薄そうな造形が現れる。だが、いつもは淡々としているはずの表情には収まりきらない焦燥のようなものが滲み出ていた。

 そこで漸く、そう言えば班長が第七に使いを出したと言っていたことを思い出した。

 先程、ザイークと顔を合わせた時に第七との関係を聞かれたが、リョウはただの顔見知りだと答えていた。ひょっとしたらザイークの方で、向こうに知らせるようにと手を回したのかも知れなかった。


「………ルスラン」

 ユルスナールの髪は酷く乱れていた。もしかしなくとも伝令の報せを受けて急いで駆け付けて来たのだろう。額際に薄らと汗が滲んでいた。

 深い青さを内に秘めた瑠璃色の双眸と視線が合う。その時に初めてリョウは肩の力を抜くことが出来た。張りつめていたものが急激に弛緩して、撓んで行くのが分かった。

「ルスラン」

 カップを手に茶を啜る姿を見て、ユルスナールは漸く安堵の息を吐いた。

「リョウ、大丈夫か?」

 つかつかと長靴の底を踏み鳴らして中に入ってきたユルスナールは、リョウの傍に行くとその体をそっと抱き締めた。

 第四の方から【アルセナール】の第七の執務室にリョウを預かっているとの伝令がもたらされた時は、また何かあったかと胆が冷えた。伝令の内容は簡潔な一文のみで、詳しい事は何も書かれておらず、ユルスナールは焦燥に駆られるままに急いで駆け付けたのだ。もしや、また、自分の知らないところで怪我をしたのではないか。そう思うと居ても立ってもいられなかった。

 一先ず怪我をした訳ではなさそうだ。そう思うとほっとした。報せを寄越した第四の兵士にここで最初にそう言われたが、その顔を見るまでは安心などできなかった。

 ユルスナールは第四の二人の兵士に少し外すように目線で頼んだ。それを正確に受け取った班長は、じっと大柄な男にしがみつく小柄な人物を見て取って小さく頷いた。但し、余り時間を掛けないでくれ。そう指文字で付け加えることは忘れなかった。ユルスナールは小さく頷くと音にならない感謝の言葉を小さく口元で紡いだ。


 ユルスナールの顔を見て、リョウの目には再びじわりと涙が浮かんできた。深い瑠璃色の瞳は自分を安心させた。そのことに気が付かない訳にはいかなかった。この男の存在は自分で思っている以上に深く心の中に入り込んでいて、隅々にまで根を伸ばし、精神的な面で大きな支えになっていることを認めない訳にはいかなかった。自分でも気が付かない内にリョウはユルスナールに依存していた。

 そして、一度緩んだ涙腺が再び決壊するのは容易かった。リョウはまるで子供のように泣いた。みっともなく声を上げて。

 ユルスナールは、初めて見るそのような相手の姿に一瞬、驚いて、少し狼狽えた。これまでにもリョウの涙は何度か見てきたが、それは静かに内に秘めた感情を堪えながらの抑制されたものだったからだ。このように声を上げて泣くなど初めてのことだった。

 昔から女の涙に滅法弱かった。たとえそれが自分の所為ではないとしても目の前で泣かれてしまうとどうしていいか分からなくなる。

 ユルスナールは、リョウが座る簡素な木の長椅子に同じように腰を下ろすと震える体を引き寄せ、胸元に抱え込んだ。そして、一連の感情の発露の波が去るのとじっと待つことにした。


 暫くして、落ち着きを取り戻したリョウは、ばつの悪そうな顔をした。

「すみません。ご迷惑をお掛けして」

 その言葉にユルスナールは不満そうな顔をした。

「そんな他人行儀なことを言うな」

「……ですが」

「お前が知らない男の前で涙を流すのは敵わない。俺の知らない所でお前が悲しい思いをするのも耐えられない。せめて傍に居させてくれ。迷惑だなんて思っていない。寧ろ大歓迎だ」

 そう言って小さく笑った男に、

「……ルスラン」

 リョウはどこか呆れたような顔をしながらも、その本心の所では有り難く感じていた。そして、再認識するのだ。この男の優しさと温かさを。

「何があった?」

 その問いにリョウは静かに第四の詰め所に連れて来られた経緯を語った。所用を済ませてから学生寮に戻る道すがら、怪我人がいることを聞き及んで騒がしかった人だかりの中を覗けば、路地の真ん中に血だらけの男が倒れていた。医者が来るまでの間、応急処置の手当てをしたが、その途中で男が息絶えてしまった。しかもその男は、自分の知り合いでもあった。

「武芸大会の個人戦で入賞をした人でした。ルスランも見覚えがありませんか?」

 顎と鼻の尖った縮れた灰色の髪をした壮年の男だ。

 男の特徴を挙げれば、

「ああ。あの男か」

 心当たりがあったのか、ユルスナールは小さく頷いて見せた。

 人の死を間近に見たのはこれが初めてで、気が動転してしまった。それに自分の力が及ばなかったことが悔しくて悲しくて、どうしていいか分からなくなってしまった。取り乱したことを恥入るようにリョウは男の胸に涙の跡が残る顔を埋めた。

「リョウ、上着はどうした?」

 宥めるように大きな手で華奢な背中を摩っている間、ユルスナールはリョウがシャツ一枚であることに気が付いた。しかもよく見れば、それは兵士たちに支給される官給品のようだ。シャツの襟には第四師団の部隊章が隊色の黄色い糸で刺繍されていた。穿いているズボンもそうだ。

「ああ。これはその……手当の途中で汚れてしまったので、お借りしたんです。あのままでは外を歩くには憚られたので」

 そう正直に言えば、

「そのままでは風邪をひく」

 ユルスナールは自分が身に着けていた外套を脱ぐとそれをリョウの肩に掛けた。

 じんわりと包み込むような温かさと覚えのある匂いが鼻先を掠めて、リョウは再び滲みそうになる涙をなんとか堪えた。深く息を吸い込む。

「ありがとうございます」

 その代わりに微笑んで、男の厚意に感謝の言葉を口にしたのだが、その表情はまだどこかぎこちなさの残るものだった。


 頃合いを見計らってか、小さなノックの音がして扉が開き、先程の兵士の男が顔を出した。

「よろしいですか?」

 その声にユルスナールは案じるようにリョウを見た。

「大丈夫か?」

 これから先程の件を話さなければならなかった。

「はい。ありがとうございます」

 しっかりとした声で頷いた相手の姿に班長も大丈夫だろうと己が仕事を進めることにした。

「セイラム。俺も立ち会うが、構わんだろう?」

「ええ。勿論です」

 ユルスナールの提案に、班長もその方が却って有り難いと口にした。

 そして、セイラムと呼ばれた班長は部下を促すようにして、再び、室内に入った。その手には書類とペンが握られていた。

 こうして照明の抑えられた飾り気のない狭い室内に大柄な男三人と小さな一人が集い、簡単な事情聴取が行われることになった。



 リョウは兵士の質問に淡々と答えて行った。そして、それと同時に自分が関わった経緯を時間を追って簡潔に話して行った。

 兵士が手に持つ書類の中には、先に事情を聞いた三人の男たちの証言が書かれているようだった。そして、そこには医者である男の怪我人の傷を改めた際の見解も入っていた。

「あの男はお前の知り合いか?」

「はい。ですが、言葉を交わしたのは数えるほどで顔見知りといった具合です」

「あの男の名は?」

「イースクラさんとお聞きしました」

 それからリョウは、自分がその灰色の縮れ髪の男と知り合いになった経緯を手短に語った。

 最初に出会ったのは【プラミィーシュレ】だった。

「あの【スタローヴァヤ(街の食堂)】の男か」

「はい」

 初めてドーリンと出会った時のことをユルスナールも覚えていたようだ。

 ここ(王都)で出会ったのは、今日を入れれば三度目だ。一度目は神殿管轄の治療院の傍で柄の悪い男たちに囲まれていた時で、自分も何故かとばっちりを受けて巻き込まれてしまったのだ。そして、二度目は武芸大会二日目の救護班の天幕の中。そして、三度目が今日だ。

 勘の良いユルスナールは、一度目の邂逅はリョウが首に怪我を負った時のことだということに気が付いたようだった。

 その時の事を詳しく話してくれと言われて、リョウは覚えている限りのことを話した。

「どうやらその男は厄介なことに首を突っ込んでいたようだな」

 刃先に毒が仕込まれていたことを挙げながらユルスナールが静かに言い放った。

「毒というのは?」

 書類にペンを走らせていた班長が顔を上げた。

「ああ。傷口を塞がり難くする【ヤード】です」

「ああ。あれか。まぁ比較的手に入りやすい一般的な毒草だな」

「はい」

「その時、あの男を取り囲んでいた男たちのことは覚えているか?」

 その問い掛けにリョウは力なく首を振った。

「いいえ。金で雇われたと言っていたような気がしますけど、はっきりとは」

 男たちの顔や姿形はうろ覚えだった。輪郭は既に曖昧で、いかにも荒くれ者というような風体をした男たちだった。きちんと覚えているのは、仲間の中心にいた(リーダー)の男が赤ら顔で髭面だったことぐらいだ。

 そこでリョウは不意に思い出したというように顔を上げて、隣にいるユルスナールを見た。

「ああ。【ルーク】なら知っているかもしれません」

 あの時、ルークとヴィーのコンビに助けてもらって事なきを得たことを口にすれば、

「ルーク?」

 それは誰だというように班長がこちらを見た。

 その問い掛けにユルスナールは、静かに片手を前に出すとそこで指文字を使って伝達をした。どうやらその名を口にするのは憚られるようだ。

 ―――――【チョールナヤ(黒き)テェニィ()】の男だ。

 意外な言葉だったのか、班長は目を見開いた。

「必要とあらば繋ぎは取る。俺が訊いてもいい」

 その申し出に班長は助かったという顔をした。

「そうして頂けるとこちらとしては助かります」

 その名の通り、この国の影の諜報機関である【チョールナヤ(黒き)テェニィ()】は、軍部の中でも特殊な位置づけをされていた。それを取りまとめる長は【アタマン】と呼ばれ、その構成人員は秘匿事項とされていた。同じ軍部と雖も、余程の伝手がなければ繋ぎを取ることは出来ない相手だった。

 それからリョウは、手当ての為に男を神殿管轄の治療院へ連れて行ったと言った。そこに詰めている神官とはその後も親しげに話をしていたことも付け加えた。

「その男はここ(スタリーツァ)で何をしていた? 何か聞いているか?」

「武芸大会に参加されてました。個人戦では入賞していましたよ」

 その言葉に班長は意外そうに眉を跳ね上げた。

「ということは剣の腕は立つんだな」

 そう言いながら書類を捲って、中にある報告に目を走らせた。

 そこで眉間に皺を寄せた。

「大きな太刀傷が左の太ももに一か所。左の肩に一か所。左胸に一か所。それに無数の浅い切り傷。致命傷となったのは恐らく太ももと左胸で、死因は大量に血を失ったことによる失血死だろう……というのが医者の見解だ。後で軍医にも診てもらうが、恐らく同じ結果になるだろうな」

 相手は複数か。いや一人の場合もあるだろう。あそこは狭い路地だった。あの界隈の光景を思い浮かべながら班長は内心首を捻った。単なる強盗の類にしては傷が多過ぎる。では暗殺か。いや、明確な殺意があったとしてもあれだけの傷を負わせておいて止めを刺していないのは随分とお粗末だと思った。助けを呼んだ男たちの話を聞く限り、その傷を負わせた相手を見た者はいなかった。

 それから班長は徐に視線をリョウに移した。

「手当てをしたのはお前だそうだな」

「はい」

 目を伏せたリョウに班長は小さく微笑むと息を吐き出した。

「お前の処置は的確だった。傷口は完全に塞がっていて、出血も止まっていた。医者が目を丸くしていたぞ。大したものだと」

「いえ」

 それでもあの男を救えなかったことには変わりはない。顔を俯けたリョウに尚も男は言葉を継いだ。

 それは諭すような声音だった。

「あの男はそれまでに血を流し過ぎた。お前が殺した訳ではない。あの男を救えなかったことをお前が気に病む必要はない」

「……はい」

 それは客観的な正論かもしれない。だが、リョウの中では割り切れないものがあるのも確かだった。

 ユルスナールからも同意を示すように抱かれた肩に力を込められて、リョウはこの場では素直に頷くしかなかった。


「他に何か知っていることは?」

 停滞しそうになる空気を変えるように話題を変えられて、それからリョウはあの男のことで思いつく限りのことを語って聞かせた。

 男には血を分けた子供が二人いて、行方不明になったその子供たちを探して旅をしていたということ。そして、もうすぐその手掛かりが掴めそうだと言っていたことなどだ。

 そして最後に謎めいた言葉を残されたことを明かした。

「【ユプシロン】に気を付けろ?」

 ユルスナールと班長はそこで顔を見交わせた。

「はい。聞き取れたのはそこまでで……」

「一体、何の話だ?」

「分かりません。神殿の神官に関係があるとしか……」

 どうやら【ユプシロン】という言葉は、軍部の人間には広く認識されている言葉らしかった。

「分かった。後でその治療院の神官にも話を聞くとしよう。何か知っているかも知れないからな」

 話が思わぬ方向に進んで、班長はこれは思ったよりも複雑な事件かもしれないと思った。

 単なるゴロツキとの喧嘩や傷害致死事件とは違う可能性が出てきた。しかも神殿が絡んでいるかもしれないのだ。武芸大会に入賞したと聞いてその時の報奨金目当ての物盗りの犯行かとも思ったが、男の着衣を改めた際に懐から金貨が出てきたのでその線も薄くなった。

 もう一つの線としては、人身売買をしている闇の組織から制裁を受けた可能性もある。スタルゴラドでは奴隷や人身売買は公には禁止されているが、その網の目を掻い潜るように闇の世界では取引がなされていた。借金で首が回らなくなった者やその家族の中で特に見目のよい若い娘がいれば、娼館や金持ちに売り飛ばされたりした。

 行方知れずになった子供たちを探していると聞いて浮かんできたのはそのようなことだった。

 だが、そこに神殿の神官が絡むとなると分からない。神官の中にそのような闇の経路(ルート)から人を買ったものがいるのだろうか。そうなると捜査は困難を極めるだろう。

「警告……のようだな」

 これまでの話を聞いて、じっと考えるように虚空を睨んだ後、ユルスナールが言った。

「だが、誰に対するものだ?」

 その問いに対する答えは誰も持っていなかった。

「さぁ」

 リョウが力なく首を横に振った対面で班長も肩を竦めた。

 神殿はその歴史も古く、宮殿と並ぶ権力を持ち、多くの秘密を抱えた組織だった。男はそこで何かを探っていて、向こうの逆鱗に触れて報復を受けた。若しくは口を封じられた。これまでの話を総合すればそのような図式も考えられた。だが、それはあくまでも推測で、その裏を取るのは非常に難しいことのように思えて仕方がなかった。

「いずれにせよ。事があちら(神殿)に及べば、こちらでは手も足も出ませんからね」

 神殿には治外法権的な権力があって、おいそれと第四の兵士が介入することは出来なかった。

 そうなったらお手上げだとばかりに肩を竦めた班長に、

「だろうな」

 ユルスナールも合槌を打った後、小さく口の端を吊り上げた。

「だが、まぁ、やり方はいくらでもある」

 そう言うと、こちらはこちらで伝手を使って調べてみようと言った。その伝手というのは、もしかしなくともシーリスとレヌートの繋がり(ライン)だろうか。


 その後、一通りあらましを聞き終えてから、リョウは漸く解放された。

 班長に借りている服は洗濯をしてから返すと言えば、それは古いものだから好きにして構わないと言われてしまい、少し困った。

 そこでユルスナールは苦い顔をして見せた。

「そんなのを着ていたら、今度は第四の兵士だと思われるぞ?」

「それはいけませんね」

 リョウは苦笑いをした。それは流石に御免だったのでやはり洗って返すことに決めた。

「着るものくらい買ってやる」

 突然被せるようにして出てきた男の提案にリョウは目を瞬かせた後、少し困ったように笑った。

「大丈夫ですよ。ワタシにも持ち合わせはありますから」

「そのくらいさせてくれてもいいだろう?」

「いいえ。そう言う訳にはいきませんよ」

 口調は柔らかいが、そこにはきっぱりとした否定の意思が表れていた。

 これまでユルスナールには色々と世話になっていた。理由もなく何かを買ってもらうのは憚られた。

「何だ、俺の楽しみを奪うのか?」

「楽しみって……何の話ですか?」

 飄々とそんな軽口を叩いたユルスナールにリョウは少し脱力した。

 そこから何故か妙な甘さを帯びてずるずると脱線しそうになった空気を前に、第四の二人の兵士は居心地が悪そうに身じろぎし、どうしたものかと目配せをし合った。

 部下からの必死な信号を受けてか、班長が態とらしい咳払いをした。

「聴取は以上です。ご協力ありがとうございました」

 それは取ってつけたような台詞だったが、二人の注意を引き戻すには十分だった。

「いえ。こちらこそ。色々とお気遣いありがとうございました」

 穏やかな口調で丁寧な礼を述べたリョウに班長はそっと微笑んだ。

 小さく頭を下げた時、相手の癖の無い黒髪が艶やかに流れ落ちた。そこにあるのは紛れもない成熟した女の顔だった。

 そして再び、視線を横にずらして。その隣にいる強面と揶揄されることの多い男の表情が緩み切っているのを見て取って、班長は成る程と妙に感心したのだった。というのは、また別の話である。


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