とある男の執念
暫し休憩を挟んで、午後から個人戦の試合が行われることになった。
昨日から続く激戦を勝ち抜いたのは、七名の男たちだった。そこに今年も引き続き参加をすることになった去年の個人戦上位者八名を合わせた総勢十五名での戦いとなった。残っている番号札は、16、43、69、115、173、201、232の七名分と昨年の上位八名には、個人の名前が記された木札が用意され、前者七名の番号札と一緒に抽選の木箱の中に混ぜて入れられた。そこで大会運営の兵士が、木箱の中に入っている木札を順に引いて行き、対戦をすることになる番号、若しくは参加者の個人名を呼び上げることになった。そして、その結果を掲示板の所に控えている書記係の兵士が、大きく張り出された真っ白な布の上に手書きで記して行った。上段の方が第一会場、そして下段の方が第二会場で行われる試合のようだ。
この対戦者の発表もある種の名物のようで、掲示板の周りに集まった多くの観客たちは、対戦者の名前や識別番号が呼び上げられる度に意味があるようなないようなどよめきの声を上げていた。そして、掲示板の前に集う出場者たちの錚々たる顔ぶれを遠巻きに眺めながら、誰が勝つとか負けるとか、誰を応援しているとか、誰が一押しだとか、そういう類の予想をそれこそ唾を飛ばしながら熱く語り合っていた。
リョウは、ヤステル、リヒター、バリースの三人に合流して、発表される対戦者の組み合わせの行方を追っていた。最初、リョウの姿を見た三人は、皆一様に仰天したが、治療の時の怪我人の血がうっかり付いてしまったことを説明すれば、それで納得し、胸を撫で下ろしたようだった。
「あ~、そういや、アレはちょっと凄かったよな」
先程の男たちの試合を観ていたのだろう。ヤステルが嫌なものを思い出すように顔を顰めていた。
「アレは酷かったよね」
「確かに。アレはないよなぁ」
その隣でリヒターとバリースの二人も後味が悪そうな顔をして見せた。
「その人は大丈夫だった?」
心配そうにリョウの方を振り返ったリヒターに、
「ああ。ちょっと傷口は深かったけど、多分、大丈夫じゃないかな。止血は上手くいったし。あの中には立派な軍医も詰めているし、神官や街の術師も揃っているから」
リョウは天幕での様子を少しだけ話した。
その時の怪我を負わせることになった相手の対戦者は、あの中に残っているのだろうか。話の流れからそんなことを思って三人に話を振れば、三人は思わず顔を見交わせた後、声を一段と低くした。
「あんまりこんなこと言いたかないけどさ」
口火を切ったヤステルは、そう前置きをしてから、ちょいちょいと指先でリョウに顔を寄せるように促した。そして、少し躊躇うように喉を鳴らしてから、近づいた頭一つ分は低い耳元に小さな囁きを吹き込んだ。
「ほら、あの中にいる左側から、えーと、ひいふうみい……と五番目の後ろの方にいるヤツ。どうもいい所のお貴族様らしくってさ。鼻持ちならない感じなんだよな。居丈高っての? 近くで見てた兵士の人たちなんか、あれは絶対態とだなんて言ってたし。剣の腕は立つらしいんだけどあれじゃぁなぁ。胸糞わりい」
ヤステルの言葉通り集まった剣士たちを目で追って、その該当者と思われる人物を認識し、リョウは思わず眉を顰めて直ぐさま視線を逸らした。
そんなことがあるだろうか。リョウは思わず口元に手を宛がっていた。
それから、ヤステルの言葉は耳を素通りしていって頭の中に入ってこなかった。
何故なら、そこにいたのはあのレオニードであったから。
相手をねじ伏せる為であれば手段を選ばない。【プラミィーシュレ】での苦い個人的な経験を思い出さずにはいられなかった。あの時、もしかしなくとも一歩間違えば、自分は無傷では済まなかったということに今更ながらに思い至ったのだ。あの男の言った通り腕を一本失うことになったかもしれなかった。いや、若しくは最悪の場合、殺されていた可能性もあったのだ。そこまで考えてリョウはぞっとした。
「リョウ? 平気かい?」
急に顔を青くしたリョウにリヒターが心配そうに声を掛けた。
「あ、ああ。大丈夫」
急遽、悪夢から呼び覚まされるようにしてリョウは我に返ると何でもないと笑った。だが、その笑みは、周囲の三人の友人たちから見ても、どこかぎこちなさの残るものだった。
「……ユルスナール・シビリークス……次に……」
その時、不意にユルスナールの名前が対戦を発表する兵士から呼び上げられて、リョウはすぐさま掲示板の方に意識を戻し、注目した。
ユルスナールの相手となるのは前年の上位入賞者の男だった。同じように名前が呼び上げられていたからだ。最初に当たるのが、あのレオニードでなかったことにリョウは内心、安堵の息を吐いていた。
抽選の結果、ユルスナールの試合は、第二会場の第四戦目、この回最後の試合になった。
掲示板の前に居並ぶ男たちの顔触れを良く良く見渡せば、何とイースクラと呼ばれていたあの灰色の縮れ髪の男の姿もあった。試合開始当初の三十余名からよくぞここまで残ったものだ。軍部に所属をしている訳でもない傭兵のような風体の、周りの参加者たちに比べても些か年を重ねていると思われるあの男が、何を目指しているのか、何を望んでこの大会に出場しているのかは、分からなかったが、出来る限り頑張って欲しい。掠るような出会いでしかなかったが、あの男に対してリョウはそんなことを思った。
何故か、あの恐ろしく無口な壮年の男に妙な親近感に近いものを抱き始めていた。
それから、リョウは一旦、天幕の方に戻り、スタースに断りを入れてから観戦に出掛けることにした。その時に時間があれば、衣服にこびりついた血糊を拭っておこうと思った。流石に自分のものではないとはいえ、べったりと血液の付いた服のままでうろうろする訳にもいかないだろう。あらぬ誤解を生むかも知れないし、擦れ違う人々にぎょっとした顔をされるからだ。あの運び込まれた男の容体も気に掛かったが、ユルスナールの試合だけは大目に見てもらえないだろうかと密かに希望的観測を試みたのであった。
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沸き立つ歓声の中、男は静かに対戦者として対峙する相手を見据えた。相手は、軍部の兵士だった。男よりも一回り、いやともすれば二回りは若いかも知れない。この国の兵士であることを表わす平時の軍服にその右腕にはその者の所属を表わす水色の腕章を巻いていた。そして、その左腕には目にも鮮やかな明るい黄色のリボンが吹き込む風に揺らいでいた。
個人戦二日目、昨年の上位入賞者を交えての組み合わせ抽選後の初戦を迎えていた。
ここでこの若者に勝てば、男の上位十位内入賞は確定する。若かりし頃に比べて反射神経も俊敏さも落ちた肉体に鞭を打って、漸くここまで漕ぎ着けた。正直な所、男自身このような所まで勝ち進めるとは思ってもいなかった。ここまで順調にという訳でもなかったが、勝ちを重ねることが出来たことに男自身が一番驚いていた。これも己が執念のなせる業なのだろう。
約二年前、この国の西域の辺境にある小さな寒村を起点として始まった男の旅は、ここに来て一つの転機を迎えようとしていた。行方知れずになった娘と息子、二人の双子の消息を尋ねてとうとうこの国の中心である王都にまでやってきた。そして、この場所で手掛かりとなる情報を手にすることが出来たのだ。それはふらりと寄った安い場末の酒場で耳にした噂だった。
二つ前の春に、王都にある神殿では先読みの儀式が行われ、その時に何でも黒い色彩をその身に持つ人たちを集めていたという話だった。その頃には実しやかに大々的なお触れが出て、黒髪、黒い瞳、黒い肌、そのほか黒い鉱石でもいい、【黒】という色彩に特化したものを神殿が集めているという内容だった。何でも儀式を行う際の重要な学術的研究の一環として【黒】という色に拘りがあったようで、協力を申し出てくれた人々には相応の謝礼をするというようなことが言われていたのだとか。その甘い誘いに乗った、若しくは乗せられた輩がいたのだとかいないのだとか。
元々この国の純粋な血統としては黒という色彩を髪や瞳に持つ者はいなかった。西に位置する隣国であるキルメクの民の血を引くものならば違ったのかもしれないが、国内ではそう簡単に見つかる訳でもなかったらしい。一時は謝礼欲しさに、態と子供に髪を黒く染めさせたり、かどわかしのような事件も起こったのだとか。
どうやってあの西の果ての小さな寒村から双子がこの王都にまでやってきたのか、その足取りを追うことは出来なかった。だが、その噂を耳にした時、確かめてみる価値があると男は判断した。そして、翌日から早々に噂の真偽を確かめるべく、男は聞き込みを開始した。
運良く、何代か前に西域の血が混じり、他に比べても黒に近い焦げ茶色の髪を持つという男から、当時の様子を聞くことが出来た。男は人よりも髪の色が非常に濃かったので、噂を聞いた後、試しに神殿に行ってみたのだという。そこで同じように謝礼金欲しさにか、神殿前に集まった人々を見掛けたということだった。そこで、男は真っ黒でうねる様な縮れ毛を高く結い上げた飴色の肌をした年若い女を見掛けたと話した。どうやら、その女性は男好みの美人であったらしい。尖った鼻を持つ気の強そうな女だった。だから、よく記憶に残っていたのだそうだ。そして、その隣には、体格の良い黒い瞳を持った若い男が並んでいた。こちらの男もその肌は良く日に焼けて浅黒かった。集まった人たちの中でもこの二人の色彩は見事であったようで、男はそれを見て自分には用事が無かろうとそのまま取って引き返したのだと話した。それが、約二年ほど前の春先のことだった。
身体的特徴から見ても、その男が見掛けたのはあの双子であろうと男は思った。そして、その後の足跡を辿ろうと儀式に関することを聞き回っているうちに、何ともおぞましい噂に行き当たったのだ。
それは、若い頃に神官をしていたという呑んだくれの老人の話だった。その昔、神官であった老人は戒律を破って酒に嵌り、そのままお役御免になったのだという。
その老人は、とある酒場のカウンターの片隅で震える手を誤魔化しつつグラスに薄く入れられた安酒をちびちび舐めるようにして楽しみながら―――それが今や唯一の老人の楽しみらしかった―――二年前に行われたという儀式について知りたいと言った男に、皺だらけになった目を細めながら無言のまま酒手を要求した。
そして、カウンターの店主にこの老人へ酒を注いでやるようにと注文を出した所で、漸く喉の奥を鳴らして言った。
「いやいや、すまないね。お前さんが聞きたいってのは神殿の話かね?」
老人が吐く息は、様々な酒の臭いが入り混じっていた。
その質問に男は再び、自分が知りたい内容を口にした。
「ほうほうほう、儀式の話しかね。それも二年前の。悪いこたぁ言わない。お前さん、それ以上は止めておいた方が身のためだ。あれは……いやはや、実に恐ろしいもんだった」
老人は、そこでグラスの中身をぐいと一気に呷り、口を噤むと促すように男を見た。
先程の一杯では、どうもそこまでしか話す積りが無いらしい。男は内心腹立たしく思ったが、店主から瓶ごと酒を受け取ると差し出されたグラスにもう一杯注いでやった。それも気前よく並々とだ。
「恐ろしいとはどういうことだ?」
低く問いを発した男に、老人はちらりと己がグラスを目の端に捕らえてから些か大げさとも思える仕草で身体を震わしていた。
「そりゃぁ、恐ろしいもんに決まってる。あそこは閉じられた世界だ。お前さん、分かるかね? え? 想像してごらんなさい。小さくて狭い中にぎゅうぎゅうに押し込められているとそのうちそれが当たり前になってくる。毎日目にするのは精気の無いどんよりとした男の顔かギラギラと欲望に飢えた男の顔だ。何が普通で、何が当たり前だったか、そんな人並みな感覚すらぁ分からなくなっちまって、恐ろしいことも平気で行うような神経になるのさ」
そこで老人は、なにかにおびえるようにぎゅっと首を縮込めて見せた。
核心に入ることなく、どうもお茶を濁したように周辺をうろうろする老人の話を男は辛抱強く待った。
そして漸く巡り巡った男の話が核心に入った。
「いいかい」
男はそう言うと、周囲を気に掛けるように素早く―――と言ってもこの老人なりの素早なので男には緩慢な動作に見えた―――辺りへ視線を走らせてから、身体を縮込めるようにして男を見た。
「二年前、それこそ妙な噂が立ったのさ。それも恐ろしい噂がね」
不意に黙り込んだ老人に男は目線だけで続きを促した。
「元々、ああいう儀式っていうのは秘密裏にひっそりと行われるもんで、高位の神官たちしか知らないもんなんだが、その時は、どうしたものか妙な噂が流れたんだよ」
そこで老人は言葉を区切ると男の目をじっと見た。
「あの儀式は通常とは違う特別なもんだった」
老人の視線が空になったグラスに注がれて、男は仕方なくもう一杯、並々と注ぎ入れた。
それを横目に確認してから、老人は一段と声を潜めると聞こえるか聞こえないかの小さな掠れた声で言った。
―――――――捧げられたのさ。贄として。神託を得る為の対価だ。
その言葉に男は動きを止めた。
「贄とはどういうことだ?」
言葉の意味合いに齟齬があってはいけないので、男は慎重に口を開いた。
それ程広くはない酒場の薄暗い店内、年季の入ったカウンターの片隅でいかにも薄汚れた酔っ払いの老人とその対面には傭兵風の強面の男が真面目な顔をして相対する。それは傍目には酷く不釣り合いで滑稽にさえ見えただろう。だが、宵の口、場末の酒場でその奇妙な二人の組み合わせに注目をするような客は、この中にはいなかった。
老人は年季の入った赤ら顔をつるりと撫でた後、小さな背中を丸めてせわしなく周囲に視線を走らせた。それは神経症を患う患者のようにも見えた。
琥珀色の液体が半分に減った所で、男は再び老人のグラスに酒を注いでいた。
「そのままの意味さ」
そう言うと、老人は宣託を得る為には対価が必要で、それが大きければ大きいほど下される宣託も精度が増すのだと続けた。対価として最たるものは、【命】である。神殿に祀られている女神リュークスは、【黒】に執着している。その為、【黒】という色彩を持つ人間が一番相応しいのだ。
男は老人の言葉を信じるかどうか迷った。どこからどう見ても酔っ払いの与太話のようにも思える。だが、何故か男にはそれを一笑に付すことは出来なかった。
神殿が宣託を得る儀式の為に関係の無い人の命を利用する。男は実際にそれがどのようにして行われるのかについては想像が付かなかったが、それが事実ならば、とてもおぞましいことに思えた。そのようなことが果たしてあるのだろうか。もし、この老人の話を信じるならば、あの双子たちはその為に殺されたということになる。
そんなことがあってたまるか。例えようのない怒りが沸いて、男は握り締めた拳を薄汚れたカウンターのテーブルの上に押し付けた。
高潔と清廉さ、そして奉仕の精神を謳う神殿がそのような卑劣なことに手を染めるものなのだろうか。そう考えると神官たちの身に着ける白い装束が酷く薄汚れているように思えた。
これまでの仮面のような無表情から一転、あからさまに驚愕の色をその赤みを帯びた茶色の瞳に滲ませた男に、老人はグラスの中の酒を美味そうに啜りながら、下卑た笑みを浮かべた。
「あそこは途轍もなく古い場所だ。この国の中でも、いや、この国よりもその歴史は遡る。底知れぬ闇が巣くっているのさ。長い年月に渡って吐き出された澱が溜まってるのさ」
―――――――あそこはそれを上手く隠している。
それ以上は自分の口からは言えない。老人は意味深に目配せをして見せると、
「まぁ、この老いぼれの話を信じるか否かは、お前さん次第だがね」
そう言って話を締めくくったのだった。
それから男はもう少しその辺りの事を調べてみる為に神殿の神官たちに接触を持った。
神殿は日頃から民に開かれている。そして実際にその場に足を運んだ。
神官たちが身に着ける帯の色はそのまま階級を表わしていた。神殿の敷地内を静々と歩く白い衣を眺めながら、まだ位が低く口の軽そうな―――と言っては語弊があるが、要するに親身になって相談に乗ってくれそうな善良な相手のことだ―――を探し、声を掛けた。
当たり障りのないことで口慣らしをした後、若い神官たちにさり気なくその話を振ると、皆、あからさまに狼狽えた様子を見せた。そして、粘り強く会話を続けると『ここだけの話だが』と前置きをして、そのような噂があったのは確かだが、自分は下っ端なので真偽のほどは分からないと締めくくった。若い神官たちは大抵似たような答えを返していた。
どうも神官たちの間でもその儀式とやらに関しては禁忌扱いとされているようだ。
それから、運良くもう少し位の高い神官を捕まえることが出来た。男の帯の色は、茶色だった。位としては中くらいのところだろう。
だが、その男は柔和な面立ちで清潔そうな外観に反して、腹黒く狡猾であった。当たり障りのないことを口にしてから、神官は男の外套の袖を小さく引くと、これ以上のことを聞きたければ、あろうことか金を寄越せと言ってきた。具体的にそう口にした訳では無かったが、仄めかされたことは同じだった。言い方が真綿に包まれている分、余計に性質が悪くも思えた。
自分は儀式に参加した訳ではないのだが、懇意にしている上位神官からかなり正確な所を聞いている。だが、これは非常に繊細な問題で神殿の権威に関わることでもあるので、それなりのお布施を用意してもらわなければ割に合わない。そのようなことを恥ずかしげもなく堂々と口にしたのだ。そして神官が男に提示した金額は、普通に考えても大金だった。
―――――――金貨三枚は下らない。
口で言葉にすることはなく、掲げた手を開いて三本、指を差し出した。
金貨が一枚あれば優に二年は遊んで暮らせる。庶民であれば、一生のうち金貨を拝む機会など一度あるかないかだろう。
法外な金額の提示に男は仰天したのだが、神官はそれを手に入れる方法があるとご丁寧にも男に教えてくれた。それが武芸大会の個人戦に出場して、上位十名の中に残るということだった。十位以内に入れば報奨金が貰える。一番下の十位でも金貨三枚は堅いだろうとのことだった。
このようなお膳立てまでする神官を正直、胡散臭いと思わないでもなかったが、どうしても真実が知りたかった男は、一か八かの賭けとして武芸大会、個人戦への参加を申し込んだという訳だった。
そして今に至る。
ここで決めるのだ。もう少しで真実に手が届く。ここで負ける訳にはいかなかった。そう思うと男の心は震えた。
何がここまで男を駆り立てているのだろうか。これまで滅多に二人と接触を持たなかった男が、二人が消えた途端、執念とも言うべき執着を見せて、その行方を探し回った。
その理由は、男自身もよく分かっていなかった。それでも何かの為に一命を賭して事に当たる。一生に一度位、そのような莫迦げたことをしてみるのも悪くはない。そう思っていた。
男は気合十分、柄を固く握り締め、小さく息を吐き出すと真っ直ぐ相手を見据えた。そして、審判の高らかに上がる旗の合図と共に土を蹴った。
第四章のプロローグで登場した男の目的は果たされるのか。そしてその男の運命にリョウは今後どのようにして関わることになるのか。複雑に絡み合う糸、その一本をお伝えしました。次回はあの人の登場になるかと。それではまた次回にてお会いいたしましょう。
2011/7/19 誤表現修正