すれ違いの軌跡
待ち合わせの場所に一人やって来たリョウを見て、シーリスは小さく首を傾げた。
「ルスランはどうしましたか?」
リョウはその問い掛けにぎこちない微笑みを浮かべると静かに首を横に振った。
「家の方で用事が出来たようで、都合が付かなくなりました」
詳しくは話さずにそれだけを告げた。
「そうですか」
シーリスは一瞬、眉を跳ね上げたが、リョウの顔色を見て、それ以上の追及を止めにした。
着替えに戻るからと別れた時の晴れやかな表情とは明らかに違う、どことなく沈んだ空気が眦の端に滲んでいるのを感じ取って、シーリスはユルスナールの実家で何かがあったのだと見当を付けた。大方意に染まぬことを言われたか、されたか、何かしたのだろう。ユルスナール自身、家のものに捕まったのかも知れない。そう言えば、あそこにはユルスナールを慕ってやまない幼馴染のような若い娘が親戚にいたことを思い出した。もし、あの娘と鉢合わせをしたのなら、万事控え目な性格からリョウの方が遠慮をしたのだろうことは容易に想像が付いた。
一人、あの大きな邸宅を後にするリョウの心中はいかばかりであったか。本人は上手く隠している積りなのであろうが、浮かない顔をしているのを見れば、それが良く分かる。好いた相手にそのような顔をさせてしまうなど男としては言語道断だとは思ったが、友の不甲斐なさには敢えて触れず、シーリスはそっと心の中で溜息を吐くに留めたのだった。
対するリョウは、シーリスがそれ以上、何も聞かないことに心の中で感謝をした。シーリスのことだから、間違ってはいないが事実を正確には伝えていない、ぎこちない言い訳を内心、訝しく思っているだろう。だが、それを敢えて口にしないのは、シーリスなりの優しさだった。
リョウは気分を入れ替えるように顔を上げた。
「それでは行きましょうか」
「ええ。そうですね」
今回、ユルスナールの都合が付かなくなって良かったのかもしれないとリョウは思い直すことにした。というのもリョウとしてはシーリスに確かめておきたいことがあったからだ。
結局、【アルセナール】でのゲーラとの一件は有耶無耶になったままだったので、この際、術師と軍部の関係や、軍部の中に於ける第三師団の立場、それからユルスナールたちとゲーラとの関係を聞いておこうと思ったのだ。あれだけ不穏な空気を出して怒りのような感情を顕わにしていたユルスナールに再びゲーラの話を振るのは、どうにも躊躇われた。その点、シーリスならば、もう少し引いた客観的な立場から事情を説明してくれるのではなかろうかと踏んでいた。
街の中心部は実に賑やかだった。この国一番の繁栄を誇る大都市だ。街並みは、綺麗に区画整備され、整然と石造りの堅牢な建物が並んでいた。建物の外部には、様々な曲線を使った彫刻が施されており、冷たい石の印象に反して、優美で柔らかな雰囲気を与えていた。
通りを出歩く人々も多い。老若男女、着飾った人々がゆっくりとした足取りで街中を歩いている。貴婦人や身分ある貴族を乗せた立派な馬車もガラガラと車輪の音を高らかに鳴らして石畳の上を多く走っているのが見受けられた。それは王都ならではの光景だった。
大通りに並ぶ路面店は、どれも落ち着いた感じの造りになっていた。ガラス張りのショーウィンドウにその店で扱っている商品が綺麗に並んでいる。意匠の施された小さな看板がさり気なく軒先にぶら下がっていた。
だが、少し脇道に入ると、若干空気が変わる。上品で他所行きな雰囲気から一転、親しみのあるやや雑然とした空間が広がっていた。
時折、街中を歩く全身を白い衣服に身を包んだ人々に擦れ違った。白いズボンに踝まで届きそうな同じく白い上着を重ねて、発色の良い色とりどりの腰帯で腰の部分を留めているようだった。腰帯の先は、だらりと長く伸びて、それを身に着けた人が歩く度にひらひらと舞った。人によって、その腰帯の色が違うようだった。それを不思議な面持ちで眺めていれば、シーリスが、あれは神殿に仕える神官たちだと教えてくれた。
神官は、皆、あのような白を基調とした簡素な衣服に身を包み、腰帯の色は、その神官の階級を表わしているということだった。そう言えば、シーリスの義兄であるレヌートもよくよく考えれば、似たような格好をしていたことに思い至った。レヌートの場合、その上にいつも襟なしのカフタンのような丈の長い上着を羽織っていたから若干、印象が異なったようだ。
神殿と聞いて思い出すのは、【プラミィーシュレ】での不思議な邂逅だった。自らを【東の翁】と名乗った老人は、もし、今後、王都に来る機会があれば、神殿を訪ねて来るようにと言っていた。リョウは図らずも今、その機会を得た訳だが、近いうちにあの白亜の城塞の如く聳え立つ場所を訪れてみようと考えていた。
この場所に一緒に来たセレブロは、あれ以来、姿を見せたり見せなかったりだった。セレブロなりに色々と用事があるらしく、神殿の方にも顔を出しているらしいことを言っていた。
神殿は、養成所の寮からも然程遠くない所にあった。寮の部屋の窓からもその姿が見えるくらいだ。高台の上の方にあるので、実際に辿りつくのはそう容易ではないのかもしれないが、何でもその場所は、この街の中で一番高い場所にあるらしく、そこから望む街並みは、一見の価値があるとのことだった。
それからシーリスの案内で、この街一番の薬草を豊富に扱うお店だとか、今、王都で評判の焼き菓子を売っているというお店、それから街で流行している服装だとか装飾品を扱う店等、俗に名物だと言われているというお店を見て回った。
それは、どうもリョウが女性であることを念頭に置いた上での選択のようだった。それが功を奏したのかは分からないが、リョウにとって目に付くもの全てが新鮮で、物珍しく、気分が高揚しているのが、その輝く瞳から見てとれた。
暫くして、大分歩き疲れたので、少し、休憩を入れることになった。路面に面したオープンカフェのようになっている解放感溢れる飲食店のようで、外に並んだテーブルや椅子には着飾った人々が思い思いの飲み物やら軽食を前に話に興じていた。
昼下がり特有のゆったりとした時間が流れていた。
シーリスは、その場所に優雅な仕草でリョウを案内した。
「甘いものはいかがですか? ここは王都でも評判のお店なんですよ。若い女性には大変人気があるんです」
そう言って片目を瞑って見せたシーリスに、リョウは内心のむず痒さを隠しながらも、小さく苦笑いをして見せた。
シーリスは優しい。そして、人の感情の機微に驚くほど敏感だ。浮かない気分を少しでも浮上させようと気を使ってくれている。それに応えない訳にはいかなかった。
「それは楽しみです」
リョウはにっこり微笑むと店の給士に先導されて案内された場所に腰を下ろした。
注文を取りに来た給士に、この店のお勧めだという菓子とお茶を頼んだ。
果物以外の甘いものを口にするのは久し振りだった。
「でも、ワタシとシーリスとでは、何だか変な組み合わせでしょうね」
リョウはぐるりと店内を見渡してから、態とらしくおどけて見せた。
自分が傍目には少年にしか見えないということへの揶揄である。ここで暫しの休憩を挟んでいるのは、場所柄、男女の二人連れか、女性同士の組み合わせが多かった。後は、点々と、一人で煙草を燻らす老人なども見受けられる。若い男の二人連れ(のようにここでは見えているだろう)というのは余りないようだ。
「おや、そうですか? 私は満更でもないと思いますよ」
対面でシーリスは可笑しそうに小さく笑った後、声を潜めた。
「だって、ほら。先程からあちらの女性客がこちらを見ているでしょう?」
小さく目線で促された先、さり気なさを装ってゆっくりと振り返れば、若い女性客のどこか熱の籠った視線にかち合い、リョウは一層、苦笑を深くした。
「シーリスを見ていたんじゃないんですか?」
優雅で柔らかな物腰のシーリスは人目を惹いた。ユルスナールやブコバルといった荒削りの武人らしい男らしさとはまた違う洗練された空気があった。きっと都会では、貴族の婦女子に人気が高そうな感じだとリョウは心の中で思った。
目があった女性客の一人が微笑んだので、反射的にリョウも微笑み返していた。するとキャーというような悲鳴のような声が上がって驚いた。
それを見ていたシーリスが、楽しそうに喉の奥を鳴らした。
「おやおや、隅には置けませんね。ほらね。リョウ、もっと自信を持ちなさい。あなたはここでも十分魅力的なのですから」
妙な励ましをするシーリスにリョウは困ったように笑った。
「それはワタシが珍しい顔立ちをしているからではありませんか? この髪もこの目も、こちらでは余り見ない色ですから」
多くの似たようなものの中に紛れこんだ異物というのは、それが綺麗なものであろうが無かろうが、同じような衝撃を持って、瞬時に【異物】として弾き出されるものだ。それを人は示差性と呼ぶ。ここにいる自分の存在も大方似たようなところだろうと思っていた。異質であるから注目を浴びる。それは致し方の無いことだ。
「そうですねぇ。それもありますが、あなたには人を惹きつける独特な空気があるのですよ。感覚的なものなので、口にするのは難しいのですが」
「独特な空気…ですか?」
思っても見ない事を言われて、不思議そうに首を傾げたリョウに、シーリスは小さく微笑んだ。
それはセレブロの加護を貰ったからなのであろうか。【魂響】と成った人間には、その加護を与えた獣の気が薄らと覆うようにして現れるのだという。獣は皆、それを感じ取れるのだと聞いた。だとすれば、昔ながらの鋭い感覚を持つ人の中にもそれを感じ取る人がいてもおかしくはなかった。
そのことを簡単に口にすれば、シーリスは、少し、虚を突かれたような顔をした後、
「……そうかも知れませんね」
どこか複雑な表情を一瞬、覗かせてから、苦笑のようなものを浮かべたのだった。
そのシーリスの中の心の動きは、当然のことながら、リョウには理解できなかった。
そうこうするうちに糊の利いた制服に身を包んだ給士が恭しくやってきて、テーブルの上に頼んだ菓子とお茶を並べ始めた。
リョウが頼んだのは木苺が並んだ小さなパイだった。そして、シーリスが頼んだのは、柔らかなシフォンケーキのようなものだ。
最後に給士が、小さな焼き菓子の乗った皿を差し出しながら告げた。
「こちらは、あちらのお客様からのものです。ここへいらしたからには是非、こちらもご賞味くださいとのご伝言です」
その言葉にリョウは吃驚して、給士の男の顔とテーブルに添えられた焼き菓子の皿を交互に見た。
マドレーヌのようなこんがりとした焼き色の付いた小振りの菓子だった。焼き立てなのだろう。温かみのある甘い匂いが鼻先を掠めた。
「おやおや。随分と気障な誘いをする人がいるものですね。それは一体どなたでしょうか?」
にこにこと感情の読めない微笑みを浮かべたシーリスを前に、リョウは困惑したように給士の指し示す方を見た。
そして、そこにいた人物に目を見開いた。
「………え……」
何で、あの人たちがあそこにいるのだ?
ひらひらと手を振っているのは、優しい面立ちをした兵士だった。いや、リョウはその男が兵士であることを知ってはいるが、傍目には、一見、暇を持て余した貴族の男のように見えるかもしれない。
だが、その対面に座るもう一人の男が、その印象を分からなくさせていた。浅黒い肌に金色の短い髪を跳ね上げて、明るい浅黄色の瞳が覗く直ぐ下の頬桁の辺りには、横に走る刀傷の跡があった。視線が合うと、その男が人懐こそうな笑みを浮かべて片手を上げた。
――――――ウテナとイリヤ。
【プラミィーシュレ】でなにかと世話になった【ツェントル】の兵士たちだった。
「なんで……こんなところに?」
驚きの余り、呆けたように呟けば、
「おや、リョウの知り合いですか?」
確認するように問いを発したシーリスに小さく頷いて見せた。そして、リョウは簡単にあの二人の若者と知り合いになった経緯と彼らの所属を告げた。
ウテナは近づいて来た給士の男に二・三告げると、イリヤを促して席を立ち、こちら側にやって来た。
「やぁ、リョウ。久し振りだね。こんなところで会えるなんて、やっぱりボクたちは運命なんだよ。それにしても酷いじゃないか。ボクという者がありながら、そんな男と浮気をするなんて」
―――――――はい?
リョウは放たれた言葉の半分以上、理解が出来なかった。いや、頭が理解をすることを拒否していた。
「相席をしてもよろしいですかな?」
そう言って、こちらの返事を聞く前にウテナは空いていた椅子に腰を下ろしてしまった。
余りの出来事に面食らっているうちに、テーブルに着いたウテナと目があって、バチンと音がしそうな感じでウィンクをされる。
相変わらずの軽薄で浮ついた調子に、リョウは、脱力するように椅子の背もたれに身体を預けた。
そうこうするうちに給士が来て、ウテナ達のテーブルにあった茶器類をこちら側のテーブルに並べ変えてしまったのだ。
強引なやり口に、リョウは心配するようにシーリスを見た。シーリスは笑顔のままだが、そこから醸し出される空気は、不愉快さを隠してはいなかった。
不味いことになったと思った。
「すみません。シーリス」
小さく謝れば、シーリスは笑みを深めてリョウを見た。
「どうしてそこであなたが謝るんです? 礼を失しているのは向こうではありませんか。折角の一時に邪魔をするなんて、無礼にも程があります。信じられませんね」
そう言って、底冷えのするような笑顔で二人の闖入者を見遣った。
だが、対するウテナの方も負けてはいなかった。
「アハハハ。硬いことを言わないで下さいよ。第七の副団長さん。お互い知らない仲ではないでしょうに」
そう言って人好きのする(リョウにしてみれば、どこか胡散臭い)笑みを浮かべたウテナの横で、イリヤが『済まない』と苦笑を滲ませた。
「おやおや、私はそちらのような不躾な輩と知り合いになった覚えは全くありませんが?」
「相変わらずの毒舌ですね。久し振りに聞くとゾクゾクしますよ。ああ鳥肌が立ちそうだ」
北の砦の兵士たちを震え上がらせるシーリスの鋭い舌鋒もなんのその、ウテナは全く堪えていないようだった。いや、なにやら愉しそうでもある。
なんだか雲行きが怪しくなっている気がした。それ以上二人の会話を聞いていると何やら危ない世界を垣間見てしまいそうな気がして、リョウは、些か強引かとは思ったが、間に入ることにした。
「この焼き菓子、とても美味しそうですね。こちらの名品かなにかなのですか?」
唐突とも言える発言だったが、リョウの意図を速やかに感じ取ったウテナとシーリスは、それ以上の言い争いをそこで止めた。
「ああ、これは、今、王都で一番人気と評判の焼き菓子なんだよ。食べてごらん、美味しいから」
そう言ってウテナより差し出された皿から、リョウも一つ摘んでみた。
小振りの平べったい楕円形をしたものだ。マドレーヌを思い出させる形だった。
「頂きます」
「はい。召し上がれ」
リョウは促されるままに一口齧ってみた。【マースラ】と【サーハル】、いや【メード】だろうか、しっとりとした生地の感触と爽やかな甘さが口の中一杯に広がった。
「………美味しい」
ぽつりと呟いたリョウに、
「それは良かった」
ウテナは相好を崩した。
それから、何故か和やかな空気になって、普通にお茶を始めてしまった四人であったが、
「ウテナさんとイリヤさんは、いつからこちらに?」
「ああ、こっちに来たのは、大体五日くらい前からか」
カップのお茶を静かに傾けながら、イリヤが答えた。
どうして【プラミィーシュレ】勤務の二人がこの場所にいるのかと訊けば、二人とも来週の武芸大会に出場するのだと言う。
「お二人も出場なさるんですか?」
イリヤは何となく想像が付いたが、ウテナの方も武芸が巧みだと聞いて、リョウは少し驚いたように目を見開いた。普通に考えてみれば失礼な話であるが、仕方がない。
その辺りの含みを的確に感じ取ったウテナは、心外だというように肩を竦めて見せた。
「なんだい、リョウ。ボクが出るのがそんなに信じられないかい?」
心の内を的確に言い当てられて、リョウはちらりとイリヤを横目に見てから、言葉を慎重に選んだ。
「ウテナさんは、どちらかと言えば、武官よりも文官的な印象があったので」
今更、隠しだてをしても無駄なので、そう正直に話せば、
「そちらのシーリス殿だってそうだろうに」
ウテナは小さく微笑んでから、リョウの向かいに座るシーリスを見た。
「今年も出場はなさらないんですか?」
そして、出たイリヤの質問に、
「ええ。私は遠慮しています」
シーリスはおっとりと微笑んだ。
「それは勿体ない」
「ふふふ。人には向き、不向きがありますからね」
北の砦の兵士たちの言によれば、シーリスとて中々の剣の使い手であるらしいのだが、こういう大会というのは趣味ではないようだ。
「あの、じゃぁ、ドーリンさんは?」
リョウが気になっていたことを思わず口に上せれば、
「ああ、隊長? 勿論、出るよ。あの人、ああ見えて中々手強いし」
「ええ。ドーリンも中々のものですよ」
「てか、そうじゃないと団長にはなれないから」
「………そうなんですか」
これまでの予想とは違った答えに、リョウは心底、驚いて息を吐いたのだった。
ウテナ、シーリス、イリヤの三人から順に肯定をされても、ドーリンが剣を扱う姿は余り想像が出来なかった。新たな一面を発見という気分だ。
それから、リョウは自分の事を尋ねられて、手短に現在術師の養成所に通っていることを二人に告げた。それで、二人はリョウがこの場所にいる事情を納得したらしかった。
「リョウ、武芸大会は勿論、見に来るんだろう? それなら第五の所においで。そうしたら、ボクの雄姿を間近で見ることが出来るから」
そう言って茶目っ気たっぷりに微笑んだウテナに、リョウは小さく微笑んでから逡巡するように首を傾げた。
「はい。折角なので、出来れば見に行きたいとは思っていますが、都合が付くかどうか」
そう言葉を濁したリョウを見てシーリスが笑った。
「その心配は要りませんよ。この期間中は、街中がお祭り一色になるので、養成所の講義もお休みになる筈です」
「そうそう。勉強どころじゃないってね」
「そうなんですか」
「ええ。ですから気兼ねなく見物にいらっしゃい」
「分かりました」
懸案だったシーリスからお墨付きを貰い、リョウは嬉しそうに微笑んだ。
その後、ならば当日は、第五の所に来いというウテナとイリヤ、それから、第七の所に来たらよいではないかというシーリスの誘いに、リョウは感謝の言葉を口にしながらも、逡巡するように首を少し傾げた。というのも養成所の仲間であるヤステルやバリースたちに都合が付けば一緒に見に行かないかと誘われていたからだ。そのことを話せば、ならば、その友人たちと見に来たらよいと言われた。
当日は凄い人出になるから迷子にならないように気を付けること。警備はそれなりに敷かれてはいるが掏りの類が多く出るから身の回りのものには気を付けること。そして、必ず軍部の方に一度は顔を出すようにと注意点ともども教えを受けた。
見物人が多い場合は、友人たちも一緒でいいから軍部の方に来ればよい。そうすれば、目の前(要するに特等席だ)で試合が見られるとまで言われて、そんなことをヤステルやバリースに話したら、爛々と目を輝かせて鼻息荒く迫られそうだと内心、苦笑いした。
リョウは、三人の心遣いに感謝をして、武芸大会の当日、必ず一度は、軍部の方に顔を出すと約束した。そして、この冬一番の盛り上がりを見せると言う街を上げての大きな一大催事を楽しみにすることになったのだった。
思わぬ場所で、思わぬ人たちに遭遇。ウテナファンの皆さま、お待たせしました(笑)