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Messenger ~伝令の足跡~  作者: kagonosuke
幕間~北の砦にて~
123/232

道化師のかくも哀しき昼下がり

前回の続きです。着替えを終えてから、リョウはシーリスの講義を受けることになりました。


「東の神殿とは、どのような場所なのですか?」

 この国の歴史を少しずつ紐解いていた時だった。

 偶々、王都のことが話題に上り、リョウはふとした疑問を口に乗せていた。

 それは【プラミィーシュレ】より帰還以来、ずっと気に掛かっていたことでもあった。

 【エリセーエフスカヤ】での一時。あれはほんの掠るような出会いだった。

 だが、リョウの脳裏には、その時の出会いが色濃く焼きついていた。鮮明に、まるで昨日の出来事のように思い返すことが出来る。

 優しい面立ちをした品のある老人。真っ白な豊かな髪を綺麗に撫で付けて、その眼差しは、柔らかくも威厳に満ちていた。あの老人が語った長の【魂響(タマユラ)】という言葉。そして、自分のことを図らずも【大いなる揺らぎ】の中にあると評した。最後に王都に来る機会があれば、東の神殿を訪ねるとよいと微笑み、極め付けには、『またお会いしましょう』と今後の邂逅を仄めかすような意味深な言葉を残して行った。

 表面だけを見るならば、それは単なる社交辞令であったのかもしれない。しかし、それ以上の何かが、そこには潜んでいるような気がしてならなかった。

 あの老人は、自身のことを【デェードゥシュカ・イズ・ヴァストーカ】、要するに【東の翁】と称した。そして、人混みに紛れてしまった背中を、あの時は、半ば茫然とした気分で見送るしかなかったのだ。

 あの老人の言葉の意味は良く分からなかった。だが、とても大事な事を言われたとリョウは感じた。

 その真意を直ぐに確かめることは、残念ながら出来なかった。

 もしかしたら、あの言葉はあの老人が自身で納得する為のもので、自分に対して何らかの意味を成すものではなかったのかもしれない。

 ただ消化できない塊が、胃の中に重く圧し掛かった気分だった。そして、この方、あの時の言葉が、ずっと心の奥底に引っかかっていたのだ。


「そうですね」

 シーリスは徐に顔を上げると窓の外へ目を向けた。

 梢を揺らす木漏れ日にそっとその菫色の目を細めた。その口元には、何処か自嘲気味な笑みが、浮かんでは消えた。

 それから再び、ゆっくりと首を戻すと静かに口を開いた。

「この国に根付いている信仰については、お話ししましたよね?」

「はい」

 それは先だっての講義の話だった。


 この国では、自然には様々な神が宿ると考えられていた。一神教というわけではなかった。そういう点では祖国(日本)と認識が近いかもしれない。

 【炎と竃】を司る神【ズヴァローグ】、【風】を司る神【ストリヴォーグ】、【太陽(ソンツェ)】を司る神【ダジヴォーグ】、【大地】を司る神【モーコシ】、【水】を司る神【ヴァダールグ】、【雷】を司る神【ペールン】、等々、こういった主な神々以外にも他に沢山あるらしい。

 【戦】の神【セマルグル】だとか。

 この国で挨拶を交わす時の決まり文句として頻繁に耳にする【リュークス】は、大陸のこの地域一体に古くから伝わる【豊穣】を司る神の名前だった。


「東の神殿は、王都(スタリーツァ)の一角にあります。その名が示す通り、王都の中心、王が住まう居城から見て東に位置しています」

 そこまで語るとシーリスは穏やかに微笑んだ。

「リョウは、どのような場所だと思いますか?」

 逆に問い返されて、リョウはこれまでの見聞と自分の中にある知識を擦り合わせながら、慎重に口を開いた。

「この国で信仰されている神々を祀っている場所ではないのですか?」

 神殿という言葉を耳にした場合、普通に考えるならばそうだろう。

 リョウは、カマールの工房で見た神々の意匠が施された絵を思い出していた。

 工房の天井と柱が合わさる角の部分、要するに家の隅の部分に、鍛冶職人に縁の深い神々の絵が飾られており、カマールはそこに向かって毎朝祈りを捧げていた。

 あのようなものを大々的に規模を大きくしたものではなかろうか。

 そう思ったのだが、

「半分正解ですね」

「………半分ですか」

 どうやら様子は少し違うらしかった。

「神が祀られている場所というのは合っています」

 少しずつ、小出しにされた言葉にリョウは、目を瞬かせた。

「……もしかして、祀られている神が一柱ということなのですか?」

「ええ、そうなんです」

 『はいよくできました』とばかりにシーリスが眩しい笑顔を向けた。

「祀られている神は、何だと思いますか?」

 継いで出された問いに、リョウは少し考える風に首を傾げた。

 王の居城の東にあるということは、王族と縁があるということなのだろう。この国の中心で、王族と密な繋がりを持つ神。そこまで考えて、ふと手元にあるお伽噺の一節を思い出した。

 この国【スタルゴラド】を最初に統治した王【フセェミール】は、【風】を司る神【ストリヴォーグ】の子孫と謳われていたからだ。

「風の神、【ストリヴォーグ】ですか?」

「そうきましたか。ですが、残念ながら違います」

 だが、それも違ったようだ。

「この地に古くから存在する神です。謂わば土着信仰の一種ですね」

 そう言うと、シーリスは王都と神殿の関係を簡潔に説明し始めた。


 それに拠るとこうだ。時系列的にみれば、神殿の方が王都よりも先に存在していたということだった。 元々、この場所には、古くから神に対する信仰の厚い一族が暮らしていて、神に祈りを捧げ、その見返りにお告げのような宣託を頂き、それを一種の生業のようなものにしていた。

 その神殿(といっても当時はかなり簡素な作りのものだったらしいが)に、遠くから勢力を拡大し、台頭してきたとある一族(要するに後の王族となる一派だ)が訪ねて来て、神の宣託を頂くことになった。 後の戦でそれが功を奏し、この周囲一帯を平定するに至った。その一族がこの神殿のある場所を王都として定め、懐にその神殿を抱き込む形になったという訳だ。

 そして、後の王族は、感謝の意を込めて、この大陸に数多ある神々の中から、その神殿で祀られていた一柱を、一族の守り神として祀り、大事にしたという話である。


「つまり、民間信仰に根付いた神でもある訳ですね?」

 シーリスの説明を聞き終えると、リョウはとある一柱の神を思い描いていた。

「そうですね。この国の民の間でも人気とその知名度は群を抜いているでしょう」

 となれば、自然と導き出されるのは、

「【リュークス】ですか?」

 この国の人々が、その一生の中で尤も多く口にするであろう神の名だ。

 リョウの推察をシーリスは目を細めて頷くことで肯定して見せた。

「東の神殿は、【リュークス】を祀っている場所なのです。王族の守り神、この【スタルゴラド】の礎を築くに当たり重要な役割を担った場所と言えるでしょう」

「すると、その神殿に仕えている神官たちは、【リュークス】をのみ神と定めて祈りを捧げている訳ですか?」

 数多もの他の神々の存在は、どのように捉えられているのだろうか。

 そう思って聞いてみれば、シーリスは少し考える風に目を細めた。

「そうですねぇ。【リュークス】のみというよりは、全ての神々の頂点に【リュークス】があると見做していると考える方が妥当かもしれませんね。そもそも、自然を体現する神々に優劣を付けるのは以ての外というのが本当の所なのでしょうが、何分にも王族と結び付き、この国の中に取り込まれた時点で、そこには政治的な色合いが付加されてしまいましたから」

「ということは、この国では政治と信仰が密接に結び付いているのですね?」

 為政者の後ろ盾があってこその神殿。政教分離という訳ではないのかもしれない。

 となると、その権限はやはり神殿よりも王族の方が強かったりするのだろう。

「そうなりますね」

「神殿は独立した組織ではない?」

「ええ」

「そうなると神殿の神官長よりも王族の方が発言権を持つということですよね?」

 中々に鋭い質問に、シーリスの眉根がやや困惑気味に下がった。

 そこには苦笑に似た笑みが浮かんでいた。

「そこは違います。まぁ、あくまでも【建て前上】の話になりますが」

 シーリスは、神殿の中で何らかの宣託を受けた場合、それは尊き賜りものとして、王族へ告げられるのだと言った。そういう時は、立場上、神官たちの方が王族の上に位置することになる。それも今は大分形骸化しているようだった。


「神のお告げを聞くというのは、【術師】のように、そういう通常の人よりは突出した、謂わば特殊な能力を持つ人たちなのですか?」

「そうですね。神官になるには、それ相応の【素養】が必要になります」

「その【素養】とは、【術師】の持つものと同じなのですか?」

 その問いにシーリスは少しだけ目を伏せた。

「基本的には、そういうものだと聞いてはいます。ですが、そこにどんな違いがあるのかという点については、実際に神官でも術師でもない私には分かりません」

 『すみません』とどこか心苦しそうに告げられた言葉に、リョウは、少し踏み込み過ぎたのではなかろうかと思った。

 もしかしたら、シーリスにとって、余り触れて欲しくない部分を掠めてしまったのかもしれない。

 そう言えば、この砦に最初に滞在した時に、そう、あれは、確か、セレブロが乱入をして来た時の事だ。シーリスの家は、神殿に関わる一族であるというようなことを言ってはいなかっただろうか。


 リョウは一旦、そこで質問を変えることにした。

「【東の翁】と呼ばれる方を御存じですか?」

「【デェードゥシュカ・イズ・ヴァストーカ】?」

 リョウの口から出た固有名詞らしき言葉をシーリスは繰り返した。

「はい。神殿に関わりのある方のようなのですが」

 そして、リョウは【エリセーエフスカヤ】で出会った老人の話を掻い摘んでシーリスにしてみた。

 おぼろげながらでもいい、自分の中で渦巻いている謎の何か輪郭を描く為の鍵が出て来ないかと思った。

 簡単に話を聞き終えた後、シーリスは少し天井を仰ぎ、緩く(かぶり)を振った。

「聞いたことがありませんね。すみません。お役に立てなくて。私の姉や義兄(あに)ならば知っているかもしれませんが」

「そうですか」

 緩く吐き出された溜息に、リョウは気にすることはないと微笑んだ。

「シーリスにはお姉さんとお兄さんがいるんですか?」

 それから自然と話は、シーリスの兄弟の話題に移った。

「ええ。姉とは血の繋がりがありますが、兄は義理の兄、要するに姉の嫁ぎ先ですね」

 そして、どこか昔を懐かしむような優しい目をして、シーリスはリョウに姉のことを話して聞かせた。 年が七つも離れていること。普段は優しいけれども怒らせたら怖いこと。

 姉との思い出はシーリスの中では、とても温かいものであるらしかった。

 そうして最後は雑談を交えて、和やかな空気の下、講義は終わった。

「それでは、今日はこの辺りまでにしておきましょうか」

「はい。ありがとうございました」

「また、何か疑問点が出てきたら、いつでもどうぞ」

「はい。助かります」

 そして、そのまま、広げていた帳面やら本やらをしまおうとした時に、リョウはふと手を止めると、思い切って最後の質問をすることにした。

「あの【魂響(タマユラ)】という言葉を聞いたことはありますか?」

 それは、あの老人がリョウの胸元にあったセレブロの印を見て発した言葉だった。

 シーリスは少し考える風に顎に手を当てた後、否定の意味合いを込めて小さく微笑んだ。

「いいえ」

「そうですか」

 全てが直ぐに明らかになるとは思ってもいなかったが、シーリスならば何か知っていることがあるのではないかと心の内で期待していたのも確かだった。

 だが、やはり、そう上手くことが運ぶ訳ではないようだ。気長に考えるしかないのだろう。

 もしかしたら、セレブロの方が何か知っているかもしれない。少なくともあの老人は、この印のことを知っている風であったのだから。その内、ここにセレブロがやってくる筈であったので、その時に少し話をしてみようと落ち込んだ気分を上向けたのだった。




 それから、そのままシーリスと一緒に昼食を取ることになって、リョウは使用人風の格好をしたまま、食堂に向かう羽目になってしまった。

 時刻としては、第一陣が掃けた辺りの頃で、途中、擦れ違う兵士たちがぎょっとして振り返るのだが、隣を優雅に歩くシーリスの手前、面と向かってその理由を誰何する猛者はいなかった。


 兵士たちは、ひっそりと顔を見交わせると小声で囁きながら目配せをし、半ば同情とも憐みともつかないような生温い視線をリョウに向けたのだった。

 恐らく、彼らはリョウがシーリスの機嫌を損ねでもして、実に副団長らしい効果的なやり方で、その落とし前を付けさせられているとでも思ったようだ。

 隣を歩くシーリスはやけに上機嫌である。以前、リョウが女であることを知った際には、シーリス自身、その姿が想像付かなかった訳であるが、いざ、本来の姿を彷彿とさせる格好を目の当たりにすると、随分と感心をしたようだった。そして、いたく気に入ったようだった。

 そんな訳で、副団長の背後に見えるいつもより輪を掛けて煌びやかな後光のようなものを前に、兵士たちは余計にリョウが何か碌でもない事をしでかして、シーリスの趣味で男としては屈辱以外の何物でもない女装をさせられているとでも思ったらしかった。


 シーリスの後に続いて、半ばその背中に隠れる形で食堂の敷居を潜ったのだが、副団長の傍にいる見慣れない形をした人物の登場に、中にいた兵士たちが一斉に色めき立った。

 何故ならば、そこにはこの場所にはいる筈の無い華奢な少女の姿があったからだ。

 その時の感覚を何と例えたらよいのだろうか。

 ざわりと空間が揺れた気がした。期待と興味に満ちた視線が痛いほどに四方八方から突き刺さる。

 だが、直ぐにカウンター越しに響いた料理長ヒルデの大声にざわめきはぴたりと止んだ。

「なんだ、坊主。え? 余興かなんかでもおっぱじめんのか? けったいな格好してよ」

 ヒルデはリョウに気が付くと目を丸くして、その変わり果てた姿をしげしげと見た。

 そして、男らしい笑みを口元に刷いた。

「………だが、まぁ、よく似合ってるじゃねぇか」

「……………まぁ、そんなところです」

 リョウはちらりと横目にシーリスを見遣ると曖昧に微笑んだ。

 ヒルデの種明かしに、食堂全体に今度は落胆の波が広がった。

「うがぁー!」

「なんだぁ、吃驚させんなよ!」

「マジ焦ったぁ」

「あー、折角期待したのにぃ~」

「リョウかよ」

「………って、この場所に女がいる訳ねぇだろうが!」

「そりゃそうか」

「儚い夢だったな」

「チクショウ!」

 がっくりと項垂れた男たちの野次に、リョウは何とも言えない気分を味わった。

 何だか自分が本当は男で、女装をしている気分になってきたから不思議なものだった。バレないことは良かったのだが、ちっとも疑いを持たれないことは、非常に複雑であった。

 女物の服を着ても女として見てもらえないとは…………。

 ここの兵士たちにとって、自分は少年以外の何者でもないのだろう。

 リョウは熱々の食事が乗った【タレールカ(トレイ)】を手に暫し、遠い目をしたのだった。

 その背中は、事情を知る者が見れば哀愁が漂っているように見えた。


「言いたい放題ですねぇ」

 呆れたように食堂の兵士たちを見回したシーリスに、リョウは苦笑気味に返していた。

「気にしませんから。大丈夫ですよ。今更ですし」

 本当ならば、こんな格好をさせたシーリスを恨めしく思ってもいいのだろうが、ここまで来れば、もうどうでもよくなっていた。

「仕方ありませんねぇ」

 それから、シーリスと共に食卓に着いた。

 途中、目があったロッソは、思わず苦笑いを浮かべたリョウに小さく微笑んだ。まるで外野の反応など気にするなとでも言うように。

 その向こうには、【ローシュカ(スプーン)】を手にしたまま目を丸くしたヘクターとどこか苦い顔をしたキリルが見えた。その向こうには、ヤルタがいて、目が合った瞬間に視線を勢いよく逸らされてしまった。

 ヤルタはその大きな体に似合わず肩を小さく揺らして、口元に手を当てていた。些か顔色が悪いようだ。それは、ヤルタが不幸にもリョウが身に着けている服の来歴と団長室でも顛末を目の当たりにしたからであったのだが、そのことを知る由もないリョウは、ヤルタの挙動不審さに首を傾げるしかなかった。


「でもまぁ、こいつは意外だったな」

 リョウの斜交いに腰を下ろしたサラトフが、からかうような笑みを浮かべた。

「似あってるぜ、リョウ。黙ってりゃぁ、女に見える」

 太鼓判を押すように白い歯を見せ付けられて、

「……………はぁ」

 最早、喜ぶべきか悲しむべきか、分からなかった。

 だが、サラトフはリョウのそんな態度を、女装をさせられて恥ずかしがっていると勘違いしたようだった。それが余計に『少女らしい』仕草になって見えるというのは、皮肉な話である。

「でも、そんな服どうしたんだ?」

 興味津々に口を開いたサラトフに、

「あー、これは、その、色々と事情がありまして………」

 リョウは何と言ったものかと曖昧に言葉尻を濁したのだが、

「ルスランが持って帰って来たんですよ」

 シーリスが実にいい笑顔で爆弾発言をした。

 その余波は驚くほどの速さで、同心円状に食堂内を広がった。

「団長が? 何でまた」

 サラトフが素っ頓狂な野太い声を上げる。周りにいた兵士たちも、ぎょっとした顔をして(中には、口に入れたスープを吹き零す者さえいた)、無言のまま、顔を見交わせた。

 そして、聞き耳を立てた。

「【プラミィーシュレ】からですよ」

 シーリスのその一言で大方の兵士たちは、その背景にある何がしかの事情に、察しが付いたらしかった。そして、個々人が逞しく妄想という名の想像を膨らまし始めた。

「詳しい話はブコバルに聞いてみたらいいでしょう。きっと面白い話を聞かせてくれるでしょうから」

 そう言って含み笑いをしたシーリスに、何故か周囲で聞き耳を立てていた若い兵士たちが沸いた。

「あの、シーリス?」

 ざわつき始めた食堂内の空気に、リョウは酷く落ち着かない気分だった。

 何やら話の流れが変な方向に行ってはいないだろうか。ひょっとしたら随分と曲解されているのではないだろうか。この服には大した曰くなど無いのだが。

 視線が合ったシーリスは、茶目っ気たっぷりに片目を瞑って見せた。そして、口元に小さく人差し指を当てて、リョウに口止めを促した。

 つまり、全て確信犯であったという訳だ。

「ここは何分にも娯楽の少ない場所ですからね。偶にはこういう刺激が必要なんですよ。でも、嘘は言っていないでしょう?」

 そう言ってほくそ笑むシーリスに、リョウはなんとも言えない気分で微笑み返していた。

 確かにそうだ。シーリスの言葉は簡潔に事実しか伝えていない。そこに周囲が、妙な想像を乗せて、膨らませているだけなのだ。鍵となる言葉は、恐らく【プラミィーシュレ】と【ブコバル】だ。とすれば自ずと導き出されるのは、色街の話であろう。

 リョウは改めて、この砦を裏から支えるシーリスの手腕を垣間見た気がした。そして、オレグではないが、決して敵に回してはいけない人物だと再認識したのだった。

 その後、連れだって食堂に現れたブコバルとユルスナールの二人に、中にいた兵士たちが沸いたのは言うまでもない。そして、ブコバルは促されるままに己が武勇伝を語ったのだとかいないとか。


幕間はこれにて終了です。ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました。次回はいよいよ第四章に入ります。

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