異世界は、見慣れた景色。
玄関を開けると、朝の光が二人を包んだ。
鳥の声と、風に揺れる木々の音。
ティナ
「お……おぉ~~!!」
まず視界に飛び込んだのは、自然豊かな緑。
朝日を反射して煌めく湖。
ティナ
「エッモ!何この景色ッ!!」
ティナ
「写真撮ろ。」
ポケットを、ごそごそ。
ティナ
「……あ。」
ティナ
「スマホ、無いんだった。」
リリサ
「何か忘れ物?」
ティナ
「うん、前世に文明を忘れてきた。」
リリサ
「? よくわからないけど、ちゃんとついてきなさい。」
ティナ
「はーい……」
ティナ
「(スマホ無い生活なんて耐えられるかな!?
……いや、無理だな)」
ティナとリリサは湖畔沿いの道を歩く。
リリサ
「まずは街へ出て、そこから馬車に乗って城下町まで行くわよ。」
ティナ
「馬車!!異世界ファンタジー要素来た!」
リリサ
「? ただの乗り合い馬車よ?」
ティナ
「乗り合い馬車?バスみたいなものかな……
てか、ここは城下町とは別の街なんですか?」
リリサ
「ここは湖畔の街。城下町までは馬車で30分くらいね。」
リリサ
「転居届なら湖畔の街役場でも申請出来るんだけどね、
転生届は首都の城下町まで行かなきゃ申請出来ないのよ。」
ティナ
「ふ~ん。 色々めんどうなんですね。」
そんな会話をしながら10分程歩くと、街並みが近づいてきた。
レンガ造りの建物、石畳の通路、行き交う馬車。
街中を歩いているのは様々な種族たち。
人間・ドワーフ・魔族、そしてエルフの少女が二人。
ティナ
「おぉ~~!!漫画の世界!!」
リリサ
「いい街でしょ?
商店も多いし、自然も豊かだし、生活するのに丁度良いところなの。」
リリサ
「馬車停は街の中心にある広場の近くだから、商店街を通り抜けて行きましょう。」
商店街を歩くティナ、
様々な店舗に興味津々だが――
どこか既視感がある。
まず目に入ったのは牛丼屋。オレンジの看板、『早い・安い・美味い』ののぼり旗。
ティナ
「……えっ!?」
リリサ
「ここの牛丼屋ね、営業職の人や現場職の人に人気なの。」
ティナ
「なんでこっちの世界にもあるの!?」
リリサ
「私もたまに利用するのよ。
テイクアウトも出来るし、つゆだく温玉乗せが至高。」
ティナ
「カスタマイズ楽しんでんな!?」
次に目に入ったのは赤い看板に黄色で“M”の文字。ファストフード店のようだ。
店舗の前には不気味なピエロのマスコットが客引きをしている。
ティナ
「なんで!?なんで“マック”があるの!?」
リリサ
「あら!ティナも“マック”呼びなのね!
東地方は“マック”、西地方は“マクド”呼びで派閥があるの。」
ティナ
「そんな所まで一緒なの!?
……え?ここ、もしかして日本?わたしドッキリさせられてる?」
リリサ
「正式名称は“マクドンナルドン”」
ティナ
「……そこは違うんかい!!」
続いてコインランドリーの前を通り過ぎる二人。
リリサ(ボソッとつぶやく)
「ここ、前までカフェだったのよねぇ……」
ティナ
「そうなんですか?」
リリサ
「ええ。でもちょっと前に潰れちゃってね。
最近、空き店舗はみんなコインランドリーが入るのよねぇ……」
ティナ
「……あー…… それ、前世でも聞いたことあるやつ……」
リリサ
「そうなの?」
ティナ
「別店舗→潰れる→コインランドリー。
この流れ、世界越えて共通なんですね……」
リリサ
「まぁ、洗濯は裏切らないから。」
ティナ
「名言っぽく言わないで!!」
次の店舗はどうやらドラッグストアのようだ。
リリサ
「……ここのドラッグストアが出来てから、
うちのポーションの売り上げが落ちたの……」
ティナ
「うわ、商売敵じゃないですか。」
リリサ
「大量仕入れ、薄利多売の商法には、
金額面でどうやっても太刀打ちできないのよ……」
ティナ
「愚痴の内容が世知辛すぎるんですけど……」
リリサ
「でもね……」
リリサ、財布を取り出し、中をごそごそ。
ティナ
「?」
リリサ(ポイントカードを見せながら)
「毎月10日はポイント10倍なのよ!」
ティナ
「完全に取り込まれてるじゃないですか!! 敵の経済圏に!!」
リリサ
「だって、洗剤も安いし……ティッシュも安いし……お菓子も安いのよ……」
ティナ
「……だめだ。もうツッコみが追い付かない……」
リリサ
「どう? こっちの世界でもうまく馴染めそう?」
ティナ
「はい、そりゃもうめちゃくちゃ馴染めそうです……
だって外観以外なんも変わんないんだもん!!日本そのもの!!」
リリサ
「ふふ、馴染めそうなら良かった。
さ、馬車停はもうすぐよ。」
ティナ
「……は~い。」
---
馬車停。
大きな馬車が停まっている。
すでに何人か乗客が乗り込んでいた。
リリサ
「この馬車が城下町行きね。
さ、乗りましょう。」
ティナ
「おお……!」
馬車に乗り込む。
木製のベンチに座り、窓の外を眺めるティナ。
ティナ
「(異世界に来て、2日目……)」
ティナ
「(牛丼屋はあるし、マックはあるし、
コインランドリーはあるし、
もう何が何だかわかんないけど……)」
ティナ
「(まぁ、なんとかなるっしょ)」
御者
「それでは、発車しまーす。」
――ゴトゴト。
馬車が、ゆっくりと動き出した。




