婚約破棄?どうなっても知りませんよ
「リーゼロッテ・ヴァレンタイン!貴様との婚約を破棄し、この国から追放する!」
きらびやかな王宮の夜会。シャンデリアの光が降り注ぐダンスホールの中心で、私の婚約者である第一王子・カイルが突き放すような声を上げた。彼の傍らには、私の異母妹であるマリアが、怯えたような表情でしがみついている。
「殿下、それは……どういうことでしょうか?」
私が静かに問い返すと、カイル王子は忌々しげに鼻で笑った。
「とぼけるな。聖女の力も持たぬ『偽物』の分際で、妹のマリアを妬み、あろうことかその食事に毒を盛っただろう!心優しいマリアが泣いて止めたが、私の目は誤魔化せんぞ」
「毒など……盛っておりません。それに、私は毎日、国中の結界を維持するために――」
「黙れ! 結界を維持しているのは、真の聖女たるマリアだ。貴様はただ、聖女の部屋に居座り、マリアの威光を自分の手柄にしていただけではないか。この無能なペテン師め!」
周囲の貴族たちから、一斉に冷笑が浴びせられる。
「見苦しいわね」「偽聖女が」「マリア様こそが真の希望よ」
隣でマリアが、勝ち誇ったような歪んだ笑みを一瞬だけ見せた。
「お姉様、もう嘘は通用しませんわ。……これからは、私が殿下とこの国を支えていきますから、安心してくださいね?」
マリアが私の胸元に手を触れる。その瞬間、私が幼い頃から肌身離さず身につけていた『聖女の守護石』のネックレスを、彼女は無慈悲に引きちぎった。
「それは、私が母から……!」
「偽物には不釣り合いな宝飾品だ。没収する」
カイル王子が合図を送ると、鉄の鎧を着た兵士たちが私の両脇を乱暴に掴んだ。
「その女を今すぐ連れて行け!魔物が巣食う北の『最果ての森』へ捨ててこい。生きて帰ることは許さん。……おい、その魔封じの首輪も忘れるな。万が一にも、悪あがきをさせぬようにな」
首に冷たい鉄の感触が走り、カチリと錠が下りる。
その瞬間、私の体から急速に力が抜けていった。――いえ、厳密には違う。
私の魔力が、この首輪によって「無理やりせき止められた」のだ。
(ああ……本当にいいのですね。私を、捨ててしまうのですね……)
私がこの首輪で魔力を抑えれば、私が10年間、片時も欠かさず維持してきた「国境の結界」がどうなるか。
そんな簡単なことすら、愛に狂った王子と、欲にまみれた妹には想像できないらしかった。
「……わかりました。殿下、どうかお健やかに」
私は最後の一礼をし、引きずられるようにホールを後にした。
背後では、マリアとカイル王子の新しい門出を祝う、愚かな喝采がいつまでも響き渡っていた。




