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 タイタン・ステーションに、宇宙船〈テリオン号〉は降着し、データ接続が完了した。

 無機質な機械音――〈ザイン-T〉の声が船橋に響いた。

「航行データ接続。主情報記録、コード AE(アーエ) 整合、BE(ベーエ) 不整合、CFG(クッフグ) 整合」


「はじまったぜ!」

 副長のラウゲが、顔をしかめてぼやいた。

「ザイン-Tはルナのマザーと変わらない。当然の結果といえるな」

 トーンはいつものように、椅子を軋ませながらそっけなく応えた。

 船長はうんざりしたように溜息を漏らしたが、意外に明晰な口調で、

「今はいった報告によると、ザイン-Lとザイン-Tの同期はすんでるそうだ。また、これまで散々苦渋を舐めさせられてきた不整合、ようするにタグの不一致問題の対処法が見つかったそうだ」

「ということは、あの音響屋はお払い箱ってわけですかい?」

 ラウゲはセラントへの嫌悪感を隠そうともしなかった。

「そうであれば、おめでたいんだがな。どうなんです船長?」

 トーンはまた椅子を軋ませながら訊ねた。

「そうもいかんだろう。ほっぽり出したい気持ちは私も変わらない。だがな――」

「規則ですね。――規則、規則、規則、わかってますよ」

 トーンのルール嫌いは手に負えない。

 だが、船長はそれにかまわず、

「帰路だけ我慢することだ。ルナ・ステーションに戻れば、あいつはお払い箱だ。あのメランコリックな歌を聞くと私だって気が滅入るんだ」

 そういったあと、いったん口を噤んだかと思うとまた開いた。

「それからなトーン。お前、その椅子に油を刺しておけ。そのキーキー音も耳障りで気が滅入るんだ」

 といって船長はその場を去っていった。


 その日――といっても、タイタンは殆どいつでも夜の闇につつまれていたが――当直で船橋に残っていたのはラウゲだった。

 彼は、『不整合問題への対処マニュアル』を読みながら、気晴らしにと船内私用回線で軽音楽を鳴らしていた。

 「なるほど、タグには規則性あり、か」

 マニュアルにはこうあった――。

 コードタグはアルファベットAからGまで、すなわちA、B、C、D、E、F、Gの七つの文字で構成されている。コードタグの組み合わせ方法は二通り。二文字と三文字のパターン。したがってここから、整合、不整合のすべてのパターンは統計的手法で検出可能である。パターンは全部で252通り。以下にその一覧表を提示する――。したがって、不整合のタグを整合化する方法は以下のとおり。不整合と認識されたコードタグにある問題の文字を検出し、整合になる文字を代入すればよい。さらには……。

 そのとき、トーンが油差しを手に船橋に入ってきた。

「随分とご熱心なようだが、うまくいきそうか?」

「まあな、理論は飲み込めたんだが、何しろ実測データは現状ほぼないに等しい。だから、正しいと思えるタグを入力するのは、賭けってことになりそうだ。統計データを集めて実効性を上げるしかないってわけだな」

 トーンが椅子に油を指しながら、

「さながらギャンブルってわけだな」

 と言ったかと思うと、ラウゲは、

「そうともいえるし、そうともいえんな。――例えば、GC(グック)。こいつは明らかに不整合だと判明している。そしてこの場合の正しいタグはGD(グード)だ。こいつは、音響屋に指示されて入力したことで証明済みだ。ようするに、賭けといっても、これまでに起こった事例にある不整合の場合、奴の力など借りる必要がないってことだ」

 トーンは関心が無いかのように、

「そうあるといいがな。けれども、世の中そんなに理屈どおりいかないんじゃないのか? あまり気にしても仕方ない。面倒事は少ないほうがいいがな」

 というと、椅子への油差しを終えたトーンは、のっそりした足取りで船橋を出ていった。

「まあいい、俺は幸運を祈るばかりさ!」

 ラウゲはいいながら、足を制御卓に乗せると、船内回線から流れる曲にあわせて歌いはじめた。



   お前の歌うシャンソンは悲しい調べ

   俺の歌うロックンロールは楽しい調べ

   なあに音楽に変わりはないと人はいう

   ところがどうして大違い


   俺とお前はいつでも仲違い

   そんな二人を心配したのか

   ある日、星が囁いたのさ

   宇宙の歌を知ってるかって

 

   お前は星に願いをかける

   俺は丁半はったはったの博打にかける

   なあに賭けに変わりはないと人はいう

   ところがどうして大違い

 

   結局、俺とお前はそぐわぬ二人

   子どもたちの見本にゃなれない

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