Ⅱ
タイタン・ステーションに、宇宙船〈テリオン号〉は降着し、データ接続が完了した。
無機質な機械音――〈ザイン-T〉の声が船橋に響いた。
「航行データ接続。主情報記録、コード AE 整合、BE 不整合、CFG 整合」
「はじまったぜ!」
副長のラウゲが、顔をしかめてぼやいた。
「ザイン-Tはルナのマザーと変わらない。当然の結果といえるな」
トーンはいつものように、椅子を軋ませながらそっけなく応えた。
船長はうんざりしたように溜息を漏らしたが、意外に明晰な口調で、
「今はいった報告によると、ザイン-Lとザイン-Tの同期はすんでるそうだ。また、これまで散々苦渋を舐めさせられてきた不整合、ようするにタグの不一致問題の対処法が見つかったそうだ」
「ということは、あの音響屋はお払い箱ってわけですかい?」
ラウゲはセラントへの嫌悪感を隠そうともしなかった。
「そうであれば、おめでたいんだがな。どうなんです船長?」
トーンはまた椅子を軋ませながら訊ねた。
「そうもいかんだろう。ほっぽり出したい気持ちは私も変わらない。だがな――」
「規則ですね。――規則、規則、規則、わかってますよ」
トーンのルール嫌いは手に負えない。
だが、船長はそれにかまわず、
「帰路だけ我慢することだ。ルナ・ステーションに戻れば、あいつはお払い箱だ。あのメランコリックな歌を聞くと私だって気が滅入るんだ」
そういったあと、いったん口を噤んだかと思うとまた開いた。
「それからなトーン。お前、その椅子に油を刺しておけ。そのキーキー音も耳障りで気が滅入るんだ」
といって船長はその場を去っていった。
その日――といっても、タイタンは殆どいつでも夜の闇につつまれていたが――当直で船橋に残っていたのはラウゲだった。
彼は、『不整合問題への対処マニュアル』を読みながら、気晴らしにと船内私用回線で軽音楽を鳴らしていた。
「なるほど、タグには規則性あり、か」
マニュアルにはこうあった――。
コードタグはアルファベットAからGまで、すなわちA、B、C、D、E、F、Gの七つの文字で構成されている。コードタグの組み合わせ方法は二通り。二文字と三文字のパターン。したがってここから、整合、不整合のすべてのパターンは統計的手法で検出可能である。パターンは全部で252通り。以下にその一覧表を提示する――。したがって、不整合のタグを整合化する方法は以下のとおり。不整合と認識されたコードタグにある問題の文字を検出し、整合になる文字を代入すればよい。さらには……。
そのとき、トーンが油差しを手に船橋に入ってきた。
「随分とご熱心なようだが、うまくいきそうか?」
「まあな、理論は飲み込めたんだが、何しろ実測データは現状ほぼないに等しい。だから、正しいと思えるタグを入力するのは、賭けってことになりそうだ。統計データを集めて実効性を上げるしかないってわけだな」
トーンが椅子に油を指しながら、
「さながらギャンブルってわけだな」
と言ったかと思うと、ラウゲは、
「そうともいえるし、そうともいえんな。――例えば、GC。こいつは明らかに不整合だと判明している。そしてこの場合の正しいタグはGDだ。こいつは、音響屋に指示されて入力したことで証明済みだ。ようするに、賭けといっても、これまでに起こった事例にある不整合の場合、奴の力など借りる必要がないってことだ」
トーンは関心が無いかのように、
「そうあるといいがな。けれども、世の中そんなに理屈どおりいかないんじゃないのか? あまり気にしても仕方ない。面倒事は少ないほうがいいがな」
というと、椅子への油差しを終えたトーンは、のっそりした足取りで船橋を出ていった。
「まあいい、俺は幸運を祈るばかりさ!」
ラウゲはいいながら、足を制御卓に乗せると、船内回線から流れる曲にあわせて歌いはじめた。
お前の歌うシャンソンは悲しい調べ
俺の歌うロックンロールは楽しい調べ
なあに音楽に変わりはないと人はいう
ところがどうして大違い
俺とお前はいつでも仲違い
そんな二人を心配したのか
ある日、星が囁いたのさ
宇宙の歌を知ってるかって
お前は星に願いをかける
俺は丁半はったはったの博打にかける
なあに賭けに変わりはないと人はいう
ところがどうして大違い
結局、俺とお前はそぐわぬ二人
子どもたちの見本にゃなれない




